空京

校長室

創世の絆 第四回

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創世の絆 第四回

リアクション


儀式中日(夜更けのBBQ)

 皆で休まず踊りに踊ると言ったって、小一時間も踊り続ければ、それはもう違わずクタクタになるわけで。
 三十回目のマイムマイムループが終わったところで自然とお開き。繋いだ手は、一つ、また一つと離れていった。
 そうして今日この時この場に居合わせた少年少女たちの心もバラバラに離れ散っていったのだった―――
「さぁ! さぁ! みんなー! 準備ができましたよー!!」
 黒乃 虎子(くろの・とらこ)が呼びかける。離れかけた皆の心を繋ぎ止めるために! ちょっと参加したかったマイムマイムへの思いを断ち切るためにっ!!
「キャンプやるならバーベキュー! レッツ串焼き! ビバBBQ〜!!!」
 肉と野菜の串刺しを網に乗せて「音」でアピール。何とも美味しそうな断末魔か、すぐにバーベキュー台の周りに人が集まってきた。
「はいどうぞ〜、はいどうぞ〜」
 黒豹大隊の食料庫から拝借したので、食材は大量にある。網の許す限りに次々に乗せて焼いていった。
「あむ。あむ。んー美味しい♪」
 小さな体のフードファイター、黒羊郷 ベルセヴェランテ(こくようきょうの・べるせべらんて)は何とも幸せそうな顔で肉も野菜を頬張っている。そんな彼女に、
「お餅はいかが?」
「おほち?」
 エウリーズ・グンデ(えうりーず・ぐんで)が割り箸刺しの五平餅を差し出した。
 ベルセヴェランテは口をモゴモゴさせたままにこれを受け取った。
「ほれ、どほしたの?」
吹笛が作ったのよ。ほら、あそこ」
 簡易テーブルの前でせっせと調理をする鎌田 吹笛(かまた・ふぶえ)。スルメの端に小さな穴を開けて針金で結い、魚のみりん干しの下準備には醤油とみりんのタレをブレンドしておく。先程の五平餅は割り箸に荒く潰したご飯を小判形に付けたものだ。
「それを私が炙ったの」キャンプファイヤーの炎で。
「美味しいでしょ?」
「うん! 絶妙だよ!」
「まだまだあるからね」
 エウリーズが手を開くと、手品のように箸刺し五平餅が現れた。
「わぁ、スゴい!」
「そう? はい、どんどん食べて」
 炙っては配って回る、それが彼女の役目。手品はそう見せただけのただのオマケ、効率よく配って回るために横着しただけだ。
「あー、なんだ? ごほんっ、実に良い雰囲気だ」
 肉にも野菜にも手を付けずに柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)は辺りを見回していた。
「明日のライブをPRするには実に良い機会だ、なぁ家康
「そうじゃのう」
 徳川 家康(とくがわ・いえやす)は気のない返事でこれに応えた。
「せっかく来たというのに、なんだなんだそのやる気の無さは」
「やる気が無いのではない、やる事があるのじゃ。明日の本番まで時間が無いからのう」
 儀式の最終日に予定されている「メテオライブ」、846プロダクション主催の一大イベントがここニルヴァーナ校校庭で行われる。家康は出演者のイメージに合わせたライトとスモークの準備に追われていた。
「わしは手が放せん。火薬の調合もしなければならんからな」
「なるほど……。ならば俺は手伝わん! 邪魔はしないから存分に集中するがいい! 俺はひとっ走りして客寄せだ!」
 そう言って氷藍は駆け出すと、「紳士淑女の諸君! 君たちは知っているか! 明日、この地において846プロダクション主催のライブが行われる! 皆でテンションを上げて、メテオスウォームの破壊力をガンガンに上げようではないか!!」
 まるでどこかの選挙演説。
 呼び掛けながらに駆け回っているはずに氷藍の声はちっとも小さくならない。どんな肺活量をしているのやら。PRとしては最高だが家康は「……集中できん」と呟いたそうだ。
「確かに良い雰囲気だけど……」
 メテオスウォームの術者の一人であり、今も術式の輪の中にいるフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)が辺りを見回して言った。
 キャンプファイヤーにバーベキュー、おまけに校内ライブだなんて……。
「なんだか、学園祭みたいになってきたわね」
「そうですねぇ。時間的には「後夜祭」といった所でしょうか」
 フレデリカと同じく術者であるルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)も初めこそ笑顔を見せていたのだが、
「やはり心配ですね。このようなイベント形式の儀式で本当に十分な効果が得られるのでしょうか」
「なふの問題はなひですよ」
 二人の会話を聞いていた三賢者の一人がこれに応えた……のだが。
「(モグモグ)儀式だからと言っへ、堅苦しひ事ばかりふるとは限りふぁへん」
 両手に串。頬はパンパン、それなのに更に肉を頬張った。「こうひている間にも術の威力は高まっへいるのです(モグモグ)」
「そう言われましても……メテオスウォームの術式はかなり高度なもののはずですよ。それがこんな……」
「(モグモグ)難易度が高いからこそ、形式的な方法を避ける事で成功率を上げふのです」
「でも290ゴルダの策なのでしょう?」
「ほれは…………ムグ……建前です……」
 そんなモゴモゴした口で言われても。……ってゆーか早く飲み込め。
「私は好きですよ〜、この儀式」
 同じく術者の神代 明日香(かみしろ・あすか)が楽しげに言った。「儀式を楽しく行えるなんて素晴らしいじゃないですか〜、この方法ならメテオスウォームに大勢の”愛”を込める事ができますし」
 三賢者の「最も強い光とは何か。それは我々の”絆”、そして、”愛”です。」といった言葉に明日香は強く惹かれた。同意もしている。そもそも三賢者はゲルバッキーの推薦で来ている以上、初めから疑う余地はない。彼らの言う方法で儀式を行えば成功は間違いないのだ、と。
「少し……休まれてはいかがですか?」
 オットー・ツェーンリック(おっとー・つぇーんりっく)が弱腰で言った。「お二方も……それから明日香殿も、昨晩は休まれてませんよね?」
「あ……いえ私は……」
 多分に目を泳がせてから明日香は「私は寝ましたよ」なんて言ったのだが、
「いいえ、寝てません」
 とヘンリッタ・ツェーンリック(へんりった・つぇーんりっく)に即座に否定された。
 彼女は儀式に参加する者たちの、特に術者たちの睡眠時間を記録している。もちろん彼らの体調を管理をするためだ。
神代様は昨晩一睡もされてません。お休みになられたのはお連れのノルニル様のみです」
「はい私です」
 ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)は恥ずかしそうな顔で手を挙げた。
明日香の代わりに寝ておきました」
「代わりに寝てもダメです」
 シュンと小さくなるノルニル。「夜は眠くなるんですよぅ」とも言っていた。彼女も一生懸命がんばったのだろう。
 ともあれ、
「儀式はまだ続きます。特に術者の皆様には交代で例外なく休息を取って頂きます」
「あ……保健室の他にも幾つかの教室を借りています。仮眠と言わず、ゆっくりお休みになって下さい」
「ご案内します」
 オットーに促されてフレデリカルイーザそして明日香の三人が術式の輪から離れた。いかに気を張っていようとも三日連続で睡眠をとらなければ間違いなくパフォーマンスは低下する。
「皆さんもー! 眠くなったら言って下さいねー!」
 羊型枕を大量に抱えた春日野 春日(かすがの・かすが)が駆け回りながらに呼び掛けている。
「はい、そこ! 眠そうですね、仮眠とりましょうー!」
 食べたら眠くなったのだろうか。眠そうにしている参加者の一人を見つけて春日は羊型枕と毛布を手渡した。
「眠くなったら寝て下さい。儀式は明日もあるんですからねー」
 パートナーのアルタ・カルタ(あるた・かるた)は、山のような羊型枕と毛布に埋もれそうになりながら春日の後ろをヨロヨロと歩き、ついていっている。
「羊さん枕はまだまだたくさん残っているから、たくさん休憩してねー」
「っておい、春日、お前もいい加減寝ろ」
「何を言うかね?! 夜は睡眠惰眠の時だよ! いま働かずしていつ働くって言うんだよー!」
「なぜに怒られた?!! オレはお前の体を心配してだなぁ―――」
「ノーサンキューだよー! 必要とされている時に働かないなんてダメダメすぎるよー! 地縛霊の方がよっぽど役立つよー!」
「地縛霊優位だと?!! んな事があってたまるか! っておい春日っ!!」
 ターっと駆けてしまった春日アルタもそれを追う。
 かく言う春日も一睡もしていない。儀式開始時から不眠不休で準備に追われている。
 さっきのやり取りで決まりだ。口調だっておかしいかったし、これは相当キテるに違いない。
「ったく、仕方ないな」
 アルタの予想通り、春日は日を跨いだ所まで頑張り、そして力尽きた。
 言うこと聞かなかったけどよく頑張った。アルタはそっと彼女を背負って保健室に連れていったようだ。
 会場で振る舞われている料理はバーベキューや炙り物ばかりではない。シャレン・ヴィッツメッサー(しゃれん・う゛ぃっつめっさー)ヘルムート・マーゼンシュタット(へるむーと・まーぜんしゅたっと)の二人を中心に「デリバリー食」の調理と提供が行われている。
 疲労回復とスタミナ増進、それでいて飽きないメニューを三日間提供するというのは二人にとっても大きな挑戦であるようだ。
「では、行ってまいります」
 校舎内で休息をとっている人たちへ食事を運ぶ。配膳台を手にヘルムートが小さく敬礼をした。
 これにシャレンがイタズラな笑みで「慌てず、ゆっくり、静かにね」
「皆を起こさないように、でしょう? 言われなくても分かってます」
「分かっていても転ぶのが事故ですわ……ドジとも言いますが
「聞こえてますよ。言われなくても、そんなドジはしません」
 プイと向いてヘルムートは校舎へと歩みだした。そんな彼女のエプロンの紐が配膳台に絡まっているのが見えたが……シャレンは言わないでおいた。彼女に「ドジっ娘属性」が加わらない事を……いや加わる事を期待するとしよう。
「ゴミはありますか?」
 コンラート・シュタイン(こんらーと・しゅたいん)シャレンの背後から声をかけた。背後から声をかけたのは彼女がリヤカーを引いている事もあるのだが、
「まとまったゴミがありましたら回収しますよ」
「回収して頂けるのは助かるのですが」
 シャレンは片手を頬に当てて、「食事を提供する身としては、あまり表立ってゴミの話をするのはちょっと……」
「あ、いや、ですから裏手から………………すみませんでした」
「冗談ですわ。ちょっとからかってみただけです。ごめんなさい」
 コンラートはこの食事会の際に出るゴミはもちろん、三日間の衣食住で出るゴミの管理回収の任に就いていた。校庭や校舎内の清掃も行うつもりだという。
「あら? エミリアさん(エミリア・ヴィーナ(えみりあ・う゛ぃーな))は一緒ではないのですか?」
「えぇ、彼女の担当は「警備」ですから」
 騒ぎに乗じての盗みやのぞき、また許容される範囲を超えて騒いだりする者がいれば取り締まるそうだ。儀式を完遂するためには、こうした汚れ役も必要だと覚悟を決めているようだ。
「大変なお仕事ですね」
「ですが本人もノリノリでしたから。「長い夜になりそうですわ」なんて言って始めてましたし」
「それは……だいぶ入り込んでますね」
 エミリアの名誉のために言っておこう、ふざけたのは最初だけだ、その後も今も眠気など一切に感じることなく会場とその周辺を警備し、目を光らせている。
 儀式も二日目ともなれば儀式そのものの存在も知られてしまう事だって考えられる。もちろんそれを知れば「妨害しよう」と考えるであろう連中に、である。襲撃、スパイ、あらゆる事態を想定して警備に……と言っても今この時だけは「警備」ではなく「警護」の任に就いているのだが……。
 エミリアが警護する対象、それは「二人の歌姫」だった。
「さぁ、私たちも始めましょうか」
「えぇ。そうですね」
 クエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)伊礼 悠(いらい・ゆう)の二人が「やぐら」の前に並び立つ。
 魔力を込める術者たちへ、また儀式に参加する全ての人たちへ、労いと励ましの思いを込めて「歌」を届ける。


 一人じゃないから出来る事がある
 命のように、炎は熱く燃え上がる

 輪になって、手を繋ぎましょう、
 強く滾る願いは希望に届くでしょう

 輪になって、心繋ぎましょう
 空を焦がす祈りは天に届くでしょう


 優しい笑みで。
 『幸せの歌』と『驚きの歌』の効果も使ってはいるが、一番は想い。メテオスウォームを使えない自分たちにも出来ることはある、そのためには少しくらい無理をしても弱音は吐かない、と心に決めたようだ。
 そんな二人の想いを後押しするように、サイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)はギター演奏で伴奏を、またディートハルト・ゾルガー(でぃーとはると・ぞるがー)は曲間に飲み物を手渡したり汗を拭ったり。
 『食事を終えたなら、再び祈りを捧げる準備が出来たなら一緒に手を繋ぎましょう』
 そんな二人のメッセージ。温かい声に包まれ惹かれて、再びに参加者たちが炎の周りに集まり始めていた。
 儀式は間もなく二日が過ぎようとしていた。