空京

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創世の絆 第四回

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創世の絆 第四回

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牢獄塔

 牢獄塔―――今までのスポーン拠点と違い、ベースは漆黒の物質ではなく、重厚な金属を素材とし、そこに幾筋もの青白い光が走る、奇怪なオブジェのような建造物だった。牢獄の名のとおり他者を寄せ付けない雰囲気を持ち、なんとも言えない重苦しさを纏っている。

 その塔を見上げる面々の思いはさまざまだった。

 幽閉されているというファーストクイーンの開放を目指すもの、最上階を目指すメンバーを手助けしたいと思う縁の下の力持ち的な役割を担うもの、夏來 香菜(なつき・かな)らしき姿を見たという情報をもとに、インテグラル・クイーンから香菜の開放をを目指すもの、ドラゴン型ギフトの制圧を目指すもの……。だが、つきつめれば皆、世界の崩壊を何とかして食い止めたい……その思いからここにやってきているのだ。
 高塚 陽介(たかつか・ようすけ)は、そんな塔を見上げた一人であった。禍々しさを強調したデザインの黒い長衣を纏い、さりげなくキマッテルと本人が思っている立ちポーズをとる。高塚は塔をねめつけ、低い声で歌うように言った。
「牢獄塔……その名にふさわしき姿だな。何者も通さぬとばかりに聳えている……。
 だが……それも今日でジ・エンドだ。
 この俺が真の救世主としての力を見せるとき、お前は後悔という言葉を知るだろう」
そこでいったん言葉を切り、頭をぐいっと上げた。
(ここで一陣の風とかが吹き抜けてくれれば、効果満点なのだが……)
高塚の思いをよそに、風はそよりともなかった。
(……まあ、いい。重苦しい空気もいいかも知れん)
「待っていろよ、禍々しき塔に囚われたるファーストクイーンよ!
 救世主となるべくこの世に現れ出でた、俺、煉獄の魔術師『キョウ』がお前をアンチェインするときが来た!」
このせりふ、高塚は解放、と解き放つで迷ったのだが、結局解放をアンチェインと発音することにしたのであった。
 一方、パートナーのクレイ・ヴァーミリオン(くれい・う゛ぁーみりおん)は、練りに練った高塚の中二病全開のせりふを聞いてもいなかった。
(ファーストクイーンっつうぐらいだから、さぞ麗しい妹に違いない! 昂ってきたーーー!!)
このクレイ、裸Yシャツの妹・命であり、外見が10代なら女子は皆俺の妹、という、高塚以上のアブナイ人間である。クレイは酔いしれる高塚の背後に仁王立ちで怪気炎をあげた。
「ははははは、待ってろ! ファーストクイーン!
 今、お兄ちゃんが行くぞおおおッ!!」

 塔の入り口、入ってすぐのホールのような部屋で、30体ほどのスポーンが待ち構えていた。神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)がのんびりとした口調で、最上階を目指すメンバーたちに声をかける。
「これは……邪魔ですね。急いでいる時に……。では、どかしますので……皆さん、先に行って下さい」
シェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)も構えつつ言った。
「最上階を目指すなら、こんなとこで、体力減らすのはもったいないだろ?
 此処は、オレ達が引き付けてやるから先に行け。……んじゃ、始めるかな」
言うと同時に氷術が炸裂した。氷混じりの突風がスポーンを襲い、後方に押し下げて関節を凍りつかせ、動きを鈍らせる。すかさず紫翠が射撃で畳み掛けた。凄まじい衝撃を受けて吹っ飛んだ2体のスポーンが雲散霧消し、後方の3体があおりを受けてよろよろと後退し、東側の壁にぶつかった。その瞬間。カベとスポーンの間に鋭い破裂音とともに小さな電撃が生じた。侵入者用のトラップのひとつだろう。そのカベには高圧電流が流れているようだ。一体が雷鳴のような音とともにはじけて黒煙と化した。白雪 椿(しらゆき・つばき)が息を呑む。
「電撃トラップ……」
麻痺した2体にすかさず銃弾を打ち込みながら大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は唸った。
「広い上に、スポーンどもの他にトラップもか」
「戦闘以外にも怪我を負うリスクもあるし、時間もかかりそうだわね」
鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)が応えて言った。望美がサイコキネシスでスポーンの動きを鈍らせると、白雪 牡丹(しらゆき・ぼたん)が澄んだ歌声で契約者たちの戦闘力を上昇させ、スポーンたちに隙を作った。椿とシェイドが群れに向かって次々と攻撃魔法を放ち、紫翠と剛太郎が銃弾を打ち込む。6人の総攻撃により、入り口付近からスポーンの姿はなくなった。
「これで……ある程度この場所は、片付いたんでしょうか?
 ……先へ進んだ人達が無事なら……良いのですが」
紫翠が辺りを見回しつつ言った。
「大丈夫そうですよ。周辺にスポーンはもういないようです」
神の目で索敵してみた椿が請合った。
「でも……こんな広いところ……迷子さんがでないと良いのですけど」
「め、迷路ぐるぐるです……椿とはぐれないようにしませんと……」
不安げな牡丹の言葉に、シェイドが苦笑しながら言った。
「紫翠も迷子になりかねんな……」
「迷宮ですからね……迷子にさせるのが目的でしょうし……」
そこに戻ってきた偵察隊によると、塔の内部は大小の『部屋』と、それをつなぐ通路や階に一箇所だけある上階への階段で構成されており、探索しつつ最上階へのルートを探さねばならないらしい。ところどころにレーザーによる自動迎撃システムや、突如降りてくる隔壁、さっきスポーンが図らずも犠牲になったような、帯電しており触れたものに電撃が奔る床や壁もあるらしい。
「巨大迷宮……これはまず拠点をきちんと作ったほうがよさそうだな……。
 行き当たりばったりに探索するだけではリスクが大きいし、情報の共有という点についても拠点があったほうが便利だ。」
剛太郎の言葉に、紫翠がうなずく。
「戻ってくる人を待ちましょうか。色々と準備して……もともと雑魚清掃のお手伝いのつもりでしたし」
「これで、この辺の敵は全部みたいだな。んじゃ、食料やら用意するとしようか」
シェイドの言葉に望美が、
「また襲ってくる可能性があるから、ある程度の自衛力もいるわね。それと……回復要員も必要ね」
「命のうねりとナーシング、清浄化なら使えますよ」
椿が応える。
「私は戦闘サポートが得意です」
「少々の敵なら……シェイドともども戦力になるかと……」
紫翠の言葉に剛太郎がうなずいた。
「隣にやや大きめのスペースがある。そこを使おう」
望美は捜索担当の契約者たちから情報を受けたり送ったりといった作業を引き受けることにした。
「情報は少しでも多いほうがいいでしょうから」
椿がメインで救護担当、牡丹、紫翠、シェイド、剛太郎がそのほかの雑用兼拠点をスポーンが襲った際の警護担当をすることになった。守りやすいよう、さまざまな機器を運び込む。牡丹が先へ進む契約者たちにそっと声をかけた。
「こ、幸運を……どうかお気をつけて……」

「塔の中は迷宮になっているんだって……」
望美から注意をもらった天野 木枯(あまの・こがらし)天野 稲穂(あまの・いなほ)に言った。
「スポーンのほか、トラップもいっぱいあるそうですね……。それに香菜さんらしき姿も見た人がいるとか……」
稲穂は不安げに周囲を見回し、木枯は超感覚を発動させた。キツネの耳とシッポが生じる。
「ちょっと待った、危ないぞ」
そばに立っていた古井 エヴァンズ(こい・えう゛ぁんず)が稲穂を手で制した。本宇治 華音(もとうじ・かおん)が頷くと、エヴァンズは破壊工作で隔壁前に設置されたレーザー発射装置をつぶした。
「機晶技術による防衛システム、ですか……」
目を丸くする稲穂に華音がレーザーナギナタを片手に言う。
「こういう仕掛けがたくさんあるらしいのよ」
木枯が小首をかしげる。
「どこかに制御室ってあるよねぇ。一番上かな?」
「どうでしょう。ファーストクイーンさんが制御しているわけではないと思いますけど」
稲穂の言葉に天城 一輝(あまぎ・いっき)が元気よく声をかける。
「総合的なものは奥のほうにあるんだろうけど、操作パネルくらいは各階にもあるんじゃないか?」
「なるほど……端末だって中枢には通じてるわけで……」
エヴァンズは深く考え込む顔つきになった。ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)が銃型HCのマッピング機能を調整しながら言う。
「ファーストクィーンをいち早く解放する……その為には出来る限り戦闘は避け、短時間で最上部を攻略する必要があろう。
 一番の障害は、インテグラル・クィーンと彼女に追従するイレイザー・スポーンこれは火を見るより明らかだ。
 特にイレイザー・スポーンは人海戦術で行く手を阻むであろうな。インテグラル・クィーンの指示を妨害できればベストなのだが」
「統制が取れなければ、イレイザー・スポーンは個々がそう強いわけじゃない。
 各個撃破も楽だと思う」
「そこまで行かなくとも破壊工作・情報攪乱を使って防衛システムを弱めたり使えなくすることは可能かも。
 うまくいけば完全停止できるかもな」
畳み掛ける一輝にエヴァンズが応えた。
「システムを攻撃すればまた別のイレイザー・スポーンが自分たちを狙ってくるかもしれない。
 エヴァンズがシステムダウンの工作、私はエヴァンズが集中できるように襲い掛かってくるものを追い払うよ」
華音が請合った。
「一輝も戦闘向けではないので、我が護衛、一輝がシステム端末から干渉という予定だった。協力してゆこうか」
ユリウスが華音に言った。
「私達も弱いから、探索・索敵がメインって考えていたんだけど、ご一緒してもいいかな?
 方向感覚、超感覚があるし、戦闘力はないけど探索には向いていると思う」
木枯が訊ねた。
「少しでも人数は多いほうがいいだろ? もちろんさ」
「俺もその方がいいと思うな。何があるかわからねえし、作業中にドンパチに参加はできねえからな」
一輝とエヴァンズが請合った。
「よかったです! ではみんなで行きましょう!」
稲穂が元気良く片手を挙げた。

システム端末と思われるものは、割合早くに見つかり、その部屋にいたスポーンは5体ほどだった。
「行くよ!」
華音がレーザーナギナタを振り回す。
「システムパネルを破損しないようにしてくれよ……」
エヴァンズのつぶやきは杞憂に終わった。
木枯と稲穂がサイコキネシスで動きを鈍らせ、華音がナギナタで足元を払う。そこに霊妙の槍を手にしたユリウスが突きを入れる。連携攻撃でスポーンは全て霧と化した。
「……どうですか?」
稲穂が一輝の背後から覗き込む。
「いや……ダメだ……。システムが高度すぎて、クジラ型ギフト同様、仕様もわからないし手に負えねえ……」
一輝とエヴァンズが顔を見合わせ、ため息をついた。
「……もう少し見てみるが……期待薄だな……」
思っても見なかった事態に、一同は戸惑いを隠せなかった。