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リアクション
儀式最終日(育つ作物と大詰めの開校準備)
農作業の朝は早い、なんて言うけれど、それは作物たちに太陽の光りをいっぱいに浴びてほしいから、それまでに出来ることはやっておいてあげよう、という親心のような愛からくる行動であって、決して強いられている訳でも慣習だからという訳ではない。
「おや?」
ニルヴァーナ校東側に作られた「温室」内。その音に気付いて、賈思キョウ著 『斉民要術』(かしきょうちょ・せいみんようじゅつ)は温室の外に目を向けた。
「雨……ですか」
温室のすぐ隣には「農場」が広がっている。その土のところどころが雨に濡れて黒みを帯びていた。
少しずつ、少しずつその黒みが広がってゆく。その様をみていたら、ふと、この農場が緑で溢れてゆく過程と風景が浮かんで見えた。緑一面の大地で作業する者たちの中には自分も、またパートナーの佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)も居る。
「いつか、この大地を緑の星にしてみせる」
その第一歩として作った「温室」、その完成を目指して今日も設備の設置と調整を行っていた。
そういえば弥十郎は外で配線の工事を行っていたはずだ。
ほら、やっぱり。工具片手に慌てて温室内に駆け込んできた。光量調節設備と空調設備の調整も大詰め、今日で完成させると意気込んでいたというのに。降雨とは災難だ。
「見てきたぜ」
少し離れた所で腰を屈めている五月葉 終夏(さつきば・おりが)に、雨宿 夜果(あまやど・やはて)が背後から声をかける。記録ノートを手渡すのと一緒に、夜果は栽培している「トマト」の様子を一言で報告した。
「芽の先が見えてた」
「本当?!! 早すぎない?!!」
「あぁ早すぎだ。思わず摘んじまう所だったぜ」
「どうしてっ?!! 何で摘んじゃうの?!!」
「いや、勢いのある若手は早めに潰しておかないとだな―――」
「ダメだよ摘んじゃ!! 農家の男にあるまじき行為だよそれは!!」
農家の男? そんなつもりはないのだが。
「冗談だ。記録を取っただけにしたよ。こっちはどうだ?」
「ん。こっちはまだ、かな」
トマトの芽は出たが、こちらの「レタス」はそうはいかないようだ。まぁ時期としてはそれが順当、特別慌てる事もない。向こうのトマトが早いだけだ。
『これが、このニルヴァーナで取れた野菜第一号だっ』
そう言って皆に食べて貰える日は近い? 考えただけでワクワクする。終夏は楽しそうに成長の過程と様子をノートに記録してゆくのだった。
ニルヴァーナ校校長室。この日は早朝から事務作業が行われていた。
学校建設も大詰め。その分、学部学科への意見や提案、また備品の調達や申請許可などなどなどなど。事務仕事の量は日に日に膨れ上がっていた。
校長であるラクシュミ(空京 たいむちゃん(くうきょう・たいむちゃん))、そして彼女の補佐役を務めている吉木 詩歌(よしき・しいか)とセリティア クリューネル(せりてぃあ・くりゅーねる)が会して作業を開始してから、既に三時間が経過していた。
「え、と。次に各施設の建築状況について……なんだけど、あれ?」
あわあわあら? と詩歌は乱雑に広がる資料の中からようやく一枚を見つけて抜き出した。
「昨日の時点で「完成」の報告があったのは……えぇと、「学生寮」「教員寮」「来賓棟」だね。これは地下室も地下脱出通路も含めて完成したって事みたい。それから「総合運動場」、これは芝の整備も終えたみたいだね。さっき承認した「トラック競技の器具」が届けば実際に競技も行える、と。あとは「RE(ギフト研究工場)」も完成したみたい。協力してくれるギフトが見つかれば、いつでも稼働できるって」
「そうですか、いよいよですね」
校舎もほぼ完成状態だし、他の施設についても近日中には完成するだろうとの報告を受けている。この調子なら、生徒たちの入学願書受付も間もなく開始できるだろう。
「これまで触れてこなかった話なのじゃがのう」
詩歌の報告が済んだのを見計らってセリティアが切り出した。
「北側エリアに建設された「隔離研究施設」についてなのじゃがな。わしを責任者として任命してはくれぬか?」
「隔離研究施設の責任者、ですか」
「そうじゃ。他の施設以上に危険を伴う施設じゃからな、責任者を決めておいた方がよかろう。何かあった場合の対応に遅れが生じては困るしな」
「なるほど。確かに、そうですね」
「あれ? そういえば「管理人」とか「事務室長」に立候補してきた人が他にも居たような……」詩歌が再び資料をわさわさと探す。
「あった! そうそうこれ! これだよラクシュミちゃん!」
「なるほど。「倶楽部棟の管理人」に……あぁ、確かに「隔離研究施設の事務室長」に立候補している方が居ますね。なるほどなるほど」
ラクシュミは少しばかり俯いて考えて、「わかりました。セリティアさんを「隔離研究施設の責任者」に任命しましょう。事務室長の方と協力して管理運営して下さい」
「了解じゃ。善処しよう」
各施設が完成すれば管理人や運営者の募集も行う予定ではいた。今回は少しばかり早かったが、そのやる気を汲んで先行採用としたようだ。
「さぁ! 次の「カリキュラム申請」で最後だよ! 張り切っていこー!」
拳を上げる詩歌に、ラクシュミも「おーっ!!」と同じに応えた。
今日は儀式の三日目、最終日。早くから始めたおかげでこの日に片づけるべき仕事もあと僅か。
今日こそはラクシュミも儀式に参加できそうだ。
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