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リアクション
「……私は、どうしましょうかね」
ドロシーは一人、ぽつりと呟いた。
妖精村に、戦いに行っていた者達が戻って来た。
負傷者の手当てや勝利を祝う宴会の準備と、忙しそうにしている中ドロシーが手伝おうとすると『大丈夫だから』と断られてしまった。
「……困りました。やることがありませんね」
皆『ドロシーに休んでいてもらいたい』という気持ちからなのだが、することが無いとなんとなくむず痒い。
やることも見当たらず、村を歩いていた。
「あ、ドロシーさーん」
師王 アスカ(しおう・あすか)とオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)がドロシーを目にして呼びかける。
「あら……何をなさっているのですか?」
アスカは外にキャンバスを置き、何かを描いているようであった。
「アスカったら、外が落ち着いたと見たらすぐキャンバスを飛び出したのよ」
呆れたようにオルベールが言うと、恥ずかしそうにアスカが笑う。
ドロシーがキャンバスを覗き込む。
――そこには、荒れた大地と光に包まれた者達が勝利を手にする光景が鉛筆で描かれていた。
「これは……」
「そう、この戦いの結末を描いたの……まだ完成してないけど、タイトルも決まってるのよ〜」
「タイトル、ですか?」
「そうよ〜、その名もねぇ……」
勿体づけるようにアスカは間を取ってから――フェアリーテイル、と言った。
「フェアリーテイル……?」
「『おとぎばなし』っていう意味がある言葉なのよ〜」
「アスカにしてはいいタイトルね」
「私にしては、ってどういう意味よ〜!」
オルベールの言葉に、アスカが頬を膨らませる。
「『おとぎばなし』ってタイトルも考えたんだけど、今回は『おとぎばなし』と違う結末になったんだからタイトルも別の物にしようと思ったのよ〜! これでもちゃんと考えているんだから〜!」
「『おとぎばなし』と違う、結末?」
ドロシーが問うと、アスカが頷いた。
「そうよ〜。今回は私たちの完全勝利じゃない〜……さて、私も完成させるまで頑張るわよ〜!」
「頑張るのはいいけど、少しは休みなさいよ? 夢中になるんだから」
わかってるわよ〜、と言うアスカにオルベールは何処か諦めたような笑みを浮かべた。
「……ドロシー?」
手当を終え、暇になった海が辺りを歩いていると、ただぼうっと立っているドロシーを見つけた。
「海様、お怪我はよろしいので?」
「手当は終わったからな。それより何してるんだ?」
「ええ……やるべき事を見つけました」
そう言うと、ドロシーは何処か遠い目をして村を見た。
壊れた小屋に荒れた花畑。あの空想の産物のような村の姿はそこにはない。
それは、過去にドロシーがその眼で見た景色でもあった。
「やるべき事?」
はい、とドロシーが頷く。
「新しい『おとぎばなし』を作ろうと思うのです」
――『大いなるもの』が消滅した今、これまで語り継いできた『おとぎばなし』はその役割を終えた。
しかしこの戦いは後々まで語り継いでいく必要がある。その為には、新しい『おとぎばなし』が無くてはならない。
「まだどんな話になるかわかりませんが、きっといいお話になると思います」
ドロシーは微笑みながらそう言った。
「……そうだな、いい話になると思う」
海が頷く。
「完成したら皆様にも読んでほしいと思うのですが……いかがでしょうか?」
「勿論。楽しみにしているよ」
「ええ、楽しみにしていてください」
ドロシーが、優しい笑みを浮かべた。
――今までこの村で語られてきた『おとぎばなし』は、決してハッピーエンドではなかった。
――しかし、新しく描かれるものは、間違いなくハッピーエンドで締められるだろう。
――『おとぎばなし』とは本来『めでたしめでたし』で締められる物なのだから。