空京

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創世の絆 第四回

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創世の絆 第四回

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空中要塞アディティラーヤ攻略戦.6

「思ったよりも、ずいぶんと流されていたようだな」
 ルバート率いるブラッディ・ディヴァインがクジラ型ギフトを発見するのに、予定外の時間を要した。城壁に突っ込む形になったギフトは、それが一種のカモフラージュとなって捜索に若干の手間をかけさせたのである。
「派手にやってますね」
 既にそこには、イレイザー・スポーンと機晶姫の混合部隊が詰め掛けて、戦闘を繰り広げていた。高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)が見る限り、どうやら戦況は芳しくないようだ。
「数だけあればよい、というわけでもないようだな」
 始終数に悩まされているブラッディ・ディヴァインとしては、あるだけマシ程度の数でも十分魅力的ではある。彼らと完璧な連携を取れれば、その問題をカヴァーできるかもしれないが、互いの関係はあくまで共闘である。うまく利用できるような立ち回りがいつだって要求される。
「柵まで立てて、徹底防戦の構えね」
 迂闊に深みに入りすぎたせいで、彼らは離脱する術が無いのだろう。今ギフトを浮上させれば砲台が一斉に襲い掛かる。ここで耐え凌ぎ、砲台の破壊やこの巨大な浮遊島を占拠するつもりなのだ。
「ずいぶんと防衛にも戦力を割いているわね。どれだけあのギフトに人員を詰め込んできたのかしら?」
 人員不足な組織としては羨ましい話だが、ティアン・メイ(てぃあん・めい)一個人としては、船にギュウギュウに詰め込まれていただろう様子を思うとあまり歓迎はできないかもしれない。こちらは、サンダラ・ヴィマーナにしても個室が与えられるぐらい、スペースが余りまくっている。
 十分な距離を保ったまま、襲撃の準備は着々と進められた。パワードスーツを装着したブラッディ・ディヴァインの戦闘員の列から、ルバートの姿無い事に気づいた玄秀は少し彼の姿を探してみた。
「あなたは出撃しないんですか?」
 見つけてすぐにそう声をかける。ルバートは目を閉じたままクジラ型ギフトの方を向いていて少し疑問に思った。
「今回は部下に任せる。実践経験も十分に積んだだろう、わざわざ前に出る必要もあるまい」
「なるほど。では、お体をお大事に」
 玄秀はあっさりそう言って、ルバートの元を離れた。最近体調があまり優れていないようだ、という噂はあったが、実際にそうなのかもしれないと思えてくる。ストレス多い立場だろうが、その程度のことが原因ではないだろう。
 玄秀は自分にも与えられた、セラフィム・アヴァラータに目を落とす。
「……この戦い、意味があるの? ううん、私はシュウが望むなら側にいるけど……でも……」
 ティアンが周囲に人が居ないからか、そんな言葉を口にする。
「晴明が出て来ないのならここに居続ける義理もないのですが、ま、一宿一飯の恩義という奴ですよ」
 ブラッディ・ディヴァインの目的や野望そのものに共感しているわけではなく、自分の目的のために彼らを利用するつもりで二人はここにいる。だが、どうやら当てが外れたらしい。
 だが口にしたように、恩義もあるといえばある。活動拠点と、力を分けてもらってもいる。まぁ、それでも心中するつもりなんて微塵もないのだが。

 ルバートは、クジラ型ギフトを見下ろしたままじっと動かない。
 それを、少し離れた場所からモードレット・ロットドラゴン(もーどれっと・ろっとどらごん)は眺めていた。特別何か感情があるわけではなく、この中継地点に残って彼の護衛をするから比較的近くにいるだけである。
 先日の負傷の治療は進んだとはいえ、大立ち回りができるほどではない。だが、ブラッディ・ディヴァインの中でギフトを扱えるものも限られるため、仕方なく引き受けることとなったのである。
「何か用かな?」
 目を開ける事なく、ルバートはモードレットの視線に気づいた。
「別に。あんまりフラフラすんじゃねーよ」
「それは済まない」
 一歩も動こうとせず、ルバートはじっとその場に立ち続けた。間もなく部隊の出撃の連絡が届き、うむ、と一言頷いて彼らが遠ざかっていく足音を聞く。
「なぁルバートよ、お前の望む世界は、俺にとって心地のいい場所か?」
 人の気配を感じなくなってから、モードレットは静かに言う。
 返事はすぐになく、ルバートに向けていた視線をそらした。
「ならば、手伝ってやっても構わないんだがな……」
 その問いかけに、真面目に答えようとすれば壮大な言葉をつかうか、長々と演説する必要があるだろう。だから、ルバートは沈黙しているのかといえば、恐らく違う。
 目は相変わらず開いていないが、その表情から何かの情景を思い出しているのが伺えた。確かにそこには目指すものがあって、憎しみや破壊の衝動に突き動かされて彼が動いているのでは無い事を察することができる。
 だが、ただ目指すものがあればいいというわけではない。現実の生き物の理想郷は、その言葉ほどに同じものであるとは限らないのだ。
「あまりにも……時間が経ちすぎてしまったな」
 その言葉が自分に向けられたものでないと判断して、モードレットは反応を返さなかった。
 暫く待って、言葉による返答が無いと確信したモードレットは、ルバートに背中を向けて歩き出した。
「その目的を果たす前にその命、散らすなよ? そのギフトを使いこなせ、出来ないというならば、奪うぞ」
 


 クジラ型ギフトの防衛は、熾烈を極めた。
 次々と、機晶姫や機晶ロボ、イレイザー・スポーンが群れを成して襲い掛かってきているからである。
「まさに背水の陣だねぇ」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)はロケットランチャーのような武器を構えた機晶姫を二本の矢で狙い打つ。発射される前にロケットランチャーのような武器を持った機晶姫は武器を取り落とした。
「……! 新しい敵がきます」
 クナイ・アヤシ(くない・あやし)がはっとなって、そう声を出す。
 禁猟区に何かひっかかったようだ。まだ眼前の敵も撤退していない状況ではうれしくない白である。
「次はなんだい? 機晶姫? 機晶ロボ? それともまたスポーンの群れかなぁ」
 ちなみに、相手にしている中で一番厄介なのは機晶ロボだ。動きは緩慢だが、装甲があつく威力の高い砲撃を持っている。攻撃を避けるのはよく見ていれば難しくないが、クジラ型ギフトを狙われると無視はしていられない。
「いえ、何か妙な……これは……」
 禁猟区は防犯カメラではないから、何が進入してきたなんてことはわからない。
 せいぜい方角と、はっきりとはしないが数がぼんやりわかるといったところだろう。
 その程度の情報で、ここまでクナイがあいまいな言葉を口にするというのは、それだけで判断できる奇妙な部分が存在しているという事である。
「バリケードを回り込むつもりのようです……数は、これまでの増援に比べればずっと少ないです」
 北都は、ピンときた。
 戦闘が開始されてからずいぶんと経っているのに、機晶姫は正面からせめて来てばかり、バリケードを回り込もうなんて動きは見せていない。イレイザー・スポーンは飛び越えてくる時もあるが、大体機晶姫の部隊と同じルーチンで動いている。
「わざわざ正面を避けて、少数で動くと言われると、あれしか思いつかないねぇ」
 間もなく、北都の禁猟区の範囲も彼らがひっかかる。確かに、この戦闘に慣れきるとこの少数部隊は奇妙に感じるだろうと思った。
「間違いないねぇ、ブラッディ・ディヴァインだ」

 北都らがブラッディ・ディヴァインの接近に気づき、すぐさまその情報が広まった。
 激化する最前線で動き回るミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)にも、その情報はブラッディ・ディヴァインの到着前に伝わった。
「この状況で、新しい敵かよ」
 クジラ型ギフトを守る為に、バリケードの製作に奔走し、そのまま最前線に釘付けになっている身としては、嬉しくない知らせナンバーワンである。
「ミュー、頭下げるのです!」
「うわっ」
 頭の上を、ロケット推進で飛ぶ何かが通り過ぎていく。
「た、助かった」
「当然なのです」
 危機を知らせたリリウム・ホワイト(りりうむ・ほわいと)は、どこか誇らしげだ。
 魔鎧のリリウムの協力あって、銃弾と無言で襲い掛かってくる機晶姫に囲まれた地獄でなんとか立ち回れているのである。急造のバリケードも、リリウムのトラッパーによって短時間で製作することができた。
「こっちだって必死なんだってのに!」
 妖刀金色夜叉で迫ってくる機晶姫を相手にし、機晶ロボが出てきたら装甲をぶち抜く為にコキュートスやタルタロスを使用する。精神をきりきり削りながらも、なんとか最前線を支えている最中に、
『ブラッディ・ディヴァインが確認できたので人員増援ちょっと待ってね』
 という連絡が来たのだから、怒るのも已む無しではある。
「ああもうっ! こうなったらここに居る連中だけで、立派に支えてやる!」
「私の力もすっごくがんばるのです!」
 もやはヤケクソといった様子である。
 とりあえず、目の前で剣を合わせていた奴の胴体部分を蹴飛ばして距離をとり、分身の術でいくつもの残像を作ると、どれが本体かわかっていない様子の機晶姫を剣戟一つで倒し、敵の群れの方へと向き直る。
「ここは蟻一匹通さないぜ。おとなしく帰りやがれ!」