空京

校長室

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

リアクション公開中!

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い
【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い 【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い 【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

リアクション


第一世界・第3章「核」


「え、えいっ、えいっ!」
 最深部へと続く道を、ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)は道中の各所に浄化用の札を貼りながら進んでいた。
「ちょっとタツミ、さすがに速すぎ――うにゃーっ!?」
 ちなみにティアは自身では走ってはいない。風森 巽(かぜもり・たつみ)にお姫様抱っこの要領で抱えられているのだ。
 おまけにツァンダースカイウィングという飛行翼で飛びながらの進軍な為、抱えられている方にしては怖い事この上無い。
「……見えた! ティア、広場に着いたぞ!」
「わ、わ〜い……早く降りたい……」

 巽達が辿り着いたのは、瘴気に侵されていた幻獣王、そして伝承の『偉大なる賢者』本人でもあるファフナーと少し前に戦った最深部の広場だった。この場所はファフナーが討伐したのか、あるいはファフナーの力のせいなのか、今は瘴気の幻獣の姿は無い。
「待っていたぞ、光を継ぐ者達よ」
「光を継ぐ者……では、クリスタルは?」
「無事だ。汝らが辿り着くのが我の予測よりも早かった事もあろう」
 話しているうちに他の者達も追い付いてきたようだ。次々と広場に姿を現す契約者達の中には、ファフナーの生存に安堵する者や、初めてその姿を見て圧倒されている者などがいる。
「時間が無い。汝らにはすぐに『核』へと向かってもらう必要がある。さぁ、これを受け取るが良い」
 ファフナーが手をかざし、巽の手に一つのクリスタルを生み出した。大きさはこれまでの他の幻獣が結晶化した時の物とほぼ同じだが、それらのように光を放っている訳では無い。隣で見ていたティアもそれが気になったようだ。
「これが光のクリスタル? 何か名前負けしてるねぇ」
「それはまだ器に過ぎぬ。汝らの手によって力を引き出せば、必ずや『大いなるもの』の核を浄化する事が出来るであろう」
「なるほど、これが希望の『鍵』か……」
「ん? どうしたの、タツミ?」
「いや、ちょっとな」
 何かを考えている巽。そこに冴弥 永夜(さえわたり・とおや)が話に入って来た。
「ところで、『核』はどこにあるんだ?」
「あそこだ。今まではその場所ごと封印をしていたが、これからその一部を解き放つ。汝らであれば最良の結果を得る事が出来るだろう。期待しているぞ、異郷より来たりし者達よ」
 ファフナーが後ろにある魔法陣のような紋様を示す。ファフナーが何かしら唱えた事に呼応し、その中心に黒い穴が開いた。ファフナーの力によって抑えられているものの、それでも微かに流れ出てくる瘴気の濃さに永夜達は顔をしかめる。
「これは……随分と強烈だな。気をしっかりと持たないといけないか」
「気を強く、戦いの理由に強き意思を持って。誰かの笑顔を護る為……そう、絶望を吹き散らし、心に蒼空を取り戻す為に!」
 気合を入れた巽が一番に穴へと飛び込む。次いで永夜、ティアと他の者達が後に続いた。
「ファフナーさん! 行ってくるね〜!」
「あなたから受け継いだ光、必ず物語の『お約束』へと繋げてみせますよ」
 最後にライカ・フィーニス(らいか・ふぃーにす)サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)が穴へと飛び込んで行った。
 ――いや、最後では無い。まだあと一人残っている。中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)だ。
「どうした、汝は行かぬのか?」
「えぇ。一つ、お尋ねしたい事がありますので。ファフナー様、貴方はこの戦いが終わった後は、どうされるおつもりですか?」
「どう、とは?」
「四つの世界は『大いなるもの』の封印の為に存在していた物……つまり『大いなるもの』を撃ち破ればその存在理由も無くなり、消滅するのでしょう」
 異世界は『大いなるもの』と繋がっている。ならばその大元が消滅すれば、連鎖して各世界も消滅を迎えるだろう。綾瀬はそう考えていた。
「……その時、貴方はどうなさるのです? この世界と共に消滅なさるおつもりですか?」
「…………」
「仮初めとは言え、この世界が貴方の故郷に似ているのであれば愛着もあるでしょう。ですがもし、世界の消滅に付き合って生を終えようとお考えでしたら、そうでは無く本当の故郷、私達の世界のハイ・ブラゼル地方の復興にお力をお貸し頂けないでしょうか?」
 しばしの沈黙。やがて、ファフナーが静かに口を開く。
「ハイ・ブラゼルか……最早どれほどの時が流れたか覚えてはおらぬが、懐かしき名よ」
「いかがですか?」
「無論、我はここで朽ちるつもりなどは無い。『大いなるもの』の消滅を確認する為、我はかつての世界を見なければならないからな」
「では……?」
「我は我の戦いを続ける。『核』への道を開き続け、そして汝の仲間が戻りしその時は……共にかつての世界に帰るとしよう」
 ファフナーの答えに綾瀬が心の中で安堵する。それが分かったのか、魔鎧である漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)が口を開いた。
「ふふ……これで一安心という事かしら?」
「あら、もしファフナー様が別の道を選ぶというのであれば、それを引き留めはしませんでしたわ。もちろん、これでこの先を『観る』事が楽しみにはなりましたけど」
「相変わらずね、綾瀬は。じゃあ行きましょうか」
「そうですわね」
 『核』への穴に向けて歩き出す綾瀬。その背中にファフナーが声をかけた。
「行くのだな、汝も」
「えぇ。私は傍観者……ファフナー様の代わりにこの物語の結末を『観て』参りますわ」


「ライカ、右っす!」
 核の空間へと乗り込んだ者達は、その中心部、『核』を目指して進んでいた。襲い来る瘴気の幻獣をエクリプス・オブ・シュバルツ(えくりぷす・おぶしゅばるつ)が見つけ、自身を纏っているライカへと知らせる。
「オッケー! ガルガンチュア、ゴー!」
 ライカがパートナーの作成したゴーレム、ガルガンチュアに先陣を切らせる。その横を固めるのはアンヴェリュグ・ジオナイトロジェ(あんう゛ぇりゅぐ・じおないとろじぇ)とサクラコだ。
「ここからはいわゆる高位の幻獣の姿が多くなってきてるみたいだね」
「それでもやる事は変わりません。『核』の所に辿り着くまで、偽物の幻獣は退けるまでです。格の違いを見せつけてやりますよ!」
 アンヴェリュグが大剣で攻撃を抑え、サクラコの光の拳が幻獣を打ち破る。幸い高位の幻獣の姿をしていても、外の幻獣同様強さは本家ほどでは無いらしい。
「むしろこの瘴気の濃さの方が気になりますね。司君、不意打ちには気を付けて下さいね」
「あぁ、分かっている」
 クリスタルを運ぶ役を担っている巽を護衛する形で白砂 司(しらすな・つかさ)と永夜が走っている。二人は瘴気から生まれ出てくるという幻獣の特性に注意を払い、巽のそばに現れた幻獣を素早く槍と銃で消し去って行った。
「しかし、光のクリスタルか。これがクリスタルとなったあの幻獣達と同じような性質を持つのなら、ある意味ではファフナーそのものとも言えるな。ファフナーが『大いなるもの』を『救う』為に身をやつすというのも不思議ではあるが」
「普通に倒すだけだと、また別の人間を依り代にして甦ると言っていたからな。恐らくは今取り込まれている依り代を知ってるんじゃないか?」
「かつて、ハイ・ブラゼルの民を率いたファフナー……確かにあり得るな。ならば『大いなるもの』という衣を解き祓い、依り代を救う。そう言う事か」
「俺はそう思ってるよ。その為には――」
「クリスタルの死守、か。良いだろう。ファフナーの『夢』、希望をもたらした一人として、最後まで責任を持とう」
 強い意思を持って槍を振るい、幻獣を貫く司。永夜もそれに頷くと、再び銃を構えるのだった。


 どれだけ走っただろうか。この空間に入ってからすぐに着いたようにも思えるし、長い間走り続けたようにも思える。そんな錯覚に陥りそうな暗い空間の先により一層深い闇をもたらす場所があった。
「うぅ〜、何か一番嫌な感じがする所に来たよ。ここが『核』のある場所なのかなぁ?」
 鬼払いの弓の弦を鳴らして少しでも気を紛らわしながらティアが言う。するとその音に嫌悪感を抱いたのか、深い闇から幻獣が飛び出して来た。
「危ないっ!」
 それを察知したライカがティアをかばう。さらに上の方から一瞬の閃光を伴う一撃が振り下ろされた。レッサーフォトンドラゴンに乗って同行していた崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が飛び降りながら扇を一閃したのだ。
「どうやらここが本丸みたいね。そして……本命のお出ましみたい」
 亜璃珠の言葉に応えるように、闇の奥に『核』の姿が見えてきた。
 それはまさに『異形』という言葉が相応しいだろうか。闇の中の黒に対比するかのような白き姿。だが、禍々しい二対の翼と、それを持つに相応しく無い下部の造り。そして――中央にたたずむ人形(ひとがた)。
「あれが『核』か。花妖精の村で見た映像では異世界の戦士達が瘴気に蝕まれて戦闘不能に陥っていた。幸い俺達はそこまでは至っていないが……この闇こそがそうさせる原因なのか?」
 司がおとぎばなしの『原典』にあった光景を思い出す。もしそうであれば、こちらから不用意に飛び込んでしまっては、彼らの二の舞になってしまうだろう。
「ふむ……ならば確かめてみるか」
 だが、それを身を以て検証しようという者がいた。四条 輪廻(しじょう・りんね)だ。彼の態度に大神 白矢(おおかみ・びゃくや)が驚きの表情を見せる。
「ちょっ。四条殿、どうされるつもりでござるか?」
「何、実際に飛び込んでみるだけだ。では行ってくる」
「いや、行ってくるでは無く。危ないでござるよ。精神を乗っ取られたらどうするつもりでござるか」
「その時は引き摺り出して、殴ってでも正気に戻してくれれば良い。ほれ、骨っこでも食べて待っていろ」
「ですから拙者は犬では」
 既に口に入れながら喋っている説得力の無い犬は無視し、輪廻が闇へと足を踏み入れる。その途端、これまでの比では無いほどの濃い瘴気が輪廻へと襲い掛かった。
「くっ、これ……は……!」
「あらあら、無防備で飛び込んだとはいえ、随分強力みたいね」
 数歩進んだだけで足を止めた輪廻。その様子がおかしくなり始める前に亜璃珠が鞭で彼の身体を拘束し、こちらへと引っ張り出す。さらに――
「えい」
「ぐはっ!」
 白矢が後ろ足で輪廻を蹴り飛ばした。瘴気の影響で何かをするよりも早く、輪廻は気絶してしまう。
「ふぅ……このままにしておくのも問題ですわね。治療しましょうか」
「お手数をおかけするでござる。亜璃珠殿」