空京

校長室

創世の絆 第四回

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創世の絆 第四回

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儀式初日(搬入イコン選定論議)

 ニルヴァーナ校二階「校長室」。完成間近の校舎内にあって、今やすっかり会議室となりつつあるその部屋では、今日も話し合いが行われていた。
 議題は「搬入イコンの選定」。
 提案のある者が数名、それから「入星管理局」の局員代表として青葉 旭(あおば・あきら)が参加していた。
 議場は櫛間 成嘉(くしま・せいか)が「作業用として『アンズー』を推奨した」所である。
「稼働実験まで考ると、ある程度種類は揃えたい所だけど。まぁ何を優先するかと言えば、やっぱり『アンズー』になるよね」
 地球とニルヴァーナを繋ぐ回廊は直径にして約3m程しかない。回廊を通す事が可能で、組立も比較的容易な機体、それも作業用の機体となれば『アンズー』を置いて他にないだろう。
 ラクシュミ空京 たいむちゃん(くうきょう・たいむちゃん)もこれには大方賛成の意を示したが―――
アーサーさん?」
 ラクシュミ成嘉の隣に並び立つアーサー・ウェルズリー(あーさー・うぇるずりー)に訊いた。どこか浮かない顔をしている、そんな風に見えたからだ。
「いえ、作業用イコンに関しては異論はありません」
 天御柱学院整備科に所属する者として、彼も成嘉の意見には賛成のようだ。しかし、彼の懸念は別にある。それは今この時も自分たちは外敵の脅威に晒されているということだ。
「差し迫った当面の問題はインテグラルイレイザーでしょう。しかしこれに対抗するには『アンズー』では荷が重い」
「なるほど、確かにそうですね」
「かと言って個人が所有するイコンをいちいち分解して運び込んだり運び出したりしては非効率過ぎますし、整備も大変です」
 天学生はもちろん、他校の生徒でも今は一人一機体「戦闘用イコン」を所有する時代である。しかしそれでも「イコン整備場」が完成していない現状では、とても個人のイコンなど搬入できるはずもない。
「ですからまずは、せめて機種を限定しましょう。軍用目的ですからプラヴァー系統のイコンで統一するというのはいかがでしょう」
 これに青葉が言葉を加える。彼は「そうしてくれると助かる。分解して持ち込むとなると機体も部品もチェックする項目が多くなるだろうからな」と入星管理局員としての意見を述べた。
「分かりました。では当面は『アンズー』と『プラヴァー系統のイコン』を搬入する事としましょう―――」

「ちょっと待ったぁ!!」

 ラクシュミの言葉を遮る声、弁天屋 菊(べんてんや・きく)が声を張り上げた。
「ちょっと待ってくれよ! 機体を絞るってんなら、そこに「パラ実イコン」も加えてくれよ!」
 ニルヴァーナの大地にはニルヴァーナ校の他にもう一校、「パラ実分校」の建設が行われている。が、しかしこちらは未だに重機無し。パラ実生を中心に作業が行われてはいるものの、重機が無いために進度も効率も非常に悪い。
「組み立てとかメンテとかはこっちでやるからよ、とにかく「入星管理局」を通して欲しいんだ。そこさえ通してくれりゃあ、後は勝手にやるからよ」
 敢えて乱暴に、そして挑発的に言ってみた。どうせ反対される事は分かっている、ならば先に本音をぶつけるまで! は半ば開き直っていた。
「『喪悲漢』に『離偉漸屠』それから『出虎斗羅』なら回廊だって通るはずなんだ。手間は取らせねぇからよ」
 パートナーのガガ・ギギ(がが・ぎぎ)は既に回廊の入り口、パラミタ側で待機している。許可さえ下りれば『喪悲漢』で踏み込んで………………否、『搬入を開始する』ことができる。
 再びラクシュミの視線を受けて青葉が応える。答えは「ここでは保留としたい」だった。
「この件に関しては今、にゃん子山野 にゃん子(やまの・にゃんこ))が確認に行っている。もうすぐ戻ってくる頃だと思うが―――」
 パラ実分校に関しては教導団の長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)が責任者となっている。故に、パラ実イコンが彼の言う「パラ実分校への最低限の補助に含まれるかどうか」その確認のために彼の元に向かったのだ。
「……という事は」
「えぇ、今がチャンスですね」
 酒杜 陽一(さかもり・よういち)酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)が顔を見合わせる。彼らもまたパラ実イコンの導入を目指していた。
「せっかくだからパラ実イコンを導入した際のメリットについて説明させてくれないかな」
「メリット?」ラクシュミが訊き返す。陽一は続けた。
「そう、メリット。パラ実分校ニルヴァーナ校はお隣同士、持ちつ持たれつだろう? 要請があれば何時でも協力するし、イコンだって貸すさ」
 もちろん分校の方針ではないし、生徒全員がそう思っているなんて事はないだろう。しかし少なくとも陽一はそうしても良いと考えているし、他の生徒たちもそう考えるのでは、と思っていた。
「最大の特徴は機体構造がシンプルな事だ。高度な設備を必要としないし、誰でも扱い易い。ボタン一つで動作が可能なのも大きな利点かな」
「デメリットは、他校製イコンに比べて脆い、という点でしょうか」
 美由子が割って入る。彼女もパラ実イコン推奨派なのだが―――
「改造や操縦者の腕次第では龍騎士とも渡り合えるかもしれません。ですがやはりイレイザーや新型イコンが登場した昨今では戦闘面での運用は避けるべきでしょう」
「という事は………………?」ラクシュミが困惑した表情を見せる。それでも美由子は「他校のイコンが耐えられる負荷に耐えられない事も多々あるでしょう」と続けて言った。
「それでも生身よりは遙かに強固ですし、危険地帯での救助作業にも力を発揮するかもしれません」
「その通り! 誰でも扱えるシンプルな構造だしな!」
 陽一が後押し。戦闘用ではなく、あくまで「労働作業や救助活動用として」の導入である、と説いたのだ。今はこれで良い、これで良いんだ、と陽一は自分に言い聞かせながら説得を行っていた。
「戻ったわよ」
 ここでにゃん子が戻り来た。注目の長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)の回答は「問題無いだろう」といったものだった。色々と逞しいパラ実生の事を考えれば、色んな意味で妥当な返答だろう。
「よっしゃ!」
 が拳を握り、陽一美由子が視線を合わせて頬を緩ませた。
 そんな中でにゃん子は続けて「パワードスーツについても回答を貰ったわよ」
「何と言っていた」
 三船 敬一(みふね・けいいち)がこれに詰め寄る。実は彼も長曽禰への言伝を頼んでいた。内容は「教導団で余っているパワードスーツをニルヴァーナ校に送れないか」というものだ。
「結論から言うと『OK』ね、「恐らくは可能だろう」と言ってたわ。もちろん数は教導団に問い合わせてからになるけど」
「十分だ」
 イコン整備場の完成にはもうしばらく時間がかかる。イコンの搬入が開始されるまでに間に合うならそれで良い。
「数の確認は私がやります」
 パートナーの白河 淋(しらかわ・りん)が落ち着いた声で言った。「整備士の手配と平行して行った方が効率が良いはずです。最低でも人数分は確保してもらいますよ」
「あぁ、頼む」
「頼まれました」
 イコンの搬入許可に機体種の選別、そしてパワードスーツの借り入れまでもがここに決まった。会議もそろそろお開きかと思われた頃―――
「がぅがぅがぅ!」
「そうそうその通り、まったくその通りだ」
 テラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)クロウディア・アン・ゥリアン(くろうでぃあ・あんぅりあん)が、ルンルンに目を輝かせていた。
 ようやく自分らのターンかと目一杯にアゲアゲだった。「がぅがぅがぅ」といった言葉しか話せないテラーは既に「ががぅがぅ! ががががががががががぅ!!!」とマシンガンテンションに達していた。
「いや……あの……その……」
 ラクシュミはすっかり圧されている。テラーの熱意と何を言っているのか分からない恐怖によって……。
ラクシュミ殿! テラーは『イコンの武装も充実させよう!』と言っているのだ」
「イ……イコンの武装?」 
 二人は校内「購買」の発案者であり経営責任者である。内外装は大方完成、今は『資産家』と『設備投資』を最大限に生かし、品揃えの強化を図っている所だという。
「がぅが! ががぅがっがぅが! ががががががががぅがぅがぅ!」
「『ニルヴァーナにイコンが搬入されるなら、個人の需要だって増えるはず! 自由に手軽にイコンパーツを買えたなら、より学校生活は面白くなる!』と言っている。我輩も賛成だ、大いに同意見だ」
「なるほど……そうですね」
 最後には折れた? いややはり押し切られた形になるだろうか。ラクシュミは「購買」にイコン武装を並べる事を許可した。加えて「そうなると今の敷地だと狭いかな?」と隣接地に今と同じだけの敷地面積を与えることを約束した。
 つまりは店舗と倉庫、合わせて教室三つ分の巨大店舗となる。「最高の購買にしたい!」という二人の夢がまた一歩近づいた事になる。
 イコンパーツやオリジナル商品。品の選別に卸業者との交渉など、やることは多々あれど、二人の目は一層やる気に満ちていた。