空京

校長室

創世の絆 第二回

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創世の絆 第二回

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第一章 校舎1階〜土台、成る(3)〜

 校舎にあてられる敷地の東側エリア、農業地として割り振られた土地である。
 兼ねてから整地の作業が行われていたが、それも今は無事に終えていた。
「さて、どうしましょうか」
 平らになった土地を前に天埜 陽女(あまの・ひめ)は呟いた。
 この場所は後に農業科食料生産科などが利用することになるのだろう。学科の発足がまだだと言うのに、土地の整備以上のことをしてしまって良いのだろうかと迷っているのだ。
「構わないと思いますよ」

 顔も手足も土まみれ。鬼咲 白(きさき・しろ)の目は『鬼神力』の効果で血走っていたが、口元は優しく笑んでいた。
「授業となれば新たに開拓もするでしょうし、全てをゼロから始める必要はないと思います」
 どんな植物が育つのか、それ以前に今は植物の栽培が可能かどうかも分からない状況である。出来ることを出来るタイミングで行っていく事こそ重要だとは説いた。
「水路もあと少しで完成します。「種まき」までには間に合わせます」
「そう、分かったわ。それまでに耕しておくわ」
 もちろん陽女一人ではない。この地に農地を作ろうという同志たちは今はラクシュミの元に報告と提案に行っているため不在だが、陽女には多くの仲間が出来た。彼らと協力すれば、広大な土地だろうと耕すことは十分に可能だ。
「ようやく、ワンちゃんたちの出番ですね」
「そうですね、こちらが終わり次第、も手伝います」
 農地に何か埋まっていないかどうか、『パラミタセントバーナード』に探ってもらう。は『トレジャーセンス』を使っての調査になるだろうか。古代の何かがひょっこり出てきたりすれば考古学科の役にも立つのでは期待していた。
「農業地が出来たなら、温室もあったら便利だよねー」
 農地の整地を終えた頃、五月葉 終夏(さつきば・おりが)のこの提案に佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)もこれに乗った。2人は「まずは食料用の作物を作るべき」という意見で一致していた。
「温室となると、ガラス温室かビニール温室になるかな。もしくはアクリルか」と終夏が提案すれば、
ニルヴァーナの気候もはっきりとは把握できていないからね、ガラスの方が無難かなぁ。温室は温泉の熱を利用したものにしたいし」と弥十郎も論じる。
「食料の確保を考えるなら水耕栽培による収穫が適してると思うよ。それが軌道に乗ったら、この土地にあった作物を育成、選択していけば良いんだし」
環境生物学部探索学部の事を考えると研究用にも収穫したい所だけど……まずは食料用の温室がしっかり機能しないとね」
「えぇ」
「そーそー、欲張り過ぎは失敗の元だぜ嬢ちゃん?」
 終夏のパートナーである雨宿 夜果(あまやど・やはて)が明るく言った。
「二兎追うものは一兎も得ずって言うしな。研究用のは、ひとつ作ってみて余裕があったら作りゃいいさ。ひとつでも結構大変だからなーアレは」
 大変という言葉を追って今度は弥十郎のパートナーであるカシキョウチョ 『斉民要術』(かしきょうちょ・せいみんようじゅつ)が提案書を見つめて、
「でも、この仕様だと設備とか大変だよね。『温泉の熱を利用した温室管理』、『温室内を一定温度に保つ空調設備』、『機晶技術を使った光量調節設備』に『水分調節のためのコンテナ型の野菜プラントエリアの設置』でしょう?」
「まぁ、なんとかなるでしょう」
 弥十郎はあっさり言った。
建築学科機晶技術科、それに食料生産科もあるじゃない?」
「あ」
「一人では出来ないかもしれないけれど、皆で得意なものを使って知恵を出し合えば……きっとできるさぁ。野菜の栽培や農地管理は君の得意分野だよね」
「まぁ、そうだけど」
 学科や授業の開講がいつになるかは未定だが、作った温室を管理する事は任せても良いのかもしれない。それこそ皆で知恵を出し合って協力すれば、さほど難しいことではない。
「さーて、そんじゃあ早速取りかかるか。仕様の提案は任せて良いんだろ?」
 夜果が袖を捲りながらに弥十郎に言った。どんな仕様になるにしろ、形作るためのパイプを立てるくらいなら今すぐに出来る。
「力仕事は任せろ、丈夫な骨組を作ってやるぜ」
「お願いします。ではワタシたちはラクシュミの元へ向かいましょう」
 提案や変更点は随時報告。建設や開発を許された施設に関してもそれは同じなのである。
 一方その頃ラクシュミはと言えば、
温泉施設は許可されたのでしょう?!!」
「で、でも混浴は―――」
混浴は文化です! 温泉学という学問だってある位なんですよっ!!」
 校舎建設予定地に隣接した一画にてザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)ニコライ・グリンカ(にこらい・ぐりんか)の追撃を受けていた。温泉施設の建設が始まる事を受け、彼女はどうしても混浴温泉を許可して欲しいようなのだが―――
「そ、それでも混浴は許可できませんっ!!」
「どうしてですかっ! 男湯と女湯を分けて作れば作業効率も落ちるでしょう!! 問題があるなら、男湯と女湯の入浴時間を分ければ良いだけの話です」
「そっ……それは……」
 これは効いたか? しかしここで止めれば、或いはこの線で攻めれば良かったものの、
「それに混浴は少子化問題を解決する手段としても有効なんです!」
「しょっ、少子化っ!!」
「大事でしょう? 子供。ニルヴァーナで床に着いてニルヴァーナの地で生まれ出る。あぁ、なんて素晴らしき生命の神秘」
「や、やっぱり混浴は却下ですー!!」
「えぇっ?!! ちょっとラクシュミっ!! 待って―――」
 出会いの場は必要でしょう〜!! と付け足したが、時すでに遅し。ラクシュミ皆川 陽(みなかわ・よう)の元へ駆け寄っていった。
「水源から、サラサラと心地よい水音がして水が流れてきて、その周りに綺麗な花が咲く花壇があって……」
 ラクシュミは何とも和んだ顔でこれを聞いている。同じ『お花畑』な提案でも、こちらは実に優しい話だ。
「でもこれだと花壇というか、少し大がかりになっちゃうんだよね。水路とか設計しなくちゃだし。それでも良いかな?」
「もちろん! 校舎の中庭をお願いします。水路と花壇、それからベンチや噴水なんかがあっても良いかもしれませんね」
 みんなの憩いの場になるような、そんな場所になれば花たちもきっと喜ぶに違いない。
「分かりました、考えてみます。校舎内の土木工事は『召喚獣:不滅兵団』にやって貰ってますから、それと平行してデザインも考えてみます」
「えぇ。楽しみにしてますよ」
「はい」
 言った後には気付いた。土木工事をするという所で「何故に僕の名を出してくれなかった?!!」と「テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)が騒ぐかも知れない。まぁしかし、この場に居ないのだからテディはそれを知ることが出来ないわけだが……もしも知れたならば―――
「ぐおおおお! 召喚獣程度に負けてなるものかーーーー!!」
 と激しく妬くに……いや「なぜに僕の名を言ってくれない!!」と激しく抗議してくるに違いない。
 彼は今、現場で必死のアピールを続けている。なぜか肉体労働系としてのポジションを気にしているようだが、まぁそれで工事が予定よりも大いに捗るならばそれに越したことはないとも思っていた。
 口を滑らせないように気を付けよう、とは小さく気を引き締めたのだった。