空京

校長室

創世の絆 第二回

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創世の絆 第二回

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第二章 校舎1階〜外形、成る(2)−1〜

 校舎の1階に続いて、2階の工事も順調に行われていた。
 うち一部は立ち入りも許可されており、校長室もそのうちの一つだった。
「お集まりいただきありがとうございます」
 少しも豪華じゃない椅子に腰掛けてラクシュミが切り出す。彼女の向かいには4人の契約者が座っていた。パートナーたちはその一列後方である。

「それでは順番にお聞きしますね。まずは多比良 幽那(たひら・ゆうな)さん。生物学科の教員、という事でよろしいですか?」
「そうね、正確には講師……いえ、私は教授になるわ!!」
「え、えぇ、そうですね。生物学科も含めて、環境生物学部はどうしても現地調査と平行して授業を行う事になると思いますが」
「なんのそれしき、むしろドンと来いですよ! 私ほどの適任者は居ないですし、むしろ私以外が植物を語るなんてとても許される事ではないわ!!」
「あ……あの……」
「すまないのう。どうしても教師になりたいようで、興奮しておるのじゃ」
 後方からネロ・オクタヴィア・カエサル・アウグスタ(ねろおくたう゛ぃあ・かえさるあうぐすた)がフォローを入れる。「悪意はもちろん、悪気も他意も無いもない。情熱だけを買ってはくれぬか」
「えぇ、もちろん」
 情熱は十分に伝わったようだ。

「では次に犬養 進一(いぬかい・しんいち)さん。あなたは考古学科マントラ学科ですね?」
「その通り。まずはこれを。見て欲しい」
 ドンと置かれた論文の山。彼のこれまでの研究実績だという。
「あなたも……すごい情熱ですね」
「俺は長年イルミンスールで研究を続けてきました、これら全て! その成果なのです! たいむちゃん! いやラクシュミ校長!! やはりこの俺こそがこれらの学科の教員にふさわしいとは思いませんか!!」
「え……えぇ、思います。…………それで、どちらの学科にします?」
「どち……ら?」
「えぇ。どちらも可能なのは分かりましたが、どちらか一つを選べと言われたら、どちらにしますか?」
「……………………………………干し首以外
「はい?」
「いえ………………考古学科で」
「分かりました。考古学科ですね」
 小声の返答は聞かなかった事にした。

「では次の方。シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)さんは初等部希望ですね? あぁ、パートナーのリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)さんも同じでしたね」
「ああそうだ」
「よろしくお願い致します」
初等部は特に生徒数が読めないのですが―――」
「問題ない。小さいやつらの面倒は実家の孤児院や百合園のボランティアで慣れてるし、国を作っていくなら子供の教育が大切って意見は理解できるからな。精一杯やらせてもらうぜ」
「わたしくも精一杯努めさせて頂きます」
「経験者の方というのは心強いです。ぜひお願いします」
「ああそれと提案なんだが、初等部って言っても「小学校」って感じで区切るんじゃなくて「保育所」レベルから始めても良いと思うんだ。子供の契約者も多いし、逆に子持ちの奴らもいるだろ? 託児所的な感じになるかもしれねえが、探索やら工事やらに専念してもらえるならその方がいいんじゃねーかな?」
「そうですね、そういった要望があれば柔軟に対応しましょう。賑やかになりそうですね♪」
「ああ。覚悟だけはしておくよ」
 あまりに賑やかになって他の授業に支障を来すようなら、別館を建てて移ればいい。

「次はイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)さん、イコン科の教員志望ですね」
「は……はいぃ!」
イーリャさん?」
「(落ち着け、落ち着け私)」
 大きく深呼吸をすると、不思議と緊張が和らいだ。
「すみませんでした、もう大丈夫。イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)です、イコン科の教員希望を出しました」
「天御柱学院の普通科の教師さんだとか」
「えぇ、ですから授業自体は問題ありません、心配なのは設備でしょうか。今はイコンもシュミレータも持ってこれませんから」
「そうですね、解決すべき問題だとは思ってるのですが、どうにも今は……」
「構いませんよ。初めは基礎理論から入りますし、技術者が増えて施設もある程度完成すればパーツの組立も出来るかもしれませんよね。気長に待ちますわ」
 外敵に対抗するためにもニルヴァーナの地でイコンを稼動できるようにする事は最優先事項の一つだ、それは間違いない。ああは言ったがイーリャ自身、それほど時間はかからないだろうとも踏んでいた。

「最後は、えぇと、早川 あゆみ(はやかわ・あゆみ)さん。教員研修講師という事ですが……これは?」
「ニルヴァーナ校の先生を育成する講師の事よ。簡単に言えば先生の先生という事になるわね」
早川さんは、えっと……あぁ! 音楽の先生なんですね?」
「えぇ。だから本来なら音楽科の教師に立候補するところなんだけど、この学校ではこれまで生徒だった子も先生になれるのでしょう? 実力や知識はあっても、どんな風に教えていいか戸惑う事もあると思うの。そうした人達を育成したり、相談に乗ったりするのが教員研修講師というわけ」
「なるほど。確かに不安に思う人も居るかもしれませんね。教えてくれる人がいると心強いと思います」
「まぁ、一番大切な事は……技術じゃないけれどね」
「え?」
「ううん、何でもないわ。ただし教員採用はあなたがやってね。あくまで私は育成と相談に乗るだけだから」
「わかりました。よろしくお願いします」
 知識と情熱とモラル。それらを備えていると判断できたならば即採用! 喜んでお誘いする次第のようだ。