空京

校長室

創世の絆 第四回

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創世の絆 第四回

リアクション


それぞれの想い

 ルシア・ミュー・アルテミス(るしあ・みゅーあるてみす)は塔内を見回した。
「ここに香菜がいるかもなのね? なら探さなきゃ……」
「俺はルシアの盾であり剣となる。友達を取り戻す、ただそれだけのルシアの想い。
 そのささやかな願いの為に俺は誰よりも強くなれる」
紫月 唯斗(しづき・ゆいと)がルシアに言った。パートナーのプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)はすでに魔鎧として唯斗の装備となっている。
「ありがとう。……ずうっとこんなところにいるんじゃ、おなかすいているかもしれないね……」
いまひとつ緊迫感のないルシアである。
「香菜がいつ入れ替わったのかはわからないが……。
 以前地下遺跡で保護した時にチョコレートを渡したら食べていた。今回も一応持ってきている……」
呀 雷號(が・らいごう)がボソッと言った。
「まあ、そうなの、用意がいいのねっ!」
ルシアが嬉しそうに呀を振り返る。呀はストレートなルシアの賛嘆にちょっとどぎまぎした様子だ。
「香菜さんが今どうなっているのか、どこに居るのかはわからないけれど……必ず会えるさ」
鬼院 尋人(きいん・ひろと)の言葉に、ルシアがにっこりする。
「インテグラルクイーンとどうなってるのかよく分からないけど、助けられる可能性があるならやってみなきゃ!
 あの黒い月の光景、香菜ちゃんのものだったのね。
 だとしたら、報告にあった少年時代のドージェ達の姿は彼女の記憶の奥深くにあったものなのかな……?」
館下 鈴蘭(たてした・すずらん)が考え込むような表情になる。
「ドージェ……そうね。兄妹か幼馴染か親戚か……何か個人的な関係がきっとあったんだろうね」
無邪気で素直な人間が時に見せる鋭い発言に、皆一瞬はっとさせられた。霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)が物思いを振り切るように声をかける。
「とにかく今は、ルシアさんたちを香菜さんの元に無事届けないと」
「そうだな。行こう」
唯斗が言った。尋人が殺気看破を発動し、唯斗がモンキーアヴァターラ2体をルシアに近い位置に配置し、魔鎧アイゼンシルトの持つイナンナの加護で周囲を警戒しつつ先頭を行くことになった。鈴蘭と沙霧はルシアの脇を固め、尋人と呀が後方を後方を警戒しつつ迷宮を進む。
「どこから敵が現れるかわかりませんからね」

 ルシアと二手に分かれたキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)は、油断なくあたりに目を配っていた。
「キロスならパートナーだし、香菜の居場所もなんとなくわかるんじゃないか?」
匿名 某(とくな・なにがし)が言った。
「そうだよな……なにか感じ取れないか?」
大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が訊ねると、キロスは黙って頷いた。
「微かに上方に……な。だが場のせいか、はっきりとはわからねえ」
「ったく、この海賊野郎! 
 新入生のキロスって奴が何か気になるからってニルヴァーナ校から俺をこんな所に連れ出しやがって!」
漣 時雨(さざなみ・しぐれ)に引っ張ってこられた飛鳥 菊(あすか・きく)はぶつぶつ言った。
「あいつ何か気になるんだよな。オレと似てるっつーかさ。まあ好き勝手暴れていいからよ、協力しろや」
「……チッ……わーったよ! その代わり手加減しねーぜ」
康之がキロスにつかつかと近づいて声をかける。
「よお!手伝うぜ? あ? 自己紹介? んなもん、あとに決まってるだろ!
 このオレが手伝うって言うんだ。素直に受け取れや、後輩くんよ!」
「……勝手にしろ」
キロスは肩をすくめた。
「香菜さんはこの奥か……行こう、キロスくん。絶対に、香菜さんを救い出すんだ!」
シーリングランスを構えて無限 大吾(むげん・だいご)が呼びかけた。
「どんな奴でも弱点はある。そこを付けば動きも止まるってものさ!」
セイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)がポンとキロスの肩を叩く。
「キロス、奇跡は起きるモノではなく、起こすモノです! そのための道は、私達が必ず切り開きます!」
康之も熱心に言った。
「そう! いいんちょは絶対に取り戻さないと!」
「そのためにはまず、探し出さなくては」
セイルの言葉に、全員が頷いた。
「行くぜ! 香菜はなんとしても無事つれて帰る!」
キロスは固い決意を秘め、青白い光で満たされた迷宮を進んでいった。

 香菜を助ける気でいるキロス、ルシアとは別行動をとるべきだ……。
メルヴィア・聆珈(めるう゛ぃあ・れいか)は戦線拠点の片隅で、キロスとルシアが二手に分かれて捜索する相談をしているのを、少し離れた位置でぼんやりと聞いていた。
 まだ確証はないものの、香菜とインテグラル・クイーンは同化しているらしい。こうなったらこの手で始末をつけるしかないだろう。
(もし、出会ってしまったら、そのときは……)
物憂げなメルヴィアを大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)は心配そうに見ていた。ヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)が静かに丈二に囁きかける。
「やっぱり心配ですよね……」
「うむ。本調子でないのではという懸念があるのだ。
 とはいえ、大尉は仕事はきっちり……自分の事は自分でやる性格、無理しなければいいのであるが」
シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)が静かに丈二らに声をかけてきた。
「まあ、今は護衛として同行して、様子に気をつけるしかないだろう。本人はもう大丈夫だと言い切っているしな」
「言い出したら聞かないしな……」
ユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)も頷いた。彼らもまた、丈二らと水晶化したメルヴィアを看たり、水晶化を治す手助けをしてきた関係上、メルヴィアの体調を心配していた。
「そうでありますね……」
2人に頷いたものの、丈二にはもうひとつ小さな懸念があった。彼女が香菜のように、何かに乗っ取られてはいまいかということだ。
(まず、ないとは思うのだが……)
ともあれ今できることは普段より積極的に精神面、体力面での消耗を減らすように心がけ、さりげなくサポートをすることぐらいだろう。様子を見て異変を感じたらすぐさま探索拠点本部に連絡を取ることにしよう。丈二は通信機を握り締めた。
(水晶化していたときメルヴィア大尉に、意識があるものとして扱い、声をかけながらお世話してたけど……。 今元に戻った大尉を前にすると、とんでもなく恥ずかしい事をしていたような……あれ聞かれてたのかな……。
 聞こえてました? とか聞けないし……もし聞えてなければ薮蛇だし……。
 あ、ヘタしたらお礼を強要してるみたいになっちゃうかも……それはいやだしなぁ)
あらぬほうへ思考が流れ出すのを、ヒルダは慌てて食い止めた。いけないいけない、大尉の様子をしっかり見ておかなくちゃ。
「あたしたちも同行するわ。メルヴィア大尉、ファーストクイーン開放のため、牢獄塔の最上階へ向かうんでしょう?」
ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)タマーラ・グレコフ(たまーら・ぐれこふ)を伴ってメルヴィアに声をかけた。
「あ、ああ、よろしく頼む」
藤原 忍(ふじわら・しのぶ)龍造寺 こま(りゅうぞうじ・こま)も、メルヴィアの護衛を買って出た。
「んじゃ、行こうぜ」
シャウラが言って、殺気看破とイナンナの加護を発動した。極力先戦闘を避け、体力を温存するというのが建前半分、本音半分であったが、その裏には無論病み上がりのメルヴィアにムリをさせないようにという配慮が潜んでいた。