空京

校長室

創世の絆 第四回

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創世の絆 第四回

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儀式最終日(ようやくの到着と組み立ての開始)

 急ピッチで建設作業が行われている「イコン整備場」。その建物入り口では、イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)が作業員たちと打ち合わせを行っていた。
「そうね、まずはパワードスーツでパラ実イコンを組んで、その次にそれらのパラ実イコンを使って他のイコンを組むって感じになると思うんだけど……」
 先日ラクシュミの元で行われたイコン搬入に関する論議の結果と通達を踏まえて今後の予定を立てている所だった。
 組み立てると……二機分といった所だろうか。分解されたイコンパーツも届いている。施設内の機材もおおかた整備を終えていた。作業員たちの連日の作業の甲斐あって、組み立ても性能テストも行える状態まで調整した。皆で急いで死に物狂いで作業を行ってきたというのに―――
「……肝心のパワードスーツが届かないのよね」
 教導団で余っているスーツをこちらに回してもらえるという手筈のはずが、未だ届かず。イコンパーツばかりが整備場の外に溜まってゆくという始末。早い所パワードスーツが届かないと―――
「もう我慢できん!」
 ほら、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)に限界が来た。
「PSなんて無くても直(生身)でイケるわっ!」
「イケないわよ! ハーティオンっ!! 待ちなさい!!」
 慌てて高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)が止めに入る。大変だなぁ彼女も。止めなきゃ、きっとハーティオンは生身のまま組み立て始めちゃうだろうし。
 …………生身でも出来ないことはないだろうけど、でも……事故を起こされちゃ困るんだよね……。
「届いたよ!」 
 朗報と共にジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)が駆け込んできた。
「本当か?!!」
「きゃっ!!」
 イーリャを押し退けたのは、やはりハーティオンだ。
「よぉし! 早速組み立てるぞ! 行くぞ鈿女!」
「分かってるわよ」鈿女は長い黒髪をまとめ直した。
「ふふ、面白いじゃない。久しぶりに全力で機械いじる事になりそうね」
「さぁ。届いたスーツはどんな感じかな? と」
 朗報を持ってきたジヴァもすっかりやる気だ。パラ実イコンを触るのは初めてだが、パラ実生も来てるみたいだから、どうにでも出来るだろう。
「よかったら、こちらも使って下さい」
 長谷川 真琴(はせがわ・まこと)が『Mマニュアル(鏖殺寺院イコンの解析資料集)』を差し出した。ジヴァが受け取り、中をパラパラと眺める。
「ん? これは……イコンの図面?」
「それもありますが、天学イコンの整備のコツなどが書かれています。天御柱学院の整備科に所属する者として私たちにも手伝わせて下さい」
「それは助かるわ。早速いいかしら。運ばれてきたのが『喪悲漢』と『離偉漸屠』ってイコンらしいんだけど―――」
「パラ実イコンですね。構造自体は比較的……というよりかなり簡易ですよ。まずはそうですね、腰回りから攻めていくのが―――」
 鈿女ジヴァの打ち合わせに真琴が加わったのを見届けて、真田 恵美(さなだ・めぐみ)は一度辺りを見回した。
 イコン組み立てに携わる者、調整機材に向いている者、そしてイコンパーツを運び込む者など。
 役割の異なる面々が一堂に会するこのタイミングがチャンス、後でコーヒーを差し入れる際の目安になるのだ。数はもちろん、その為に必要な準備期間も含めてだ。

 パワードスーツが届いたことで、ようやくイコンの組み立てが始まった。が、組み立てた後には調整とテストをクリアしなければならない。
 正常に稼働する姿が見られるのはニルヴァーナ校が開校してからかもしれないが、間違いなく希望が見えた瞬間であった。




 東側エリアに建設された「厩舎」、その建物の入り口はまるで地獄の門のように巨大で厚い造りをしていた。そんな門の傍でリネン・エルフト(りねん・えるふと)がしみじみと言った。
「こっちも「ようやく」って感じね」
 巨大生物用として建設された「厩舎」だが、実際にはペガサスワイバーンを連れてくるので精一杯だった。
「建物の組み立てなんかも手伝わせたかったのに……」
 肝心の厩舎の外観は既に完成してしまっている。
「屋根でも補強させようかしら……」
「ほら、そこ、もっとゆっくり! 急ぐのよ! でも仕事は丁寧にね!!」
 パートナーのヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が空賊団の面々に無茶を言っていた。これだけの短期間で厩舎が形になったのは彼らの奮闘のおかげだ。ただ一つの誤算はペガサスワイバーンの搬送が遅れたことだ。
「世界は違えど、パラミタの空の未来もかかってるんだからね! 決戦までには間に合わせるわよ!」
 言ってはいるが決戦には間に合わないだろう。少なくともインテグラル・ナイトとの戦いには間に合いそうにない。戦闘に駆り出す前に、巨大生物たちがこの地に適応するかどうかを見極める必要があるが、そんな短時間で済む問題ではない。
 メンテナンスもせずに戦場に放り出すなんて無謀なことは、絶対にできない。
「まぁ、焦っても仕方がないわよね」
 今できることは「巨大生物たちの健康状態の観察」と「厩舎の運用テスト」である。リネンは自分に言い聞かせて、ワイバーン搬入班の後に続いてこれに加わった。