空京

校長室

創世の絆 第二回

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創世の絆 第二回

リアクション

第一章 校舎1階〜土台、成る(4)−3〜

ラクシュミ殿。学校の施設に購買が無いというのは本当だろうか?!!」
 台車越しにクロウディア・アン・ゥリアン(くろうでぃあ・あんぅりあん)ラクシュミに問う。清次の品揃えに対するクレームではないが、その声は静かながらもどこか怒気を帯びているように聞こえた。
「学校に購買が無いなど前代未聞、大問題です。我輩にお任せ下さい、我輩の陽竜商会の力で迅速かつ充実した購買の開設を実現してみせましょう」
 パラミタでの実績ゆえの自信。取り扱う商品は食べ物だけではなく、教科書や文房具、生活用品や学制服なども用意できるとここに説いた。
「がぅ! がぅがぅが!!」
 パートナーで野生児のテラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)も懸命にフォローしている。獣じみた言語の意味は通じなくても、その熱意が伝わったのか、
「わかりました。許可します。校舎一階の昇降口付近に購買を設けましょう。仕入れや運営について他に参加を希望する方がいた場合には話し合いで決めるようにして下さい」
「了解した。パラミタの、どの学校のそれよりも優れた購買にしてみせようぞ」
「販売と言えばねっ! 商売と言えばねっ!」
 商売魂に火が点いたのか、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)がこれに加わった。
購買じゃないんだけど、卓球台とか筋トレマシーンとかならウチで手配できるよっ!」
「卓球台……は分かりますけど。筋トレマシーン?」
 現在絶賛建設中の温泉施設に卓球台は絶対必須、しかし筋トレマシーンが備えられた温泉は……聞いたことがない。
温泉じゃなくて、その熱を使ってね、スパ施設を作ったらどうかな? と思って」
スパ施設?」
温水プールだけじゃなくて、水着で入れる温泉も併設するの。冷えた体を温めたり、疲労回復にもなるからね。あ、もちろん裸で入る温泉は別に作るんだよ、隣の建物とかにね」
 スパ施設の中にスポーツジムの設備を加えて、総合的に体を鍛える事の出来る施設にしようというのがミルディアの案だった。
「こうした商品をご用意してますが―――」
 パートナーの和泉 真奈(いずみ・まな)がノートパソコンを差し出したのだが―――
「スクール水着に一票っ!!」
 五十嵐 理沙(いがらし・りさ)の叫声が真奈の言葉を遮った。挙手をする理沙の影からセレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)も控えめに、
「わたくしも一票」
 と手を挙げて言った。
「スクール水着って……まだそんな段階では……」
 ラクシュミの戸惑いは当然、明らかに理沙の勇み足に思えたが、彼女はめげなかった。それは―――
「スクール水着に一票っ!!」
「スクール水着に一票っ!!」
「スクール水着に一票っ!!」
「ボクは炎の神殿を―――へぶっ!! すびませんでした、スクール水着に一票……」
 八神 九十九(やがみ・つくも)ウルキ ソル(うるき・そる)朝野 未沙(あさの・みさ)が同じに挙手をした。ちなみに最後にボコられたのは未沙のパートナーであるグレン・ヴォルテール(ぐれん・う゛ぉるてーる)だ。スクール水着が正式採用されるまでは抜け駆けと裏切りは許されないのである。
温水プールが実装されれば、授業で使う事になるでしょう? 水着の選定が必要よね? だったらっ、」
 キラキラと輝く未沙の瞳。言いたいことは明らかだ。
「だからスクール水着……ですか」
「さっすがラクシュミさん、賢いねっ」
 いや……ここまで言われれば誰でも気付かろう。
温水プールを作るとは言ってませんよ?」
「作らないの?!!」
「そうですねぇ」
「ちょっと、よろしいかしら?」
 タイミング的には応援か? 聞けば確かに違いはなかったのだが……。ティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)はパートナーの清良川 エリス(きよらかわ・えりす)を面前に晒した。
「ちょっ、ティア?!!」
 エリスはなぜか生足パーカーの出で立ちをさせられていた。
温水プールは必要よ。お風呂作法がなっていない娘も多い昨今ですから、入浴マナーを徹底する授業も必要だと思うの。でも実技を温泉で、それも裸でするわけにはいかにでしょう? だ、か、ら」
「ちょっと! きゃあっ!!」
 背後から一気にパーカーを剥ぎ取る。現れたのは「スク水」美少女。なにゆえにサイズが小さいのか、エリスの豊満な胸はスク水の紺生地をビンビンに張り伸ばしていた。
「こうして水着を着た状態で授業を受けるの。これなら恥ずかしくないでしょう?」
「は……恥ずかしいに決まっとるやろ!」
 エリスの抗議も届かぬまま。それどころか「入浴マナー講座のモデル」として、その場で片膝をついて湯をかぶる仕草をさせられた。エリスの顔は完全に茹で上がっていた。
 これも立派な温泉利用。温水プール建設を推奨する意見ともいえる。エリスの色仕掛けがラクシュミに効いているかは別にして、「ここはチャンス!」と理沙ミルディアはここで一気に畳みかけた。
「体育の授業に必要でしょう? 体を鍛えるのには打ってつけだし」
「体を鍛えるならやっぱりスパ施設だよ、スパ施設も許可して欲しいな」
「そうよそうよ! 温泉だけじゃ面白くないわ! 混浴も許可してよねっ!!」
「そ……そうですね、温水プールスパ施設混浴温泉も学園生活を豊かなものにするためには必要かもしれません―――って…………ん?」
 ラクシュミが気付き、ザウザリアスが「バレたか……」と舌打ちをした。どうやら今まで理沙の背後で機をうかがっていたようだ。
「……またあなたですか」
「また私です。ルシアとハイナの姉妹を再会させるまで私は諦めませんよ」
「あなたまさか……その為に今まで……」
「えぇもちろん、温泉大国日本の文化をこよなく愛するハイナならば混浴でも率先して入ってくれる事でしょう」
「でもそれなら男女別でも構いませんよね?」
「………………ん?」
温泉に隣接してスパ施設を作りましょう。施設の中に温水プールやスポーツジムを設置します。以上です」
「そんなっ!!」
 ザウザリアスの策は、またも失敗に終わった。



 校舎建設地へと戻る道すがら、聞こえてきたのはギターの音だった。
 校舎の建設を行う者たちへ。鍵谷 七海(かぎや・ななみ)からの応援曲だった。
 弾むようなピッチで、時には陽気な曲も織り交ぜながらに演奏してゆく。「つらい作業も少しは楽になるかな? なるといいなぁ」なんて軽い気持ちで始めたようだが、今日もかれこれ6時間近くぶっ通しで演奏を行っていた。
 これには初め「……姫さん、それをするなら普通に水を配ったりした方がよっぽど助かると思うんだが」なんて言っていた山下 孝虎(やました・たかとら)も、その気力と根性に感服し、そっと彼女のフォローに回ろうと思い直していたという。
 広大な校舎、その一階部分の土台は殆どが既に外形を成している。重機の活躍は当然ながら、工事を行っている契約者や教導団員たちの働きぶりも実に見事。彼らの働きなくしてこれほど早くに外形を成す事は不可能だったに違いない。
 そんな彼らを励ますためとはいえ、演奏する七海が邪魔になってしまってはならない。工事の状況を見て、安全かつ邪魔にならない場所に七海を移動させよう。孝虎は注意深く現場の状況に目を光らせた。
「スクール水着に一票っ!!」
「スクール水着に一票っ!!」
「スクール水着に一票っ!!」
「混浴温泉に一票っ!!」
 校舎敷地内に設置される温泉を視察するべくラクシュミが戻ってきた。それに付きまとう……いや、何とか提案を受け入れて貰おうと「スク水推奨派」や「混浴温泉推奨派」の面々が彼女の後を追って来ていた。保留や却下を食らったにも関わらず、こうして「お願い」に来る彼女らの根性も見上げたものかもしれない。
 粘り勝つか、それとも敗戦か。はてさて、どちらに転ぶだろうか。
「いかがですか?」
 ラクシュミ日堂 真宵(にちどう・まよい)に声をかける。校舎同様、ここ温泉の建築現場も実に順調のようだ。土台部分はほぼ外形を成している。
「あっ、たいむちゃん! ちょうど良かった」
「はい?」
「アーサー(アーサー・レイス(あーさー・れいす))! たいむちゃんが来てくれたわよ!」
「オー、ちょうど良かったデース」
 同じような反応をしてアーサーが寄り来る、とおもむろにラクシュミにスプーンと皿を差し出した。一見すると「カレー」のように見えるが―――
「えぇと……これは?」
「見た通り、カレーよ。アーサーが作ったの」
「温泉の水で作りまシタ」
「温泉の水で?!!」
「水質データを取ったの。何しろニルヴァーナの温泉だもん、この世のものとは思えない効能があるに違いないと思ってね」
「そんなまさか……」
「今のところは何も。藥にも毒にも使えるかどうか、微妙なところね。アテが外れたわ」
「安全安心美味しいデース! 水質にあった調合をしてますから絶品ですヨー」
「そ……そうですか」
「温泉水って大抵体に良いらしいわよ? ささっ、ぐーっとやっちゃって頂戴」
「あ、はい。…………では、いただきます」
 小さく一口、そして一言。
「……美味しい。美味しいですっ!!」
 思った以上の好感触。何より触感、口触りが抜群だという。水質の調査と共に味の追求も継続されそうだ。
 ニルヴァーナ名物「温泉カレー」が食堂に並ぶのも、そう遠いことではないのかもしれない。