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リアクション
儀式初日(建設中なイコン整備場)
校舎北側エリアに建設中の「イコン整備場」、その場内を高崎 朋美(たかさき・ともみ)が一人見回っていた。
つい先程「イコン搬入の許可が下りた」と三船 敬一(みふね・けいいち)から連絡を受けたのだが、「搬入を開始して貰って構わない」とは答えられなかった。
建設許可と着工の開始は他のどの建物よりも遅かった。外装こそ形にはなって来たが、ここは形だけ成していれば良いという場所ではない。
「出撃したイコンが、また帰ってくる場所だもんね」
修理と整備。いわば此処はイコンにとっての憩いの場。安全第一はもちろん、きちんとした整備ができるかどうかは『今』の整備場そのものの整備にかかっている。朋美は建物の基礎部分を中心にチェックして回っていた。
「だーっ、暴れてぇ!」
物騒なことを言っているのはパートナーのウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)だ。壊し屋な彼は今回も破壊衝動をぐっと抑えて作業に勤しんでいる。ときどき壁に頭を打ち付けているのは、やはり破壊衝動と戦っているからだろうか。にしても実に丁寧に作業をする「破壊魔」であった。
「はい、どうぞ」
作業員たちに図面を配っているのは高嶋 梓(たかしま・あずさ)だ。パラミタのイコン製造プラントを元にした図面である。これを山口 順子(やまぐち・じゅんこ)、天城 千歳(あまぎ・ちとせ)らと共に配布していた。
集まった作業員は数十名、作業場所に合わせた図面のコピーを配布する作業は思っていたよりもずっと骨が折れた。
「はい―――っと、あ、ごめんなさい」
気付かずに猿渡 剛利(さわたり・たけとし)にも差し出してしまった。彼女は作業員ではない。作業着の洗濯の場内の掃除を担当している。
「回収して回るのですか?」
「まさか。回収場所とか手順とかについて説明してるんだよ。後で「聞いてないよー」とか言われるのは癪だからな」
「なるほど。お一人で大変ですね」
「いやいや、アイツほどじゃねぇさ」
「アイツ?」
いたずらな顔で三船 甲斐(みふね・かい)を指した。いつも以上に虚ろな目で機材をイジる甲斐がそこにいた。聞こえはしないが、なにやらブツブツ言っているようだ。
「どうされたんですか?」梓の問いに剛利は「イジケてるだけだ。地味な作業が続いてるからな」なんて言って笑って見せた。
図面通りに設置された機材は順次、メンテナンス作業を行ってゆく。多少乱暴だが、全ての機材を搬入し終える前に始めなければ、とてもとても間に合わない。
「PS整備工場」の建設とほぼ同じ行程で面白味に欠けるが、現実から目を逸らすには丁度いい。と甲斐は没頭して作業を行っていた。
「どうだい?」
湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)が佐野 和輝(さの・かずき)の背に声をかけた。彼には機材の調整と合わせてパラミタで運用している「C4Iシステム」が導入できないかと依頼していた。
初めは「PS整備工場」への試験導入をお願いしていたのだが、こちらでも導入できればと思い、亮一が依頼したのだ。
和輝の答えは「悪くないね」だった。
「向こうと同じに出来るんじゃないかな。今の所は何のエラーも―――」
言った途端にモニターがフリーズした。
「ふむ。まぁそう上手くはいかないよな」
「慌てない、慌てない」
アニス・パラス(あにす・ぱらす)が軽い口調でキーボードを操作する。
「ポチポチっとな……ふむふむ、おっとバグ発見、修正〜♪……完了! ……次はっと〜」
あっと言う間の解決劇。すぐにモニターが正常に戻った。亮一はただ目を丸くして驚いている。
「心強いな」
「まぁ、一度始めると一切話しを聞かなくなるけどな」
聞いて欲しいなんて言ってないけどな、なんて言って顔を背けていたが、亮一にだけは頬の赤らみも見られてしまっていたようだ。
まぁ、この二人に任せておけば大丈夫だろう。建物の完成に合わせて情報と通信のシステムも実装できるかもしれない。そんな期待を亮一は抱いていた。
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