空京

校長室

創世の絆 第二回

リアクション公開中!

創世の絆 第二回

リアクション



ミッション1 学校を要塞化せよ!

 クジラの砲撃を受け再廻の大地に落下し突き刺さる黒い楕円形の塊は、さながら赤茶けた大地に蒔かれた禍々しい黒い種子のようだった。ヘクトルはそこから撒き散らされる胞子のごとく現れたイレイザー・スポーンの群れから目を引き剥がした。

「建設中の学校は我々の拠点だ。守らなければ!」

急ぎ学校内簡易作戦本部へと帰還したヘクトルは、すでに異変を知ってかわいらしいウサギゆる族型戦闘スーツ「たいむちゃんスーツ」を着込み、待機していたラクシュミとともに、迎撃の準備に入った。クジラのおかげで学校への種子直撃は免れたものの、スポーンたちがやってくるまでさほど時間の余裕はないといっていい。戦闘あるいは学校の防衛に参加しうるメンバー数は随行の兵員を含めても200人程度と少なかった。対するスポーンの数は判明していないが、あのとき見た群れは少なく見積もってもこちらの数倍はいる。2人は暗然とした思いを抱いた。いや、今はこの人数でできるかぎりの事をするしかない。
「東の平原とニルヴァーナ校を結ぶ直線上の防御適地に陣地を築き、スポーンの軍勢を迎撃するのはどうでしょうか?」
大尉で『新星』の副指揮官、香取 翔子(かとり・しょうこ)が提案する。香取のパートナー、クレア・セイクリッド(くれあ・せいくりっど)がすぐ隣に真剣な面持ちで佇んでいる。
香取の提案にヘクトルが首を振った。
「戦える人数が少なすぎる。それと、ここから遠征して要塞建設するだけの時間がない。
 今ある門及び柵、見張り櫓を強化して、学校自体を要塞化して学校の周囲にメンバーを配置。
 非常に不利な戦い方だが、立てこもっての防衛戦しか選択肢がない。」
香取が肯いて言った。
「わかりました」
ラクシュミが決意をにじませる声で言った。
「私は学校の敷地の外で迎撃する人たちのサポートをするわ」
ヘクトルはラクシュミにうなずき返した。
「俺の方はあの黒い飛行物体―――黒い種子とでも仮に呼んでおきましょうか―――を調査に行こうと思う。
 外壁に穴が開いているようだったから、入り込めそうなら中枢部を調べてみるつもりです。
 何かわかるかもしれないし、破壊も視野に入れています」
「危険すぎないかしら?」
「単独ではさすがに行きませんよ。サポートしてくれそうなメンバーは募ります」
「わかったわ。気をつけて」
「貴女も気をつけて」
そこでクレアが口を挟んだ、
「ヘクトルさんの出立にタイミングを合わせて、防衛側でひときわ派手な攻撃を行いましょう。
 その隙にヘクトルさんの部隊が『黒の種子』に突入すれば比較的安全なはずです」
ヘクトルがうなずいた。
「そうだな。だがまずは学校を守備せねばならん。そのメンバーを先に選出すべきだ。
 補強作業を行っている間に迎撃部隊と種子へ向かうメンバーを構成すればいいだろう」
ラクシュミがつぶやく。
「学校自体のの要塞化作業……」
「それでしたら適任者が居ります」
香取が言い、アルフレート・ブッセ(あるふれーと・ぶっせ)が進み出る。
「短時間で要塞化し、少数の兵で多数の敵を食い止めるわけですな。
 僭越ながら『新星』のメンバーでもある私が基本設計と基礎工事を受け持ちましょう」
そのパートナー、アフィーナ・エリノス(あふぃーな・えりのす)が静かに言う。
「わたくしが工事のサポートを勤めさせていただきますわ。
 飛行することができますし」
真剣な口調でサオリ・ナガオ(さおり・ながお)が言った。
「『新星』のメンバーではありませんが、協力させてください
 わたくしのような若輩者にだって、きっと何か、お手伝いできる事があるハズですぅ!」
「野戦陣地のメンテナンスは麿に任せよ。
 どうしても損壊が出るでの」
そのパートナーの藤原 時平(ふじわらの・ときひら)が請合って、にやりと笑う。
「土木技術と要塞化のスキルがあるから俺も手伝うぜ。
 地味な仕事だが、出来次第でだいぶ違ってくるはずだ」
大岡 永谷(おおおか・とと)が進み出た。パートナーの逆色パンダのゆる族、熊猫 福(くまねこ・はっぴー)も一緒だ。
「わかりやすいトラップを周囲にたくさん仕掛けて、用心させれば進みが遅くなると思うのよ。
 塀の際には、本式のトラップを仕掛けるわ。時間の許すかぎり数多く設置しましょう」
福が言った、香取が6名に向かって頷きかけた。
「地味な役回りですが重要な任務よ。頼んだわ」
「はい!」
「お願いね」
ラクシュミが言うと6人は真剣な面持ちで敬礼した。香取が戦闘メンバーらに声をかけた。
「少数の兵力で敵の大軍と戦わねば以上、味方との意思疎通を欠く訳にはいかないわ。
 こまめに連絡を取り合い、戦況を相互に確認できるようにしましょう」
香取も30名の部下を引き連れて急ぎ工事のために出て行った。

「柵をベースに、できるだけ早く高さと厚みを出してくれたまえ。
 この作業が一番人手が要りそうだな」
アルフレートが手にした学校の図面を見ながら言った。重機と資材の必要数をざっと見積もり、要塞化技術を持つ大岡、サオリ、藤原ならびに香取の部下らにテキパキと指示を与える。
「柵周辺には土を盛り上げてくれ。
 その上で柵に防御用の板を少しずつ間を空けて多重構造になるように3重に張っていく。
 見張り櫓は下部を補強してくれたまえ。どちらも銃眼を作るのを忘れずにな」
「現場の状況把握と、建設現場周辺の哨戒はわたくしが当たらせていただきますわ。
 とにかく手早く、でも基礎部分はしっかりと作らなくてはいけません!」
アフィーナが言い、『我は纏う無垢の翼』を使い、上空に舞い上がった。上からなら全体を見渡すことができるし、スポーンが現場周辺にやってきたらすぐに警告を発することができる。進み具合や資材の不足箇所も上空からなら一目瞭然だ。
「大岡様も要塞化の技術をお持ちでいらっしゃいましょう?
 左右から学校を囲むように、わたくしと二手に分かれて要塞化を施して行きませんか?
 少しでも時間が短縮できるのではないかと思うのです」
サオリの提案に大岡が破顔一笑する。
「お、いいアイデアだと思うぜ。
 じゃ俺は右手からやっていく。サオリさんは左手から頼む!
 手早く、確実に、な」
「承ります」
サオリがにっこりと笑いかけた。この方法ならば二人が再び出会うまでひたすら作業を意続けてゆけばいいだけなので、自分が施した部分のチェックを行っていくだけで良い。能率的である。二人はどんどん作業を進めてゆく。

アフィーナは忙しく学校周囲を飛び回りながら上空から的確に指示を出していた。
「そちら右手の方、少し資材が不足しているようですわ!
 あ、そちら側、土の盛り上げが少し少ないです。
 その重機、使い終わったら門側の方へ移動してくださいませね!」
全体に手薄な箇所が出ないようにするためには必要な措置である。時折スポーンの先行部隊が目視できないか双眼鏡で確認する。

藤原は着々と強化されてゆく学校周囲を見渡した。
「どんなに堅固に造ろうとも、攻撃にさらされたならば、当然あちこちに傷を生ずる。
 それらを放置していれば、やがて防御施設としての用を為さなくなるは必至。
 なれば麿はその綻びを繕ってゆくものなり」
そのための予備の資材を、現在強化にしているものと別とわかるよう上に「修繕用」と大きく書かれた防水布を留め、一定間隔で柵の内側へと置いてゆく。
福は単身塀の外側に出て、ランダムに目立つトラップを次々と作っていた。いわゆるブービートラップの類である。スポーンたちに多少なりとも知性があれば、トラップに用心して進行が鈍るはずだ。一気に多数が襲って来られなければ、迎撃する方も多少なりとも楽になるはずである。
「もし油断して攻め込んでくるようならば、その油断を利用させてもらって戦えばいいんだしね。 
 ……きっとなるようになるよね。大丈夫」
この場にいる全員がこの危機的状況を把握しているため爆発的な集中力を発揮し、作業は思っていたより早く進んでいった。
 塀はより高く、厚くなった。破壊するには手間がかなりかかるだろう。上るにしても足がかりはない。銃眼から狙い撃ちにされるリスクもあるとなれば、そうやすやすと突破はできまい。だが、いかに作業が早いとはいえ、スポーンたちはその間にも着々と間合いを詰めているだろう。
「仕上げは……初撃を受けつつになるかもしれんな……」
アルフレートは嘆息し、地平線に目をやった。