空京

校長室

創世の絆 第二回

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創世の絆 第二回

リアクション


戦いの役目 1

 無事に仲間たちがクジラ型ギフトの内部へと侵入したのを確認して、白砂 司(しらすな・つかさ)は改めて戦闘態勢を取った。残された自分たちに与えられた役目は、敵を引きつけ、そしてギフトへの侵入を許さないこと。
 イレイザーとの戦いは、対イレイザー用に編成された仲間の別部隊が引き受けてくれている。ならば、司たちはその部下たる危険生物たちを全力で足止めしなければならなかった。
(槍か……。水中では勝手が違うが……いけるか?)
 司はトネリコの槍を構え、慎重にそう考察した。
 危険生物はそのほとんどがやはり水中の生物が悪路へと進化したような形態に成っている。素早い動きと電撃を放つクラゲに、まるでハンマーのような鋼鉄の切っ先を持つソードフィッシュ――そのほかにも、様々な亜種の生物たちが彼らと対峙していた。
 焦ってはならない。司は自分にそう言い聞かせる。パートナーのサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)に目線で合図を飛ばし、仲間の風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)にもタイミングを見計らうよう目を配る。
 だが――
「なっ!?」
 彼のそんな思惑を無視して、いきなり敵へと飛び出していった仲間の影があった。
「うおおおぉぉぉ!」
 血気盛んな雄叫びの声。
 水中でも稼働する特殊加工の銃を敵に向けて突撃したのは、気合い十分の若者――麻篭 由紀也(あさかご・ゆきや)だった。
 由紀也の銃は敵に火を噴く。だが、その銃弾は数匹の生物を倒すだけだ。一人で突撃したことが災いし、彼は敵の攻撃を受けて吹き飛ばされた。
「由紀也!」
 吹き飛ばされた由紀也に仲間たちの声がかかった。そして、特に司は彼に注意を喚起する。
「一人で勝手に突っ込むな! 死にたいのか!」
 それは彼にとって当然の叱咤だった。戦いとはそういうものだ。敵との距離、自分の心理とその場の状況。様々なものを吟味しなければならない。
「もっと考えて行動しろ!」
 だから、司はそう告げた。
 しかし、由紀也はそれに少しだけ怯えと震えを含めながら、静かに答えた。
「オレは、あんたたちみたいに強くもなんともないし、頭もそんなに良くないからさ……考えたって、どうしていいか分かんねえよ。こんな戦いも、経験したことがないから」
「だったら――」
「だから!」
 司の声は、由紀也の叫びにかき消された。
「だから、真っ直ぐぶつかっていくしかないんだ!」
 それが、自分自身の決意だと、彼の瞳は物語る。まだ自分は強くない。戦いに慣れてもいなければ、何かを成し遂げたことがあるわけでもない。それでも……やらねばならないこと。そして、自分が誰かを守りたいと願うことはある。
「精一杯戦うことぐらいしか、オレには出来ないんだから!」
「由紀也……」
 司は、彼の力強い言葉――そこにある、真っ直ぐな感情のみが宿すことのできる凄みを前にして、それ以上はなにも言うことが出来なかった。
「司さん」
「優斗……」
 司が横から声をかけてきた優斗に振り向くと、彼は司に穏やかな顔で頷いてみせた。
(そうだな……俺は……)
 実戦慣れしすぎたせいか。慎重にいくことばかりに気を取られ過ぎて、水の中ということに臆していたのかもしれない。
 隣のサクラコと目が合うと、彼女はからかうように笑った。
「気合いだけなら、向こうのほうが一枚上手ですね」
「……かもな」
 司は苦笑し、優斗と顔を見合わせる。お互いにうなずき合うと、二人は由紀也の左右を抜けて敵に斬りかかった。
「……一番大切なことを忘れるところだった」
「ですね。慣れってのは恐いです」
 司のつぶやきに同意の言葉を返した優斗は、自重するような笑みを浮かべた。司も、彼と同じように微笑する。
「司さん……それに、優斗さんも……」
 由紀也はそんな二人に半ば驚いたような表情になる。
 が――司の表情は、すぐに厳しく結ばれた。
「だが……考えもなしに戦うのは無謀と同義だ」
「その通り。だから、自分の、自分にだけが出来る戦い方で、その意志をぶつけましょう」
 司の隣で日輪の輝きを放つ爪――日輪天虎爪を構え、サクラコが不敵な笑みを浮かべながら言った。
「由紀也、お前の武器は銃だ。接近戦よりも遠距離に向いてる。前線での直接攻撃は俺たちが引き受けた。バックアップは……任せたぞ」
「あ……ああ!」
 輝くような顔で由紀也は頷いた。そして、彼はすぐに後方へと下がる。自分なりの戦い方――己が武器を最大限に有効活用する、慎重と意志の混じり合った戦闘をするために。
 そんな彼に、同じく後方に控えていた優斗のパートナー、諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)が助言を与えた。
「では、共に後方支援を頑張りますか。私の機晶犬とペンギンアヴァターラ・ヘルムが敵の情報はすでに調査済みです。そちらの動きをあなたにお伝えしますので、私の指示に従って射撃を」
「了解……!」
「お互いに頑張りましょう」
 孔明はそう言うと、自分を挟む機晶犬とペンギンを誘導して、由紀也を引き立てるように体勢を取った。
 そして、由紀也の見つめる司たちの背中が気迫を発す。
「――行くぞ!」
 その声を皮切りに、一斉に彼らは前へ躍り出た。
 戦いはまだ始まったばかりだった。