空京

校長室

創世の絆 第二回

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創世の絆 第二回

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ミッション2 スポーンを迎撃せよ! その1 激突

 段取りをつけると、ヘクトルは協力を申し出た少人数を率いて作戦会議室を出た。『黒い種子』へと向かうための準備にかからねばならない。
 ラクシュミは防衛戦の参加メンバーたちを前に言った。
「なんとしても学校は死守しなくてはね。
 わたしも皆と一緒に戦うわ。
 あまり戦闘は得意じゃないけど、サポートをすることはできるし……。
 それに戦況を把握する必要もあると思うの」
水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)がラクシュミに向かって言った。
「ラクシュミの気持ちは分かるけれど、校長はいわば総司令官。
 そういう立場の人間がみだりに最前線に立つのは困るわ」 
水原のパートナー、マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)も、その穏やかそうな外見と裏腹に、強い語調で畳み掛ける。
「ラクシュミは軍人の経験はないでしょう?
 事実上の総司令官として戦場に立たねばならない、その立場はわかるわ。
 でもね、ラクシュミが不用意にとった行動一つで、何人何十人もの兵士や生徒たちが危険に晒されかねないのよ」
ラクシュミがはっとしたようにマリエッタを凝視する。
クレアが静かに言った。
「水原さん、貴女の指揮下の国軍兵士とともに、『新星』の一員としてラクシュミの護衛を」
「任せてください!」
館下 鈴蘭(たてした・すずらん)が進み出て、ラクシュミの片腕に手をかける。
「私、イコンに乗らない戦いは経験が少ないけど、それでも精一杯の事はしたい。
 私もラクシュミちゃんを守るよ!」
鈴蘭のパートナー霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)もおずおずと頷く。
「僕もがんばるよ」
匿名 某(とくな・なにがし)が頭を掻きながら言う。
「俺だって正直言えばちょっと逃げたい気分だよ。でもな、せっかくの学校、守らなければいかんでしょう!
 それにラクシュミちゃんは校長。ってことは学校の大将だ。だったら守るのは当然の事だろ」
「その通り! なにが何でも学校とラクシュミは守り通すっ!!」
炎のごとき熱血漢にして、匿名のパートナーである大谷地 康之(おおやち・やすゆき)がパワフルに同意する。水原が皆の意を受けて、ラクシュミに念を押す。
「出来れば、前線から離れた安全な場所にいて頂きたいのですが……。
 どうしても前線に立つと仰るのならば、我々から決して離れないで下さい。よろしいですね?」
「……わかったわ。
 では、布陣を!!」
不利な戦はわかっているが、全員が一丸となって戦い抜く決意をしていた。力のこもったどよめきとともに、全員が戦闘配置についたのであった。
 ラクシュミは香取、水原、鈴蘭、匿名らとともにまずは見張り櫓の近くに行き、先行してきたイレイザー・スポーンを双眼鏡で観察した。小型の竜のような姿だ。ぬめりを帯びたような漆黒の体表には、ところどころメタリックな輝きを持つ鎧板のようなものが埋め込まれ、その周囲をパルスのようなかすかな光が流れるように閃くのが見える。沙霧が呆然としたような表情を浮かべ、つぶやく。
「あ、あんなに沢山……いるんだ。
 ヘクトルさん達も奴らの出所へ向かってるんだ、がんばらなきゃ」
機械とも生物ともつかないような姿。そこへ誰かが放った遠距離迎撃が命中し、2体のスポーンが直撃を食らった。声もなく胸部に大きな穴ががっぽりと空いた。が、次の瞬間。致命傷を負ったスポーンはその輪郭が見る見る崩れ、黒い粉と化したのち、解け崩れるように完全に消滅した。香取りが叫ぶ。
「えっ!!! 戦闘不能に陥ると完全消滅してしまうの!
  ……これでは倒しても残骸を手に入れて分析はできないわね」
「『黒い種子』で資料が手に入れば良いけど……」
クレアがつぶやき、スポーンの特性について伝令官に伝えに向かった。
 後続のイレイザー・スポーンが続々と姿を現してきた。幾種類かパターンがあるようで全てが同じ姿かたちではない。さすがに巨大なものはいないがサイズもまちまちだ。少数だが飛行しているものもいる。共通しているのは漆黒の体と金属的な要素を含んだ爬虫類に似た姿だという点だ。
スポーンとの間合いがみるみるつまる。ついに戦いのときが来た。学校を背後に散開した守備隊の間に緊張が走った。

 沙霧がガードラインでラクシュミとラクシュミ防衛メンバー全員を保護する。匿名がライトニングブラストで援護射撃を行いながらつぶやいた。
「スポーンだなんてアメコミヒーローみたいな名前しやがって。
 できれば名前負けしてくれる程度であってくれよ……」
ヒプノシスは試してみたが、眠るもの眠らないものとばらつきがあるようだ。鈴蘭は匿名と並んで悲しみの歌、恐れの歌を詠い、隙を作る。合間にサイドワインダーを使い、攻撃を行っている。
「これで少しは楽になってくれると良いんだけど……」
ラクシュミは水原の言葉を守り、水原とその直属の兵に守護され、鈴蘭と匿名の後方から戦況を見ていた。水原はラクシュミの周囲に目を配り、襲ってくるスポーンに備え油断なく構えている。マリエッタは思いがけない行動を取らぬよう、ラクシュミの動向に目を注いでいる。
沙霧はさざれ石の短刀を握り、ヒプノシスで昏睡におちたスポーンに石化攻撃を見舞った。
「石化には、石化で返すよ……っ!」
「狭霧くんも無理しないで、危なくなったら退がるのよ」
鈴蘭の呼びかけに、沙霧は油断なく構えたまま片手を挙げて応えた。
康之が狼形態にしたウルフアヴァターラ・ソードとともに、スポーン数体に向かってゆく。ゴッドスピードで接近し、女王の加護で防御を上げ、歴戦の立ち回りで襲い掛かるスポーンをすばやく左右にかわしつつ、隙を見つけては金剛力を使った攻撃で鋭い一撃を与えている。
「こっから先は皆の大事なモンがある場所だ。絶対に通さねえよ!」
2体のスポーンが猛烈な勢いで叩きつけた背中の触手を康之に軽々とかわされ、バランスを崩した。すかさずレジェンドストライクを見舞うと、致命傷を負った2体は溶け崩れた。

「スポ? スポポ?……とにかくスポ野郎どもをやっつけるぜ!!」
一人意気盛んな木崎 光(きさき・こう)が迫り来るスポーンの群れを見ながら叫んだ。それを聞いたラデル・アルタヴィスタ(らでる・あるたう゛ぃすた)がため息をつく。
「……なんでもかんでも突撃突撃だからな。もう何も言わないが……後ろに僕がいることは忘れるなよ」
光はまともに聞いちゃいない。
「ヤツら固まりで押し寄せてきてる! 
 こちらとの距離が離れているうちに突っ込んで、ソニックブレードで一掃してやるぜええ!」 
ラデルは黙ってタワーシールドを構え、サポート体制に入った。隣でその様子を見ていたノア・レイユェイ(のあ・れいゆぇい)が笑う
「……ずいぶんと血気の盛んなコだねぇ」
振り向いた光がにやっと笑う。
「おう、まずは皆でどかーんとやっちまえばいいのさー!!」
ノアのパートナー、伊礼 權兵衛(いらい・ひょうのえ)がやれやれといった様子で首を振る。
「こんな老いぼれにも戦えと申すかね……。
 まぁ、やらねばならぬというなら、力を貸さねばならないのぅ……」
そう言いつつも權兵衛は、黙ってノアのギャザリングヘクスの入った徳利を半分受け取り、魔力を増強する。ノアがにいっと笑った。
「こぼしながらもやる気じゃないのさ、伊礼のじーさん」
「いやいやいいや……。はー。面倒じゃのぉ」
二人の後ろから現れたグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が単独でスポーンの群れの方へと歩んでゆく。
「お前さん、そんなに前に行ったら危ないのじゃないのかね」
權兵衛が声をかけるとグラキエスは静かに言った。
「俺自身があるいはスポーンより危険かもしれないんだ。
 ……あまり俺のそばに来ないようにな……」
ノアは考え深げにグラキエスを一瞥したが、何も言わなかった。深い事情を抱えているものもある。外野が触れるべきでない事だってあるのだ。ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)がグラキエスを追ってきて、肩を並べた。
「エンド、私も君の側で戦います!」
「いや……俺一人でイレイザー・スポーンを殲滅します。
 キース、あなたは後方で防衛陣地の維持を」
「魔力の消耗と負傷を重ねれば暴走の危険だってある!
 だから私に離れろと言うのでしょう?」
グラキエスは狂った魔力を宿しており、その魔力は常に心身を蝕んでいる。強い意志力と仲間のサポートでコントロールし続けて入るものの、暴走すれば恐ろしい無差別破壊が待っているのを彼自身嫌というほど良く知っているのだ。
「……わかって下さい。キースまで、暴走に巻き込みたくない……」
キースはグラキエスの肩に手をかけた。
「君が苦しい時に私だけ後方にいるのは嫌です。
 私に、君を守らせて下さい!」
グラキエスはもう、何も言わなかった。キースは即座に弾幕援護を行いつつ、戦闘用イコプラをグラキエスの前方に飛ばす。グラキエスはその間に魔力を集め、迫り来るスポーンの群れにブリザードを見舞い、続いてサンダーブラストを炸裂させる。すさまじい魔法攻撃に一気に十数体が消滅した。キースが漏れたイレイザーに向かって機晶爆弾を投げつける。
「おやおや団体さんで。でもねぇ? あんたたちはちょいと邪魔なんだよ。
 燃え尽きておしまい!」
いつの間にかグラキエスと同じくらい前線に出てきたノアが左翼方向から迫るスポーンの群れに紅の魔眼をも使い、一層高まった魔力を駆使してファイアストームを投げつける。權兵衛がその少し後ろから、ノアの炎に重ねるようにしてファイアストームを放つと、スポーンたちは凄まじい紅蓮の炎に飲み込まれ、見る見る溶け崩れてゆく。
魔法攻撃から漏れた、あるいは耐性を持つスポーンに、光が突っ込んでゆく。
「とりゃ! とりゃーーー! 突撃、突撃ー! 俺様に続きやがれー!!」
振り下ろされる爪をブレイドガードとスウェーで乗り切りつつ、すさまじい剣戟を見舞っている。胴体を真っ二つに切られたスポーンがまた一体、黒い霧のように霧散した。別方向からの触手攻撃を、脇に控えるラデルが、タワーシールドではじき返す。光のガードの甘さを完璧にサポートしている。
「ラクシュミと創ったこの学校は俺様たちで守らねぇとな!」
勢い込んでやってきた獅子導 龍牙(ししどう・りゅうが)だったが、グラキエスやノア、光のすさまじい戦闘を見ていて、不意に肩を落とした。
「俺様に一体なにができる……戦うスキルが俺様にはない……」
呆然と立ちすくむ龍牙を守りながら、神薙 魔太郎(かんなぎ・またろう)は穏やかに話しかける。
「こんな殊勝な龍牙様は久しぶりですね」
「だが……俺には剣は振るえん……あれほどの攻撃魔法もないんだ……」
魔太郎は静かに問いかけた。
「貴方は戦士なのですか?
 敵を倒すことだけが戦いではないでしょう?
 ……貴方は誰なのですか?」
しばしの沈黙の後、龍牙の瞳に光が戻った。
「俺様たちがココに学校を建てるのはラクシュミのためだ!
 それをこんな奴らに潰させて良良いわけねぇよな!
 だったら守るしかねぇ! 無様だろうがなんだろうが!そのための力だよな!?」
龍牙はペガサスにまたがると、戦う仲間たちの少し後方へと舞い上がった。
「いくぜてめぇら!!! 俺様の歌で魂奮わせやがれぇ!」
歌というより絶叫に近かった。だがその魂からの咆哮は、仲間たちに力を注ぎ込んだ。サポートすること、それもまた立派な戦いなのだ。魔太郎は微笑んで、自分も前衛たちの補助へと向かった。