空京

校長室

創世の絆 第二回

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創世の絆 第二回

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第一章 校舎1階〜土台、成る(4)−2〜

 ラクシュミが次に向かったのは南側のエリア柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)が「地球やパラミタについて学べる施設はどうだろう?」と提案したこと、また夏野 日景(なつの・ひかげ)が「図書館ってまだ出てないのかな?」と質問したことを受けての事だった。
南側のエリアは文化や学問に関連した施設を集めたいと思ってまして」
 ラクシュミは地図を広げて二人に見せた。南側のエリアは未だ白紙だ。
地球やパラミタについて学べる施設図書館も、校舎内の一部屋ではなく、一つの施設として独立させると言うのは如何でしょう」
「俺はそれでも構わないぜ。夏にやったパビリオンなんかの展示を再利用するのも面白いかなと思ってた所だ。スペースがあればそれだけ写真とか資料とかも展示できるしな」
「オレは図書室って程度にしか考えてなかったけど。そうなるとニルヴァーナはもちろん、色んなとこの本を集められそうだな」
「そうですね。ニルヴァーナの本となると今は難しいかもしれませんが」
 ラクシュミ南側エリアの西を指差して、
「それでは地球やパラミタについて学べる施設を「文化資料館」と名付けて、校舎に隣接させて建てましょう。その並びに図書館を建てます。氷藍さん、日景さん。建設と運営のお手伝いをしいて頂けますか?」
「あぁ」
「もちろん!」
 氷藍のパートナーである片倉 小十朗(かたくら・こじゅうろう)もこれを快諾し、早速資料を仕入れる準備に取りかかった。日景のパートナーである深沢 ごまりん(ふかざわ・ごまりん)はと言えば「俺は温水プールの方がいいけどなー」なんて言いながらパラミタモロコシをボリボリと頬張っていた。何だかんだ言いながら彼もきっと協力してくれる事だろう。やさぐれたゴマファアザラシの赤ちゃんは、出来れば見たくはない。
 文化資料館、そして図書館の奥に建設が決まったのは学生寮である。提案者の姫宮 みこと(ひめみや・みこと)本能寺 揚羽(ほんのうじ・あげは)夜薙 綾香(やなぎ・あやか)夜薙 焔(やなぎ・ほむら)と共に建設予定地を前にしていた。
「木材には乏しいですから、構造は石造りになるでしょうね」
 入寮者数は不明でも、1階20部屋の3階建て、概算で120人が生活できるだけの場所を確保した。
 必要とあれば増築も考えるが、まずはこの規模の寮を早急に拵える、目指すはゴーストタウンではない。校長であるラクシュミの決意はこんな所にも表れていた。
「それにイレイザーなどの襲撃も考慮すると、あるていど丈夫な構造でないと」
 もっともな意見にも思えたが、ラクシュミはこれに顔を曇らせた。
「それはあまり気にしないようにしましょう。強度を求めるとキリがないですし。考えるなら、脱出しやすい構造にする程度にしましょう」
 防衛策は別に取る。建設が遅れる事をまずは避けたいという事のようだ。しかしこれに、
「はやる気持ちも分からんではないが」
 綾香が苦言を呈した。
「プレハブのような寮が出来ても仕方がないだろう? 現状必要な分だけ作って後々増やしてゆくという案は賛成だが、それでもある程度造りはしっかりさせるべきだ」
 そう前置きをした上で「それから、生徒と教師の住居は別に作った方がいい」と助言した。
「別に? 必要でしょうか」
「もちろんだ。どちらも生きた心地がしないだろう」
「?」
 なぜにピンと来ないのか。
 綾香が「同じだと生徒が感じるプレッシャーと先生の心労がハンパない」と補足するとようやく伝わったようで、
「あぁ……なるほど」とラクシュミは苦笑いを浮かべて応えた。
「外来者の為の建物も必要かもしれないな。ゆくゆくはホテルなんかも作られるのだろうが」
「そうですね。この際ですから一緒に作っちゃいましょう。学生寮教員寮来賓棟と言った所ですかね」
 こうして3棟が隣接して建てられる事となった。3棟を同時に、しかも迅速に建てるとなると校舎の建設と同じくらいに大変な気もするが、ラクシュミがやると言ったのだから、これもやるのだろう。
「さて、校舎に戻りましょうか」
 西、そして南側のエリアを続けて視察したラクシュミだったが、彼女の仕事はまだ終わらない。今日はこのあと校舎建設現場に赴き、状況の確認と打ち合わせを行う予定になっている。
「一息つきませんか?」
 逢見 清次(ほうみ・せいじ)ラクシュミの顔を覗いて言った。働き詰めの彼女を見かねて、また声をかけるならこのタイミングしかないとも思っての事だった。
「休息も挟まないと良いものには仕上がってくれませんよ。頭も休ませることも必要です」
 珈琲や紅茶、日本茶などなど。飲み物はもちろん、他にもおにぎりやサンドウィッチなどの軽食やお団子とダックワーズといったお菓子も用意している。小型の台車を押す様は、さながらキャビンアテンダントのようだった。
「ありがとうございます。でも、あまり時間が……」
「そんな時こそ紅茶です。紅茶のカフェインは疲労回復に、香りは気持ちを落ち着かせる効果があります。一杯の強がった余裕が、結果的には作業効率を上げることはよくある事です」
「ふふ、面白いですね。そうですね。強がりの一杯、私もいただきます」
「えぇどうぞ。みなさんもいかがですか? 特殊食材も用意していますので」
「特殊食材って……」
 もう一台の運搬台車、それを押すヴェンツェル・フォルクロア(う゛ぇんつぇる・ふぉるくろあ)自身もその自覚はあるものの、人に言われると少し抵抗があった。それでも、
「血液や燃料、工具に肥料はいかがですかぁ。縫い針もありますよぉ」
 開き直って接客に務めることにした。「選ぶのが楽しくなるような、そんなバラエティ豊かな品を取り揃えた」と清次は豪語していたが、おそらくは彼の呪われた体質によってもれなく普通の品が並べられている事だろう。差し入れを作り直すなんて野暮なことはしないが、まぁ、一息つくという目的ならば十分に果たせることだろう。