空京

校長室

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

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第一世界・第4章(2)


「見つけた! そこっ!」
 アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)達やヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)達とは別の方向を護りながら戦っているシエル・セアーズ(しえる・せあーず)が瘴気が固まりかけるその瞬間を狙い、弓で射抜いた。
 『核』の方向とは別な為に襲撃の頻度は少ないが、裏手だからといって放っておいては危険だという事でシエルが防衛に回り、幻獣が出現する前に倒すという手で何とか一人でも一方面を護り続けていた。
「う〜、どんどん間隔が短くなってる気がする。でも他も余裕は無さそうだからなぁ。いつもは輝に護られてばっかりだし、ここは私が頑張らないと!」
 気合を入れて次の瘴気を狙い撃つシエル。だが、今度は複数の場所で幻獣の実体化が起き始めた。
「嘘っ!? 一つ、二つ……駄目、間に合わない!」
 連続で射抜いて少しでも数を減らそうとするが、実体化を終えてしまった幻獣が二匹現れた。弓を手離して魔法を撃とうとするシエルだが、その魔法は撃つ事無く終わってしまった。
 と言っても突破されたのでは無い。援軍がやって来たのだ。
「ふむ、今回はアルミナのやりたい事だけをやらせようと思っていたが……そうも行かないようじゃな」
 一人は辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)、そしてもう一人は――
「所詮紛い物ではこの程度か。やはり私の求める道に、この瘴気とやらは不要なようだな」
「リ、リデル・リング・アートマン(りでるりんぐ・あーとまん)!」
「おや、貴様は確か……」
「神崎様のお連れの方ですわ、主様」
 魔鎧として纏っているアルト・インフィニティア(あると・いんふぃにっと)の言葉でリデルがシエルの事を思い出す。対するシエルは気が気では無い。何故ならシエルやそのパートナーである神崎 輝(かんざき・ひかる)は、リデルと何度も敵対する立場で会っていたからだ。
「な、何よ! また成長がどうとか言って邪魔するつもり!?」
「落ち着け、連れの少女よ。私が今何をしたか、見ていなかった訳ではあるまい?」
 確かにリデルは今、幻獣の片方を自身のナイフで切り刻んだ。こうして話していてもこちらの妨害をしようという気は感じられない。
「あの『大いなるもの』とやらと戦う事で確かに私や他の契約者達の成長を促してくれるとは思うがな……それだけだ。奴をこのまま残し続ける事で契約者達が滅び、成長の芽を摘まれてしまっては本末転倒。故に私は奴と対峙する事にしたのだよ」
「いわゆる利害の一致という訳ですわね」
「むぅ、納得行くような行かないような……」
「何、たかが陣営の違い、気にする事は無かろう。そのような物は些細な事じゃ」
 少し不満な表情を崩さないシエルに刹那がそう言い残し、再び幻獣を奇襲する為に姿を消す。実際刹那はこうして聖域や神殿の調査で協力関係となってはいるが、それ以前に起きた事件ではシエル達と敵対する陣営の協力者として動いていた事も多い。違いとしては刹那が契約によって動くのに対し、リデルが自身の信念で動いている事くらいだ。
「さて、どうする? 神崎の連れよ。あまり選り好み出来る状況では無いと思うがな」
「わ、分かったわよ。好きにして。あと、私は『神崎の連れ』じゃなくてシエルだから。シエル・セアーズ」
「ふ……良いだろう。ではシエル、貴様の成長、とくと見せてもらうとしようか」
「むぅ……やっぱり少し納得行かない」
 刹那の攪乱と奇襲にリデルの機動戦闘。そしてシエルの遠距離攻撃。即席の連携ではあるものの、バランスの良い三人の戦いは増えてゆく幻獣を効率的に抑え続けるのだった。
 ――シエルは不満そうだったが。

「皆、大丈夫か? 体力に不安のある者は早めに申し出てくれ」
「疲れた方は……こちらをどうぞ。西カナンの特産品ですよ」
 数曲の歌を代わる代わる歌い終えた、クリスタルを囲む者達を癒す為にサイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)クエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)が動き回っていた。疲労を感じた者はクエスティーナから夜明けのルビーと呼ばれるミニトマトを受け取り、僅かな休息を行っている。
「クリスタルの光……強くなってきましたね。綺麗……です」
「あぁ。もう少しで十分な力となるだろう……さて、私は護衛班の治療に回ってくる。こちらは頼んだぞ」
「はい。でも……もう大丈夫そう、ですね」
 クリスティーナが一同を見回すと、皆再び気合十分といった感じだった。クリスタルを囲む形で次々と手を繋ぎ始めている。
「はい、アルミナちゃん。手を」
「う、うん」
 火村 加夜(ひむら・かや)アルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)の手を繋ぐ。アルミナはちょっと臆病な感じのする少女だが、今回は珍しく自分の意思でこの聖歌隊に参加したいと申し出たらしい。実際これまでの歌も頑張って歌い続けているのを見ていた加夜は、アルミナの手を強く、それでいて優しく握りしめた。
「きっと次が最後ですね。一生懸命歌いましょう……誰にでもある弱い心を受け入れて、そして……全てを愛する歌を」
「弱い心を受け入れて……」
 加夜の言葉に、アルミナも手をしっかりと握りしめて返す。臆病な自分でもこうして皆と一緒にやれるという事、それを刻み込む為に。
「皆、準備は良いわね?」
 蓮見 朱里(はすみ・しゅり)が一繋がりの歌い手達を見回す。首を横に振る者は誰もいない。それを受け、リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)が隣のシーナ・アマング(しーな・あまんぐ)を促した。
「シーナ、歌い始めましょう。笑顔で、ね」
「はい、リュース兄様。では……行きます」
 シーナがすうっと息を吸い、始まりの旋律を奏でる。それに続いて、皆もその旋律へと音を重ねて行くのだった。


 光の翼
 あなたへと飛ばす
 祈りを込めて

 この世界を愛しく思うのは
 この世界にあなたがいるから
 誰よりも愛しいあなた
 私の運命

 どうか迷わないで
 闇の中に取り残されても
 私の光の翼頼りに
 どうか抜け出して

 愛するあなた
 私は祈る
 あなたの光の翼が
 私を闇から連れ出してくれること

 光の翼
 あなたへと飛ばす
 祈りを込めて
 愛を込めて

 光の翼
 私とあなたを導いて