空京

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創世の絆 第二回

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創世の絆 第二回

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ミッション3 黒い種子に突入せよ

 一方。ヘクトルは少数の契約者たちとともに、黒い種子に向かっていた。調査あるいは機能停止が出来れば、と考えたからである。ある程度の地点まで近づくと、種子周辺に多数のスポーンがひしめいているのが見えた。
「このまままっすぐ通してくれそうにはないな」
ヘクトルが皮肉っぽくこぼすと、椎名 真(しいな・まこと)が提案思案げに言った。
「とにかく、これに関して調べなきゃ、他の場所に撃たれた時やほかの攻撃も未知のまま終わってしまう。
 敵の情報が一切わからないままの防戦一方ではまずいでしょう」
篠原 太陽(しのはら・たいよう)も真の後押しをする。
「まず私たちが小型飛空艇で種子周辺を偵察を行い、陽動班が敵をひきつける。
 しかる後手薄な箇所を連絡すれば、リスクの低い方法で突入できましょう」
『新星』指揮官でもあるクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)も同意の言葉を口にした。パートナーの島本 優子(しまもと・ゆうこ)は、その傍に控えている。
「敵の本拠地と思われる場所を叩くには、確かにこの人数ではリスクが大きい。
 お2人が偵察している間に、突入の手順やメンバーの編成をする時間がとれるのもメリットかと」
ヘクトルは現状をすばやく分析し、頷いた。
「……そうだな。では頼むとしよう。護衛をつけられんから、十分注意して偵察に当たってくれ」
「わかりました、では」
真と太陽は小型飛空艇で飛び立った。
「とにかく見つからないよう、細心の注意を払うよ」
真の言葉に太陽は賛意を示した。
「乗り物に乗ったままの戦闘は私も良しとしない。
 まあ、もし飛んでくるものがあればサイコキネシスで軌道をずらすなりして対応することにしよう。
 詳細をとにかくカメラで撮ればよいのだな。そのへんは任せろ」
「ああ、頼んだよ」
「『俺』のこの動きで何か未来が変わりうるか……幸、不幸いずれに転ぶか非常に楽しみだ」
太陽は皮肉っぽく真を見た。彼は真を『俺』と呼ぶ。他者には理解できない思いを抱いているようだ。やがて小型艇は種子の上空に達した。幸い飛行型のスポーンの姿は見当たらない。大きく口を開けた種子の破損箇所をズームで探る。巨大な黒い種子上の物体は入れ子状の多重構造となっているのがわかった。クジラの砲撃によって吹き飛ばされた部分が、外部から3層目くらいまで達している。あの遠距離からの攻撃が、いかに凄まじい攻撃だったのかが良くわかる。
「これが……ギフトの力か……」
スポーンの群れは何かを警戒しているといった感じではなく、蟻が巣の周りに集いているような感じで「いる」だけのようだった。だが攻撃を仕掛ければ襲い掛かってくるだろう。
「ん? 種子のずっと向こう……岩陰に落ちてるあれ、種子の破片じゃないか?」
真はヘクトルに連絡を取り、周囲の状態を伝えると、続いて種子の破片らしきものの回収に向かった。

 ヘクトルは真から通信を受け取ると、指示を与えた。
「了解。十分警戒するように。破片を回収したらまっすぐ学校へ戻ってくれ」
いったん言葉を切り、皆を見回した。
「さて、と。こちらは攻撃を仕掛けるメンバーと突入組、退路確保と3つに分けねばならんな」
緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が真っ先に名乗りを上げた。
「俺とカナタは一緒に後方で死角をカバーしながら、魔法で援護攻撃が出来る」
アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)がケイたちとの協力を申し出た。
「俺らも中・遠距離攻撃型なので、味方の後方より攻撃・援護などを行います」
「私はドッグズ・オブ・ウォーと、配下の兵20名で突破口を切り開き、撤退時の退路を守ります。
 島本 優子が治療スキルを持ちますから、後衛と前衛の間で救護要員として待機させますよ」
ジーベックが言った。
いったん言葉を切り、ジーベックは配下であるマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)を見た。
「マーゼン・クロッシュナー、本能寺 飛鳥、貴方たちは遠距離攻撃で惑乱したスポーンの排除を」
「『新星』のメンバーとして数に優る軍勢が常に戦いに勝つとは限らないって事をスポーン共に教えてやりましょう。
 自分らは近接戦が得意ですからね、内部進入のサポートは任せてください」
マーゼン、飛鳥ともども気合十分だ。ついでジーベックはケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)天津 麻衣(あまつ・まい)ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)フィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)らの方に向き直った。
「君たちはヘクトル隊長に同行して、彼の護衛とサポートを頼む」
ジェイコブがにたりと笑った。
「敵の本拠地へ乗り込んでいって花火を打ち上げる……戦争はこうでなけりゃな!」
董 蓮華(ただす・れんげ)が熱心な口調でヘクトルに同行を申し出た。パートナーのスティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)もともに黙って進み出た。
「ヘクトル隊長! 董 蓮華と申します。私もシャンバラ教導団の一員として、お供させてください」
「内部の様子は未知だ。各々警戒を怠るな」
ヘクトルが言い、全員が頷いた。相沢 洋(あいざわ・ひろし)相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)は戦う気満々だ。
「『新星』メンバーとして、種子内部に入ったら、退路確保のため少し遅れて同行させていただく所存であります」
「うわー、第一世代型パワードスーツだ、すげー。俺のいた未来じゃあ、データでしか見たことねー」
堅苦しい洋と対象に洋孝は軽い。
ギュンター・ビュッヘル(ぎゅんたー・びゅっへる)サミュエル・ユンク(さみゅえる・ゆんく)が申し出た。
「『新星』メンバーではありませんが、私たちは進入口付近で退路確保に協力させてください」
「ありがとう」
ジーベックは短く協力への礼を言い、エミリア・ヴィーナ(えみりあ・う゛ぃーな)コンラート・シュタイン(こんらーと・しゅたいん)に言った。
「君たちは怪我人の手当てと護衛を頼む」
「私がそれでは護衛をメインに担当させていただきます」
コンラートが請合った。
「わたくし、護衛もいたしますが、、救護の手が足りない場合はお手伝いさせていただきますわ」
エミリアが優子に言った。
「ええ、お願いします」
全員をぐるっと見回すと、ヘクトルは言った。
「これで行動分担は決まったな。では、行動開始だ!」

 アキラは防護盾としてガーゴイルとゴーレムを呼び出した。弓での攻撃の欠点は、近接されると逃げるしかなくなる点だ。ルシェイメアは銃を握り締め、真剣な表情で待機している。
「飛行タイプのがいなかったのは不幸中の幸いだな」
「そうじゃな。地上にのみ注意を払えばよい」
「ゴーレムもガーゴイルも石化しようがないから、危なくなったら守護してもらおう」
カナタが種子周辺の様子を見て感想を漏らした。
「蜘蛛の子を散らすようという言葉があるが……。
 本来の意味とは違うが、『黒い種子』からぞろりとモンスターが零れ出る様は、まさに卵から孵った蟲のようだな」
アキラが身震いする。
「ああ、確かにそんな感じだぜ……」
ケイが声をかけてきた。
「見れば見るほど不気味だよな……」
「うむ。あの爬虫類のような蟲のようなロボットのような……。
 全ての不気味なところを取り揃えたようじゃのう」
全員がこくこくと頷いた。
んじゃそろそろ行くか。一体ずつ、確実に、な」
アキラの弓が唸り、すばやい連射で数体のスポーンが急所を射抜かれ、霧散した。
「踊れ踊れ、そら、避けねば吹き飛ぶぞ」
ルシェイメアの銃が火を吹き、頭部を砕かれ、あるいは胸部に大穴を明けられたスポーンが大地にくずおれ、風化する。
「天誅!」
ケイが天のいかづちを見舞うと、スポーンは全身を青白い光に包まれ、大地を揺るがせるような落雷の音を道連れに溶け去った。
「そーれ、こんがりと焼きあがるがよいぞ」
カナタの放った炎が、スポーンを飲み込み大きく燃え上がる。アキラらの前方の岩陰で待機していたジーベックは、優れた指揮官で防御をあげ、士気高揚で恐怖感を払いのけた。
「始まったな。行くぞ!」
遠距離攻撃に反応し、攻撃態勢に入ったスポーンに部下を引き連れ突撃する。即座にマーゼンが配下の兵20名とともに弾幕を張り、応戦する。爪や牙、触手の攻撃などに注意するよう支持を与え、マーゼンは庇護者を発動し、味方をサポートする。空蝉の術で攻撃をかわしつつ、ブラインドナイブズで手際よく次々とスポーンを仕留めてゆく飛鳥を援護しながら、マーゼンはつぶやいた。
「……リーダーらしき固体がいるかと思ったんだが、そういうわけでもないのか」
「頭を叩けば、優位になるかと思ったんだけど……どれもただ個々に反応しているだけのようね」
「と、すると厄介だな……」
「そうね。全てを撃破の要ありってことね」
優子、エミリア、コンラートの3名は、重傷者が出ないことを祈りつつ、その後方で待機している。
「始まりましたね。優子さん、エミリアさん、私の後方へ下がって待機してください」
「はい!」
コンラートはガードラインを使用した。
「気休め程度かもしれませんが……」

 陽動作戦に種子周辺のスポーンたちは一斉に反応した。まさにざわざわという感じで、突入支援部隊へと向かってゆく。真から種子周囲のスポーン全てが、戦闘区域に向かったとの連絡があった。
「頃合だな」
ヘクトルが言って、戦闘場所の反対側から種子に接近し、破損した部分から種子内部に入った。種子の外壁は艶のない漆黒で、内壁はスポーン同様半生物的であるのが見て取れた。壁は正体不明の金属の枠があったりするが、黒い壁面はどこか細胞壁と機械の融合を思わせる。スポーンたちと同じく、ところどころ粘液を思わせる黄緑を帯びた青白い光が神経伝達物質のように行き交っている。
「……まるで生きているかのようだな」
ヘクトルがつぶやく。
「「これは一体……何なんでしょう」
蓮華が畏怖の表情を浮かべ、周囲を見回す。
「式神に調査と記録をさせます」
麻衣が言って、銃型HC弐式を式神化した。これで麻衣自身は式神の維持のための精神集中に入り、同行しか出来ないが、先行して式神が様子を探れるのは有効だと判断したのだった。
「皆と共に移動しながら、前方の様子を内蔵カメラと熱源探知装置で撮影。
 そして画像データを突入部隊各員の通信端末にリアルタイム送信しなさい」
ケーニッヒがしげしげと種子を見ながら言う。
「明らかに異質だよな……内部がどうなってるか見当も付かんから、いくばくかでも情報が入るのはありがたいぜ」
「中枢部を破壊すれば、スポーンどもの活動も止まるかも知れんな」
ジェイコブが周囲を見回しながら言う。
洋と洋孝、ギュンターとサミュエルは、2層目で待機することにした。サミュエルはすぐさまトラッパーを使い、通路周囲に足止めトラップを仕掛け始めた。
「なんかの役には立つはずだ」
ヘクトルたちは、さらに先へと進む。3層目も破壊された1、2層目となんら変わりはない。
 4層目との境は、有機的デザインの扉で仕切られていた。3層目まではクジラの攻撃で破壊されているため、すんなりと入り込めたが、ここからが問題だ。
「……すんなり通してくれそうにはないですな」
「こじ開けるしかないな」
ケーニッヒが言い、ヘクトル、蓮華、ジェイコブらが攻撃に備えて身構える。ケーニッヒが羅刹の武術とドラゴンアーツを使い、扉をこじ開けた。式神が滑り込む。フィリシアが送られてきた画像を確認する。
「何もいませんね……」
そっと扉の中に入る。開口部は今こじ開けた扉だけであるため、パルスを思わせる光が忙しく行きかうのと、天井に一定間隔で同じ色の光を放つ部分があるだけで全体に薄暗い。部屋のようなものは見当たらず、今まで同様回廊のようになっているだけだ。
「ずっとこの調子なのだろうか?」
ケーニッヒがつぶやく。