空京

校長室

創世の絆 第二回

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創世の絆 第二回

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第一章 校舎1階〜土台、成る(2)〜

 新校舎建設地に隣接した北側のエリア、その一画。
 工場としては十分な広さの土地に、次々に資材が運び込まれてゆく。人員は総勢14名、彼らの目的はPS整備工場を建設する事である。
「お疲れさまです」
 重機を停止させた所で高嶋 梓(たかしま・あずさ)が歩み来た。
「こちらが……うぅ……リスト、ですっ……」
 操縦ポッドの蕭衍 叔達(しゃおやん・しゅーだ)に手渡そうと、いっぱいに手を伸ばして、プルプル震えて。苦悶するをみかねて叔達も手を伸ばしてこれを迎えた。
「ありがとう、ございます」
「ふふふ、いいえ。拝見するわ」
 リストには資材の運搬先が記してある。PS(パワードスーツ)の整備や開発が出来るだけでなく、将来的にはイコンの整備も行えるような施設を建設する予定だ。一刻も早く形にする為にも資材の運搬は迅速かつ正確に行うことが必要だ。
「概ね理解したわ。他の人への伝達もお願いして良いのかしら?」
「えぇ。亮一さんにはお渡し済みですし、ドールさんにはこれからお渡しします」
 作成したリストは一番に湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)に手渡した。パートナーという事もあるが、何より「先頭を切って作業を行いたい」という彼の意向を汲んでの事だった。そんな彼は今、小型クレーンで資材の積み下ろしを行っている。
「よし、ここはこんなもんか。次は……」
 リストに目をやり、次の資材の運び先を確認する亮一の袖で、
「ねーねー、これはどこかなー?」
 と鳴神 裁(なるかみ・さい)がピョンピョン跳ねていた。普通ならば重機に積み込むような資材を抱えているというのに『鬼神力』と『ドラゴンアーツ』のおかげで全く苦になっていないようで、
「こっちかなー? それともこっちかなー?」
 ダッと走っては振り返り、ビュッと戻ってきてはダッと駆け出す。そうして振り返る笑顔はどうしようもなく可愛らしいのだが……亮一にはどこかどうにも鬱陶しく思えた。
「言う前に動くなよ! 危ないだろ!!」
「大丈夫だよー、ちゃんと横目で見えてるから」
「大丈夫じゃない!! 元気が余ってるなら回廊までダッシュで行って資材運んでこい!!」
「了解です☆ 行ってきまーす☆」
「あ、おい! 資材は丁寧に扱え!!」
 激しく怒ったつもりだが、当の本人にはあまり通じなかったようだ。実に楽しそうに回廊に向けて駆けて行った。
 そんな回廊の出口部では、
「これは運んでしまって良いのですか〜?」
 とドール・ゴールド(どーる・ごーるど)三船 敬一(みふね・けいいち)に問いていた。
「ん、あぁちょっと待て、そっちは確認がまだだ」
 三船は主に機材の確保を担当している。以前にリストアップした物は全て一度「月の港」へ搬送し確保。現地での行程と進捗状況を見て、順次ニルヴァーナへと運び込むよう計画しているのだという。運搬や仕分けには『算術士』にも手伝って貰うが、現地に運び込んだ資材の確認は責任を持って三船が行っていた。
「よし、良いぞ。運び出してくれ。こちらも問題ない」
 前半は「了解しましたですよ〜?」と応えたドールに向けて、後半は同じく運搬の任を担うウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)に向けての言葉だった。
「はいはい、わぁってるよ。ったく」
 ウルスラーディのボヤキは回廊出口から工場建設予定地までの道中ずっと続いていたが、
「なんで俺が建設的なことをせねばならんのだ!? ぶっ壊す方が、俺の性に合ってるってぇのに……」
「そう言わずに。そのうち戦ってもらうから」
 パートナーである高崎 朋美(たかさき・ともみ)のこの一言で簡単になだめられてしまった。『そのうち』っていつだよ、という反論も呟いてはみたものの、あまりに弱々しくて朋美の耳には届かなかった。
「もう一往復した位が丁度良いかな。手伝って欲しい所があるの」
「……屋根の部分だろ?」
「正解!! よく分かったわね」
「誰だって分かるっつの」
 朋美の視線を追えば一目瞭然だった。『レビテート』を使えるウルスラーディならば高所での作業も楽にこなせる。
 ニルヴァーナへの唯一の道である回廊は直径にして約5mほどしかない。そのため、工場の骨組みやら、工場に必要な設備や機材等も分解しなければ運び込めない物が多く、そうした物は一度分解した上で運搬、そうして現地で再び組み立てているのだった。
 その中心に朋美が居る。
 朋美と共に組み立て作業にあたっている大田川 龍一(おおたがわ・りゅういち)天城 千歳(あまぎ・ちとせ)の姿も見えるが、彼らは『機晶技術』は使えても『レビテート』は使えない。高所での作業はやはり自分がやった方が効率が良いことだろう。
「これは明日を作る仕事、よ! 頑張りましょう!」
「……はぁ。俺は今日の破壊が嬉しいんだが……」
 大きなため息が一つ、そしてそれに釣られたわけではないが、落胆のため息が一つ吐かれた。
「はぁ……。嫌な予感がするぜ」
 三船 甲斐(みふね・かい)が「ポイ」とプレゼン資料を背後に投げた。
「あっ、オイ! ちょっ―――」とパートナーの猿渡 剛利(さわたり・たけとし)がこれをキャッチしたが、甲斐は気にも止めずに言って続ける。
「こりゃあ下手したら、たらい回される事になるな」
「たらい回し?」
 およそ想定もしてなかった言葉に蕭 貴蓉(しゃお・ぐいろん)は聞き返した。甲斐らは「PS整備工場を学校側の施設に組み込めないか」と打診するべくラクシュミの元へ向かったはずだった。たらい回しになる要素などどこにも無いように思えるのだが。
「整備工場の建設許可を取った流れでイケると思ったんだけどな、「教導団の現場責任者は長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)さんなので、長曽禰さんに相談してね」だとよ」
「まぁ。それでたらい回し」
「あぁ、所属校の垣根を越えてPS(パワードスーツ)の貸し出しが出来るようにするってのも目標の一つだってのに。所属校が縛りになって足止めだ」
 全くもって皮肉だぜ、と甲斐はボヤいたが、すぐに「ま、手間は増えたが、やることは変わらねぇからな。少佐を見つけてプレゼンしてくるわ」
「……そのプレゼン資料をさっき投げ捨ててたけどな」
「資料は揃ってんだ、プレゼンさえ出来りゃあ、PS使い隊を冒険・開拓学科に組み込ませてやるぜ」
「その資料を作ったのも俺だけどな」
「何か言ったか?」
「い、いや何もっ!!」
 剛利の慌てた様に貴蓉は思わず笑んでいた。実に面白い関係だな、なんて和んでいたら白河 淋(しらかわ・りん)が図面を手に戻り来ていた。
「やはり今のままでは足りないでしょうね」
 PS整備工場をの建設許可を貰う際、当初計画していた敷地よりも一回りほど広い土地を割り振ってもらえた。それ事態は喜ばしいことなのだが、PSの整備経験のある整備士を募集したところ、暫定ではあるがこちらも予想以上の人数が名乗り出てくれたという。
「予定している宿舎では足りないでしょうね。もう少し広くとることは可能ですか?」
「そうですね、それでしたら」
 貴蓉も図面を広げる。彼女は各施設の測量と敷地面積を決める役割を担っている。PS整備工場と言っても必要なのは工場だけではない、搬送路や資材庫、将来的には滑走路も欲しいところだ、もちろん整備士用の宿舎も必要になる。それらを割り振られた土地の中に納まるように配置しなければならない。
「こちらの搬送路を狭める……いえ、資材庫を少し削った方が良いかもしれませんね」
「すみません、無理を言って」
「いえ、まだ動かせる段階ですので。お気になさらないで下さい」
 午後にでもラクシュミの元に図面を見せに行こうと考えていた所だ。タイミング的には悪くない。
 変更点があればその都度報告すること、それが学園開発のルールであり、校長であるラクシュミ意向であるのだ。