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リアクション
ミッション2 スポーンを迎撃せよ! その4
建設中の校舎の東のはずれ。農業予定地として畑が作られている場所のそば。スポーンが集中して攻めてきている校舎のある場からかなり離れている場所に、刀村 一(とうむら・かず)は仁王立ちしていた。
「幼女ちみっこが将来通うことになる学校を壊されてたまるかぁああああー!
校舎が損壊して青空学校な幼女ちみっ子達だなんてっ! 想像しただけでも痛ましすぎるっ!
リン・リーリン(りん・りーりん)も力をこめて負けじと叫ぶ。……叫ぶ必要もないのだが。
「リンはカズちゃんと一緒に、畑を守るの!
カズちゃんの後ろでおうえんするんだよ!」
とはいえ、場所も外れであるため、スポーンの影も薄い。しかしながら手薄な場所ゆえ、突破されれば危険ではある。そこへきょろきょろしながらオルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)がやってきた。ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)も一緒である。
「え、えっと……ここはパラミタの空京大学近辺ではないです??
なんだか見覚えのない景色で……」
が元気よく応える。
「ここはねっ、ニルヴァーナの学校だよ!」
「どうやら、道をどこかで間違えたようですね」
ミリオンが言う。が、しかし。空京へ向かっていて、どう間違えればニルヴァーナに出るのかは、誰も知らない。
「そ、そう……オルフェはどこで道を間違えたのでしょう??
良く判らないのですよ……」
作戦会議後、皆の後をついてきたつもりが、いつの間にかオルフェリアについてきてしまっていた一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)と、アイラン・レイセン(あいらん・れいせん)も、戸惑ったように佇んでいた。
「どうやら、私は皆さんとはぐれてしまったようですね……」
一雫がボソっとつぶやく。
「スポーンの来襲からなんとしても学校とこの畑!!! 皆の大事な食料となる野菜作りの場!
なんとしても守り抜くのだっ!」
「……学校を守ってるですか?
えっと、良く判らないですが……。
オルフェは誰も置いていかないカムパネルラになるのです♪
だから、オルフェもここで皆さんと闘うですよ♪」
ミリオンがふっと笑った。
「我は、オルフェリア様がそうしたいのでしたらそれに従いましょう。
ふふ、では、我はジョバンニとでも言っておきましょうか。
カムパネルラを置いて先に帰るような真似はしませんがね」
比較的はずれとはいえ、何体かのスポーンがこちらにも姿を現した。闇をまとうその禍々しい姿を見て、悲哀は背筋を伸ばした。
「どなたかは存じ上げませんが……。
ここの方々の邪魔だてをなさるのでしたら容赦は致しませんよ」
アイランは間合いを詰めるスポーンと、闘志満々の一を交互に見て、ふんふんと頷いた。
「あたし、あんまり戦ったことないからあんま判らないけど。
でもでも、皆が傷ついたらナーシングで回復してあげるからね♪
致せり尽くせりで皆が欲しがってるものとか、できる限り用意するから、安心してね♪」
間合いを詰めてくるスポーンを見て、リンがすかさず驚きの歌、妖精のチアリングでサポートに入る。
「リンちゃんのかわいいチアリングと歌をきいたら自分は無敵だぁー!
行くぞおおおおっ とおおおおおっ!」
一が気合一閃、先陣を切ってきた一体に木刀で面打ちを見舞う。あまりの攻撃力のなさに面食らうスポーン。オルフェが即座に空飛ぶ箒ファルケに飛び乗った。
「何か一杯出てきましたね……」
のんびりした口調とは裏腹に、襲い来るスポーンらに上空からその身を蝕む妄執を見舞う。ミリオンは一と並び、で華麗なステップでスポーンの攻撃を避け、魔銃カルネイジでアルティマ・トゥーレを見舞い、一の対戦相手に止めを刺す。
「……さて、死にたい方は、どうぞ前へ」
氷のごとき笑みを浮かべ、スポーンを挑発する。悲哀は心頭滅却で念のため毒攻撃に備えつつ、距離をとって遠当てで応戦している。アイランは皆の背後から、デッキブラシを振り回し、エールを送った。
「フレー! フレー!! ファイトォー!!」
しかしこのパーティ、実質止めを刺せるメンバーは、ミリオンしかいない。全体の戦況を見ていた瑞江 響(みずえ・ひびき) は、一人ごちた。
「ラクシュミが無理しないよう気を配ろうと思っていたが、あれだけ護衛がいるなら心配なさそうだな」
……あの一角、危なっかしいな。学校を守るのは大事だが、それ以上に仲間が大事だ」
アイザック・スコット(あいざっく・すこっと)は響を見た。
「響が皆を守るなら、俺様は響を守るぜ!」
「行くぞ、アイザック!」
「おう!」
不利な状況の一、ミリオンの下へと一路駆けつける。新たな敵と見て、スポーンが10体、まとまって襲い掛かってくる。
「これでも食らえ!」
アイザックがブリザードを放ち、続いてサンダーブラストを叩き込む。数体が耐えられず霧散した。残ったスポーンに響が
光精の指輪で強い光を放ち、怯んだところへ轟雷閃を叩き込む。やや不利だった戦況が一転した。
「全力を尽くして、学校も仲間も守り切るっ!」
響が自分に言い聞かせるように言い、最前線に立つ。アイザックがにやりと笑った。
「響が身を呈して仲間を守る。それを俺様がフォローする。完璧なコンビネーションだぜ」
そこへ白雪 椿(しらゆき・つばき)が駆けつけてきた。
「皆さん大丈夫ですか? お怪我されている方はいらっしゃいませんか?」
一ミリオンは軽症ではあるが、幾分かの傷を負っていた。
「万一毒が入ってるといけませんから」
椿が清浄化とナーシングで回復を試みる。ミリオンが言った。
「なに、たいしたことはない」
「数が多いですね……どうか皆さんお気をつけて!
単体相手になりますけれど、私も後方から援護します」
椿の言葉に、白雪 牡丹(しらゆき・ぼたん)が心配げに声をかける。
「椿、ムリしないで下さいませね?
私も力技な戦闘が得意ではありませんが……。
スキルを駆使して的確にモンスターを撃退するよう努めます」
椿が光術でスポーンを怯ませ、ライトニングウェポンで牡丹が攻撃、椿がすかさず凍てつく炎で追い討ちをかけると、二体のスポーンは黒い霧となって消えうせた。
「少数でも、確実に仕留めていきましょうね」
牡丹が言い、椿は微笑んだ。
「そうですね。わたしたちに出来る限りのことをしていきましょう」
「はいっ!」
シオン・グラード(しおん・ぐらーど)がそこへ到着し、声をかけてきた。
「そっち、怪我人はいないか?」
牡丹が穏やかに応える。
「こちらは大丈夫です。軽傷の方だけで、治療も済みました」
リンがニコニコ笑って頷いた。。
「カズちゃんはちみっこのためなら一度死んでも復活するくらいの気合もってるからだいじょうぶ!」
「……そ、そうか。気をつけて戦ってくれな」
気おされたようにシオンは言って、その場を離れる。手薄な場所があれば参加しても戦うが、学校周囲を周回しつつ前線で戦うメンバーの治療をしようというのは華佗 元化(かだ・げんか)の提案であった。
「学校を中心に守備とはいえ、放射状に散開しての戦闘だ。
移動しながら治療が出来る面子が必要だろう」
「ああ、そうだな……。個々はイレイザーほど強くはないようだが、何しろ数が多い。
おまけに毒やら石化まで使ってくるとか。厄介だな」
「俺は怪我人の応急処置を速攻で行うことにする。
適切な処置を手早く行い、怪我人を戦線復帰できる状態にするのが目的だからな。
まあ、あまり重い怪我だった場合は担いで安全なところまで移動しなければならないが……」
シオンは頷いた。
「ああ、そうだな。良いプランだと思うぞ。
俺が千里走りの術で接近し周囲のイレイザースポーンを押さえる。
華佗が治療中のサポートは任せてくれ」
「頼むぞ。どこまで出来るかはわからんが、治療する相手が見知らぬ誰かだとしても全力を尽くす」
2人は油断なく目を配りつつ、前線後方を移動してゆく。と、十数体の群れに囲まれて、よろめきながら防戦している兵士2人が目に入った。
「行くぞ」
「おう!」
シオンが群れへ突っ込む。レジェンドストライクで一体を屠ると、他のスポーンたちが一斉に反応した。
「私達も加勢するネ!」
強化装甲や歴戦の防御術で防御を固めたディンス・マーケット(でぃんす・まーけっと)が叫んで、シオンを取り囲んだスポーンに向かってトラッパーを使用する。大量の切り分けたザイルが、スポーンの触手や長い首、前肢や後肢に絡みつく。トゥーラ・イチバ(とぅーら・いちば)が光精の指輪で目をくらませ、光術で畳み掛ける。
「すまん!」
シオンがその間に少し下がり、体制を整える。トゥーラが応じる。
「いいえ、無茶は禁物。無理しないことも大事なことです。距離をとって下さい」
目くらましと絡みつくザイルに苦戦するスポーンをシオンがレジェンドストライクで確実に一体ずつ仕留めてゆく。ディンスはライトニングウェポン、氷術で凍らせ鋭利にしたザイルをジャヴェリンのように使い、スポーンと戦っている。時に何故か頭突きも混じる。群れの足元に釘をばら撒き、さらにスポーンの動きを鈍らせるのも忘れない。
その間に華佗が怪我人の下へと駆けつける。
「大丈夫か?」
兵士の片方は立っているのもやっとという有様だ。もう1人は比較的元気なものの、片腕が折れてしまっているようだ。
周囲のスポーンを片付けたディンスらが駆けつけてくる。
「どうネ? ダイジョウブそうカ?」
ディンスの問いに、華佗が答えた。
「応急処置だけ済ませたが、怪我が重い。簡易診療所へ運ばねばならん」
トゥーラが言った。
「空飛ぶ箒で安全そうなルートを誘導しましょう」
「わかった。ならば俺とシオンが2人を運ぼう」
「ならば私が道中護衛するネ。あ、これ名刺ヨ。よろしくネ」
ディンスがウインクした。
「話は決まったな。行こう」
シオンが重傷の兵士を背負う。華佗は骨折した兵士に付き添う。トゥーラが東の方をちらりと見やって呟いた。
「……種から出てくるのは緑の芽のほうがいいですね」