空京

校長室

創世の絆 第二回

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創世の絆 第二回

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ミッション4 撤退

 次の扉は廊下の突き当たり、種子の中心側にあった。そして扉の質が先ほどと違う。メタリックな部分が少なく、一箇所動き回る光が集中している箇所がある。
「どういたしますか?」
フィリシアが尋ねた。ヘクトルはしばらく考えていたが、同じ方法でこじ開ける指示を出した。構造も何もかもがまったく五里霧中であり、破壊して進む以外の選択肢がない。
ケーニッヒがこじ開けにかかり、扉が半分ほどめくれた。その隙間から見えた内部は今までと違い、ずっと明るい。
「ちょっと様子が違うな」
式神が偵察のため隙間から入り込んだ瞬間だった。何の前触れもなく4層目の廊下と、5層目の内部に突如今壁の一部開いてスポーンが各々6体あまり姿を現した。式神はあっという間もなくスポーンに攻撃され、転がった。ヘクトルが即座に反応した。
「迎撃っ!!」
「まずい、挟み撃ちになるぞ!」
ジェイコブが叫んで、5層目の扉の隙間からスプレーショットを見舞う。弾幕援護で5層目からの敵襲を押さえるのも忘れない。フィリシアが。すかさず雷術を叩き込む。
「ジェイコブ、援護します」
「ありがとよ。……名誉の戦死なんてオレのガラじゃねぇからな」
ケーニッヒとヘクトルは4層目の廊下に現れたスポーンを相手取っている。ケーニッヒがこじ開けた扉を剥ぎ取り、羅刹の武術でスポーン3体をなぎ払い、胴体を切断する。ヘクトルも即座に応戦し、3体を一瞬で仕留めた。
「隊長は私が守るわ!」
ヘクトルめがけて飛んできた触手を蓮華がすかさずバックラーで受け止め、その瞬間スティンガーの撃った銃弾が触手をはじき返す。ついで蓮華はさざれ石の短刀で、一体のスポーンを石像と化した。スティンガーが蓮華に向かい、叫ぶ。
「もっと冷静に、全体を見て動け」
4層目のスポーンは撃破したものの、5層目の奥からつぎつぎとスポーンたちが「湧いて」出た。ジェイコブとフィリシアが狭い扉の両脇に陣取って、4層目への進入を辛くも食い止めているが、なにしろ数が多い。さらに外部を警戒していたマーゼンから追い討ちをかけるように通信が入る。
「ヘクトル隊長! 今まで静かだった種子の3層目までにスポーンが突然現れました!」
「ダメだ。奥へは行けない! 残念だが撤退だ!」
ヘクトルは叫び、3層目を目指すよう、同道者たちに告げた。

「突然種子内部にスポーンが多数現れた!
 まさに湧いて出た感じだ。このままでは挟み撃ちにあう。退路確保を頼む!」
 迷彩塗装で周囲を探査していたギュンターは、ヘクトルらが撤退してくることをジーベックにテレパシーで伝えた。洋はサンダーブラストとファイアストームで鬼神のごとく戦っていた。
「邪魔する奴はぶち壊す! ぶちのめす! 殲滅あるのみ!」
洋孝は目を丸くしてスポーンを見、口笛を吹いた。
「あれがスポーンね。じゃあ、ぶっぱなしてやるか。
 フューチャーアーティファクト、ライトニングブラスト装填! 目標! 敵スポーン! 撃つぜ!! 撃つぜー!!」
「貴様、軽薄すぎるぞ!」
洋が洋孝を叱咤するが、洋孝ははどこ吹く風といった感じだ。魔術攻撃の合間を縫って接近してきたスポーンに向かい、洋は相対した。
「来たか。武装変更! 光条兵器ミニガンモード!
 スポーンども! 朽ち果てろ! 弾薬が尽きるまで斉射!」
サミュエルが降霊でフラワシを呼び出し、スポーンを誘導、見事仕掛けておいた足止めトラップにかかったスポーンをハンドガンで吹き飛ばしながらつぶやいた。
「誰もいない間にトラップを仕掛けといて良かったぜ……」
ギュンターは相沢ファミリーを弾幕援護、サイコキネシスでサポートしている。
「とにかく退路確保が最優先だ」
その奥からヘクトルたちが走ってくる。後方に数十体のスポーンが追ってくるのが見える。
「撤退しろ!」
ヘクトルが叫び、前方にいた一体のスポーンに攻撃を仕掛けた。ヘクトルの攻撃は急所ははずしたものの片腕をもぎ取った。もぎ取られた箇所で緑の光が激しく明滅する。種子の壁が呼応するように瞬いた。次の瞬間。腕をもぎ取られたスポーンが声にならない咆哮を上げた。体全体が明滅する光に覆われ、その輪郭が膨張する。光が消えはじめると、今までの固体より一回り大きいスポーンがそこにいた。首の数が2本になり、触手も先ほどより増えている。硬直したようにそのスポーンは動かない。
「な……何だこいつは!」
「こいつが覚醒したらまずい、今のうちにすり抜けましょう!」
凍りついたような一瞬の後、サミュエルが我に返って叫んだ。全員その場を後にし、種子の外へと走りぬける。
変異したスポーンの瞳が開き、仲間たちとともにヘクトルたちを追い始めた。
 
 種子の外にいたスポーンたちは大分数を減らしていたが、負傷者も出ていた。ヘクトル隊の脱出を待っていた
「腕をやられたのね。少し待って。そちらは石化を食らったのね」
優子がレストアとメジャーヒールでやや重症の者や石化攻撃を受けた兵士を受け持ち、エミリアがキュアポイゾン、ヒールで補助を行っていた。
「すぐお楽になると思いますわ」
エミリアが解毒措置を済ませ、ひと段落したとき、コンラートが即座に優子とエミリアの元に駆けつけてきた。
「ヘクトル隊長から撤退命令が入りました! 移動困難なほどの怪我をした方はいますか?」
「重症の方は幸いいません」
優子が言い、手当てしたばかりの兵たちを見やった。
「自分たちは大丈夫です」
「わたくしとコンラートさんが皆様をサポートしながら進みます。
 学校へ向かいましょう」
エミリアは言って、怪我人たちを先導して退避行動に移った。優子は怪我人の様子に気を配りながら、コンラートは最後尾で敵を警戒しつつ学校へと向かう。程なくその隊列に種子外部の戦闘員、退路確保要員、そしてヘクトル隊が追いついてきた。後方から追ってくるスポーンの歩みを遅らせるために、時折攻撃を行いつつ、可能なかぎりのスピードで学校へと向かう。
 
 追っ手のスポーンたちは迎撃でその数を少しずつ減らしながらも、執拗に追ってきていた。獲物の行く先がわかっているからか、さほど急いで追ってくる様子のないのがまた一段と不気味ですらあった。