空京

校長室

創世の絆 第四回

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創世の絆 第四回

リアクション


儀式最終日(メテオライブと儀式の終わり)

「ほれ! 見てみぃ〜!!」 
 空を見上げて両手を広げて日下部 社(くさかべ・やしろ)は喜び叫んだ。
 ライブ開始の五分前。早朝から降っていた雨は、空気を読んだかのようにピタリと止んでいた。
「なんちゅう幸運や。このライブ成功させぃゆうお告げや。いや、ちゃうな! お前等が晴らしたんや! 諸君らの熱い思いが雨雲さえも吹き飛ばしたんや!!」
 846プロダクションの面々を前に誇らしげに言う。彼らはみな846プロダクション所属のアイドルであり、今日のライブの出演者だ。社長であるからしたら彼らはみな、我が子同然、我が半身のような存在だ。
「また調子のいい事を……」
「一度言い直してるし」
「口調バラバラだしね」
 我が子達から食らう「ダメだし」の数々。パートナーの響 未来(ひびき・みらい)にも「まぁ、いつも通りだけどね」なんて言われる始末。それでもこれもいつも通り。緊張と脱力の良い塩梅だ。
「よぉし、行くでぇ! 儀式の三日目最終日! 最後のイベントや! しっかりキメて来ぃや!!」

 ライトが浴びるステージ上。そこに琳 鳳明(りん・ほうめい)響 未来(ひびき・みらい)の二人が上がると、割れんばかりの歓声が客席から上がった。
「わー、みなさん、ありがとうー」
 手を振って応える二人に、舞台袖から南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)がカンペを出す。
『進行!』
「……え、あ、始まってますか」
 もう少し歓声に応えていたかったが、鳳明は切り替えて観客に呼びかけた。
「み……皆様お待たせです! これより、846プロダクション主催の『メテオライブ』を始めますっ!」
 再び歓声が上がる。この瞬間が快感で何度だってステージに立ちたくなる。鳳明はそんな幸せを十分に噛みしめていたのだが、
『笑顔!』
 ヒラニィはカンペで「笑顔」を要求してきた。
 「笑ってるんだけどな」なんて思いながら、ニコォと笑ってみせたが、
『笑顔!!!』
「ひっ……」
 ヒラニィはバンバンとカンペを叩いていた。
「は〜い☆ 今日は私たち『ラブゲイザー』が司会をやっちゃいま〜す♪」
「よ……よろしくねっ♪」
 未来に続いて、彼女のキラキラテンションにノッて言ってみた。
 結果は……大成功! 歓声は怒号のように沸き響き、ヒラニィもようやく『笑顔!!!』のカンペを下ろしてくれたようだ。
「今日のライブの見所聴き所は何といってもシャッフルユニット♪ 誰と誰が組んだかはお楽しみ☆ さーて、早速始めちゃお〜かな♪ 一組目トップバッターは、この方々です♪」

「フハハハハハハハ!」
 スモークの中から高笑いと共に現れた。
「我が名は秘密結社オリュンポスの天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)! このライブは、我らオリュンポス魔法少女団が乗っ取った!」
 いきなりのライブ乗っ取り宣言!! 
 しかしご安心を、これも演出。彼らも「846プロダクション」に所属しているし、少女団の一人ウィア・エリルライト(うぃあ・えりるらいと)は現在、シーアルジスト(召喚師)として術式に参加している「真面目さん」である。
 「ライブが終わるまでは私が一人で二人分がんばります!」という彼女の思いに応えるためにも「必ずライブを成功させてやる」と意気込む「熱血さんたち」でもある。
「ククク。さぁ、悪の魔法少女アイドル咲耶および優奈よ、姿を現すのだっ!」
 ステージの左右からスモークが噴き出した。そこに薄紅色のライトが当てられ、そしてその中から―――
「変身っ! 悪の魔法少女アイドル咲耶
 高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が飛び出した。続いて『メタモルブローチ』で変身した奏輝 優奈(かなて・ゆうな)が紫色のライトの中から飛び出す。
「行くでー!! 最後までぶっ倒れんなやー!!」
 いきなりのトップギア。
 『熱狂』を使ってのシャウトと『リリカルソング♪』の麗声で観客を引き込んだ。
 最後に『幸せの歌』で仕上げた二人のデュエットも披露した。退場の際の「くっ、覚えておれよっ!」「お……覚えてろぉ」「おぼえてろー」の掛け声こそ合わなかったが、敗戦退散の演出に関しては三人で見事に演じてみせた。シャッフルユニットとは思えないほどに息のあった見事なステージだったといえるだろう。

「え、と。あの、次はボクなんだけど」
 舞台上に神崎 輝(かんざき・ひかる)が一人。ライブのコンセプトは「シャッフルユニット」なのには一人ソロプレイだった。
 会場の熱気は本物だ、いまさら引き返せない。パートナーの一瀬 真鈴(いちのせ・まりん)は会場の警備に行っているから頼ることも出来ない。何よりステージに立ってしまったからには他の誰を頼る事も出来ないのだ。
いや、違うよ……普通なら相方に頼れる所だもん
 だってこれはシャッフルユニットライブなんだから。……まぁ、いつまでもそんな事を言っていても始まらない。意を決して客席を見つめる。
「み、みなさーん、ボクの歌を聞いてくれますかー?」
 の呼びかけに客が一段と沸いて応えた。は一人で不安がっていたが、実は会場にはたくさんのファンが駆けつけていて、彼の登場を今か今かと心待ちにしていたのだ。一人ぼっちでオロオロしているの姿は正にご褒美、涎ジュルリと見守り、堪能していたようだ。
「そ、それじゃー、いっくよー!」
 も『熱狂』で熱唱、『ショルダーキーボード』を掻き鳴らす。
 のシャウトの度に会場が一つに、また盛り上がりを増してゆく。男の娘アイドル恐るべし。会場の熱気と共には一気に駆け抜いた。

 客席の後方。未来の「さぁ次は、おまたせ☆お任せ☆ ヒーローソングメドレーだ〜♪」の言葉に合わせて客席の後方で爆発が起こった。
 爆薬の仕込みをした徳川 家康(とくがわ・いえやす)が、これでもかと火薬の量を増したようで、おかげで客の目は一気に後方の特設ステージへと向けられた。
「蒼い星からやってきて、燃える魂歌う者!」
 後方ステージの上空から飛んで現れるは正義のヒーロー、仮面ツァンダーソーク1こと風森 巽(かぜもり・たつみ)
「仮面ツァンダーソーク1! さぁ! 最初からクライマックスで行くぜ行くぜぇぇえっっ!!!」
「ボクだってー」
 パートナーのティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)は舞台に駆け上がりながらに『変身!』をした―――フリをして上着を脱いだ。『巫女衣装』をアレンジした『リリカル魔法少女コスチューム』に身を包み、ステージに立った。
「今日は特撮ソング三昧だ! 喉が潰れるまで歌いきるぜ!」
「一曲目! メテオと言えばこの曲! 『シューティングスター☆彡』!」
 仮面シンガーたちが舞台上で躍動する。ヒーローソングは世代を問わない。特撮ヒーローのオープニングや劇中歌のメドレーを次々に歌っていった。
 客のボルテージはマックス、完全に二人に釘付けだ。その間に……
うん。そうね、ここで。ここ
 誰も居ない正面ステージ上で、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が岩塊や背景のセットを指差し確認をしていた。
 全て運び終えたか、場所は正しいか。たちのステージが終わる前に、次のステージの準備を終えなければならないからだ。
大丈夫。オッケーね
 舞台袖でネージュの合図を受け取った高天原 水穂(たかまがはら・みずほ)は、出番を待つ鍵谷 七海(かぎや・ななみ)にその旨を伝えた。
「みなさん、準備はよろしいですか?」
「うん。ありがとう水穂、助かったよ」
「いいえ、私は何も」
 謙遜しているが水穂も小道具の準備や七海らのメイクを手伝っていた。何かとバタつく舞台前においては、彼女のようないわゆる「助っ人」は本当に非常に助かるのだ。
「それでは私は後方のステージに向かいますわ。風森さん達のクールダウンに付き合いますので」
「ありがとう。がんばって」
「みなさんも頑張って下さい」
 ヒーローソングメドレーが終われば、次は『チェリーブロッサム』による舞台演劇の幕開けだ。

「ぐっ……くそっ……これほどとは……」
 ヒーロー役飛鳥 桜(あすか・さくら)が膝を着く。『ワイヤークロー』を持つ手も実に重そうだ。
「ふっ。やはりその程度か」
 山下 孝虎(やました・たかとら)が『グレートソード』を地に突き立てる。インテグラル役孝虎は緑黄の衣装以上に『鬼神力』による巨大化と目力で禍々しい雰囲気を演出していた。
「その程度の力でニルヴァーナの地に降り立つなど笑止、万死に値する。己の弱さを恨み、死ぬがいい」
 インテグラルが再び『グレートソード』を手に歩み寄る。それに合わせてBGMもテンポを増してゆく。演奏しているのは七海アルフ・グラディオス(あるふ・ぐらでぃおす)の二人だ。
 劇の序盤から終盤の今までずっと速かったテンポが、ヒーローが劣性になった所から緩くなっていた。アルフなどは「あぁ……指疲れた……」なんて言って休憩していたが、劇はここからが見せ場、BGMはテンポもボリュームも一気に上がる予定だ。のんびりしている暇は無い。
「くそっ……」
 一歩、また一歩とインテグラルが迫り来る。初めこそ互角に打ち合えていた、側転やアクロバティックな動きで攻撃を回避できてもいた。それが急に通用しなくなった。
 一体なぜ……。
 考えられる理由が一つ。戦いが長期化したことで「動きが読まれ始めた」ことだ。だとしたら、同じに向かっていっても勝ち目はない。ならば―――
 インテグラルの剣が降り下ろされる。どうにか避けて、追撃を『ワイヤークロー』の鉤爪部で受けた―――しかし力比べになれば、分が悪い。
「諦めろ。その細腕では……いや、その弱さでは何も得られはしない」
「弱くたってな……力が足りなくたって……諦める理由にはならねぇんだよ」
 わざと飛ばされて距離をとる。動きが読まれてるならイレギュラーを混ぜるまで!
「うぉぉおおおおおおお!!」
 正面から突撃、その最中に『フルムーンシールド』を投げつけた。
 鋭い回転で向かってゆく盾をインテグラル避けてみせた。その巨体で敢えて避ける事で余裕を見せたつもりだろうが、それが命取り。盾の後方にピタリと付けて駆けていたヒーローインテグラルの懐に飛び込んだ。
「はぁあああああああ!!!!」
「ぐっ……ぐぉぉおおおお……」
 腹部への連打。BGMの鍵盤音と『驚きの歌』がピッチを上げる。
 一気にラッシュ。
「だぁりゃあっ!!」
 最後はインテグラルの頭上に飛び、戻ってきた『フルムーンシールド』を空中でキャッチして、そのまま叩きつけた。
 崩れるインテグラル。それに合わせて多比良 幽那(たひら・ゆうな)らのバンド演奏が始まった。『チェリーブロッサム』による劇のエンディングである。
 キーボードにドラムにベース、ギターが二人。五人もの『樹木人』たちの演奏に合わせて幽那が歌い始める。
 その中でヒーロー役が客席に語りかける。「劇中の敵は私が倒した。今度はみんなのメテオ級の力、見せてくれよな!」
 劇の熱気も冷めぬまま、幽那たちの演奏は続く。織田 帰蝶(おだ・きちょう)幽那へのコールやファンであるかのような振る舞いをして盛り上げていたが、そんなことをする必要がない程に劇も演奏も反応は上々だった。
 観客の多くがインテグラルを倒すという内容に共感してくれた、と。そう思えるような盛り上がりだった。

 ライブの最後は乙川 七ッ音(おとかわ・なつね)赤城 花音(あかぎ・かのん)のデュオユニット。お互いにニルヴァーナ校に新設される「音楽科」の為に活動している二人は互いに顔なじみな上に、この日のためにそれぞれ新曲を用意していた。それを今日は披露するという。
 笑顔の碓氷 士郎(うすい・しろう)に見送られ、まずは七ッ音が歌い始める。曲名は「pure♪sounds」


 夢幻に惑う途切れた音
 他と混ざる時夢見てるの

 迷って眩んだら手を伸ばして
 太陽に誘われ明るく転調してくはず

 僕らは小さなsoundだけど
 声高らかに歌え!
 希望はクレッシェンドしてく

 響いて輝いて広がる喜び
 soloじゃ出来ない世界を紡ごう
 ほら、音は調和し繋がっていった


 バックステージで士郎がマイクレベルを下げる。次の曲は花音の新曲「愛の鐘」だ。
 リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)の合図で曲が始まる。


 雫れ落ちる涙は風に乗り あざやかな虹色の架け橋
 あなたはあなたの答えを 後悔は無いから信じて
 届かない想いを越えて 少しでも強くなろう
 雨上がり柔らかな陽射し さあ、手を伸ばすよ

 世界は何時もハンドメイド 広がる景色は色あせない
 恋の終わりは儚くても 本当のスタートライン…ありがとう

 教会の丘…愛の鐘は鳴り響く 護りたい決意に贈るエール
 出逢えて良かった大切な人 叶えたい夢を忘れないで
 透き通る空の下 もう迷わないで進んでね
 これからは二人ずっと一緒 旅の幸運を祈るよ おめでとう♪


 キーボードとアコギのシンプルな演奏に二人の優しい声が乗り響く。
 ライブの様子はリュートが『デジタルビデオカメラ』で記録している。これらも学校の基金計画の一端になれたらと考えていたが、それも忘れてしまう程にリュートも二人の歌に引き込まれていた。
 儀式やニルヴァーナの現状を歌ったものではなくとも不安な気持ちは皆に同じ、この地への期待もまた同じはずだ。
 846プロダクション主催の『メテオライブ』、そのラストは二人の落ち着いた曲で終幕である。
 曲の終わり、参加者たちの様々な想いがステージに向かい集った所で、ちょうどタイムアップ。儀式の終わりの時と重なった。
 奥義『メテオスウォーム』の発動準備、三日間にも及ぶ儀式が無事に終わったようである。