空京

校長室

創世の絆 第二回

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創世の絆 第二回

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ミッション2 スポーンを迎撃せよ! その5

 ある程度スポーンの予備知識があったこと、戦闘メンバーの人数がスポーンにはるかに劣る意識が戦う側にもあるため、簡易診療所まで運び込まれるほどの怪我人は少なかった。とはいえまったくいないわけではない。新星の一員でもあるヨーゼフ・ケラー(よーぜふ・けらー)は診療所周辺で、前線から運ばれてくる怪我人を診療所へ運ぶのを一手に引き受けていた。付き添ってくるメンバーは戦闘可能な状態である。一刻も早く前線に復帰してもらった方が、戦力の低下を防げるからだ。ディンスとシオンが兵士を抱えて診療所が見える位置についたとき、すぐにヨーゼフが2人の怪我人を引き受けた。
「骨折は腕だけだな? ゆっくりなら自力で歩けそうか?」
「自分は大丈夫です」
無骨で愛想のなさげな外見とは裏腹に、意識のない兵士を扱うヨーゼフの手つきは優しかった。
「この2人は私が責任を持って診療所へ送り届ける。安心してくれ」
送り届けてきたメンバーは、ヨーゼフに2人を預け、前線へと急ぎ戻っていった。
 診療所へつくや、エリス・メリベート(えりす・めりべーと)がすぐに負傷者の診察を始めた。
「骨折は単純骨折ですわね。そちらにおかけになって、少しお待ちくださいませ」
振り返って意識のない兵士の方を診る。
「ああ……毒ですわね。すぐにお楽にさせて差し上げますわ」
浄化の札を使い、グレーターヒールを詠唱する。暖かい光が意識のない兵の全身を包む。
「これでしばらく休めば大丈夫でしょう。
 ……それでは腕を診させてくださいまし」
骨折した兵士の上着をハサミで切り、腫れた腕をそっと支える。
「ああ、ずれてはいませんね」
 ヨーゼフと同じ新星のメンバーで補給要員を買って出ていたオットー・ツェーンリック(おっとー・つぇーんりっく)ヘンリッタ・ツェーンリック(へんりった・つぇーんりっく)とともにそこへやってきた。オットーは一見繊細で頼りなげな外見だが、仕事は確実で正確だ。
戦況に応じて各部隊が必要とする装備や物資は変化する。あらかじめ補給物資を振り分けるより、手間のようだが戦況を見て随時補給の方が、この物資不足が生じやすいニルヴァーナにおいて、結果的にムダを少なく出来るというのが彼の出した結論だった。
「どんな精強な軍隊でも、弾薬が無ければ銃は撃てませんわ。
 薬品の補給も不足すれば命を落とす場合もございます。
 軍隊を軍隊として機能させるためには安定した補給が不可欠なのでございます」
ヘンリエッタもそれに大いに賛成し、各部署のメンバーたちにその説明をオットーとともに作戦会議にて行ってきたのだった。
「頼まれていた薬と、消毒薬の予備でございます」
薬類の入った箱を、丁寧にかつ迅速に奥の棚へ運び込むオットーに続き、ヘンリエッタが毛布を抱えて入ってくる。
「ありがとうございます」
エリスが微笑みかける。オットーは鋭い視線で周囲を見回す。
「足らないものはございませんね?」
「はい、大丈夫です」
「では、失礼いたします」
オットーは診療所を後にした。次に向かうのは校舎から2時の方角の前線だ。気を引き締めてかからねば。

 防衛側は人数が少ない。カバーしきれない部分が必ずあるがゆえ、スポーンたちは防衛網の隙間から学校まで来るだろう。沿う考えたルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)とともに学校の際に陣取った。いわば最終防衛ラインである。中尉としての部下20人、索敵用にダリルの飛装兵、それに”ドッグズオブウォー”すべてをを動員した。無線を使って四方に配置した飛装兵と親衛隊に警戒にあたらせている。
「オレたちは接近戦は不得手だ。後方から銃撃で協力、支援するよ」
渋井 誠治(しぶい・せいじ)ヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)はルカルカに申し出た。
「助かります。よろしくお願いします」
ルカルカの無線に雑音交じりの音声が届いた。
「6時の方向より防衛網を破って敵100体あまりが来襲!」
索敵中の部下からだ。
「ここが最終線。さあ! 守るべき者の為に戦おう!
 国軍の誇りと共に戦うべき時は今。皆、我に続け!」
ルカルカが連射態勢と要塞化、ダリルはすかさずサクロサンクトで防衛体制を万全に整えた。襲い掛かってくるスポーンの群れにダリルがまずはある程度の距離から絶対領域で結界を作り敵を弱体化させ、たのち無量光正射と光条機関銃で弾幕を張る。ついでルカルカが襲い来るスポーンの群れに向かって先陣を切って突撃した。ブレイドの全体攻撃で数体のスポーンを一気に屠る。
「災い全て消し飛ぶべし! 学校は、パラミタの希望は、絶対守る。守ってみせるっ!」
ルカルカに呼応し、ダリルも叫ぶ。
「”獅子の牙”と”獅子の盾”が居るのだ。ここから先には行かせんよ」
そのさまを見ていた誠治が深く息を吸い込んだ。
「この先には一匹も通さないから覚悟しろよ!
 大丈夫だ、皆で協力すれば絶対なんとかなる」
自分に言い聞かせているような誠治に向かい、ヒルデガルトが声をかける。
「小型だけど侮れないわね。
 ……誠治、大丈夫?」
「ビ、ビビってないって。全然ビビってないって
 オレにはこのニルヴァーナの地でラーメンを流行らせるって夢があるんだ。だから負けられない!」
「がんばりましょう」
ルカルカに向かって伸ばされた触手をシャープシューターでふっ飛ばしながら、ヒルデガルトは言った。
 予期せぬ方から飛んでくる触手や、長い首の動きに惑乱されがちなルカルカの傭兵たちにダリルが呼びかける。
「突出するな、集団で当たれ」
誠治も傭兵たちが動きやすいように、クロスファイアで援護する。
 杠 桐悟(ゆずりは・とうご)もまた、ルカルカ同様後方に控え、前線を突破して来るものがいないか見張っていた。ルカルカらが攻撃を開始すると、その後方に陣取り、ガードラインを敷くと回復要員の朝霞 奏(あさか・かなで)を自分の後ろにいるようにと改めて確認を取った。団体戦のルカルカらの隙間を縫うように単体で突っ込んできたスポーンを追撃する。3体が校舎の方へ向かい、強靭な触手を振り回した。外壁の一部が抉れ、ばらばらと石が落ちる。
「色といい数の多さといい……てめえらゴキブリそっくりだな。
 一匹見たら数百匹か? さて、タフさもG並みか、試してみるか」
胸部に向かって光条兵器を叩きつけると、一体が消し飛んだ。続いてもう一体を攻撃する。2体目は身を翻して避けたものの、触手が全て消し飛んだ。そこに轟雷閃で畳み掛けると、黒い霧となって霧散した。残るもう1体が牙をむいて突進してくる。
「ここはな、皆の思いがこもってるんだよ。
 ゴキブリ・スポーンどもを住み着かせてたまるか!」
長い首がなぎ払われ、胸部に猛撃が決まると、スポーンは全身をわななかせ、溶け崩れた。
「思ったよりだいぶ前に出てきてしまいました。
 防衛網を突破してきたスポーンの群れはひと段落したようです。
 このまま前線に出るのは拙いかと。少し下がりましょう。
 ルカルカさんたちにお怪我がないか、診たいですし」
奏が声をかけた。

「私はあまり戦闘むきではありませんし、皆さんの足を引っ張らないようにして、それでかつ私にできる事といえば……」
効果的に戦うのであれば、弱点を探すのがいいだろう。なにしろまだ何の情報もないのである。戦闘要員には観察する余裕はない。そう考えたロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)アリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)とともに、皆の足手まといにならないよう気をつけながら、対スポーン戦の様子をつぶさに観察することにしたのであった。
「弱点分析は、悪くない考えだと思うわ。
 あまり長距離すぎてもわからないし、近接で戦ってる人は手が回らないと思うの。
 安全にその観察を行なうかがネックだけど、そこは私に任せて。
 戦闘の流れ弾なんかは私が防ぐから、ロレンツォは自分がなすべき仕事をがんばってね」
しかし。
あちこちで見て回ったところ、どうも共通する弱点はなさそうであった。
「そう難しい敵ではないようですが、私たち同様、体幹部と頭部を潰せば倒せるという点以外、目立った弱点はないようです」
「最初あの水晶? あれが弱点かと思ったけど、そういうわけでもないようね……」
アリアンナも考え深げにうなずいた。
「毒、石化、氷、火魔法……物理的な攻撃はともかく、いずれも効果のあるもの、ないものがいるのですよね……」
「倒せば消えてしまうから、構成物質もなんだかわからないし……」
「弱点……特になし、か……」
「それでも、観察は無駄ではないはずよ。データを取っているのだから、資料にしたらいいと思うわ」
「敵を知らねば、ですからね」

 マリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)はデジタルビデオカメラを構えて、戦闘の様子を撮影していた。
防衛戦が決まったとき崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)の、
「戦う者の勇姿は美しく記録されるべきだと思うの。
 正確な記録。これも学校づくりの一環として活かすべきでしょう?」
という言葉に一理あると思ったからだった。。
「あとで学校にいる皆さんにも見せることにしましょう」
前線で戦う契約者たちの姿を次々とカメラに収めてゆく。亜璃珠は熱狂やイナンナの加護で前衛サポートも抜かりなく行いながら、こちらに向かってくるスポーンにも華麗さも意識しつつライトブリンガーと歴戦の立ち回りで応戦し、マリカと自分の身も守る。
「撮影がメインとはいえ、降りかかる火の粉はきちんと払えませんとね。
 不意の状況にしっかり対応できなくっちゃ。
 だってデキる女優に必要なのは演技力、表現力、アドリブ力でしょう?」
「お見事です。美しい応戦でした」
マリカの賛辞に、亜璃珠は鷹揚にうなずいた。
「当然のことですわ」
指示通り撮影しながら、マリカはつぶやいた。
「このモンスターが湧いて出たとされる黒い種子は、ニルヴァーナの『黒い月』からやってきたのですよね
 片方はパラミタの月と繋がっているはずなのですが……。
 あの『黒い月』は一体何なのでしょうか?とてもただの天体とは思えませんが……」
だが、その問いに答えられるものは、誰もいない。