校長室
リアクション
● さて、探索も佳境に入ろうとしている。 「ふっふっふ……長年磨きをかけたダウジングであっという間に見つけたるで〜!」 「ダ、ダウジングって……あなたねぇ……」 楽しげに笑いながら、二つの90度に曲がった棒を両手に1本ずつ持つ日下部 社(くさかべ・やしろ)に、夏來 香菜(なつき・かな)は呆れた様子だった。 本来の社の保護者としてはパートナーの響 未来(ひびき・みらい)がつくところであるが、彼女はただいまペンギンに夢中である。 (……こ、これは可愛いわっ!!) 喋ることはないが、ペンギン形態できょとんとしたように首をかしげるペンギンアヴァターラ・ヘルムを前にして、未来はもだえていた。 「ったく、未来のやつはペンギンばっかり見てなにしとんのや。俺みたいにしっかり探索せんといかんで、まったく……」 「あなたのは『しっかり』って言わないのよ、普通は……」 「そんな冷たいこと言わんといてや、香菜ちゃん。なあ、なすみんもそう思うやろ?」 「え!」 突然話を振られた高峰 雫澄(たかみね・なすみ)は、どうしていいものか困った表情を浮かべた。 もちろん、突然すぎて大したことが言えるわけはない。 「そ、そうですね……ま、まあ、探し方は人それぞれだから」 引きつった笑い方で、そうごまかすしか方法はなかった。 「ほら、なすみんもそう言ってるやん。ダウジングを甘く見たらいかんで〜」 「もう……あなた、雫澄さんが困ってるのが見えないの?」 「はは……」 言い合う二人を見ながら、苦笑いを浮かべる雫澄。 まあ、なんにしても賑やかなのは良いことだ。暗いムードのままで探すよりかははるかにマシである。 雫澄も、社に習うように探索を続けた。 そうしてしばらくしたとき―― 「……湖底ってのは、少しもの哀しさもあるんだね」 ふと、雫澄は水中の底を見下ろしながら静かに言葉を漏らした。 「急にどったの、なす兄」 そんな彼に、隣にいたパートナーの水ノ瀬 ナギ(みずのせ・なぎ)が首をかしげながら訊く。 「いや……ほら、あの辺とかさ」 雫澄は、湖底のある一箇所を指さした。 そこには、いくつかの残骸が落ちている。水中の薄暗さもあって、ぱっと見は単なる影の集合体にしか見えなかったが、よく目を凝らすと、皆はそれが建物の一部なのだということに気づいた。 「ニルヴァーナは滅んだって言うけど、ああいうのを見てると、それが現実だってことが突きつけられてなんだか、ね」 雫澄は苦笑を浮かべながらそう言った。 確かに――あまり気分が良いものではないかもしれない。特にニルヴァーナ人の生き残りとされているラクシュミなどのことを思えば、余計にそれは重みを増していくような気がした。 と――ナギが、探査用スーツを脱いで、人魚のように両足をイルカの尾に変身させると、その建物の瓦礫へと近づいていった。彼女はハンドウイルカの獣人だ。もともと窮屈だったこともあったのだろう。勢いよく潜っていって、すぐに彼女はその残骸へと触れることに成功した。 「ねーねー、壁画があるよ!」 「壁画?」 イルカの獣人ということもあって、水の中ではより元気が増すのか、ナギは意気揚々と皆を呼ぶ。 そこに描かれていたのは、たくさんの動物たちと戯れる人々の姿だった。その中には、クジラの絵もある。それがギフトのことを指しているのかどうかは分からないが、なぜか、ナギたちは少し胸を締め付けられるような思いに駆られた。 「クジラのギフトは……ここでニルヴァーナ人と一緒にいたのかな……」 その思いが自然と、皆と一緒に探索を続けていた香菜の口からそんな言葉を形にさせる。 それを見ていたが、社が陽気な声をあげた。 「なーに、建物があるっちゅーことは、生き残りかているかもしれんっちゅーことや! 諦めたらそこで試合しゅぶべぁ!」 「それ以上は言ったらダメですってば!」 色々と問題発言が口にされる前に、ギリギリのところで響が社の顔を殴る。ヘルメット越しとはいえ激しい衝撃に、社はガツンと弾き飛ばされた。 でまあ、そんな彼は放っておいて―― 「せやなぁ……」 探索チームの中でも、まだ比較的真面目に探索をしていた大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が、同じく壁画を調べながら口を開いた。 「ま、社の言うこともあながち間違いではなさそうやで。それに、クジラ型ギフトかて、ニルヴァーナの残してくれた財産、ひいては生き残りとも考えられるやろ。ずっと水の底にひとりぼっちでいたんや」 そう言いながら、彼は壁画を撫でた。 「それを見つけることは、きっとニルヴァーナ人の人たちも喜んでくれることやと……僕は思うで」 泰輔が言うことは、別に彼だけがそう思っていることに限らなかった。 だからこそ――契約者たちは、香菜たちは、ギフトを見つけ出そうとしているのだった。 むろん、パラミタを救うという目的もあるけれど。 それだけではない思いもまた、そこにはあるのだ。 「それをなさにゃならん、っちゅうことは、やらんとしゃーないっちゅうこっちゃ」 泰輔は自分に言い聞かすようにつぶやく。 「そうですね」 彼のパートナーのレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)も、それに頷きを返した。 「そのためにも、ギフトを早く見つけないと」 そう言いながら武器を構えるレイチェルの瞳には、危険から皆を守ろうとする強い意志が感じ取れる。 「――せやな」 泰輔はその意志に応えるように小さく声を紡いだ。 そして、残骸を後にして、探索チームはさらに別の領域へと調査の粋を広げた。 ● |
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