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創世の絆 第四回

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創世の絆 第四回

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空中要塞アディティラーヤ攻略戦.7

「思ったよりも、小ざっぱりしているんですね……」
 仲間の援護のおかげもあって、砲台の設置された塔に侵入した山葉 加夜(やまは・かや)は、率直な感想を漏らした。
 砲台を操る人はなく、ただ機械の動く音とファンが空気を回転させる音だけが聞こえている。砲を支えるためか外壁が分厚いらしく、扉を閉めると外の音がすごく遠くに感じた。
「もう少し……もう少し……」
 カチリと金属の動く音がして、重苦しい扉はゆっくりと開いていく。
「うん」
 ノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)は、額の汗を拭う。
「完全な機械制御だったら無理だったけど、助かったね」
「趣味、でしょうか?」
 この砦は見た目は石を積んでつくっている。浮遊島に石を運んで、わざわざ砦を作るのは手間を考えれば趣味以外の何者でもないだろう。
 浮遊している要塞の砦部分なのだから、そこまで本格的な防衛をしているわけではないのかもしれない。この要塞に突入できる状況がどれだけあるかと考えれば、その上部にあたる部分の防衛力を上げるよりは、対空対地の装備を整える方が現実的だろう。
「古い町を再利用したのかもね」
「切り取って、持ち上げちゃったんですか。凄いですね」
 どこか気の抜けた会話ができるのは、中に全く人の気配を感じるないからだ。
 完全に機械で制御されており、ここに人が居る理由が存在しないのだろう。
 開いた扉の先には、階段があり、それを上っていくと砲台の真下になっていた。ここから、砲台には入り込めないようだ。完全に砲台そのものは独立しているらしい。
「整備の必要は無いんでしょうか?」
 辺りを見回してみたが、塔の内側からは中に入れそうになかった。ただ、塔の内壁を伝って、腕ぐらいの太さがあるパイプが天井に伸びている。
「エネルギーか何かかな」
 クジラ型ギフトを掠めていった砲撃は、実体弾ではなかった。高出力のビームを扱うのに必要なエネルギーがこの管を通して運ばれているのだろう。
「……急いで爆弾を仕掛けちゃおう」
「そうですね」

「設置完了っと」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はぐるりと室内を見て回った。窓の無い砲台の設置された塔は、無機質で殺風景だ。
「来る時ほどは困難はなかったわね」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が言うように、中に入ってしまってからは楽な仕事だった。塔の中には、誰も待ち構えていないのである。
 手はず通り、持ち込んだ爆弾を設置してまわるのも終わらせた。
「それじゃ、さっさと退散……させてくれないみたいね」
 時限爆弾のスイッチを入れ、あとは脱出するだけだったが、階段を降りる途中で二人は立ち止まった。
「三体ね」
「下の階に爆弾を仕掛けなかったのは、正解だったわね」
 二人は呼吸を合わせて、機晶姫が階段にさしかかったところで飛び出した。
 セレアナは一番奥に居た機晶姫に、天のいかづちを放った。電撃が機晶姫を直撃し、糸が切れたようにその場に倒れる。
「こっちよ」
 残った二体の機晶姫に、セレンフィリティは声をかけながら銃で攻撃した。威力の高い弾丸ではないため、闇雲に撃っただけでは大した効果は与えられない。まずは一体の頭部、特に脆い目の部分を狙った。マシンピストルの弾丸は狙い通りに目に当たる部分に直撃し、一体の頭を大きくのけぞらせる。
「余所見なんてしてる余裕あるのかしら!」
 銃の引き金は引きながらそのまま走って近づき、もう一体を無理やり地面に引き倒し、同じように目の部分を狙って引き金を引いてこちらも破壊した。
「ふぅ、この子達の相手って手間がかかるのよね」
 増援の気配はなく、今のチームでとりあえずの危機は去ったようだ。
「単なる見回りだったのかしら、にしても酷い見回りね」
「何が?」
「これ見てよ、せっかく仕掛けたダミーの爆弾。触れてもいないわ」
 これみよがしに設置した、ダミーの爆弾がそのまま残されていた。火薬のない、言ってしまえばただの目覚まし時計である。爆弾ではないから、近く戦闘しても安心だったのだ。
「単純に、私達に注意がいってただけじゃない。それと、もしかしたら」
「もしかしたら?」
「爆弾にはタイマーがついているものっていう、常識が通用しないのかもね」
「ありえるわね」
 二人が塔をあとにすると、間もなく砲台は爆発によって崩れ落ちた。建物の中を通っていた管はやはりエネルギーを運んでいたものらしく、設置した爆弾よりも派手な爆発が発生し、砲台を破壊した。



「うまくいってるみたいじゃない」
 爆発の音にグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)は振り返り、砲台が崩れ落ちていくのを確認した。砲台に突入し、破壊するのはうまくいっているようだ。
「もう二つも破壊できましたね」
「二つじゃまだまだ足りないわよ」
 シィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)にそう返して、グラルダは前を向いて目的の地点まで急いだ。本隊とも突入部隊とも別働隊とも違う道を進んだおかげか、敵に道を阻まれることはなかった。見つかりそうになったら、とにかく隠れてやり過ごした。
「やっとついたわね」
 そうして、目的の地点にたどり着いたグラルダはさっそく準備を始める。
 いつ敵に見つかるかわからない中、手早く武器を取り出し、そして厳重に封印された箱を丁寧に開封していく。
「“儀式洗礼(サクラメント)”済みの福音弾頭よ、使用許可の申請手続き大変だったんだから――」
 その榴弾は、グラルダが魔術により威力を向上させた魔術弾頭。
 下準備には結構な手間と時間が掛かっており、申請無しでは使用不可というオマケ付き。
「風力抵抗による誤差と減衰で、発射角は大体こんなもんかな」
 用意できたたった一発の榴弾を装填したグレネードランチャーで、慎重に狙いを定めた。
「しっかり味わいなさいッ!」
 込められた恐ろしい破壊力とは裏腹に、ぽんと軽い音と共に福音弾頭は飛び出し、計算通りの弾道を描いて目標の砲台に着弾した。
「ヒトが争いに用いる為に思いつく発想には、本当に驚かされます」
 人の拳ぐらいの大きさの弾が砲台を破壊するのを目撃して、無表情でシィシャは感嘆を述べる。
 彼女が魔女となり悠久の時を得てから今日まで、異常とも呼べる速度でヒトは進化している。効率と利便性を追求した努力の結晶は、皮肉な事に武器にも生かされた。
「変わっていない」
 無機質な声。
「これからもきっと、変わりません」
 シィシャが視線を破壊された砲台から、グラルダに向けると、彼女は急いで撤収の準備をしていた。さすがに、これだけ損害を与えられたら、原因を排除しようとこの辺りの調査をするだろう。のんびりしている時間は無い。
「それでも、貴方達は立ち止まらない」
 ポツリと。
「私はそれが羨ましい」
 相変わらずの無表情で。
「何しているの、急いで離れるわよ。切り札はもう切っちゃったんだから」



 戦闘しながら移動を繰り返したカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は、気がつくと広い公園のような場所に出ていた。
 大きく開かれたその場所は、二人で陽動の為に遊撃をしていることを考えれば最も危険な場所だ。なるべく狭い場所の方が、敵も数の利を有効に使えない。
 だが、ほんの一時的ではあるが彼女達の周囲に敵の姿は無い。
「うまく巻き込まれてくれたみたいだね」
 振り返った先には、崩れたアーチの残骸があった。区画を分けるための門が開きっぱなしになっており、見るからに脆そうだったので機晶爆弾を仕掛けて破壊したのである。追撃をしてきた機晶姫の小隊は見事にあの瓦礫の下敷きになってくれたようだ。
「みんなうまく行ってるのかな」
 主力から離れて陽動のための遊撃に奔走していたため、まともに連絡を取り合うこともできず状況がいまいちわからない。
 自分達がなんとかなっているから、きっと大丈夫と考えてはいるが、不安を感じなくなるわけではない。
「またぞろぞろと出てきたな」
 崩れた門の向こうから、またしても機晶姫と機晶ロボの部隊が姿を現した。
 距離があるうちに、機晶姫用レールガンで先手を取る。機晶ロボは三体いて、一体ずつ破壊していく。だが、丁度三体目で機晶姫用レールガンは弾丸を発射しなくなった。
「……無理をさせすぎてしまったようであるな」
 発射の際に発生する熱を溜め込みすぎて、機晶姫用レールガンは動かなくなってしまったようだ。しっかりと冷却時間を取れば使えるようになるかもしれないが、その時間は洗浄では永遠にも等しい。
 ジュレールはあっさりと機晶姫用レールガンから手を離す。重く取り回しも大変な代物だ、使えないのなら大事に持ち歩いても意味は無い。
「行くぞ、ここは場所が悪い」
「うん」
 ここで数に囲まれたら、逃げ場を失う。
 向かってくる機晶姫達に背を向け、追ってきているのを確認しながらの逃走を行う。あくまで、主目的は陽動であって、敵を倒す事ではない。
 広場を突っ切って、またごちゃごちゃした地区に差し掛かったところで、地響きと共に砲台が破壊されるのを目撃した。一つ、二つ、そして三つの砲台がそれぞれ破壊されていった。
「どうやら、順調のようだな」
 そうでなければ、主力でない砲台の破壊を担当する部隊が自分の仕事をしていられなかっただろう。順調に進んでいるからこそ、この結果を出せているのである。
「みんながんばってるんだね、よーし!」
 さっとカレンはその場で振り返った。殺到してくる機晶姫の部隊を待ち受けるらしい。
 敵を引き連れて動き回るだけでも十分、なんて野暮な言葉はジュレールは口にしなかった。
「よし、この辺りで良いだろうな」
 僅かに笑みを浮かべ、そう言った。