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リアクション
儀式初日(儀式の始まりと参加者たち)
「ねぇ〜え? もうこの位で良いんじゃなぁ〜い?」
オカッパ頭のブサイクが……いや失礼、鍛冶 頓知(かじ・とんち)が「やぐら」の中から見上げて言った。
パートナーの鈴木 麦子(すずき・むぎこ)が木材を抱えてよじ登っている。ブサイクはそれを見守りながら『サイコキネシス』でフォローしているようだ。
「それ以上高くしたら、ボクの『サイコキネシス』が届かなくなっちゃうぅ〜」
なら登れ。
「ダメです! もっともっともっともっとです! こんな程度では「やぐら」とは呼べません!」
などと麦子は息巻いているが、「やぐら」は既に10m近くまで組み上がっている。「やぐら」としては十分な高さではあるのだが……。
「いいえ、まだまだです。普通のキャンプファイヤーじゃ喜んでもらえません! もっと、もっと高くです―――って、あっ、きゃっ!!」
「麦子っ!!」
バランスを崩した麦子がフラフラと、頓知の『サイコキネシス』も届かない。麦子は真っ逆様に落下した。
「ふぅぅぅぅうううん!!!」
男臭い低音ボイスで麦子を受け止めた頓知……の後頭部に間もなく木材が突き刺さる。
「えっ、きゃっ、ちょっ、きゃぁあああああ!!!!」
覆い被さってくるブサイク、手放してしまった木材。そして「やぐら」が盛大に崩れて倒れてしまった。
「おぉうっ! 何だ?!!」
やぐらの崩れる音を聞いて、ヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)が駆け寄ってきた。
「って事故じゃねぇか! みんな急げ! 木を退かすんだ」
『超人猿』の超さんや『ホエールアヴァターラ・クリフト』の山田さん、それからアヴァターラシリーズのアニマルズと一緒に崩れた木材を撤去してゆく。儀式が円滑に進むように皆のサポート役に徹しようと考えていたようだが、まさか木材撤去をする事になるとは思ってもいなかった事だろう。
「怪我は……してるな。運び出すぞ」
麦子は無傷だった。しかしブサイクが……。
「任せろ」セリカ・エストレア(せりか・えすとれあ)が頓知を抱き上げた。
「ここは俺が行くから、お前はやれる事をやれ。仕事、明らかに増えただろ?」
確かに……食事の準備や医療班の手伝い、それから疲労回復の場を設けたりなどなど、やるべき事は無数にある。その上「やぐら」の組み上げなんて……っていうか、さっさと「やぐら」を完成させないとキャンプファイヤーが始められない?!!
「よし皆! まずは「やぐら」を組み上げるぜっ!!」
志半ばで保健室へ付き添った麦子の為にも、高さ20mの「やぐら」を目指してマニマルズたちと共に木材を組み上げてゆくのだった。
「キャンプファイヤー……キャンプファイヤーねぇ………………はぁ……」
参加者たちの全員がやる気に満ち溢れていると? まさかそんな、そんなはずはない。上條 優夏(かみじょう・ゆうか)は絶賛やる気無し男だった。
「キャンプファイヤーってイベント自体がリア充のイベントやからなぁ。あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜、どうでもええ」
「ちょっと優夏! そんなんじゃ儀式の邪魔になるでしょ!!」
パートナーのフィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)が叱りつけた。……オカンのようだ。
「んな事ないで。手と手を取り合って生まれる”哀”を持って儀式を行うんやろ? つまり、俺のこのリア充爆発しろ、て思いこそが重要なわけでやな、」
「その”哀”じゃないよっ!! ってゆーか、その”哀”なわけないじゃん! どんだけ悲しい儀式なのよ!!」
参加者たちに「愛と絆のステキさ」を伝える前に、この「ヒキコモリータ(HIKIKOMORI+ニート野郎)」に理解させる必要があるとは……。
「もういいわ、そこで見てて! あ、見てるだけなんてダメだからね! 自分の仕事もするのよ! せめて働いてるフリだけでもするのよ! いい? 分かった?!!」
「分ぁった、分ぁったっちゅうねん。何かやってるフリしながら「聞き耳」立ててれば良ぇんやろ?」
優夏は『風の便り』で周囲の様子を、特にインテグラル・ナイトの動向を探るのが役目だ。フィリーネは『幸せの歌』やディーヴァ(歌姫)の実力で参加者たちのテンションを上げてゆく。
スタンスの違いはあれど、儀式に関わろうとする思いがあればそれは力となり礎となるのだから。
「早くも保健室に運ばれる方が出てしまいましたか」
校庭の一角。ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が手を止めて言った。「急いだ方が良さそうですね」
「おうよ、明らかに需要はあるぜ。さすがはソアだな、良い読みだ」
雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が誉めたが、ソアはあっさりと謙遜した。
「校舎から机を運んで来て貰えますか? 私は飲み物の準備をします」
「了解、任せときな」
二人でシートを敷いた所で別行動。ベアは校舎へと向かった。
儀式は三日間行われる。連続で行われるが、三賢者は「最低でも二人の術者が輪を成していれば良い」と言っていた。つまり「術者の数が増減しても儀式が途切れることはない」というより、途切れさせないように「体の一部が触れた状態で」入ったり離れたりすれば良いという事だろう。常に通電状態、そんな状況になれば良いと。
『不寝番』を発動している術者も居るようだが、それでも休息を取るに越したことはない。水分や糖分の補給はもちろん、お菓子なんかも振る舞えるような、そんな休憩スペースを二人は作ろうとしていた。
三日連続で行われる奥義の儀式。過酷である事は間違いないが、儀式がこんなにもイベントじみているなんて思ってもいなかった。ちょっとした耐久レースのようだ。
学校が完成するより前にこのようなイベントを体験できることに感謝して。皆でこの試練を乗り切れたら、とソアは心から思っていた。
儀式初日のスタートは実に良い雰囲気だ。
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