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リアクション
『おとぎばなし』の終わり方
――永遠かと思う時間が続いていた。
無限を思わせる、生まれ続ける魔物達。その数は既に三桁を突破し、尚生産の速度は衰えない。
最早埋められない数の差。勝負は誰の目を見ても明らかである。
それでも、皆は戦い続けていた。限界に近づき、悲鳴を上げる身体を気力で支え、一体でも多くの魔物を討ち取る。
(後……どれだけ倒せばいいんだ……)
朦朧としだした意識の中、海が思った――瞬間。
「……え?」
魔物の動きが止まった。見ると、一体だけではない。全ての魔物達が、動きを止めていた。
「……どうしたんだ?」
戦っていた者達も、戸惑い手を止める。
――魔物の身体が、端から塵と化していく。
塵はまるで煙のように空に吸い込まれるように昇って行った。
やがて数百にも及ぶ魔物達は、塵も残さずに消えてしまった。
海は空を見上げた。先程まで空に存在していた『大いなるもの』の姿は――そこには無かった。
「終わった……のか」
そう呟くと、辺りから歓声が上がる。自分も叫びたい衝動に駆られたが、疲れがどっと体を襲う。
(……ここで寝ちゃだめだよなぁ)
疲れ果てた身体が休息を欲している。出来る事ならここで前のめりに倒れたい。
しかし、耐えねばならない。
倒れるのは、村に戻ってからだ。
――花妖精の村は、荒れ果てていた。
崩れた建物、踏み荒らされた花畑……どれもが、戦いの爪痕。
その光景は過去の戦いの後の光景と似ていたが、違っている。
大勢の犠牲を出して封印しかできなかった過去。そこに勝利、喜びは無かった。
現在、勇者たちは勝利を手にした。そして、それを喜ぶ者達がそこにいた。
小屋から出たドロシーは、村を見渡した。
童話に登場するような平和な村はそこになく、あるのは激戦の跡地。
色鮮やかに花々が咲き誇っていた花畑は、魔物達が踏み荒らしたせいで酷いありさまだ。
「随分と派手にやってくれたわねぇ……」
いつの間にかドロシーの横に立っていた多比良 幽那(たひら・ゆうな)が花畑を見て呟く。
「そうですね……」
「……でも、まるっきりダメってわけじゃないわ。まだ生きている子達もたくさんいる。手入れをすれば時間はかかるけど、また咲くわ」
「……はい」
幽那の言葉に、ドロシーが頷いた。
「私も手伝うわ……でもその前に、一休みしてからにしない? 何だか疲れちゃったわ」
「幽那はん、何かしてはりましたっけ?」
「お黙り」
幽那が言うと、ポータラカ大雪原の精 エステリーゼ(ぽーたらかだいせつげんのせい・えすてりーぜ)が黙る。
「ふむ、一休みですか……皆様も戻って来てますし、もてなしの準備でもしましょうか」
ドロシー達の言葉を聞いて、本郷 翔(ほんごう・かける)が頷きながら呟く。
「ならばお手伝いを……」
「いえ、ドロシー様は休んでいてください。これも執事の役割です……、ソール、手伝ってください」
翔が言うと、ソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)が不満そうな表情を浮かべる。
「えー、俺疲れた人にマッサージとかしようと思ってたのにー」
「私甘い物とか作るの苦手なんですから手伝ってくださいよ。それに、マッサージとか言って狙いは別でしょう?」
「そんなわけないよ。ただちょっと気持ち良くしてあげるだけ」
「やれやれ……そういうのは私にしなさい」
「へいへい」
なんだかんだ言いつつも、ソールは翔の後をついて行った。