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リアクション
西の遺跡にて・8
インテグラルが咆哮をあげる。
その光景を、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)は何度も見た。
「今までのあれは、威嚇だったのだろうな。けど、今は」
「怒ってるように見えますね」
「たぶん、そうなのだろうな」
ボロボロのプリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)がゆっくりと立ち上がる。
ただ蹂躙されてきたわけではない。何度も立ち上がり、見据えてきた相手だ。理解するなんて言葉はまだ使えなくても、感じ取れるものはある。
「こっちも厳しいけど、向こうだって辛いはずです」
その通りだった。
無敵に思えた巨躯の武人は、傷を負い血を流している。
「少しは痛がってくれないと、私としてはつまらないのだよ」
傷だらけになったインテグラルは、立っているだけでも辛そうに映る。だが、未だ動きの精彩さは健在であり、流血は威圧感を助長する為の飾りのように映るのも確かだった。
二人に向かって、飛翔する剣が襲い掛かる。本体が振り回す剣に比べればまだ優しいが、それでも地面を抉り、防御で固めた兵を何人もまとめて吹き飛ばす破壊力がある。持ち手のいない武器を引きつける理由はなく、大きく余裕を持って避けながらインテグラルに向かう。
「この程度じゃ、けん制にもならないのだな」
少し離れたところからの真空波では、インテグラルは防御すらしない。幾たびかの攻撃を受けて、ボロボロになった鎧でも防がれてしまう。動きながら背面まで回りこみ、村正に持ち替え迫る。
タイミングを合わせようとしなくても、ほぼ同時にプリムローズが動いた。前後からの同時に、どちらも全力で切りかかる。だが、至らない。背中に目がある、なんて生易しいものではなく、まるで全体を俯瞰して見ているかのようにインテグラルの動きは的確で、前に出ながらプリムローズの剣と打ち合い、力技で吹き飛ばすとそのまま振り返りつつ剣でなぎ払う。
二人の体がいとも容易く宙に投げ出された。
「まだだ!」
声の主、桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)が前後の敵に対処した不恰好な体勢のところに、る稲妻の如き速さで切りかかる。煉は二人と打ち合わせをしたわけではないが、このようなとっさの連携は珍しいものではなくなっていた。そうしなければ、命がけで近づいた仲間を見殺しにしてしまう事になってしまうからだ。
「奥義、真・雲耀之太刀」
ウェポンマスタリーの剣技、アンボーン・テクニックで身体強化、サイコキネシスで剣を加速させる技であるトライアドの二つの技を複合した奥義に、既に振り切った二本の剣による防御は間に合わない。
肩から胸にかけて、煉の一撃は吸い込まれるようにして切り裂き、それでも
「っ! 浅いっ!」
手ごたえから、致命の一撃に届かなかった事を悟る。
「煉!」
エリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)が混沌の楯とレッドラインシールドの二つの盾を構えながら、インテグラルと煉の間に飛び込んでいく。
インテグラルは手の内で獲物を半回転させる。二つの刃が内側に向けると、両手を交差させるようにそれを振るった。まるでハサミのようなに、二つの刃が迫るのを、エリスはタイミングをできるだけずらすようにそれぞれの盾で受け流そうと試みる。
「あぐっ」
腕が軋む。完全に挟まれていたら盾ごとばっさりと真っ二つにされていただろう。
そうならなかったのは、エリス自身が攻撃を完全に捨てて防御に徹していたことが大きい。剣は煉で、盾がエリス。そういう役割分担で、そこまで徹底する必要があった。
「大丈夫か!」
半ばエリスを抱きかかえるようにして、煉その場から離れる。追撃は無い。
「え、ええ。腕を少し捻ったみたい。ダメね、そらしても勢いに巻き込まれるなんて」
「あれが規格外なだけだ。直りそうか?」
「大丈夫。痛かったけど、痛いだけよ」
骨や体の深いところまで傷が達していなければ、控えている治療班は優秀だからすぐに戦線に復帰できるだろう。命の炎を燃やし尽くそうとでもいうような、壮絶な戦いだ。
振り返る。
インテグラルの正面に一つの背中、葛葉 翔(くずのは・しょう)だ。
「悪いけどここから先は通行止めだぜ!」
先ほどのハサミの刃の一本は、翔がグレートソードを肩に突き刺すことで打ち破った。全力を込めた疾風突きは、その剣のほんの僅かしか刺さらなかった。まるで鉄の塊に剣を突き立てている感触だったという。
「さてと、俺のグレートソードがどこまで通用するか試させてもらおうか」
インテグラルにギフトが有効なのは明らかだった。鎧を削りとったのも、流血させたのもほとんどギフトによる戦果だ。では、ギフト以外は役に立たないかといえば、そうでもない。先ほどの突きは、まるで鉄の塊に突き立てたという程のものではあったが、皮膚を割って流血を強要した。
目の前の巨躯の武人は確かにむちゃくちゃな強さではあるが、○○以外の攻撃は無効なんてずる臭いルールは無いのだ。威力が足りないというなら、それを補えばいい。
目の前で、無謀にも翔は力を溜める。インテグラルはその間、手を出さずに待った。いや、待っていたかどうかはわからない。単に翔の存在に気付いていなかったとしても、頷ける。
「こいつを喰らいやがれ!」
最大限に溜めた力を解き放ち、頭部を狙ってグレートソードを振り下ろす。
それに対し、インテグラルのとった対抗手段は、頭突きだった。振り下ろされたグレートソードに向かって、額をたたきつけたのである。
この傍目には自殺行為にしか見えない勝負に勝ったのは、額だった。グレートソードは中ほどから、その刀身を砕かれてしまった。
額は人体の中で、拳や足と同じように武器として使える部位だ。その中でも特に、重くて強力な打撃を産み出せるのが額である。インテグラルも、人であるかはわからないが姿かたちは人によく似ている。額が同じように使えるとしても不思議ではない。
「また折れた! 最近折れすぎだろ」
突きを繰り出した時に、そんな予感はしないでもなかったが、それでもちょっとショックだった。よりにもよって、額に負けるなんて!
反撃とばかりに、インテグラルが剣を振るう。さすがに、頭突きをこちらから繰り出しても勝ち目は無い。真っ二つにされるだけだ。大降りだった振り下ろしを後ろに飛んで避ける。そんな回避はお見通しだと言わんばかりに、もう一本の剣が横から迫る。
まだ着地していない翔では、その攻撃を受けるしかない。折れたグレートソードの半分とインテグラルの剣がぶつかる―――その直前、強い風が翔の体を横に押した。グレートソードの残りごと分断するだけの勢いが、それによって殺されて弾き飛ばすに留まった。
「来ないで!」
強い光がインテグラルの前で炸裂する。アリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)の光術だ。目くらましで動きを止められる時間は、瞬きのそれよりも短いが、それだけあれば別の誰かがインテグラルの前に出るだろう。
「翔クン!」
翔は吹き飛ばされた勢いで壁に叩きつけられ、ぐったりとしていた。駆け寄って手を触れると、脈もあるし呼吸もしている。声をかけると僅かだが反応も返ってきた。
「……間に合ってよかった」
風術で翔を押して、威力を殺したのはアリアだ。本当は威力を殺すのではなく、その場から翔を逃がすつもりだったが、インテグラルの剣の方が早かった。インテグラルに術を使って動きを鈍らせるのと二択だったが、恐らくこっちが正解だったろう。
「少し我慢してくださいね」
すぐにでも治療してあげたかったが、インテグラルの飛翔する剣が獲物を探している。気付かれる前に、もう少し目立たない場所に移動しなければならない。翔はグレートソードを強く握ったままで手放そうとしないため、抱き上げることも背負うのも難しく、仕方なく引き摺ってその場を離れた。
人間と同じような姿をしているからといって、人間と同じシステムが組み込まれているとは限らない。それは、吸血鬼やドラゴニュートや魔鎧や、他にも多くの種族がいるシャンバラを知っていれば、彼らの体の構造が人間とは別物だということはわかるし理解もできる。
インテグラルが異質なのは、何も強靭な体を持っていることや、凶暴である事ではない。
体の構造が違っていても、シャンバラに生きるそれぞれは互いに意思の疎通ができる。それは、言葉という手段があるからだ。考えるという構造が違っても、言葉にすればある程度までは誰とでも思考や感情を共有できる。言葉を介さない心の共有も、最初は言葉による交流から始まるものだ。
だが、インテグラルは持っていなかった。ただ、雄叫びびをあげるのみで、そこに伝えるべき情報や意味はない。獣の雄叫びととも違う、獣の言葉を人間が理解できないだけで、彼らの間ではちゃんと意味のあるものなのだから。
「お化けを怖がるのと同じですね。こうして目の前で動くのを見ているのに、それが何なのか理解できないんですから」
ミハエル・アンツォン(みはえる・あんつぉん)の背中に背負われた橘 恭司(たちばな・きょうじ)は、返事を返さない。生きているのかどうかも、この時点では判断できない。
無茶をしたのだ。仲間の危機を敏感に察知して、無理に間に飛び込んだ。無茶だと断言できるのは、その一瞬前にミハエルを置き去りにしたからで、人の了解も取らずに勝手に死ぬ覚悟をしたのが腹正しい。
この時、インテグラルはほんの少し変化していた。出血によるダメージではなく、その内側である。
この無敵の武人にとって、戦う事とは散らすことだ。背負った剣が飾りでなく、手に持たずに振るうものであることからも想像ができるだろうが、インテグラルは一人で多数を相手にする事が前提にある。そうである為に、一人で軍団を遂行する武人にはある行動が欠けていた。
相手の息の根を止める行為が、それである。
畏怖によって体と心の機能を麻痺させた相手は、錯乱と狂乱に陥って自壊する。インテグラルそのものの戦闘力は強大であり、まともな思考を保持していたとしても絶望は禁じえない。
群れを成す生き物は単体では生きていけない。その群れに向かい、かき乱して散らす。戦いの中でいくらかは勝手に死ぬだろう。戦いのあとに、見捨てられて多くが死ぬだろう。そうしているうちに心の弱いものから逃げ出して、群れはその形を失っていく。一つ一つを丁寧に潰す理由は、インテグラルには無いのである。
その単純で明快な行動理念に、僅かな疑念が浮かび上がっていた。何度も何度も、敵は立ち上がってくる。彼の視界にそれは総じて同じようなものにしか見えなかったが、それでも個々に小さな違いがあって、その特徴が一致するものが何度も立ちはだかってきたと認識することができていた。
対策が必要だと考えた。これでは散らない。散らさないと役目が終わらない。だが、普段通りにしては散っていってはくれない。ではどうするか、簡単だ、一つ一つを丁寧に潰していけばいずれ無くなるだろう。
それはこれまで、機械的に目の前の動物の群れを追い散らしていただけのインテグラルにとって、初めて恣意的な行動理由であり、誰しもが理解可能な行動だった。
「なにしてるんだ、逃げるぞ!」
叫びながら近づくオットー・ハーマン(おっとー・はーまん)は、自分の心が絶望で埋め尽くされていくのがわかった。今までとは違う、逃げたら追ってくる。納得できる状態にまで、自分たちはまとめて破壊されるだろうというのが、わかってしまう。
ミハエルもまた同じで、逃げなければという気持ちがあっても、動けないでいた。指向性をもった畏怖が体を震わせたのもその一旦ではあるが、恭司が命をなげうってまで守ろうとした二人が、まだこの場で動けずにいたからだ。
南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)と、ダイヤモンドの騎士の二人だ。光一郎は地面に仰向けに倒れ、そのすぐ横にダイヤモンドの騎士が座り込んでいる。光一郎は先ほどの打撃を恭司と共にモロに受けた、自力では動けない。ダイヤモンドの騎士は無傷ではあるが、座り込んで叫び続けるオットーの声に反応をしていない。
「どうして……どうして……」
ダイヤモンドの小さな声は、ミハエルには届いていなかったし、オットーもまた同じだった。だがちゃんと、光一郎には届いていた。
「どうしてって、そりゃ……アイリスやかつおぶしくんたちは『神』。俺らみたいな出来損ないとは貫目が違うんよ。有効な対抗手段が見つけられるまで温存する必要あんだろ!」
手を伸ばして、頭を撫でるなり背中を押すなりしたかった。しかし、思った以上に光一郎の体はボロボロで、むしろ意識がはっきりしていて喋る事ができるのが不思議なぐらいだった。
何か言わないと、という思いが光一郎の中にはあった。オットーと同じように、逃げろと言わないといけないのもそうであったし、元気そうでよかったという言葉もかけておきたかったし、自分がちゃんと笑顔を作れているかも確かめておきたかった。
だが、時間はない。インテグラルは着実にこちらに向かって歩みを進めている。急がないのは、恐怖を煽る為ではなく、単にそこにいる獲物が動けなくなっていて、仕留めるのに急ぐ必要がないからだ。そう、狙われているのは光一郎であって、ダイヤモンドの騎士ではない。
だから、伝えられるのは一言か二言で、それでこの情けない騎士を立ち上がらせないといけないわけだ。無茶だと思わないでもない。
インテグラルと戦うために集まった一団で、ダイヤモンドの騎士の姿を見た時に、感じたものがった。それは覚悟とかそういう類のもので、せっかく話しかけたというのに少し上の空だったのは不安を感じさせるには十分なものだった。そしてそれは、見事に的中した。
何をどうするかまでは今となってはわからないが、不用意かつ無茶苦茶に、ダイヤモンドの騎士はインテグラルに向かっていった。言葉では止まるまい、そう確信した光一郎は「上等っ!」と覚悟を決めて、割り込んだ。
同じものを感じていたのか、恭司もほぼ同時に同じ事をした。一人で受けるはずだった一撃は二人に分散されて、今もこうして息が吸えるのである。素晴らしい。
「『真の覚悟』で捨石になろうたぁ気に入らねえ! 生き延びて女の望みを果たさなくちゃ、かつおぶしくん」
ゲームセットだった。伝えた言葉が何かに変わる前に、光一郎の視界に恐ろしい影が覆いかぶさる。オットーはまだ遠い、せめて最初の一撃分、突き飛ばすなりしてダイヤモンドの騎士を助けるしかないか。
諦めと覚悟がほぼ半々で、有情さの欠片もないホイッスルが振り下ろされようとしていた。
だが、まだ終わらない。
思いもよらない、延長戦がそこから始まった。
「やっと、隙を見せたね」
駆けるは、アイリス・ブルーエアリアル。手には、セリヌンティウス。
覚悟と言う名の一本の剣、というか棍棒となったセリヌンティウスが、インテグラルの反応よりも早く叩きつけられる。
たった今を除いて、インテグラルは無敵だった。強靭な肉体に、他に類をみない破壊力、だが何よりも、どのような手段を用いても完全な隙を作り出せないという事実こそが、彼を無敵に仕上げていた。
飛び交う剣は敵の攻撃を迎撃し、かつ布陣を切り裂いて足並みにを乱す。掻い潜って背後から近づこうとも、目くらましや魔法による陽動をかけても、あとほんの少しの距離が誰にも縮められないでいた。傷は負わせられる、当たらないわけではないのに、そのほんの僅かな距離が常にあった。
それは、常にインテグラルが戦場を俯瞰していたからに他ならない。敵とは群れであり、群れが相手であるからには、ターゲットを絞るという動作は不要だった。だから全体を常に見て、ありとあらゆる攻撃に対応することができる。
焦りだったのかもしれない。戦で傷つくことはあっても、これほどまで追い詰められた事は過去に一度も無かった。飛び交う矢や剣戟が、彼の身まで届く事は偶然以外の何者でもなかった。その身が傷つけられた事が、インテグラルに全くなかった思考を要し、結論を出させた。一つ一つ、潰していくべきだと。
何かを見るという事は、他の何かを視界から外すという事だ。見るべきものを見失った状態を、隙と言わずに何と言うだろう。インテグラルは、ただ戦い続ければよかったのだ。そうすれば、幾らしぶといといっても契約者の混成部隊にいつか限界が来る。それは間違いなく、インテグラルの崩壊よりも先に訪れていた。
「はぁ……はぁ……、どうだ!」
乱した息を整えながら、アイリスはインテグラルを見据える。無茶苦茶な合体必殺技は、振るわれたセリヌンティウスだけでなく、アイリス自身の体にも亀裂をいれていた。だが、まだ動けないという程のものではない。一方、セリヌンティウスはもうだめだった。空っぽだ、動けない。
強烈な打撃によって、女性像の一つに叩きつけられたインテグラルはしばし硬直した。誰もそれに追撃をしようとしなかったのは、不気味だったからでも、もう死んでいるようにも見えたからでもあった。
静かになった。聞こえるのは誰かの息遣いだけで、言葉は無い。銃の火薬が弾ける音も、飛び交う剣と剣がぶつかり合う音も、おぞましい雄叫びも何も無い。
やっと、インテグラルが立ち上がったのは、それぞれの荒い息が整ってきた頃になってだった。
先ほどの一撃で砕け散り、敵からの攻撃を防ぐという役目を果たさなくなった鎧を脱ぎ捨てると、ゆっくりと一度だけ首をめぐらして自分に向かっている視線を確認した。そうしているうちに、散り散りになっていたインテグラルの剣が彼の元へと戻る。それらは鞘ではなく、円を描くように周囲に突き立てられた。
「……え?」
アイリスと同じように、驚きの声をあげたのは一人や二人ではなかった。
インテグラルは、自分の剣を自分の胸に突きたてたのだ。それに呼応するかのように、地面に突き刺さった剣がさらに地中へと向かい、足場を崩落させる。地面を食い破る剣の速度は衰えず、あっという間に覗き込んでも闇しか見えない穴を作り、その穴はまもなく周囲を崩し、すぐに瓦礫によって埋め立てられていく。即席の味気ない墓だけが残される。
アイリスの一撃は、即死には至らないまでも致命の一撃だった。インテグラルの機能をいくつも破壊し、修復不能まで追い詰めた。これが勝負であるのなら、あの一瞬の時点で、それはもう終わっていたのだ。
これ以上戦闘を続ける事はできない。そうであるのならば、敵に供物を捧げる必要も無い。説明されればわかりやすい、自らの死以上の成果を挙げさせない為に、インテグラルは自らを大地の奥へと埋葬したのである。
しかしそれを、命がけで戦った彼らにすぐに理解するのは酷だろう。理不尽なまでの強さを発揮した敵が、まるで一人勝ちでもしたかのようにうっすらと笑みを浮かべて自分の胸を突いたのだ。
まだ何かあるのではないかという緊張で誰しもが身構えるのは当然の反応で、それが弛緩するまでには相応の時間が必要だった。自分たちが勝ったのだ、という実感が沸くにはさらに時間が必要で、喜びに沸く頃には全部が全部終わった頃になってからだった。