空京

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【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

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第一世界・第4章「光のクリスタル」


「皆、気を付けて。あの二人の様子がおかしいよ」
 『大いなるもの』の瘴気に取り込まれた白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)三道 六黒(みどう・むくろ)から感じられる雰囲気に、ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)が注意を呼び掛けた。ウィリアム・セシル(うぃりあむ・せしる)アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)も他の者達を後ろに隠すようにして警戒する。
「あれは瘴気を取り込んでいるのでしょうか? それとも……」
「『大いなるもの』が負の心によって生み出されたのなら、その『核』は何千人、何万人……いや、下手をすればそれ以上の人による念が籠っているはず。あのファフナーが長い時の間に浸食されてしまったほどの念を、あの二人は抑え切れるのか……?」
 アインはこれまでも己の為に戦場に乱入してきた二人の事を、当然ながら警戒していた。だが、それは彼らの心が闇に近い為、それが暴走して新たな依り代となる事を懸念しての事だった。
 それがまさか、自ら『核』と接触するとは。『大いなるもの』の方が封印から少しずつ這い出て時間をかけて浸食したファフナーと違い、竜造達は言うなれば瘴気の素へと飛び込むようなものだ。当然襲い掛かる負の力もファフナーの時のそれとは比較にならない。
 ――故に、こうなる事はある意味必然と言えた。
「ククク……命ノヤリ取リ、殺シ合イ……愉シイジャネェカ」
「力ヲ……ワシガ求メル力ヲ……」
 瘴気に侵され、自我を失っていると思われる二人。彼らから瘴気が流れ出し、新たな幻獣が生み出されていった。それらはこれまでの幻獣と違い、姿形が地球にいる動物達に近くなっている。
「これは……彼らの力が入り込んでいる分、今までの幻獣とは違うかもしれません。皆さん、気を付けていきましょう」
「あぁ、行くぞ!」
 リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)とアインが槍と盾を構え直す。それを合図とするかのように、幻獣達が騎士達へと襲い掛かった。

「透矢さん、クリスタルはどうですか?」
 リュート達が前線を支えている中、火村 加夜(ひむら・かや)風森 巽(かぜもり・たつみ)から光のクリスタルを受け取った篁 透矢(たかむら・とうや)へと駆け寄っていた。
「巽が持ち続けていた事で光り始めてはいるみたいだけど、まだ小さいな。多分、このまま使っても大した効果は得られないと思う」
「このまま待ち続けている訳には行きませんね」
「あぁ。何か手を打たないとな……」
 クリスタルを握りしめる透矢。そこに神崎 優(かんざき・ゆう)神崎 零(かんざき・れい)がやって来た。
「俺に考えがあるんだけど、いいか?」
「ん、話してくれ、優」
「『核』を浄化する為には負の感情を受け入れて浄化する必要があると思うんだ。でもただ一人で挑むだけだとあの二人のように瘴気に支配されてしまう。だから、皆の受け入れる心を、絆をクリスタルに籠めたらどうだろうか?」
 一人では。だが皆でなら。
 それを示すように隣に立つ零が優の手を握り、微笑んだ。
「ねぇ、皆もそう思うでしょ?」
 クリスタルを囲むように立つ皆へと呼びかける零に賛同の声が挙がる。特にノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)リア・レオニス(りあ・れおにす)は自分達も同じ考えを持っていたらしく、一番に優達の下へと近付いた。
「賛成! 同じ思いが集まれば、きっと大きな力になると思うんだ。手を繋いで輪になったりすれば、多分もっとね!」
「そうだな。揺るがない思い、信念。それらが浄化の想いへと変わればたとえ『核』であっても届くと思う。やろうぜ、透矢」
「確かに皆の言うとおりだな。じゃあ――」
「待って、より想いを高める為に、歌も歌ったらどうかしら?」
 今度は蓮見 朱里(はすみ・しゅり)が提案をしてきた。その後ろにはリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)を始めとして結構な人数が集まっている。
「以前、オレが似たような状況で皆に呼びかけて聖歌隊として動いた事があるんですけど、今度は蓮見さんが中心となって動きましてね」
「瘴気に負けないように皆を歌で支援するつもりだったけど、きっとその歌を直接クリスタルに届けた方が効果があると思うわ」
「もちろん歌が苦手な人は手を繋いで祈りを籠めてくれるだけで構いませんよ」
「分かった。じゃあ皆、手を繋ごう。クリスタルに、想いが届くように」
 優が、零が、加夜が、ノアが、さらに透矢やリア達、そして朱里やリュースといった聖歌隊の者達が手を繋ぎ、クリスタルを囲む。輪の中のターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす)がこの光景を眺めて微かに笑った。
「ふふ、周りはこんなに暗いのに、何だか不思議な光景ね」
「何だかドキドキします」
 隣で手を繋ぐミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)の握る力が少し強くなる。それを感じたのか、反対隣の神崎 輝(かんざき・ひかる)が明るい笑みを浮かべた。
「気にしない気にしない! ライブの前なら当たり前だよ!」
「うん! ボク達が光を創ればいいんだもんね!」
 輝のさらに隣にいる赤城 花音(あかぎ・かのん)もミュリエルに笑顔を見せる。それにつられるかのように、ミュリエルが笑みを、そしてターラもまた、微笑を浮かべた。
「はい! 私も頑張ります!」
「そうね。最後まで結果が分からないからこそ頑張る……それが光に繋がるって事、教えてあげましょうか」
「じゃあ花音さん、最初は花音さんの歌、行っちゃおうか!」
「オッケー! 光が生む影も受け入れて、新しい光へ! 『シンデレラ・ファイティングスタイル』!」


 真夜中に響く12時の鐘 真実の私のプロローグ
 あなたの瞳に映る幻 解ける魔法と夢の時間
 「ゴメン、もう帰らなきゃ」 理想の姿は壊したくないの
 ありがとう 微笑を残してくれた王子様

 カボチャの馬車で希望の扉……開いてくれた魔女さん
 お礼に灰かぶりの罪を許せる強さを持ちたいの
 シンデレラ・ファイティングスタイル
 自分に嘘を付かない勇気 心は美しく磨きたい
 光と影を受け止めて 胸を張れる生き方
 透き通るガラスの靴 曇りのない想いを信じます

 幸せの欠片を探して すべての愛へ祝福の歌


 女の子が中心となり、最初の歌を歌いあげる。歌と祈りに反応したのか、中央のクリスタルの光りが強くなり始めた。それに呼応するように、竜造と六黒から生み出された幻獣がクリスタルへと狙いを絞り始めた。
「リュート、ここを抜かせるなよ! ウィリアムは左を固めてくれ!」
「分かりました!」
「こちらは私達に任せて頂きましょう、アイン殿」
 アインの指示で騎士達が防衛に動く。右側から接近する狼の姿をした瘴気の幻獣に向けて、リュートとレムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)が回り込んだ。
「行かせません……レムテネルさん!」
「えぇ。すみませんが、浄化するまでしばらく瘴気へと還っていて下さいね」
 リュートとアインが左右から盾で進路を塞ぎ、正面からレムテネルが光の剣で幻獣を消し去った。これまでの幻獣より機動力が勝っている事がネックだが、幸いまだ生み出される数が少ない為にこうして複数人がかりで当たる事が出来ている。
「リアがあちらに参加している分、私がリアの分も働かなくてはなりませんからね。騎士として生きるリアの名、ここで汚させはしませんよ」
「これまでと違ってすぐに復活してくる可能性も考えられる。二人共、このまま警戒を続けよう」
「はい、分かりました、アインさん」

「ヴィナ、クリスタル以外にも身重である朱里殿や幼子であるノア殿、ミュリエル殿、アルミナ殿は狙われると危険です。その辺りに気を付けましょう」
「分かったよ。そう言う事なんでシンディちゃん、君もよろしく頼むよ」
「えぇ。皆が頑張っているんだもの、目の前にいる人達は護ってみせるわ」
 左翼ではウィリアムとヴィナの他、シンディ・ガネス(しんでぃ・がねす)が剣を持って戦っていた。こちらは盾二人のアイン達と違い、シンディが盾を構えて幻獣と対峙している。
「来なさい。偽物の獣には負けないわ」
 幻獣の牙とシンディの盾が激突する。幻獣の飛びかかる勢いを殺して動きが拮抗したその時を狙い、左右からヴィナとウィリアムの刃が襲い掛かった。
「生憎、皆を傷つけさせる訳には行かないんでね」
「皆が最後に笑う事が出来るように……今は全力を尽くします!」
 最後にヴィナが光を纏った一撃を与え、幻獣が霧散した。だが、『核』の方から再び狼の幻獣がやって来るのが見えた。
「やれやれ、忙しい事だね。リュー達の準備が終わるまで、もう一働きといこうか」
「何度来ても同じだわ……誰一人、決して失わせない」
 三人が再び剣を取り、幻獣へと駆け出した。全ては後ろで育とうとしている希望を護る、その為に。