空京

校長室

創世の絆 第二回

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創世の絆 第二回

リアクション


戦いの役目 2

 他の仲間が邪魔な危険生物たちを引きつけているおかげで、対イレイザー用に編成された契約者たちは心置きなく奴と戦うことが出来る。
 しかし――それでも、イレイザーの力はやはり強大だった。
(くっ……あいつ、判断できてるとでも言うの? 大して効果が感じられない……!)
 変装用のインナー式ウェットスーツとフェイスマスク用疑似網膜を装備し、見事に夏來香菜へとうり二つの変装を遂げていたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、しかし、その思惑が予想を下回っていることに舌を打った。
 イレイザーは香菜を狙っているのではないというのか?
 そう憶測したからこそ、こうして香菜に変装することでイレイザーの気を引きつけられるかと思っていたのだが……奴の放つ大渦や触手は、ローザマリアだけではなく、まんべんなく味方の契約者たちを襲っていた。
 ただ無論――全てが全て無駄なわけではない。
 さすがにイレイザーもローザマリアが周りをちらつけば邪魔くさく感じるのか、多少はそちらに意識を傾けてくる。
「ローザ……来る!」
 パートナーのフィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)の呼びかけを受けて、ローザマリアは寸前のところで巨大な触手の打撃を回避した。
 同時に、すれ違いざまに放つ一閃の手刀。囮になるだけでは能がない。
 魔障覆滅――目にもとまらぬ早業で敵を切り刻む瞬撃の技が、イレイザーの触手を引き裂いた。それは攻撃だけではなく、相手に自分を『無視できぬ相手』と認識させる思惑もある。その思惑通り、イレイザーは怒りを露わにしてローザマリアを狙ってきた。
「香菜を狙ってるかどうかはよく分からないけど……とにかく結果オーライ!」
 ローザマリアは香菜の姿で元気に言い放った。
「あまり調子に乗ってやられるんじゃないよ」
「分かってるって!」
 フィーグムンドの半ば呆れるような忠告に答え、彼女はイレイザーの視界を逃げ回る。
 と、その間を狙って――仲間たちの攻撃がイレイザーに撃ち込まれた。
「いきます!」
 魔力を凝縮した輝く魔弾を放ったのは、御凪 真人(みなぎ・まこと)である。
「はああああぁぁぁ!」
 同時に、左右から真人を狙ってきた、別の意思でもあるかのように動く伸縮自在の触手を、パートナーのセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が切り刻む。
 息の合った戦い方。水中での慣れない戦闘であるにも関わらず、互いが力を合わせることで、二人はそれをなんとかカバーしていた。
「状況があまりにも不利すぎますね。なんとか……敵の弱体化を狙いたいところですが」
「大渦の水流を利用することは出来ないか?」
 真人の考えに提案を投じたのはレン・オズワルド(れん・おずわるど)だった。
「水流?」
「ああ。あの触手や大渦が生み出すのは巨大な水の流れだ。それを上手く利用して制御できれば……恐らく普通に攻撃するよりも何倍の力も上乗せ出来る」
 簡単に言えばターボをつけるようなものだ。それがイレイザーの生む水流ともなれば、単なる推進装置よりもはるかに強大なパワーになる。しかし同時に、それは敵の攻撃に向けて真っ向から飛び込んでいくことで、リスクと背中合わせと言えた。
 レンのサングラスの奥から紅い瞳が覗く。
「――よし、やりましょう」
 真人は頷く。
 彼らは他の仲間たちにも視線を配ったが、彼らの意志は同じだった。



「ひゃー……むっちゃでかいな。こりゃ命がけだ」
 イレイザーの大きさにあんぐりと口を開けていたのは、エルシュ・ラグランツ(えるしゅ・らぐらんつ)だった。
「水圧も相当なものですね。スーツを破壊されたらそれだけで命取りです。気をつけてください」
「了解だ」
 彼は冷静な声で心配を投げかけるパートナーのディオロス・アルカウス(でぃおろす・あるかうす)に頷いて答えると、敵の視界へと飛び込んでいった。
 本来なら空飛ぶ箒を使いたいところだが、エルシュの持ち合わせていたものは水中稼働が可能な代物ではない。代わり――と言っては不安が残るが、彼は自らの身体にロープを巻き付けると、そこに大きなクモワカサギを四匹くくりつけた。
 あとは――
「鬼さんこちら! ……って命がけだ、うはーっ!」
 このまま泳ぎまくって逃げるのみ。
 クモワカサギは魚のようにうようよとたゆたい、それを見たイレイザーが触手を伸ばしてくる。むろん、そのスピードは明らかに触手のほうが速い。
 が、後ろで控えていたディオロスの水中用ミサイルが、エルシュに迫ろうとする触手を次々と撃ち抜いていった。数多の爆発が起こり、触手が無残に散る。スライムが飛び散ったかのような気色の悪い触手の残骸が水中に舞った。
「なぶらさん、そろそろいけますよ!」
 直後、ディオロスが声を張る。
「よしきた!」
 彼に応じて、気合い十分に答えたのは相田 なぶら(あいだ・なぶら)だった。
 イレイザーの強さを目の前にして、なぶらは心の高揚感が抑えられないのか、瞳を輝かせている。強い敵を前にするとワクワクしてしまう、一種の病気のようなものだ。
 剣の先端をイレイザーに向けて、彼は待ってましたと言わんばかりに告げた。
「今こそ最終兵器投入だ! いけ、フィアナ!」
「……結局、やるのは私なんですか。はぁ…………分かりましたよ、いけばいいんでしょ、いけば」
 なぶらの使い魔がごとく、敵に向けて飛び込んでいったのはパートナーのフィアナ・コルト(ふぃあな・こると)だった。
 その身が装着するは、いわく『でかかろう強かろう』をコンセプトになぶらが造ったフィアナ用決戦兵器――鎧機装甲天雷。すなわち、乗り込み式強化外骨格だった。
 魔導式の透明皮膜が外気を遮断しており、水中でも短時間であれば稼働可能である。それに乗り込んだフィアナは、イレイザーに向かって突撃し、加速状態に入ったまま疾風突きを叩き込んだ。
 激しくぶつかり合うイレイザーとフィアナ。
「ふふふふ! まさか実戦でこれを試すときがくるとは! フィアナ! 思う存分戦えよ!」
 なぶらはフィアナを応援しながら、バニッシュで相手を目くらましするという実にせこい戦法で彼女をサポートする。
「あの……なんか楽しんでませんか?」
「気のせいだ気のせい!」
 絶対に気のせいではないと思うのだが――まあ、いまはそれを気にしている場合ではあるまい。フィアナはイレイザーとの戦いに集中し、さらに激しい激闘の音が鳴った。