空京

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創世の絆 第四回

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創世の絆 第四回

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空中要塞アディティラーヤ攻略戦.5

 先行した偵察隊の報告を元に、別働隊は独自のルートを進んでいた。
 ギフトが突っ込んだ城壁の内側は、防衛施設の用意された場所だったが、彼らが進んだ先は道が細くなり、民家のような背の低い朽ちた建物が残されている。塔が城であるなら、この辺りは城下町といったところだろうか。ただ、あまりにも長い間放置されていたのか、どのような生活をしていたかを知るのは難しい。
「勝敗の行方はいかに迅速に行動できるかに掛かっている・・・一秒たりとも無駄には出来ん」
 ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)は先頭に近い部分に立って進んでいた。仲間との連絡は密に取り、進行ルートを確認しながらも十分迅速と言える行進速度を保っていた。寄せ集めの部隊であれば、移動についてこれずにもう部隊がばらばらになっているだろう。
 だが、突然ハインリヒは彼らの行進を止めるように具申した。
「どうしたの?」
 川原 亜衣(かわはら・あい)が突然の停止命令に、疑問を口にする。
 状況を飲み込めていないのは、彼女だけではなく別働隊の大半がそうだった。だが、その疑問は答えをハインリヒが口にする前に、彼らの目の前に提供された。
「伏せろっ!」
 ハインリヒがそう叫ぶとすぐに、熱風が彼らの間を駆け抜けていった。ほんの僅かに遅れて、鼓膜が破れそうなほどの大きな爆発音が響く。
「負傷者の確認を、急げ」
「う、うん」
 ハインリヒに言われて、慌てて亜衣は負傷者の確認を行った。爆風に紛れて飛んできた、破片などで怪我を負ったものが数人、どれも軽傷で進軍には問題ない。
「よし、進軍を再開する」
 報告を取りまとめ、部隊長の水原中尉と僅かに会話をしてすぐに部隊の進軍は再開された。
「ねぇ、さっきの爆発って何? 地雷なんてものじゃなかったけど」
「要塞に取り付けられた砲台によるものだ。射角は計算通りだ、問題は無い。直撃しないルートを選択して進んでいる」
 要塞に備え付けられた砲台は、破壊力こそ脅威だが、それぞれの攻撃範囲は広くはない。クジラ型ギフトがここに乗りつけると判断できたのも、砲台の設置位置から推測した死角が存在していたからだ。
 今回の進軍も同じで、砲台の死角を選んで進軍ルートを選んでいる。細かい調整はその場その場になってしまうが、砲台からの攻撃で部隊がまとめて蒸発するなんて事態は起きないと想定されている。
「大丈夫なのね、わかったわ」
 灰色だった砦の景色が、炎によってオレンジ色に光っていた。爆発のあとに、熱の余波で可燃物に火がついたようだ。可燃物はさほど多く無いので、放っておいても炎は勝手に消えるだろう。
「少し時間を無駄にした、取り戻す為に急ぐぞ」



「どうなってんだ、あれ?」
 グロイツ・オーギュスト(ぐろいど・おーぎゅすと)は突然現れたメルキアデス・ベルティ(めるきあです・べるてぃ)の戦闘の様子に、思わずそう口にした。
 本隊からは行動を別に、帰り道を確保するために砲台破壊を目指しているグロイツ達は、当然のように機晶姫と機晶ロボの混合部隊との戦闘に突入していた。
 硬くてしぶとい機晶姫との戦闘は、一人倒す間に次々と新戦力が投入されるという形で泥沼になりかけていた。そんなところに、バイクにまたがったメルキアデスが飛び込んできたのである。
「どう見たって滅茶苦茶に撃ってるのに、敵が倒れていくぞ?」
 軍用バイクにまたがって、レバーアクションライフルを放っていく。その銃はぶれぶれで、狙いが定まっているとはとても言いがたい。だが、何故か敵に弾丸があたって倒れていく。さらに、銃と運転がどっちつかずだから、軍用バイクの動きも不規則で、機晶姫が逃げ切れずに引き倒されたりもしている。
「はーはっはっは、邪魔だ邪魔だー!」
 上機嫌にバイクを乗り回す様子は、とてもじゃないが戦闘の最中には思えない。
「わっ、危なっ」
 キルラス・ケイ(きるらす・けい)が思わずジャンプする。足元に銃弾の痕、どう考えてもメルキアデスのものだ。
「大丈夫?」
 そこへ、まるで待機していたかのようにフレイア・ヴァナディーズ(ふれいあ・ぶぁなでぃーず)が現れて、ケイに声をかけた。いつでもヒールしてあげます、みたいな準備が整っている。
「どうなってんだよ……」
「なんだかよくわからないけど、これはチャンスさぁ」
 バイクに乗った士官が、一人で敵陣を混乱させている。これは紛れもないチャンスである。
 ケイやグロイツも、些細な疑問は無視して敵陣に切り込んでいく。ケイの光条兵器であるロングレンジスナイパーライフルを至近距離から食らえば、いくら硬い敵といえどもひとたまりもない。
「なんとかなりそうですわね」
 その光景を、離れた城壁の上で見ていたマルティナ・エイスハンマー(まるてぃな・えいすはんまー)がひとまずため息をついた。
「突然隊長が飛び込んだ時は、どうなるかと思いました……」
 近衛 美園(このえ・みその)も、深いため息をつく。
「作戦通りと言えば、作戦通りではありますけど、タイミングというものがありますわ」
「敵を確認した、突っ込む……ですもんね。こっちの支援準備ができるまで、せめて待って欲しかったです」
「ぎりぎり間に合いましたけど、今度から敵の部隊の位置を伝えるのはこちらの準備が整ってからにした方がよろしいですわね」
 軍用バイクの機動力を用いた、砲台攻略支援機動部隊だ。先ほど、メルキアデスの銃がやたらと敵に直撃していたのは、実際にはここからの支援射撃の効果である。メルキアデスに攻撃を仕掛けようとするのを優先して狙撃し、敵部隊をかく乱して砲台攻略の邪魔を排除する手助けが主な役割である。
「さて、私達は先に移動しますわよ。砲台は一つじゃないんですもの」
「はい。フレイアさんにだけ、連絡しておきます」