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創世の絆 第四回

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創世の絆 第四回

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空中要塞アディティラーヤ攻略戦.4

「おー、こっからなよく見えるな」
 マリリン・フリート(まりりん・ふりーと)は城壁の上に設置された物見台から、少し身を乗り出していた。
「眺めがいいのはわかるけど、落ちないでね」
 荷物を漁りながら、パメラ・コリンズ(ぱめら・こりんず)がマリリンの背中に向かって声をかける。すぐに目的のものを見つけたのか、あったあったといって蓋のされた魔法瓶を取り出した。
 禍々しい色の液体が入ったそれを、一緒に取り出したカップに注いでいく。
「一緒にどう? 今日のは特別苦くできた一品よ」
「いや、あいにく間に合ってるからねぇ」
 ノア・レイユェイ(のあ・れいゆぇい)はシュタと手を前に出して、差し出されようとする禍々しい液体をさえぎった。
(同じ魔女の大窯のスープで、ああも違いが出るとは驚きじゃのう)
 口には出さなかったが、伊礼 權兵衛(いらい・ひょうのえ)は同じ名前だが全く違うできのギャザリングヘクスに関心していた。
 ノアは權兵衛の用意したスープを受け取る。味については、美味いといいきれるものではないが、飲めない程の代物ではない。ちょっと癖のある栄養ドリンクみたいなものだ。
「うぇぇ」
「だめよ、ちゃんと飲み込まなきゃ」
 マリリンの方は、口に含むのに余程の覚悟を必要とし、そうして飲み込んでみた結果、涙目になる代物のようだ。
「しかし、簡単にいい場所が取れたのう」
 城壁の上に登るのは簡単で、ギフトが突っ込んだせいでちょっと瓦礫を上るだけでたどり着くことができた。見張り台は上ってすぐ見つけたものだが、中に誰か居る気配どころか、長年使われた形跡も無かった。
「誰もいなくて助かったわね、こうして準備もできるし」
「引越ししたんじゃないか?」
 マリリンが唐突にそんな事を言う。
「ふむ、本当に引越ししておれば楽ちんだったんじゃがのう」
 高台に上ったかいがあり、ここからなら辺りを一望できる。權兵衛が指し示す先には、わらわらとあちこちの建物から、うごめく集団が出ている最中だった。
「他のチームの事は知ったこっちゃないんだが……このまま何もしないってのもつまらないからねぇ。全力で行かせてもらうよ?」
 彼らと連絡を取り合い、連携をする仲間達をここから選んで支援するというのは効率が悪い。幸い、敵はうじゃうじゃと集まっているのだ、とにかくひたすら攻撃した方がいいだろう。
「お主が口先だけかもしれぬとはいえ、全力宣言とは……珍しいのぅ」
 そう言うものの、事前にギャザリングへクスの準備をするよう言ってきている。どこまで本気かはわからないが、少なくともある程度仕事をするつもりのようだ。
「まぁ…そういうのも悪くない」
 そうしてすぐに、仲間から連絡が来た。支援砲撃の合図だ。
「よーし、派手にやってやる!」
 四人はそれぞれ、手加減無しの魔法を敵の群れに向かって解き放つのだった。



「敵陣を食い破れ!」
 八神 誠一(やがみ・せいいち)の号令と共に、突撃部隊が敵の軍団に突撃していった。
 敵は、イレイザー・スポーンが僅かに混じっているが、ほとんどは機晶姫によって構成されている。彼らの装備は、短機関銃のようなものや片手で振り回せる剣などで構成されていた。
「やっぱり、こういう戦闘に砲撃は欠かせないぜ」
 シャロン・クレイン(しゃろん・くれいん)は、両手に銃を持って敵へと切り込んでいく。
 魔法による支援砲撃によってできた穴を、食い破るようにして突き破っていく。単純なものだが、その効果はかなりのものだ。
「連携を維持しろ!味方を孤立させるな!」
 声をかけながら、目の前の敵をとにかく切り倒していく。トドメまで刺したかどうかの確認はせず、とにかく道を開けていくのが今では一番大事なことなのだ。
「周囲全部敵、無駄弾撃たずに済むってモンだぜ!」
 突撃部隊の先端にいる彼らは、まさにその言葉通りに周囲に敵しかいないといった状態になっている。それをとにかく切り裂いてすすみ、そうすれば後続の仲間が道を広げていってくれる。
 だからこそ、勢いをとめないためにも足を止めてはいけないのだが、二人の足は目の前に現れた機晶ロボによって無理やり止められた。
「でかっ」
 イコンという程ではないが、全長三メートルはある大きなロボが立ちふさがってきた。
 つるんとした金属のボディに、四本の足を持ち胴体には砲身のようなものが四本飛び出している。
「ここは私にお任せあれ!」
 二人の間を割って飛び出してきた、ルイ・フリード(るい・ふりーど)は、そのまま戦車の足にタックルを仕掛け、足に抱きついた。
「ふんっ、ぬおおおおおおおお!」
 そしての足を、力任せに持ち上げて、機晶ロボをひっくり返してしまった。戦車は近くのスポーンを一体巻き込みながら倒れて、じたばたと足を動かしている。自力では起き上がることができないようだ。
「さぁ、道は開きましたよ!」
 振り向いて、親指を立てるルイ。すばらしい笑顔だ。
 その背後を、今だとばかりに機晶姫が剣を持って襲い掛かる。その剣戟がルイに届く前に、深澄 桜華(みすみ・おうか)が機晶姫の剣を弾き返した。返す刀で、機晶姫の胴体に一閃を加える。真っ二つにはならず弾き飛ばすに留まったが、倒れた機晶姫はそのまま動かない。
「全く、約束を違えるつもりか」
「約束?」
「わ、忘れたか。作戦が終わったら……最高級の……」
 ん、とルイは首を傾げて、すぐに思い出した。彼女に作戦に参加してもらうために、お酒をプレゼントすると約束したのである。それもかなりいいものだ。
「とにかくだ。美味い酒を飲むには景気のいい話の方がよい。何か慎む酒など、美味くはないのじゃ」
 ぷいっと桜華はそっぽを向いた。仮面をつけてるから、表情を読み取ることなんてできないのにである。そのまま、別の敵に向かって行ってしまった。
「そんなにお酒の隠し場所が気になるんですね、やっぱり」

「敵は機晶姫か……ちゃんと相手をしていけば問題は無い、か」
 日比谷 皐月(ひびや・さつき)は突撃部隊に参加しながら、敵の動きを冷静に分析していた。
 敵の主力である機晶姫は、つるんとした銀色のボディをしている。女性の姿をしていることが多い機晶姫だが、ここに居るのは男女の区別がつきにくい中性的な姿をしている。全く同じ外見の集団は、工業製品のようですらある。
 武装も、剣や短めの槍、斧などを持った近接担当と、小銃や短機関銃を持った中距離担当の二種類で、遠距離は機晶ロボが担当しているようだ。動きは、悪く無いが飛びぬけていいわけでもない。
「この作戦に参加するような連中なら、一対一ならそう簡単にはやられないだろうな」
 もっとも、個々の性能差はこんな乱戦ではあまり重視すべき部分ではないだろう。それよりも、視野の広さの方が重要になる。
「こいつら、本当に頑丈ね」
 その拳で敵を殴りつけたのだろう、翌桧 卯月(あすなろ・うづき)はひらひらと手を振っている。
 もしこの機晶姫に特徴があるとすれば、とにかく硬い事だ。とにかく頑丈で、硬い。当たり所がいいと一撃でも倒せるのだが、運がいい奴は何度も何度も立ち上がってくる。
「足元からの不意打ちには注意しとくように言っておくか」
「そうね。私達も、サポートし合ってここを切り抜けましょ」



 城壁の上を、ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)トリア・クーシア(とりあ・くーしあ)の二人が全力疾走していた。目的は、次の支援予定地に向かうためである。
「調子がいいのはいい事だけど、進軍が早すぎるよ」
 一度の突撃で、機晶姫の部隊はあっという間に崩れていった。
 それはとてもいい事なのだが、スタート地点が一緒で準備時間のあまりなり魔法支援の二人には、忙しい移動を要求される事にもなっている。
「魔法で精神力を使う前に、体力を浪費してしまうわよ」
 走って、地点を確保し、砲撃し、走って移動。
 地上の砦内部も、平坦な構造ではないが城壁も面倒なつくりになっていて、あるいは上を走る方が移動距離は多いかもしれない。
「でも、このまま行けば楽勝だよね」
 ユーリの言葉に、トリアはなんとなく嫌な予感を感じた。
 それは、彼女に何か特別な予知能力があるとか、そういう類の予感ではない。
 戦いが始まったばかりで、誰かが楽勝だとか簡単だとか言うと、そんな事は無いとでも言うかのように状況が悪化していくのである。
「ええ、そうだといいわね」