空京

校長室

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

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【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い
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リアクション

 広がる戦火の中で祈る者達

――第二世界遺跡前。
 ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)アンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)エミリア・ヴィーナ(えみりあ・う゛ぃーな)コンラート・シュタイン(こんらーと・しゅたいん)オットー・ツェーンリック(おっとー・つぇーんりっく)ヘンリッタ・ツェーンリック(へんりった・つぇーんりっく)
 調査の結果、他の世界と比べて第二世界は全てが解決したわけではない。
 故に、遺跡から魔物が発生するとしたら第二世界とつながっていたこの遺跡が中でも脅威となる。そう判断したのだ。
 実際、この遺跡は脅威的だった――現に彼らは、今押されている状況にある。
 前衛に立つケーニッヒを始め、彼らはスキルで自身の能力を上昇させていた。遺跡から生み出される者達の個々の能力は第二世界の影響か、魔法こそ扱うがそこまで脅威ではない。
「……た、倒しても倒してもキリがないでヤンスよぉ」
 情けない声でアンゲロが弱音を吐いた。
「ええ……本当にキリが無いですよこれは」
 呪文を唱え続けてきたコンラートが乱れた息を整えるように、大きく吸い込む。
――本当に脅威なのは、圧倒的な数の差。
 次々と遺跡から生み出されるこの者達は、徐々に増える速度を増していく。数体を倒しても、次に生み出されるのは数十体。その差は広がっていく一方。
 加えて疲労も溜まってくる。魔物達はとりたてて強いわけではないが、決して弱くは無い。圧倒的な数の差は、それだけで十分な力となる。
 消耗していく側と無限に湧き出る側。時間経過に伴い、圧倒的な差が生じるのはどちらかは言わずもがな。
「こうも多いと……タイミングが難しいですな」
 オットーとヘンリッタが回復魔法をかけている為大けがなどに関しては問題ないが、疲労に関しては到底回復が追いつかない。
 集中力も乱れ、徐々に倒しきれない魔物達の数が増えてくる。取り逃した魔物は、村へと向かっていった。
「……だからって、こっちも退けないんだよぉッ!」
 ケーニッヒが振るった拳が、魔物を貫く。
 彼らの目はまだ、死んではいない。
「このまま一体でも多くを倒す! 気合入れろ!」
「ええ、後ろは任せて!」
 エミリアの言葉に、ケーニッヒが拳を握りしめると、アンゲロ達が後に続いた。

――遺跡と村の中間地点でも、戦況は悪化していた。
「……っくぁッ……!」
 攻撃を受けた海が、苦悶の表情を浮かべる。
「海君! 大丈夫!?」
 杜守 柚(ともり・ゆず)が海に駆け寄り、傷口を確認する。
「よかった……そこまでひどくない」
 柚は安心したように息を吐くと、【ヒール】をかける。
「海! 大丈夫か!?」
 杜守 三月(ともり・みつき)が後退し、海を守るように立つ。
「あ、ああ……もう大丈夫」
 海はそう言って立ち上がるが、その顔は疲労が色濃く現れている。
 海だけではない。柚も三月も、息が上がってきていた。
 倒しても倒しても減らない魔物との度重なる戦闘は、契約者達の体力をじわじわと削っていた。
 精度に欠く動きが目立ち出し、魔物も討ち取れ切れなくなってくる。
 実際海や三月にも、手足に震えが現れてきている。
 それでも、退くわけにはいかない。海は武器を握る手に力を籠め、震えを無理矢理止める。
「これ以上通す訳にはいかない……」
「ああ……ここから先へは進ませない!」
 海の隣を、武器を構え三月が立つ。その後ろには柚が立っていた。
「援護は任せてください! 絶対あの村を守ろう!」
「ああ! 行こう海!」
 三月の言葉と同時に、海は走り出した。

――遺跡から発生している魔物達は、時間と共に数を増していく。
 対処に向かっているが、最早桁が違う。討ち漏らした魔物達は、真っ直ぐに村へと向かってきていた。
――最早、花妖精の村も戦場と化していた。

 セラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)の【パイロキネシス】の炎が魔物の体を焼く。その炎が壁となり、後から来る魔物を牽制していた。
 しかし魔物の中にはその炎を恐れず向かってくる者もいる。人の形をした魔物が数体、体を焼かれながらも壁を越え村へと向かってきた。
「鳳明!」
 セラフィーナの言葉と同時に、琳 鳳明(りん・ほうめい)が飛び出す。
「はぁあああッ!」
 一気に近づいた鳳明の【閻魔の掌】が、所々機械の部分が見える人型の魔物の胸を打つ。人でいう所、心臓に当たる部分を衝撃が貫き、魔物はそのまま塵となり消えていく。
「せぃッ!」
 そしてそのままもう一体の顔面を掌で撃つ。首ががくりと曲がると倒れ、そのまま魔物は塵と化す。
 鳳明の掌は確実に魔物を討ち取っていった。しかし一体を討ち取っても、その直後に数体――否、数十の産み出された魔物が村へと向かって来ていた。
 セラフィーナが【サンダーグラップ】で撃ち漏らしを対処しても間に合わず、魔物達が村へと侵入していく。
「おっと! ここから先を通るというのであればお相手をしてもらいますよ! 運のつきだと思って諦めてください!」
 銃を構えた月舘 冴璃(つきだて・さえり)が銃口を向け、【スプレーショット】で弾丸をばらまいた。
 弾丸によって穴を穿たれた魔物はそのまま塵と化していく。
「えぇい!」
 イーファ・ブリギッド(いーふぁ・ぶりぎっど)の【チェインスマイト】で二体の魔物が塵と化した。
「……全然減りませんね。まあ憂さ晴らしには困りませんが」
 冴璃が残る敵を見て呟く。余裕があるような言葉であるが、実際は追い込まれている。
 こちらは銃弾にも、体力にも限りがあるが、相手は際限なく生まれてくる。
「これじゃキリがないよぉ」
 イーファが嘆く。何体もの魔物を倒しているが、相手は衰えが全く見えていなかった。
「鳳明、大丈夫ですか?」
「う、うん……大丈夫……」
 セラフィーナに鳳明が笑顔を向けるが、その顔は無理に作ったことがすぐにわかる。
 呼吸は乱れ、肩が上下している。体力の消耗が激しい戦法で、多数を相手にしている為限界が近づいてきていた。
「他の契約者にも援護を頼んでいるのですが……」
 セラフィーナが先程から【テレパシー】で援護を要請しているのだが、現れる様子は無い。
「何処も一緒なのでしょう、この状況は……」
 冴璃が呟く。そうしている間にも、敵は数を増やしている。
「……すぅ……ふぅ……」
 鳳明が無理矢理息を吐き、深く吸い込み乱れた呼吸を整えると、構えを取る。
「……私達でやるしかない。セラさん、フォローお願い」
「……わかりました。無理はしないでくださいね」
「私達もいますよ。イーファ、いけますか?」
「うん! これ以上村には入れさせないよ!」
 四人が頷く。そして、魔物達の群れへと挑んでいった。

 村を守る者達の手により、幾多もの魔物達は塵へと化していく。
 しかし、その数を上回る魔物が産み出されていく。入り口を守って侵入を防いでいたが、次第に手が回らなくなってくる。
 やがて、侵攻は村の中へと進んでいく。戦場は入り口から村へと徐々に広がっていった。

――そんな外の様子は、ドロシーの小屋の中まで伝わってきていた。
 時折地面が揺れ、炸裂音に破壊音。そして悲鳴や苦悶の声。
「お姉ちゃん……」
 不安そうに、子供がドロシーの周りに集まってくる。
「大丈夫よ、みんな」
 そっとドロシーが子供の頭をが撫でる。
「そうであります、これでも飲んで元気を出すであります!」
 シュピンネ・フジワラ(しゅぴんね・ふじわら)が【ティータイム】でジュースや菓子を用意して子供達に振る舞うが、不安な顔をするばかりだ。
 そんな不安そうな顔をしている子供の一人を、イルゼ・フジワラ(いるぜ・ふじわら)がそっと抱きしめた。
「怖いですよね……でも勇者様達が今戦っていますから……」
 イルゼがそう言うと、子供は不安な顔をしながらもゆっくりと頷いた。
「そう、今もみんなが頑張っているわ。だから、怖がらなくても大丈夫……そうだ、呼雪が作った歌があるの。今から歌うわね」
 そうタリア・シュゼット(たりあ・しゅぜっと)言うと、子供達に菓子を配っていた早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が頷く。
「今回の出来事で歌を作ってみたんだ。よかったらみんなも歌ってくれ……タリア、いいか?」
 タリアが頷くと、彼女から受け取った【アコースティックギター】で呼雪が演奏を始める。優しい、穏やかなメロディが奏でられる。
 そしてタリアが歌い始める。呼雪とタリアで作った、四つの世界や『大いなるもの』を綴った歌詞が、小屋の中で響き渡る。
 その演奏を聴いていた子供達は、少しずつ表情を和らげていった。
「……皆さんも祈りましょう。戦っている勇者様達が無事に帰ってこれるように」
 演奏が続く中、イルゼが手を組み目を閉じる。
「……そうね、みんなも祈ろう。みんな、無事であるように」
 ドロシーは子供達にそう言うと、胸の前で手を組むと、目を閉じる。
――まるで祈りを捧げるような姿のまま、ドロシーは口を開き、歌声を奏でた。

――歌声は、まるで祈りの言葉のようであった。

 最初は聴いていただけの子供達も、やがてドロシーと同じように手を組んで目を閉じ、歌う。
 各々の歌声は、やがて一つの歌となり、祈りを乗せて響き渡る。 

――この歌声は、戦っている者達の耳には届かないだろう。
――それでも、ドロシー達は歌う。届けと願うのは歌声ではなく、祈り。
――ここにいる祈りが届くようにと、彼女達は歌い続けた。