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リアクション
第三章 校舎2階〜外形、成る〜
水周りの整備から始めた新校舎の建設は、すでに1階部分の工事をほぼ終え、2階、3階へと工程を移している。
これもひとえに多くの契約者と教導団員たちのおかげである。彼らはほぼ不休で今日まで、また今日も作業を続けている。
工事をほぼ終えているとは言っても、そこは未だに外形のみ。立ち入りこそ許されているものの廊下や室内に装飾はなし、当然のように保護シートが張られていたり、機材が置かれたままの箇所もある。
全てはこれから。ここから学校にしてゆくのである。
校舎1階、西の角部屋。そこは保健室として割り当てられた部屋である。
「終わったよー」
「本当? どれどれ〜?」
イタズラな笑みを浮かべて白波 理沙(しらなみ・りさ)が歩み寄る。ピノ・クリス(ぴの・くりす)は大きくて丸いペンギン胸を「デンッ」と張っていた。
「どうだ」
「ふぅ〜〜〜〜〜〜〜〜む」
棚の中をじっと見つめる。ラベルの付いた薬瓶が見事に綺麗に並べられている。数も合っているようだ。
「よし、合格」
「当然っ! 楽勝でした」
「じゃあ次はこっちの箱をお願いね。下の戸棚に移してもらえる?」
「了解です」
ペタペタペタと歩んでいって、ピノは綿布類の入った箱を「ヨイ」と抱えて持ち上げる。すぐに理沙も医療具の整頓作業へと戻っていった。
今は窓もカーテンもない。一見すると野戦病院のような風体だが、校舎の他のどの部屋よりも優先させて医療行為が行えるようにしなければならない、理沙はそんな風に考えていた。
外敵の存在はもちろんだが、学校を襲撃するような者が居ないとも限らない。工事の最中に事故が起こったとしてもすぐに治療に当たれるように。保健室の機能を整えるべく、持ち込んだ備品類の整理を行っているのだ。
「これで全て、ですね」
「あぁ」
理沙と同じく保健室の整備を行っているクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)とサイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)は隣の部屋で作業を行っていた。
保健室には二部屋分のスペースが与えられており、一方はいわゆる「一般的な保健室」もう一方は主に「手術室」として活用するという。二人はこの地で立ち上げた「簡易診療所」からレントゲン等の機材を運び移していた。
「だいぶ形になってきたな。これで電力が安定すれば、どうにか手術も可能だろう」
「そう…………です……ね」
「クエス?」
反応が遅い。クエスティーナの顔は紅く、息も荒かった。
「なんでもありません。平気です」
額に手を当ててみればそれは明らかだった。すぐにサイアスはクエスティーナを隣室に連れていった。
「ベッドを借りるぞ」
「どうしたの?」
熱がある、と伝えると理沙はすぐにベッドを用意してくれた。
「あの、私、大丈夫ですよ。ちょっとボンヤリしてしまっただけです」
「医者の不養生か? 冗談じゃない、大人しく寝てろ」
「くぅ……」
ニルヴァーナに来てからというものクエスティーナは働きづめだった。ここに来て疲れが出たのだろう。サイアスの言った通り、少し休むべきだ。
極力音を立てないように注意しながら3人は各々の作業を再開した。学校作り見学ツアーの面々がやってきたのは、そんな時だった。
「アルタ、アルタぁー」
「んん?」
春日野 春日(かすがの・かすが)の間の抜けた声にアルタ・カルタ(あるた・かるた)は面倒そうに応えた。
「どした?」
「ダメですー」
「何が?」
「先客が居ます…………私のベッドに」
「あん? あ、本当だ」
アルタも室内を覗き込む。ベッドにはクエスティーナが横たわっている。
「そいつは残念だったな。つか、あのベッドは「お前の」じゃねぇ」
「んー。私のベッド……」
「まだ言うか」
「二人とも。行きますよ」
赤坂 優衣(あかさか・ゆい)の声がした。今日はツアーの最終日、再び校舎内を見て回っている所だ。
「行くぞ。言っておくが春日、お前勝手にフラフラすんなよな」
「ワタシはただ単にお昼寝したいだけだよー?」
「だからお昼寝場所を探してフラフラすんなっつってんの!」
「んー、お昼寝できそうな場所は無いかなー……」
「まんまじゃねーか、聞けよ!! つか、そっちじゃねぇ!」
保健室には当然「胃薬」も常備してある。アルタは間違いなく立派な常連さんになることだろう。
「やっぱり、広いですね」
漏らすようにそう言って、ベス・ストークス(べす・すとーくす)はメモに「廊下、広し」と書き記した。これに優衣が「今回は内装や装飾を後からするから、その為にも通常より広くとっているそうよ」と応えて返す。廊下はベスと優衣が並んで寝転んでも埋まらない程に広く設けられていた。
「演劇科や音楽科の教室も見て回るんだよね?」
「そのつもりだったんだけどね……」
どちらも校舎3階に設置される予定のようで、今はまだ立ち入ることが出来ない、というより骨組みしか完成していないのだという。優衣はそれらの部屋で一休みしようと考えていたのだが、泣く泣くプランを変更せざるを得なかったようだ。
「ベ〜スっ!!」
「きゃっ!! 清音っ?!!」
パートナーの音名瀬 清音(おとなせ・きよね)に抱きつかれてベスは急に頬を赤らめた。
「ちょっと清音、くっつかないで」
「え〜、どうして〜?」
そのまま腕にひっつかれると、ますます顔が熱くなってゆく。やっぱりそうだ、以前は何とも思わなかったのに……。
「雛さんと話してたんじゃないの?」
「うん? お話ししてたけど」
「そうでしょう? ずいぶんと楽しそうに話してたわよね」
「でもベスの方が温かいから〜。むふふ〜」
「何よそれ……」
言葉もちょっぴり大人ぶったまま。
「………………仕方ないわね」
意識なんてしなくても清音の歩幅に合わせるのなんて簡単だ。ふたり添いて、この後のコースを回っていった。
外形が完成した教室、今は主に1階部分の教室だが、そこには順に学部学科の部屋が割り振られていった。
研究室や実習室、また準備室として使われるのだろうが、その用途は学部学科によって当然に異なる。特殊設備が必要な場合にはそれなりの部屋が用意されるが、現段階では一様に「各学科に一部屋」が「仮準備室」として割り振られている。2階3階に設置が予定されている学科はその部屋を仮の拠点として、完成次第移動する事になるようだ。
そんな中に生物学科の部屋もあった。
「これにそれと……あとはどれだっけ?」
笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)がフラスコとビーカーを手に辺りを見回した。
「顕微鏡と試験管もです。その辺りにまとめておいて下さい」
梱包材を外して棚に移してゆく。生物学科は校舎の1階に設置されるようで、この部屋が準備室として使われるという。道具や資材などは備え置いてしまって良いということだ。
「気を付けて下さい、紅鵡様。割れたら危険な物ばかりですから」
パートナーのアインス・シュラーク(あいんす・しゅらーく)が何気なく注意を促す。
「分かってるって。バカにしてるな?」
なんて言った矢先。パリンという音がした。それも3回。
「あ……」
右手に3本の試験管、指と指の間に挟んで運ぼうとしていたのだろう。うちの1本が机の縁にぶつかり割れて、なぜか連鎖するように残りの2本も次々に割れた。
「えっと……ハハハ…………ハ……ごめん」
「構いませんよ。それより怪我はありませんか」
「それは大丈夫。丈夫なだけが取り柄だから」
「そうですね」
「そうですねって……」
「冗談です」
紅鵡の手を取って、じっと看る。確かに怪我はしていない。
「気を付けて下さい、割れたら危険な物ばかりですから」
「それはさっき聞いた」
「気を付けて下さい、割れたら危険な物ばかりですから」
「分かったよ! 気を付けるって」
生物学科に必要なもの。ろうとや冷却管などの実験器具に、硫黄やマグネシウムなどの試薬などなど。危険な物はたくさんある。
もっとも、本当に危険な物は紅鵡には触らせていない。一枚も二枚もアインスが上手なのである。
生物学科だけではない。準備のできる所から開講に向けて動き出している。
皆で作る学校。ニルヴァーナ新校。関わる人の多い箇所から設備も内容も充実してゆく事だろう。
入学希望者募集の時は、刻一刻と近づいている。
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