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リアクション
瀬蓮
未だ回復の決定打がないままのアイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)のインテグラル化を止めなくてはならない。そのためにはなんとしてでもファーストクイーンの元にたどり着いてみせる。強い決意を持って高原 瀬蓮(たかはら・せれん)は牢獄塔にやってきていた。インテグラル化が進行しつつあるものの、容態はかなり安定しているアイリスと繋がっている瀬蓮は、少し前の衰弱振りから比べれば元気であるといえた。しかし、瀬蓮は戦う力を持っていない。体調が万全ではないのもわかっている。小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は気遣わしげに瀬蓮を見やった。
(こんな危ないところにまでやってきても、ファーストクイーンと会って、アイリスを救いたいと願う気持ち……)
「瀬蓮ちゃん、私が瀬蓮ちゃんをファーストクイーンのところまでおぶっていくよ。
そのためにも今回は……じゃーん、脚力強化シューズでバッチリ!」
「えっ……? もう瀬蓮は自分で歩けるよ……?」
驚く瀬蓮に、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が言った。
「そのほうがいいだろうね。トラップの大部分は解除されたとはいえ、ここには多数のイレイザー・スポーンがいる。
基本後方に下がっていてもらうが、場合によっては戦闘時の身のこなしが必要なこともあるだろう。
高原に何かあったらアイリスにも影響が出る。ここはこちらのお嬢さんに甘えさせてもらったほうがいい」
そう言ってエースは優雅に美羽に一揖した。
「……ありがとう、美羽ちゃん。よろしくね」
「ううん、がんばって行こうね! この音速の美脚、美羽ちゃんにおまかせだよ!」
「君の強い心がきっといい結果を生むよ。アイリスさんを助けよう」
エースは言って、花言葉に『希望』の意味のある美しい紅色のガーベラを高原に一輪手渡した。
「ありがとう……」
そんなやり取りを眺めながら、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は微笑みかけるエースを見ていた。
(エースは小さき者に弱いからねぇ……。手伝ってあげるよ)
そして口に出してはこう言った。
「私がサイコメトリで塔の様子を探りながら行きましょう。多少なりとも安全そうな、かつ最短距離での進行が必要でしょうから。
万一メンバーが分断されてしまった場合など、情報をテレハシーでも伝えられますし」
コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が言った。
「僕もアイリスを救いたい。そのためにもがんばるよ。もし遭遇しちゃったら、スポーンとの戦闘は任せて」
壁を破壊出来ないかチェックしていた桐生 円(きりゅう・まどか)は、材質の見当もつかず、さらには塔の構造上壁の破壊が建造物全体にどう影響するかも読み取れないと悟って諦め瀬蓮のほうを振り返ると、三つ編みの髪を後ろにはねるとニコっと笑った。その周囲にはギフトスワロウ、スパロウが飛び回っている。
「まぁ、誰しもパートナーの為には出来る限りの事をしたいしね。
銃型HC弐型のオートマップ機能があるし、トラッパーの技能もバッチリ。スポーン相手の小競り合いくらいならいけるしね」
円のパートナー、ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)も元気よく手を挙げた。
「ミネルバちゃんも前に出るよー! 魔剣ディルウィングを武器と盾にしながら頑張るぅ!!
出来るだけ英霊のカリスマで雑魚を回避できたらいいなぁ!」
ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が進み出て、優しく瀬蓮の手を取って微笑みかけた。
「私も愛する人がいるパラミタを救う方法を知りたいですし。
お互い大切な人のため、ファーストクイーンを解放できるよう頑張りましょうね」
「うんっ!」
メリッサ・マルシアーノ(めりっさ・まるしあーの)もホエールアヴァターラ・バズーカを掲げて見せた。
「メリッサも頑張って行っくよー!!
移動中は超感覚、ホークアイ、殺気看破を使って敵の早期発見を心がけるよっ!」
「瀬蓮は戦えないけど……アイリスを何とか助けたいの……」
うつむく瀬蓮に早川 あゆみ(はやかわ・あゆみ)が小さなクマのマスコットを差し出した。
「瀬蓮ちゃん、私が作ったクマのマスコット持っててくれるかしら?
私は禁猟区を使えないけれど、せめてこれが心の支えになってくれてると嬉しいわ。
私も戦いはあまり得意ではないけれど、みんなを激励したり、歌でサポートしたり、できることでがんばるつもりよ」
鳥の着ぐるみのゆる族、メメント モリー(めめんと・もりー)も声をかける。
「親友の為にここまで来るなんて、強くなったね瀬蓮ちゃん。その気持ちを大事にしてね。
がんばる瀬蓮ちゃんの元には、この青い鳥が幸福を運ぶよ!」
「瀬蓮ちゃんの看病と皆の回復は任せて!」
七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が請合った。
「歩ねーちゃんや円ねーちゃんたちと一緒に行こう! ボクもミネルバねーちゃんみたいに相手の注意を引いてがんばるよ」
七瀬 巡(ななせ・めぐる)もそう言って、瀬蓮の肩をぽんと叩く。
「……みんな、どうもありがとう!」
「それじゃ、行きましょうか」
メシエが言って、メリッサとともに哨戒しながら歩き始めた。厳重に護衛されながら瀬蓮を背負った美羽がその後に続く。
システム干渉により多々ある機晶迎撃システムのほとんどは無力化、あるいは契約者たちの有利な方向で使用できる状態になっており、なおかつスポーン討伐のための先遣隊も出ているため、広い塔内ではあるが思っていたほどの危険はなかった。危なそうな箇所はメシエやメリッサの特技がものを言い、避けることができた。
「なかなか順調だね」
美羽が疲れも見せず、微笑んだ。
「この先の区画……ドラゴン型ギフトが鎮座するというエリアの直前は、まだ多少スポーンが残っているらしいです」
メシエが言った。そこへ偵察に行っていたメリッサが戻ってきた。
「あのね、向こうに……何だかすっごく怖いのがいる感じだよー。結構たくさんいる感じ」
「道は切り開け、ってことだね」
コハクがバードマンアヴァターラ・ランスを構えた。
「みんな……」
瀬蓮が囁いた。美羽に背負われているが、なんとなく元気がない。あゆみがその手を取って優しく言った。
「あと一息よ。みんなと一緒に、ファーストクイーンのところに行きましょう。
それに瀬蓮ちゃん、保育士になりたいという夢もあるでしょう? 気をしっかり持って、ね?」
わらわらと階段付近から数十体のイレーザー・スポーンが姿を現した。巡がオートガードとフォーティーテュードを発動し、ロザリンドが目を細めて魔剣ディルヴィングを真横に構える。
「歩さん、瀬蓮さんをお願いしますね!
絶対に負けるわけにはいきませんっ。ここはなんとしてでも通らせてもらいます!」
素早く瀬蓮を背負ったまま、美羽が交戦時に影響が少なそうな位置に移動した。円が瀬蓮の周囲を固めると、すかさず歩が『お下がりくださいませ旦那様』を使用し、万一に備え、『至れり尽くせり』で救護用具の準備をする。
あゆみは震える魂を発揮しつつ、怒りの歌を響かせた。メンバー全員の士気が著しく向上する。ミネルバが古き地球の戦神の名に恥じず、プロボークでスポーンたちの注意を引き、ディルウィングを振るった。
「ミネルバちゃんあたーっく!」
先頭を切って襲ってきたスポーン2体が、その刃の餌食となり黒煙と化す。コハクがバーストダッシュで小刻みにスポーンの合間を縫うようにして、乱撃ソニックブレードを繰り出すと、そこここでスポーンが霧散する。メシエがサンダークラップを襲い来るスポーンに見舞い、エースはスポーンの触手をティアマトの鱗で切り裂き、我は射す光の閃刃をその首に打ち込んで止めを刺している。モリーは陽動射撃でスポーンをけん制しつつ、隙を見てクロスファイアや轟雷閃を打ち込む。
「右後方に一体!」
歩が瀬蓮の傍から叫ぶと、メリッサがスポーンの動きをきっちりと追いながら、ホエールアヴァターラ・バズーカを正確に打ち込んだ。
「片付いたね!」
コハクが周囲を見回して言った。
「いよいよ最上階、か」
エースが頷いた。巡が思案げに言う。
「いよいよドラゴン型のギフトと対面、そのあとファーストクイーンと……。
もしドラゴンが襲ってきても、もしかしたら何か誤解あるかもだし、ちょっと様子見てみようよ。
もしかしたら、何か操られてたり、誤解だったりするかもしれないし」
「そうだね。でも、十分注意を払っていこう」
モリーが賛意を示した。
「みんなー、がんばって行こーーー!」
ドラゴン型ギフトが待つ階を前に、メリッサの号令が元気よく響いた。