空京

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創世の絆 第四回

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創世の絆 第四回

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空中要塞アディティラーヤ攻略戦.12

 古い砦のような地上部分とは違い、その地下にはつなぎ目の無い金属で作られた通路が作られている。地上で激しい戦闘が繰り広げられている中、土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)はその地下を進んでいた。
「静かね」
 シンと静まり返った地下通路は、自分達の足音すらしない。自分達以外の誰かがここにいるとは思えなかった。
「これだけだと、どんな技術を使ってるかなんてわからないわね」
 はぐれ魔導書 『不滅の雷』(はぐれまどうしょ・ふめつのいかずち)が注意深く周囲を観察していたのはほんの最初だけだ。何かの端末や、機械のようなものは見つからず、淡い光を発する天井に埋め込まれた四角い何かと、通路を構成する金属以外だけが延々と続く。
「通路が一本道なのが救いよね、これで複雑になってたら、間違いなく迷うわよ」
 イリス・クェイン(いりす・くぇいん)が言うように、この通路は一本道だった。どこかから、砲台近くにまで続いている通路だ。通路の中からは見えないが、恐らくこの通路に添うように、砲台に繋がっていたパイプがあるはずだ。
 そのパイプの先にある砲台はもう破壊されているため、それを破壊する意味は無い。だが、その先に、エネルギーの供給源や、ついぞ砲台では見つからなかった制御システムなどが見つかれば、他の砲台をまとめて止める事に繋がるかもしれない。
「上は今頃、どうなってるんだろうね?」
 クラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)が天井を見上げる。防音効果がしっかりしているのか、ここには戦闘の音も何も届かない。
「きっと、うまくいってるわよ」
 地下だからか、通信の調子は悪く外の状況はよくわからない。何の根拠もない気休めの言葉だった。しばらく、テクテクと歩いて進むと、大きな金属の扉が待っていた。近づくと、それは自動で勝手に開き、暗かった中にも自動で電気がついていく。
 円形の、それほど広くない部屋だった。中央に丸い小さなテーブルがあり、その上に映像が映し出すモニターのようなものが設置されていた。この部屋に繋がる通路はいくつかあるらしく、同じような扉が他にも二つある。
「あ、みんなだ」
 そこでは、外の風景が映し出されていた。広く要塞の全景が映し出されており、細かい部分まではよくわからないが、その映像でもどちらが敵で、どちらが突入部隊かぐらいは見分けがついた。
「このパイプ、見覚えあるわね」
 クラウンがモニターに目を奪われていたが、イリスとカグラは、部屋をぐるりと囲うパイプに注意を向けていた。そのパイプは、砲台にまで繋がっていたものに酷似している。違うところは、見かけたパイプの二十倍ぐらいの太さがあることだ。
「ここから、エネルギーを分岐して、各砲台に送っているのかしら?」
「その可能性が高いわね。それにしても、これだけ太いパイプがこんなにあるなんて、この要塞を動かしているエネルギーは一体どれほどのものなのかしらね?」
 ざっと見渡して、二十本近くあるパイプから送り出されているエネルギーの量は相当なものだろう。これよりずっと細いパイプから送り出されたエネルギーですら、クジラ型ギフトを地面に引きずり下ろす程度はやってのけたのだ。
「他に気になるものはないですね」
 パイプ以外に怪しいものはないかと調べていた雲雀がそう報告する。
 ここは、パイプの分岐点でこれらの操作などを行うのは、もっと深い場所にあるということだろう。
「ひとまず、これを壊してしまいましょうか」
 イリスの提案に誰も反対しなかった。もとより、そのつもりで来たのである。いくつもあるパイプの一つを適当に選んで、攻撃を仕掛けた。分厚そうに見えたパイプは、いとも容易く破裂する。
 と、
「なに、どうしたの?」
「地震?」
 大きな揺れが起こり、誰もが思い思いに近くにあったものに掴まった。そのさなか、何かに気づいたクラウンが中央の画面を指差す。
「ねぇ、あれ見てよ」
「地面が、落ちてる……?」
 映像の向こうで、要塞の一部が盛り上がり、そして最後は外れて落ちていった。完全にその部分が外れると、地震は綺麗に収まった。
 四人は、たった今壊したパイプを見やる。
「もしかして、これを壊したから?」
「砲台のエネルギー源じゃなかったのかしら……」
「このパイプから繋がってた部分で、要塞を繋ぎとめてのかもしれませんが」
 三人の予想は、おおよそあたっていた。彼女達が破壊したのは、外周の一部を繋ぎとめるために利用されていたエネルギーを供給しているパイプだったのだ。
「クジラ型ギフトが落ちなくてラッキーだったね!」
 クラウンの何気ない言葉は、三人の血の気を引かせるには十分だった。ここにあるパイプのどれが何に繋がっているのか、ここからでは判別できない。パイプにはマークも文字も記載されてはいないのだ。
 たまたま偶然、先ほど滑落していった部分にはクジラ型ギフトが無かっただけで、クジラ型ギフトと仲間を巻き込んで、地上に落下していた可能性があったのである。
「どうしましょう?」
「運任せで破壊して、うまくいけば大きなアドバンテージは得られるかもしれないわね」
「運しだいでゲームオーバーにもなるんじゃない?」
「次は僕が選んでもいいよね!」
「よくない!」
 壊すかどうかで悩む三人と違って、クラウンは次も壊すつもりだったようだ。
「えー、壊そうよー。誰も居ないところのを落とせば、砲台もまとめて破壊できるよ」
「そうだけど、もしそれでクジラ型ギフトが落ちたらどうするのよ」
「大丈夫だよ。クジラさん飛べるもん」
「ああ、なるほど……って、いやいや、それ何の解決にもなってないから」
 クジラ型ギフトは緊急浮上で助かるかもしれないが、防衛の為に周囲を警戒している人は助からないだろう。それに、クジラ型ギフト周辺の砲台は破壊し終わっており、何の利益もない。
「む……」
 どうやら長いし過ぎてしまったようで、この部屋に足音が向かってくるのを雲雀は耳にした。カグラもそれに気づく。
「襲われても対処できないわよ、私?」
 雲雀は自分達が使った通路に近づいて、壁に耳をあてた。
「こっちからではないですね。ここで戦闘をするわけにもいきませんし、急いで離れましょう」



 数の暴力とは偉大である。
 クジラ型ギフトを守るために、防衛ラインを張ってバリケードも立てもした。情報を連携させ、それぞれの戦場では圧倒的とはいかないまでも、クジラ型ギフトの防衛部隊は戦場の主導権を握っていた。
 それでもなお、クジラ型ギフトに取り付いてくる敵がいる。バリケードを飛び越え、対空の射撃を運よくすり抜けたスポーンであったり、防衛ラインの隙間を少数で駆け抜けた機晶姫であったり。防衛ラインの隙間から敵が来るたびに情報が行き渡って道を塞ぐのだが、そうなるとどこかの防衛が薄くなって新しい隙間ができる。
「やれやれ、この辺りでもこんなに忙しいとなると、バリケードを死守する部隊の苦労が伺えるな」
 卸したての弓を下げながら、クィンシィ・パッセ(くぃんしぃ・ぱっせ)は嘆息した。彼女の視線の先では、向かってきたスポーンが地面に落ちてもがいていた。それも長くは続かず、やがてぐずぐずになって崩れていく。
「そっちも……終わったようだな」
 ジズプラミャ・ザプリェト(じずぷらみゃ・ざぷりぇと)はコクリと頷いた。彼女周囲は、戦闘の余波によって小さい火があちこちで燃えていた。その中心で、銀色の機晶姫が横たわっている。
「次の、呼び出し……きた」
「勝利のファンファーレを鳴らす暇もないのだな」
「今度は……少し多い……みたい」
「ぬぅ、面倒じゃのう。我としては、戦闘が終わったあとの方が本番なのだが……」
 視界の隅に、クジラ型ギフトが映る。まだ健在のようだが、ところどころに攻撃を受けた痕が残されている。未知の技術を確認するために今回の作戦に参加したクィンシィとしては、暴れまわるよりも修理や補修に参加したいのだが、今は敵襲があまりにもお祭り状態過ぎて、まともに修理や修復作業は行われていない。
「早く来て……って」
「わかっておる、わかっておる。行くぞ」

「今度はどこから沸いてきたのかしらっ! スウェル」
 フォースフィールドを張りながら、アンドロマリウス・グラスハープ(あんどろまりうす・ぐらすはーぷ)は後ろを振り返った。
「うん、クジラには、近づけさせない」
 防御の中からスウェル・アルト(すうぇる・あると)は飛び出して、桜花手裏剣で飛来するスポーンをけん制しつつ、主力である機晶姫に肉薄した。戒魂刀【迦楼羅】では、一撃で機晶姫を倒すまでには至らないので、武器を狙って破壊していく。
 特に危険なのは、ロケットランチャーのようにも見える、口径がかなり大きい武装だ。クジラ型ギフトの装甲にダメージを与えられる唯一の歩兵装備である。同じ大きさの口径のものが、機晶ロボに備え付けられているので、それの携帯用だろう。
 前面にいた四体の機晶姫の武器を叩き落す。そのまま動きを止めずに、素手となった機晶姫に向かう。
「クジラは守る」
 一体を戒魂刀【迦楼羅】で切る。だが、刃は通らないが強烈な打撃となって、機晶姫を横に弾いた。残りの機晶姫は、武器を拾わず拳を持って反撃に転じるが、歴戦の立ち回りでさばくと、返す刀でもう一体を行動不能にする。
「そんな風に背中を見せられると、攻撃したくなっちゃうじゃない」
 背後からアンドロマリウスの奇襲でさらに一体が倒れ、それに気づいて動きがぎこちなくなった最後の一体も危なげなく倒した。
「ふぅ、四人も入ってくるとなると大変ですね」
「なんだ、たくさんいて大変だというから急いできたというのに」
 そこへ、クィンシィとジズプラミャが合流する。
「いえいえ、助かりましたよ」
 先ほどこの辺りを飛んでいたスポーンは、矢に射られて全て撃破されていた。
「さて、次はどこに行けと指示されるのか……ん?」
 ここでも、大きな地震は観測された。というよりも、おおよそ要塞のほぼ全てで、この地震が発生し、敵も味方も関係なく戦闘が中断していた。この辺りは視界が悪く、彼女達は滑落していく要塞の一部を目撃することはなかったが、すぐにその知らせを受けることになる。
 そしてもう一つ、
「機晶姫が撤退していったそうです」
「クジラ、守れた?」
「どうやら、そのようじゃな。話の一部が落ちたというのも、人の手か事故かはわからんが、緊急事態ということなのだろうな」
「次の連絡……けが人運ぶの、手伝って欲しい……手が空いてるなら、バリケードまで」
 間髪いれずに、アンドロマリウスが「行きましょう」と口にし、スウェルは静かに頷いた。
「……まぁ、ギフトは逃げたりはせぬか」