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リアクション
――遺跡での戦いで、魔物達は塵へと返されていく。
しかし、数多くの魔物は全てを相手にし切れない。少しずつ、討ち逃す魔物の数は増えていく。
討ち逃した魔物達は、真っ直ぐに妖精村へと向かっていた。
「まあ、来るとは思ってたけどよぉ……もうちょっと数って物を考えろって」
村の入り口に立っていた高柳 陣(たかやなぎ・じん)がため息交じりにこぼす。
「これは……とんでもない数だね……」
向ってくる敵の数に神楽 祝詞(かぐら・のりと)の頬を冷たい物が伝う。
「むぅ……流石この数、村から引き離すのは無理そうじゃのー」
エルフォレスティ・スカーレン(えるふぉれすてぃ・すかーれん)が呟く。
「だがやりがいがあるではないか」
陣の隣、木曽 義仲(きそ・よしなか)が何処か楽しそうに言う。
「そうは言うけどな、限度って物があるだろ……義仲! 突っ込み過ぎんじゃねぇぞ! 殲滅目的じゃねぇんだからな!」
「む……見抜かれておったか」
義仲が少し残念そうに呟く。突っ込む気満々だったようだ。
「エル姉もね! 僕達の目的は村を守ることだよ!」
「わかっておるわい。それに、祝詞が後ろにおるんじゃろ?」
エルフォレスティが言うと祝詞が頷く。
「うん、後ろは任せて」
「それなら安心できるのー」
エルフォレスティがそう言って【エスト・オラシオン】を構える。と、ほぼ同時に【バーストダッシュ】で斬りかかった。振るった剣が、敵を纏めて切り裂く。
「言ってる傍から……」
祝詞が呆れたように溜息を吐く。
「よし、我らも行くぞ!」
「おうよ! 村を壊させてたまるかよ!」
そう言うと、陣と義仲も構えた。
――ドロシーの小屋は子供達の他に、仮想世界から戻って来た者達も集っていた。
その中の一室では、怪我をした者達が集められていた。
「……よし、これでオッケー」
「はい、もう大丈夫ですわ」
戦闘で負傷した者を三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)が手当し、讃岐 赫映(さぬき・かぐや)が包帯を巻く。
彼女たちは小屋の一室を使い、怪我をした者達の治療に当たっていた。
最初は転んで膝を擦りむいた花妖精の子供くらいしかいなかったが、仮想空間から戻って消耗した者や、戦闘で負傷した者達も少なくは無い。
「……ふぅ」
ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)ものぞみと同様、手当に当たっている一人だ。
「ねじゅおねえちゃん、大丈夫?」
ディアーヌ・ラベリアーナ(でぃあーぬ・らべりあーな)が、溜息を吐いたネージュを心配そうに見る。
「……うん、大丈夫」
頷くネージュであったが、その顔には疲労の色が浮かんでいる。
「あんまり大丈夫そうには見えないよ。ちょっと休みなよ」
のぞみがネージュに言うが、彼女は首を横に振る。
「あたし、みんなと違って戦えないから……これくらいしかできないから」
「でもあまり無理はしないでくださいまし。あなたまで倒れてしまっては意味がありませんよ?」
「うんありがと。そっちもあまり無理しないでね」
赫映にネージュが笑顔で答える。
「……おねえちゃん、ボクもお手伝いするから、無理しないでね?」
「ありがと……うん、それじゃ頑張ろう!」
一方、別の部屋では子供達が集められていた。一か所に見知った顔があれば、安心するだろうという事から皆を同じ部屋に集めたのである。
「お、そうくるか……中々面白い事考えるのー」
子供達を集め、上條 優夏(かみじょう・ゆうか)がテーブルゲームを広げていた。
「何してるの?」
フィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)が覗き込み優夏に問う。
「ん? ああ、ただ待ってるだけってのも暇やからな。持ってきたゲームをやっとるんや」
「またこんな時に……」
呆れたように言うフィリーネに、いやいやと優夏が手を横に振る。
「こんな時だからこそ、や。外でドンパチやっとるっちゅーに不安にさせるわけにもいかんやろ。遊んで気を紛らわすくらいでええんや」
「……まあ、確かにね」
子供の顔を見て、フィリーネが呟く。見たことが無いゲームに目が行き、少なくとも不安はあまり感じられない。
「そやろそやろ。俺こういう子供相手が向いとるかもしれんわ」
「ならそう言う仕事する?」
「働いたら負けだと思っている」
その一言にフィリーネが大きく溜息を吐いた。
――ドロシーは、窓から外を見ていた。
そこから見えるのは、離れた地での戦い。そして、空に浮かぶ『大いなるもの』だ。
それをただ眺める事しかできない事に、ドロシーは歯がゆさのような物を感じていた。
「やけに暗い顔をしているな」
ドクター・バベル(どくたー・ばべる)が、食器を持って現れた。
「あら……それは?」
「ああ、勝手に厨房借りたぞ。こんな時こそ腹減ってたらどうしようもないからな、炊き出しだ。ほら……まぁ、食えるかわからないけどな」
そう言ってバベルが器を差し出し、ドロシーはそれを受け取る。
「ノア、花妖精達にも配ってやれ」
「イエス、ドクター」
ノア・ヨタヨクト(のあ・よたよくと)が子供達を集めると、器を配りだす。
「あの……ありがとうございます」
深々と頭を下げるドロシーにバベルがはっとした表情になり、急に狼狽する。
「れ、礼なんていらない! これはあれだ! 研究の一環だ! 花妖精の食事の生態だ!」
「わかっておりますとも、ドクター」
そんなバベルを見て、『何でも御見通し』と言わんばかりにノアが生暖かい眼差しで見ている……ように見えた。目元が仮面で隠れているが、雰囲気がそのように感じられた。
「何をわかっているというのだ! ……そうだ、生態を見るのであれば間近で見なくてはな!」
そう言ってバベルが立ち上がると、器を持った子供が躓いて転んだ。
「あっと。ほら痛くても泣かない泣かない……よしよし、よく立てたねー」
涙をこらえて立ち上がる子供の頭をバベルが撫でる。
「えらいえらい。今度は転ばないように走らないようにな」
そう言って子供を見送るバベル。
「……何だよ、何か言いたい事でもあるのか?」
自身に感じる視線に振り返る。
「いえ、なんでも?」
「わかっておりますとも、ドクター」
バベルの視線の先で、ドロシーとノアが生暖かい視線を彼女に送っていた。