空京

校長室

創世の絆 第二回

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創世の絆 第二回

リアクション



部屋の中のスズメバチ

 防衛側の活躍により、だいぶその数を減らしていたスポーンたちが、突如一斉に戦闘をやめた。あたかも動物が聞き耳を立てるがごとく、首を伸ばし、何かに聞き入っているような様子だ。攻撃はわずらわしそうに避けるものの、それだけである。体表を流れる光のパルスが、緩慢な動きに変化している。
「どうしたのかしら?」
抜かりなく身辺を警護する契約者たちとともに前線をサポートしつつ見守っていたラクシュミは、誰にともなくつぶやいた。と、疎スポーンたちが一斉に動いた。学校からどんどん種子の方向へと引き上げてゆく。
「種子の方へ……探索に言った人たちは無事かしら……」

 黒い種子内部から脱出したヘクトルたちは、種子内部にいたスポーンに追われていた。その中には先ほど目の前で変異を起こしたスポーンも混じっている。この人数では応戦するには圧倒的に戦力が足りない。時折後方へけん制攻撃をして追跡の足を鈍らせ、一刻も早く学校へたどり着く以外彼らにもはやなす術はない。
学校へ。一刻も早く。
と、不意に追跡してきていたスポーンたちが足を止めた。
「何だ……?」
ヘクトルはつぶやいた。前方から数十体のスポーンがこちらに向かってくる。
「挟み撃ちか……?!」
もしそうなら仕方がない。この場で力の限り、弾薬の続くかぎり応戦するしかない。その場にいた全員が一斉に身構えた。
しかし、前方からかけてきたスポーンは彼らには目もくれず、ヘクトルたちが背後にしてきた種子の方へと駆け抜けていく。と、立ち止まっていた追っ手のスポーンたちも同じように、上部を欠いた黒い種子へと引き上げてゆく。
思いがけない成り行きに、ヘクトルたちは呆然と立ち尽くしていた。

 巣に戻った蟻の如きスポーンを黒い種子はすべて収容した。それと同時に、妙な唸るような音が沸き起こった。皆不安げに辺りを見回す。かすかな地響きが伝わってきたと思うと、大地がうねりはじめ、大きな振動が起きた。
「地震……?!」
「いや、違う、見ろ! 種子が!」
欠けた部分を上にして、種子が地中へともぐりこんでゆく。乾ききった赤い大地に、禍々しい種子が今、蒔かれようとしていた。ゆっくりと、だが確実な動きで種子は欠けた部分を上にして地中へと潜りこんでゆく。その場にいた全員が凍りついたように、その様を見守った。やがて振動が収まると、微かなへこみだけを残して黒き種子は大地の奥へと完全に姿を消してしまった。

 種子自体の調査・破壊には失敗したものの、倒されれば霧散してしまうスポーンからは何も得られないことを鑑みれば、種子の一部が回収できたことで敵側の情報を得ることが出来たといえる。ヘクトル隊が種子内部で目撃したスポーンの変異の件ももたらされた。
 防衛側も、建設中の学校の建物の一部に多種の損壊があったものの、大きな被害は免れ、重傷者もそれほど出さずにすんだ。全体として現状を維持できたことは大きい。

 が、しかし。黒い種子は地下へと潜行し、その目的も、果たしてその場に留まっているのかもまだ不明だ。赤茶けた乾燥した土は、間もなく風に流されてその潜行場所の微かなへこみすらも周囲と同じように綺麗に均してしまうだろう。
ヘクトルは赤茶けた大地を険しい表情で見やった。
「室内にスズメバチがいるのはわかっている。
 だがその姿が見えないというのは……。どこから姿を現すか予想もつかんということだ」
「せめて、あそこから動いていないとわかればいいのだけれど……」
宙に浮いた問いは、荒々しい風に吹き散らされ、不吉な種子を飲み込んだ大地は静まり返ったまま、何の返答も返しては来なかった。