空京

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創世の絆 第三回

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創世の絆 第三回
創世の絆 第三回 創世の絆 第三回

リアクション



ドーム内部に突入する・8


 月の内部に潜入したブラッディ・ディヴァインは、道に迷うことなく真っ直ぐに進んだ。先導するルバートは、この施設の構造を最初から頭に入れていたようだ。
「邪魔が入らなければ、もう少し手際よくいったものを」
 施設に潜入してから、防衛装置のレーザーや、この施設に巣食うスポーンなどが行く手を阻んできた。数を絞り、パワードスーツで固めた彼らにとって、それらは脅威とまではいかなかったが、時間とエネルギーを浪費したのは事実だった。
「だが、我々が先回りできたようだな」
「これが、サンダラ・ヴィマーナですか。想像していたのとは、少し違いますね」
 古代兵器だの、駆逐艦だのと話しを聞いていた高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)にとって、視界に移るその姿は、想像したものと全く違っていた。円筒の寸胴ボディーの先に、円錐がはりついている。
 言ってしまえば、その姿はロケットだった。ただ、宇宙に打ち上げるロケットは長さもあってスリムに見えるが、これは太いドラム缶のようにしか見えない。その分スケールも大きく、一般的なイコンであれば三桁は余裕で積み込めるだろう。
「これより、サンダラ・ヴィマーナを射出する……が、お客さんのようだ」
 ルバートが、今自分たちが来た道を見る。人の目ではまだ確認できないが、パワードスーツのセンサーが敵の気配を掴んだ。それは、先ほど蹴散らしたスポーンなどではない。
「メニエスさん達が追いついた、というのは希望的観測が過ぎますね」
 彼女達残存部隊がこちらに合流するには、襲ってきた敵を蹴散らしつつ、彼女達は知らない施設の内部を進んでこなければならない。戦況の推移は、ここでは電波がうまく機能せずに報告が届かないが、もう回廊を使って脱出している頃だろう。
「ここまできたら、相手をするしかありませんか」
 ここが目的地である以上、逃げることも撤退することもできない。玄秀の意図を汲み取り、ティアン・メイ(てぃあん・めい)がプラネタリアームを起動させる。
「目くらましには、少し弱いわね」
「僕たちに注目してもらえればいいんですよ。射出の方法は無論知っているのでしょう?」
 ルバートは頷いた。
「ならいいんです。これから調べるなんてものでなければ、時間を稼ぐのもやぶさかではありませんから」
 言いながら、ベルフラマントで玄秀はその身を覆った。

「なんでしょうね、ここは?」
 エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は、妙に薄暗くもやたら広い部屋に入って立ち止まった。扉は開けっ放しだったが、この施設を探索しているとそれはもはや珍しいものではなくなっていた。
「随分と奇妙な場所に出てしまいましたね」
 アルベリッヒ・サー・ヴァレンシュタインも立ち止まって、周囲を見渡した。それは人間が使うには、大きすぎる部屋になっていた。
「誰もいないのかな?」
 緋王 輝夜(ひおう・かぐや)がキョロキョロと左右に視線を向ける。
「おっかしいな、戦闘のあとがこっちに続いてたから、誰かいるはずなんだけど」
 この施設に入った時に襲ってきたレーザーのせいで、アルベリッヒを含んだ一隊は、仲間を探して施設の中を探索しながら動き回っていた。電波状況が悪く通信もできず、孤立してしまった。
 未だ宙ぶらりんな立場のアルベリッヒとしては、動かずに長曽禰少佐のいる隊と合流した方が、思わぬ不興を買わない安全策なのだが、月を止めるという時間制限がある状況で動ける人間をただ待機させるわけにはいかないと、動きながら本隊と合流を目指し、もし先に中枢を見つけたら月を停止させるとして、施設の探索に乗り出した。当然、彼らの探索で優先されるのは仲間との合流だ、そのためスポーンとの戦闘の形跡を発見した一行は、道を辿ってここまで進んできたのである。
 道が続いていたのはこの部屋だから、ここに誰かが居るのは間違いない。
「きゃっ、なにこれ!」
 小さく悲鳴のような声をあげた輝夜を、結界が囲っていた。十二天護法剣の光状結界である。
 布が風を切る音がして、玄秀は纏っていたマントを脱ぎ捨てた。威力のある魔法を使おうとすれば、簡単に察知されてしまう。これ以上は邪魔になるだけだ。
「どうやら、私達の追っていたのは仲間ではなかったみたいですね」
 その姿を認めたエッツェルは、くつくつと哂う。
「そんな事言ってないで、これ解いてよ!」
「どれどれ、ああ、光属性のようですね。困ったな」
 のんきなエッツェルに向かって、玄秀はアルティマ・トゥーレを放った。氷の刃が無防備なエッツェルを襲う。
 体のあちこちに刃が深く突き刺さって吹き飛ばされるものの、のらりとした態度で立ち上がる。
「うーん、残念ですね。腕や足が吹き飛べば私も困ってしまうのですが、無事くっついてます」
 氷の刃が突き刺さったままで、語る口調は今日の天気のことのように興味は無さそうだ。
 痛みを感じない体と、じわじわと再生する能力があるため、彼は立ち上がることができる。驚くべきはその体よりも、そうされて平然としている精神だろう。
「さて、今度はこちらの番ですね。私の秘術……とくと味わっていただきましょう」
 エッツェルは混沌刃「ザーダ=ホーグラ」を左腕の開口部より抜刀する。そして、何やら呪文のようなものを唱えた。それは、人間の耳では何と発音しているかわからず、また口では発音するのが困難なものだった。
「禁術、万物の王」
 最後に、理解のできる言葉を口にした。
 広範囲かつ無差別に、純粋魔力が飛来する。魔力で人を押しつぶし、施設そのものには傷をつけない魔法である。
 このスキルによって、身を隠していたブラッディ・ディヴァインの構成員は、身を晒らさなければならなくなった。
「うじゃうじゃでてきますね。何割削れたんでしょうか」
 これで、一方的に不意打ちを食らい続けることはないだろう。開戦の狼煙としては、十分過ぎる。もう少し着弾点を絞れば命中率もあがるだろうが、今は隠れ身剥がしの方が重要だ。
「ちょっと! あたし動けないんだってば!」
「おや……そうですね、頑張ってください」
 万物の王の効果が切れるまであと少し、輝夜はそれまで当らない事を祈るしかない。

 危険を感じ取り、咄嗟に横に飛んだ三道 六黒(みどう・むくろ)の居た場所に、桐生 円(きりゅう・まどか)の放った砲弾が着弾する。
「逃がさないよー! さ、ギフトを耳を揃えておいてくんだ」
「む、追い剥ぎか」
 魔鎧葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)の行動予測で、飛来する砲弾を避けながら六黒は距離を取った。
「ボクの御神託によれば、君達が手に入れたギフトはイコンみたいなものだって出てる。そんなかっこいいのずーるーいーぞー」
「ほう、これがそんなに欲しいと申すか」
 六黒は左腕に装着された銀色の腕輪のようなものを見せる。
「さらにさらに、君達がかりそめの契約しかできてなくっいてのも知ってるぞ」
 どや!
「御神託とやらも侮れぬものだな。では、力ずくで奪ってみるか」
「お、余裕だね。そんな事言っちゃっていいのかな。その試練が、その身を持って知ることってのもボクは知ってるんだよ」
「ほう。それは、その身を持って何を知るものであると言うのだ?」
「う、それは……そう、破壊力。どれだけ危険なものか、その身を持って知れってことだよ」
 御神託とは、曖昧なものである。
「とゆーわけで、いけ! ミネルバ!」
 覚悟を決めた顔で、ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が現れた。
「よ、よーし、来い!」
 ここに立つ前に、熾烈な舌戦が二人の間で繰り広げられていた。舌戦で、ミネルバに勝つ術などあるわけもなく、こうして実のところよくわかっていないイコンの前に身を晒すことになったのである。
 御神託とは、かくも残酷なものである。
「破壊力か、なるほど。いいだろう、まともに実践で使ってみる必要があるとも思ってたところだ」
 六黒が腕輪を掲げると、銀色の体躯の巨人がそこに姿を現した。銀色の二枚ある機械の翼を持った、機械の巨人だ。熾天使のオーラを模したものというだけあって、ぼんやりとだが向こう側が透けて見える。
「では、ゆくぞ」
 機械仕掛けの天使は、待ち構えるミネルバが望む通りに、小細工などせずに殴りかかった。
「サクロサンクトォォォォ!」
 叫びながら、堪えようと足に力をいれたミネルバだったが、その抵抗も空しく簡単に吹っ飛ばされて、そのまま壁に叩きつけられた。
「わーお」
 円がホエールアヴァターラ・バズーカを構える前に決着がついてしまった。
 壁に叩きつけられたミネルバは、糸の切れた人形のようにうつぶせに倒れた。
「ふむ、やはり思ったよりは一撃が軽いな」
 この威力で軽いだって、とは言いがたいものがある。同じサイズの、現在使われているイコンであれば、威力はもう少し高くなるだろう。
「やはり、この程度ではドージェを仕留めるには届かないか」
 ドージェであれば、このイコンをいとも容易くねじ伏せるだろう。
「さて、次はお前の番になるな」
「むむむ……」
 まさかミネルバが一瞬で落ちるなんて。その間に持ち主を攻撃しまくろうと思っていた円の作戦がパーになってしまった。今のを自分が受けてなんとかできるとは、そもそもできたとしてもそんな痛そうなのは御免である。
「ふ、ふふふ、ふはははは! ど、どうだ、耐え切ってみせたぞー!」
 突然おかしな笑い声をあげて、ミネルバは立ち上がった。
 その目は、とても正気には見えなかった。漫画とかで稀に見かける、ぐるぐるしたお目めになってしまっている。
「心が折れなければ、立ちあがれる。受けきって見せたー!」
 どう見てもふらふらだった。
「ここだー、どっかーん!」
 六黒が、興味深そうな視線をミネルバに向けたのに気付いた円は、ホエールアヴァターラ・バズーカで攻撃を仕掛けた。爆発で一度視界が塞がれる。
「どうだい、ミネルバはその身を持ってキミの力を知って見せたよ?」
 キリッ!
 もくもくとした煙がゆっくりと晴れる。だろうとは思ったが、顕在なギフトと六黒の姿があった。ギフトが、砲弾の盾となったのだろう。
 持ち主に攻撃を当てるには、ギフトを掻い潜るなり後ろに回りこむなりしないと、弾速の遅いバズーカでは難しい。
 視界も開け、今度は六黒が仕掛けようとしたところで、警報が鳴った。何かアナウンスらしきものも聞こえたが、何を言っているかはわからない。
「うわっ」
「なにこれっ!」
 強い風が吹く。吹き飛ばされそうなほどの強い風に、二人は思わず近くにあったものを掴んだ。
 それは六黒も同じで、手にした剣を突き立てて吹き飛ばされないように耐えている。
「何があったの?」
 二人からずっと離れた奥、壁がゆっくりと開いていく最中だった。中の空気が、気圧の差で外に吸い出されているらようだ。
 開かれた向こうにあったのは、空だった。

 ここに来るまで集めたイレイザー・スポーンを、プリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)はブラッディ・ディヴァインのパワードスーツに向かって投げつけた。十体ぐらいはある。
「これでもくらえー!」
 集める手間もかかった秘蔵の一品ではあったが、それはいとも容易く、あっという間に撃破されてしまった。
 セラフィム・アバラータによってである。ここに来る道中で見た、叩き潰されたスポーンの亡骸と、同じ運命を辿っていた。
「せっかく集めましたのに……」
「ギフト相手に、イレイザーの仲間は相性が悪いみたいですね! やはりここは、鍛え抜かれた体が一番です!」
 ルイ・フリード(るい・ふりーど)がイコンに向かって殴りかかる。霧か幻のように見えるが、殴るとしっかりとした手ごたえが返ってくるし、殴った場所は少し凹んで、効果があるのが見てとれる。
 切り替えしの一撃を、まるで蝶のように舞ってルイは避けた。
「私も!」
 プリムローズの絶零斬がセラフィム・アヴァターラの肩を叩く。さすがに堅く、刃を通すこともできなかったが、冷気によって肩に氷が付着した。それによって、片腕の動きが目に見えて鈍くなった。
 張り付いた氷を剥がそうと、セラフィム・アヴァターラはもう片方の手で払った。
 両腕がふさがった瞬間を、ノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)の二人はそれぞれ見逃さなかった、二つのイレイザーキャノンが放たれる。
 狙われたブラッディ・ディヴァインは、イコンごと横に逃げようとした。
「避けるな!」
 そう叫んだのは、ブラッディ・ディヴァインの誰かだった。
 その言葉の意味はわからなかったが、その声は避けようとした敵の足を止めた。イレイザーキャノンの直撃コースで、立ち止まったのである。
「ぐうおおおおお」
 ビームを受けたセラフィム・アヴァターラは、吹き飛ばされて後ろにあった大きな何かに背中から叩きつけられた。ビームが途切れると、そのまま地面に落下しながら、出てきた時と同じようにすっと消えていった。
「イレイザーキャノン二発の同時攻撃には、耐えられないというわけなのだな」
「我輩のエネルギーを全て込めた一撃である。耐えられるわけがないのである」
 イコンは消えたが持ち主はどうなったか、探すまでもなくすぐ近くに倒れていた。イコンを呼び出した時に使った腕輪を回収しようと近づいたところで、警報が鳴り、間もなく突風が吹く。
「あ!」
「イコンが」
 風は、倒れたパワードスーツを吸い込んでいった。
 せめて腕輪は回収しようと、プリムローズは飛んでいくパワードスーツを追いかけたが、途中で足を止めた。
「何をしているのですか、早く追わないと」
 ルイと毒島大佐がプリムローズに追いつくと、彼女は困ったような表情をしている。風が止むのを待って、プリムローズは片手を差し出した。
 その手には、先ほどの腕輪らしきものがあった。飾り気の無い銀色の腕輪だったものは、赤茶色に錆びて、簡単に崩れていく。まるで、何百年も経過した金属のように。