空京

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創世の絆 第四回

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創世の絆 第四回

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空中要塞アディティラーヤ攻略戦.3

 サンダラ・ヴィマーナの特攻は、リファニーによってなんとか防がれた。
 その功績は大きく、単に衝突を防いだだけではなく、周囲にたむろしていたイレイザー・スポーンを二つの大型戦艦がすれ違うことでできた風圧で、吹き飛ばすことに繋がった。
「心配したが、ちゃんと戻ってこれたようだな」
 リファニーが、レイカに抱かれて戻ってきたのを確認して、蔵部 食人(くらべ・はみと)はほっと胸をなでおろした。
 だが、二人とも消耗しきっている。戦艦に一人で突っ込むのも無茶だが、スポーンの壁に飛び込んでいくのも無理難題だ。
「二人とも、早く船に戻るがいい。ここから先は俺に任せろ」
 少し距離は離れていたので、戦闘の雑音にかき消されないよう大声を出した。
 彼女が降り立った近くの仲間が、こちらに小さく頭を下げて二人を船内へと運んでいく。
「とは言ったものの」
 先ほどのスポーンの数は相変わらず多い。撤退していったのは、リファニー達だけではない。数字の上では、圧倒的にスポーンの被害が多いのだが、比率で言えばトントンかあるいはこちらに不利が出ている。
「かっこつけたんだから、頑張らないとだよ、ダーリン」
 魔鎧として食人に装着されている、魔装侵攻 シャインヴェイダー(まそうしんこう・しゃいんう゛ぇいだー)にそう励まされる。
「そうだな。俺達のために今まで頑張ってくれた『女性』を守るのに男がへばるわけにもいかんだろ」
「女性って?」
 順当に考えれば、リファニー達だろう。彼女の奮闘あって、クジラ型ギフトは健在を保っているのである。
「この船、クジラ型ギフトとクジラ船長のことだ。彼女は、俺達の立派な仲間だ。こんな奴らに好き勝手なんてさせない」
「そうだね! よーし、ボクも全力で力を化すよ」
「応っ、正義のヒーローの底力を見せてやるぜ」
 甲板の上での戦闘は、互いに戦力が消耗していく中さらに激しさを増していく。スポーンも契約者達も、あと一息という思いが互いにあるのだろう。
 そうこうしている最中も、クジラ型ギフトは空中要塞にへと向かって進む。そうしてついてに、目標要塞の主砲の射程に入り込んだ。
 突然鳴り響く警報は、船からほんの僅かに飛翔していた端守 秋穂(はなもり・あいお)の視線を要塞にへと向けさせた。
「砲台が、こっちを向いている」
 巨大な砲台が、まっすぐこちらを見据えているのがはっきりと見えた。
 それほどに、クジラ型ギフトは要塞に近づいていたのである。
「秋穂ちゃん、早く船に戻れって言ってるよー」
 ユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)が言うように、警報と共にそういう趣旨のアナウンスが繰り返されている。ただ、飛びながら戦っていると音の伝わりがよくなく、警報に気づいていない仲間もいるようだった。
「急いで、皆さんにそれを伝えましょう」
 時間的猶予がどれだけあるかはわからないが、見捨てることなんてできない。不可視の鉄のフラワシにイレイザー・スポーンの足止めを頼みつつ、急いで周囲の仲間に警報の事実を告げる。
 フラワシはあっさりと突破されたが、ほんの数秒の間に伝達は終わり、みなと共に急いで船へと戻った。
『4……3……2……』
 船に近づくと、何のカウントダウンかあまり知りたくないカウントダウンの真っ最中だった。滑り込むようにして船内に飛び込むと、中で待っていた教導団の仕官が急いで隔壁をおろす。
「何かに掴まれ!」
 誰の言葉かわからないが、そんな声が響く。だが、強烈な振動が襲い掛かってくるのはその言葉とほぼ同時だった。
「きゃっ……」
「うあー」
 対ショック姿勢も取れてない面々が、突然の振動に振り回されて壁にぶつかったり仲間同士で衝突したりと、一瞬で甲板通路は大変な事になった。それぞれ、頭を抑えたりうずくまったり、そんな状況である。
「うー、頭打ったよー」
 ユメミが額のやや上を押さえながら、少し涙目になっていた。
「大丈夫ですか?」
 彼女の額をさすりながら、秋穂は外の様子が見える窓を探した。小さな窓があり、そこから外の様子が伺えそうなので近寄って覗いてみる。思ったよりも、ずっと綺麗な空が見えた。スポーンの姿は、ゼロではないがほとんど見えない。
 船内に飛び込んだ彼女達には見えなかったが、クジラ型ギフトのすぐ横を強力なビームのようなものが通り過ぎていったのだ。それは直撃しなくとも、熱の余波で空中に居た大量のイレイザー・スポーンをかき消してしまったのである。もしその場に残っていたら、誰しもが同じ運命を辿っただろう。
 だが、ほっと息をつく間は無かった。一旦は途切れていた警報が再開し、そしてアナウンスが続く。
『これより、当艦は緊急着陸を行います。全員、衝撃に備えて下さい』



「運が良かったか、悪かったか判断に迷うね」
 世界がひっくり返るんじゃないか、そんな風に思えるような衝撃を二回連続で味わって、なんとかクジラ型ギフトは静止した。
 その様子を確認した世 羅儀(せい・らぎ)は、すぐにクジラ型ギフトが確認されていた城壁に頭を突っ込む形で静止していることを長曽禰少佐に報告した。
「城門の突破という問題が解決した、と好意的に解釈するべきだな」
 対空砲火の配備状況の関係上、クジラギフトで中央にある塔に接近するのはほぼ不可能と考えられていた。外円部のどこかに着陸し、確認されている地上の砦を突破し、中央の塔に向かうのが作戦の基本的な方針となっている。
「しかし、これではクジラ型ギフトからの援護は厳しくなりますね」
「あの砲台の出力は、想定よりもずっと強力だったとはな。クジラ型ギフトを浮上させるには、砲台の除去は必須か」
 叶 白竜(よう・ぱいろん)は髭だらけのあごを少しさすって、視線を中央の塔に向けた。
「そこまで、遠くはないですね。まっすぐ歩けば、半日とちょっとと言ったところでしょう。お弁当もいりませんよ」
「この件の報告はあとでまとめて受け取る」
 白竜は頷いて、少佐が出撃の為に司令部から立ち去るのを見送った。
 それから、白竜と羅儀の二人もその場をあとに、一番近い非常口から外に出る。レンガを積んで作ったような城門が崩れ、足元は瓦礫まみれ、舞い上がった埃で視界も最悪だった。
 二人の前に、目の前の埃を吹き飛ばして綺雲 菜織(あやくも・なおり)有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)の二人が降りてくる。
「どうだった?」
「待ち伏せは無いようではあるが、続々とこちらに向かって集まってきておる」
 緊急着陸直前に偵察の為に二人は小型飛空艇を出撃させていたのである。
「敵はやはりスポーンですか?」
「スポーンも含まれますが、人型のものも居ました。恐らく、機晶姫かと思います」
「やっぱり、塔から敵が出てるのか?」
「いや、あちこちから湧き水のように沸いているな。今のところは塔の近くは静かなものである」
「わかりました。引き続き偵察をお願いします。ただ、あまり高度をあげないように、狙い撃ちされてしまいますので」
「了解した」
 二人は再度、また集まってきた埃を吹き飛ばして空へと戻っていく。
「波状布陣、第二突撃チームの任務を開始する。人員は所定の配置につき、クジラ型ギフトに迫るであろう敵を撃退する」
「ひゃっはー、誰もクジラ型ギフトには近づけさせねぇぜ!」



「通信機の状態は問題無いようだな」
 {SFL0011916#本能寺 飛鳥}から受け取った通信機を少しいじって確認したケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)は、所定の場所に通信機を装備した。
「では、一足先に行かせてもらおう」
「いい格好しようとしなで、無理なら撤退も視野に入れて行動するんだな」
 黒岩 飛鳥(くろいわ・あすか)のパートナーであるマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)は、心配してるんだか侮っているんだかわからないような言葉をケーニッヒの背中に投げかけた。
「任せておけ! 強行偵察ならば、オレの得意分野だ!」
 そう返すケーニッヒの顔には、特別不安要素になりそうなものは浮かんではいなかった。
「そうですかい」
「頑張ってね、ファウスト」
 八上 麻衣(やがみ・まい)が声をかける。
「ああ、お前こそな」
「うん。おねーちゃんと一緒の任務は久しぶりだから、足手まといにならないように頑張るよ」
「気合入ってるな。だが、頑張るのはいいが無理はするなよ。できない事をやろうとするのは別に悪いことじゃねぇが、時と場合によっては致命的な事になることもある」
「だ、大丈夫よ。私だって、ぼーっと過ごしてきたわけじゃないもん」
「ははは、そうだったな、よし」
 一通り装備の確認を終え、ケーニッヒは立ち上がった。
 振り返って、それぞれとこぶしとこぶしを軽くあわせる。
「じゃあ、またあの塔で再開だ」
 監獄塔と名づけられた、巨大な塔を見上げる。
 距離はそこまで遠くは無い。何も無ければ、あっという間にたどり着くだろう。その何があるか、を見てくるのがケーニッヒの役割である。
 一足先に出撃した背中が見えなくなるよりも早く、マーゼン達は船の中に戻っていった。出撃準備を整えた新星の一団が、すでに整列を終えている。
 出撃直前の、独特の熱気のようなものが渦巻いている。三人も、列に参加し、出撃の合図を待った。