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リアクション
空中要塞アディティラーヤ攻略戦.9
「全兵装使用自由!! 奴らを生かして返すな!!」
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)がそう掛け声を飛ばすと、鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)の六連ミサイルポッドからミサイルが飛び出していった。
「みなさん、下がってください」
慌てて、レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)が呼びかける。エリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)も近くにいた女兵士を引き倒して頭を下げさせた。
飛び交うミサイルは、それぞれ見事にイレイザー・スポーンに直撃し、あまり浴びたくない飛沫を散らしながら消し飛んだ。
「ら、乱暴ですね……」
思わず、レジーヌの口からそう言葉が漏れる。ミサイルは確かに数体のイレイザー・スポーンを吹き飛ばしたが、獲物に命中せずにクジラ型ギフトの内壁にぶつかったものもあった。威力を下げてあるらしく、クジラ型ギフトの内壁には大きなダメージにはなっていな。
「今のでおしまいみたいね」
呟くは幸いにも吹雪には届かなかったらしく、周囲に視線を巡らせて敵の第二派に警戒していた。
「助かりました」
「あっぶないじゃない! 怪我したらどーするのよ」
せっかく聞こえないでくれていたのに、エリーズが吹雪につっかかっていく。
「―――」
エリーズに吹雪が何か言おうとするのをさえぎって、二十二号がずずいっと前に出た。
手と足をぴこぴこ動かしてみせて、何かを伝えようとする。
『明日の 天気 は グッジョブ?』
エリーズはその奇妙な動きをがんばって翻訳して、口にしてみた。ぶんぶんと大きく首を振る二十二号。
「ちょっと、伝えたい事があるんならもっとちゃんとわかりやすくしなさいよ」
二人の熱気の入ったジェスチャーゲームを、レジーヌと吹雪はとりあえず無視する事にした。付き合っていたら時間がもったいない。
「この物資はなんでありますか?」
「食料と医薬品がほとんどです。動かすのが後回しになってしまっていたようで、防衛線を強いている搬出口に置きっぱなしになっていました。今、倉庫に運んでいる最中です」
「了解したであります。途中までは道が同じですので護衛のお手伝いをしましょう。ところで、先ほどのスポーンは一体どこから進入したかご存知でありましょうか?」
「どこからはわかりませんが、この通路の奥から来たみたいですけど……」
そう指し示す通路を見やって、吹雪は通信機に手を伸ばし籠手型HC弐式を操作しだした。
指先で前進の合図を送り、レジーヌは頷いてエリーズに視線を向けた。もはや、ジェスチャーなのか阿波踊りなのかよくわからない。いつの間にか、同じ輸送班も奇怪なジェスチャーを読み解く作業に参加している。
「あの、そろそろ移動しましょう」
緊急時なのになんだか楽しそうで、声をかけるのに少しためらってしまった。
「奇妙だな」
笠置 生駒(かさぎ・いこま)は、先ほど吹雪から送られてきた敵の情報を見て呟いた。
クジラ型ギフトの内部に敵が出てくるなんてのは、現状ではありえない。外のバリケードの防衛はまだ崩れていないし、バリケードを無理やり突破してもクジラ型ギフトの周辺には多くの戦力が割かれている。
さらに、一部の通路などを通行止めにしてトラップも仕掛けてある。外周部に近い地点といっても、そう易々と進入を許すとは思えない。
「テレポートの類かのう?」
ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)が首を傾げる。
「そんな便利な手段があるのなら、愚直にせめてこないはずだよ。どこかに見落としがあるのかな」
クジラ型ギフト内部の見取り図を眺めながら、考えていると連絡が入ってきた。足利 義輝(あしかが・よしてる)だ。
「見てきたぞ。この辺りに設置したトラップは軒並み起動している、どうやら進入は確実だろうな」
「一体どこからだい?」
「ふむ、今向かって……ほう」
通信機の向こうで、義輝は感嘆の声を漏らした。
その地点、敵が侵入してきているのは、クジラ型ギフトが不時着した時に城壁に突っ込んだ部分だ。衝突のショックで、小さな穴が一つ開いている。
そこから、染みこむようにしてイレイザー・スポーンは進入を果たしていた。
猫が小さい隙間に体を突っ込むようにも見える。猫だと可愛らしいが、イレイザー・スポーンのその様子には、一切そんなものは感じない。
「少し片付けをしておこう」
通信機の向こうで、威嚇のような声が聞こえて、すぐに通信は途切れた。
「クジラ型ギフトは私が守る。好き勝手なんかさせません!」
富永 佐那(とみなが・さな)は叫びによって、イレイザー・スポーンにダメージを与えた。
隙間から進入しようとしていたイレイザー・スポーンに特に効果があり、ひっかからせる事に成功した。
『咲乱れろ――万華桜爛』
弱っているイレイザー・スポーンに義輝がライトニングウェポンのスキルを発動させつつ切りかかった。クジラ型ギフト内部に差し込んでいたからだの一部を切り落とされ、イレイザー・スポーンは絶命する。
「よし、これでひとまず穴は塞いだであろう」
前に出た義輝に向かって、イレイザー・スポーンが飛び掛った。身を翻しながら叩き落すものの、腕にかすり傷を追ってしまう。
「大丈夫?」
「問題ない。かすり傷だ」
さらに二体のイレイザー・スポーンが飛び掛る。
「このまま押し込もうという腹積りか、甘いな。帰せ――千烈太刀襖」
言霊によって魔技(ヒロイックアサルト)が発動する。
「我が魔技は数多の名刀の切れ味を己が得物に顕現させる――我が太刀の前に平伏せ」
まるで豆腐でも切るかのように、するりとイレイザー・スポーンの体に刃が通り、するすると二体のイレイザー・スポンを真っ二つに分断した。肉塊はぐずぐずとなって、やがて消滅する。
佐那は再び通信を再開し、生駒に状況を説明した。
「―――というわけです。小さな穴があれば、イレイザー・スポーンは進入できるみたいです」
「報告ありがとう。ひとまず、そこの穴はあるもので埋めておいてくれるかな。それと、トラップがいくつか発動した部分があるんだけど、もう敵は押し戻してあるから、もう一度仕掛けておいて欲しいって」
「わかりました。すぐに向かいます」
崩れた瓦礫の影にて、葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)は毒づいた。
「おのれっ」
クジラ型ギフト近くまで、ブラッディ・ディバインの部隊は近づくまではできたが、そこから取り付く事が中々できないでいたからだ。
「正面からやりあうのは、厳しいですね」
「奴らも必死というわけか、まぁ当然であろう」
久我内 椋(くがうち・りょう)の言葉に、三道 六黒(みどう・むくろ)は頷く。
クジラ型ギフトは、シャンバラの持つ強力な武装というだけではなく、移動手段でもある。もしこの場で、クジラ型ギフトが失われれば、彼らは帰る足を失うことになる。当然、生半可な防衛なんてしてはこないだろう。
「ふんっ、我が気に食わぬのは、きゃつらの方よ」
狂骨が吐き捨てながら、気に食わぬものを指差した。
それは、イレイザー・スポーンと機晶姫と機晶ロボの混合部隊だ。
「あやつら、こちらの考えを知らずクジラ型ギフトを壊そうとしておる」
「確かに、共闘してるように見えるかもしれないけど、こちらとしては邪魔なだけですね」
椋は頷いた。ロケットランチャーのような武装や、機晶ロボの砲撃はクジラ型ギフトに容赦なく放たれている。もしも彼らに、クジラ型ギフトが破壊されるのは、奪いに来た自分達にとっても困る。
だが、いくら個々の個体はただの駒で、イレイザー・スポーンの損失など彼らは意に介さないとしても、邪魔だといってこちらから切りかかるわけにはいかない。
「あまりのんびりはしてられんか、なんとか取り付こうぞ」
三人はブラッディ・ディヴァイン迎撃に出てきた部隊をさらに迂回して、クジラ型ギフトを目指した。
そんな彼らに向かって、硯 爽麻(すずり・そうま)がロケットシューズの勢いのままに飛び込んだ。
「ここから先には行かせません」
「単独で突っ込んでくるとは、片腹痛いわ!」
狂骨が討ち取ってやろうと立ち上がると、その足に向かってダガーが飛来した。気づいた六黒がそれを叩き落す。意識がそれたところに、爽麻が大きく振るった大刀「匁」を叩きつけた。
「おのれっ!」
受け止めたのは、その場に居た三人の誰でもなく、狂骨が展開したセラフィム・ギフトだ。手持ちの武器では、まともに受けきれない一撃であっても、セラフィム・ギフトであれば容易く受け止められる。
「放れろ!」
不穏な気配を感じ取って、カガリ グラニテス(かがり・ぐらにてす)が隠れ身を解いて声を出した。バランスを崩しながらも、爽麻は距離を取り直すと、六黒は表情を変えずに内心舌を打つ。
「ぞろぞろと集まってきたか」
そうこうしている間に、三人はあっという間に十人程のクジラ型ギフトの防衛部隊に囲まれていた。
「我らの墓標となるには、血の河が足りぬ。全ての力を手にし、全ての争いを総べ、血の大河を作り、初めて我らを葬る歌ができるのだ」
この状況を、狂骨はむしろ嬉々として受け入れた。セラフィム・ギフトを展開した以上、隠密行動も何もあったものではないだろう。「よかろう」とそう呟いて、六黒もまたここに腰を据えて暴れることを決めた。
(サンダラ・ヴィマーナだけではルバート殿の目的には足りないのでしょうか……)
クジラ型ギフトを奪おうとすれば、それなりの抵抗があるのは想定済みだろう。まして、今度は無人の施設を地図をもらって進むわけではない。
そこまでして手に入れる理由がクジラ型ギフトにあるのだろうか。
とはいえ、これは差し迫った疑問ではない。ひとまずは、向かってくる敵を蹴散らしておかないと、のんびり考えることもできないだろう。
「仕方ないですね。あまり長いはできませんよ」
「構わぬ、元よりだらだらと遊ぶつもりはない」
セラフィム・ギフトは局地的には強力な武装だったが、一つの戦場をひっくり返すにはまだ練度も、数もそろってはいなかった。ギフト防衛部隊の奮闘と、各組織の連携の緻密さもあって、次第にそれぞれの勢力は徐々に戦線を下げていくことを強いられていった。