空京

校長室

創世の絆 第四回

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創世の絆 第四回

リアクション



シールド

 ニルヴァーナ校、運動場予定地。
 ここに設置されたシールド発生装置は、
 ニルヴァーナ校そのものを覆う巨大なシールドを発生させる事が出来る。
 
 装置は巨大イレイザーが背負っていた遺跡の奥で発見された物である。
 
 それを設置して展開された光のシールドは、
 イレイザーやイレイザー・スポーンたちの攻撃を
 退けるだけの強度を持っていた。
 
 しかしシールドは無条件で発生いしている訳ではない。
 精神力によって、シールドを強化する者たちが必要だったのだ。
 
■□■

 シールドの強化のために集まった契約者たちの中に、
 透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)
 璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)の姿があった。

「……以前、イルミンスールなどで
 魔力を込める方法をとっていた部分があったと思う。
 この装置の場合、それは可能なのか?」

 透玻は装置を整備していた技術者に疑問を投げかけた。

「可能どころの話ではありません。

 というのは、この装置は魔力でも魔法の素養のない者の精神力であっても、
 いずれであれシールドのエネルギーとすることが出来るからです。
 非常に柔軟に出来ていて。
 
 以前、ゾディアック停止の為にポータラカ人が用意した装置にも
 似ているし……
 まあ、ポータラカ人はニルヴァーナ人のなれの果てなのだから、
 当たり前といえば当たり前ですが」

 シャンバラ国軍所属の技術者は感嘆したような、呆れたような顔をしていた。
 
 シールド装置がシャンバラの技術水準からすれば
 デタラメなぐらい高度な物だからだろう。
 
 いずれにせよ、
 魔術に長けた者の方が効率よく装置にエネルギーを送り込めるはずだと言う。
 
 その言葉に透波は納得し、

「了解した。皆が尽力し、築き上げた場所……絶対に守りきってやる……!」

 と魔力を込め始めた。

「私も手伝いますよ。
 皆様が、新しい学校とニルヴァーナの為、頑張っているのです。

 私も、ここを守り抜きたい……!」

 璃央もパートナーと共に精神を集中した。
 その場にいた他の契約者たちも同様である。
 
 ヴヴヴオオォッ!!
 
 シールド発生装置は唸り声のような音を出す。
 刹那、ニルヴァーナ校は薄い膜のようなシールドに包まれた。

 その直後、戦いは始まった。

■□■

「皆で造り上げた学校だし、ここは拠点だから。
 絶対に破壊なんかさせないんだよ!」
「うむ。じっとしているのは性に合わんのじゃが……。
 ここを潰されたら皆の努力が無に帰すからの」

 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)とパートナーの魔女、ミア・マハ(みあ・まは) はシールド装置に精神を集中していた。
 二人の想いに反応するようにシールドは、より厚みを増していく。

 前線では他の契約者とイレイザーたちの戦闘が続いていたが、学校にも流れ弾(?)として岩や光線が飛んでくる。
 更に。
「敵が前線を突破してきた! イレイザー?」
「小型じゃから、イレイザー・スポーンじゃろうな」
 数匹のイレイザー・スポーンは高速でシールドに体当たりを仕掛けてきた。
 シールドは大きく揺れる。
「ううっ!? でも、ここで負けられないんだ!」
 シールドは破れることこそないが、
 強化している契約者たちにはショックが伝わってくるのだった。
 
 常人であれば耐えられない精神的なダメージであったが、レキは気合いを入れて耐え忍んだ。

(悔いはない。もし倒れる事があっても、レキと一緒じゃからな)

 ニアはレキと共に更にシールドに集中する。
「オレが敵なら一点に集中して突破するところだ」
「でも、そんな様子は見えませんね。むしろ考えていないような」

 レキたちと同様、
 玖純 飛都(くすみ・ひさと)矢代 月視(やしろ・つくみ)もシールドに集中していた。

 玖純はイレイザーの生態に対する知的好奇心があった。
 他にもニルヴァーナについては分からないことだらけである。
 
 それを解明するための拠点。それがこのニルヴァーナ校なのだ。
 そこを壊されてはならない。
 
(敵もまた、何かを守っているのかもしれませんが、その守りはただの固執と排除。
 そんなものに未来への礎を、潰されるわけには行きません!)

 矢代もまた、ニルヴァーナ校とパートナーの未来のため意識を集中を続ける。
 その最中、玖純は直感した。
 
(だけどこのシールド、オレたちがいなければすぐに破られる。
 なんで、こんな物が?
 ……。
“オレたちが”、使うために?)

 “ギフト”同様シールドも
 古代ニルヴァーナの民が遺したのだろう。
 自分たちより、強靭な精神を持った者が使う前提で。
 
 そしてニルヴァーナ人にはこの装置を使いこなす事は出来なかっただろう。
 でなければ、装置を遺して絶滅はしていないはずだ。
 
 つまり、ニルヴァーナの民は
 契約者がこの大地を訪れる事を知っていた可能性が高い。
 
 それは一体何を意味するのか。
 玖純は結論を出すためにもニルヴァーナ校の存続を心から望み、
 シールドへと意識を集中した。

■□■

 戦いが長引くにつれ、
 シールドを攻撃に現れるイレイザーやイレイザースポーンの数は増してきた。
 そして龍のようなイレイザーが口から光線を放ち、シールドに激突した!
 
 光と熱の奔流に、シールドは破れようとしていた。

(くううっ!!
 シールドが設置できたなら学校はもう安全かと思っていたけど、
 絶対安全神話なんかないんだな……。
 守りたいものは自分達で守らないと!)
 セルマ・アリス(せるま・ありす)はスキルも駆使し、全身全霊を込めて、装置に精神力を注ぎ込む。
 結果、シールドはイレイザーの光線を弾き返す。
「よし、しのいだ!」
 
 だが、セルマは気を失いかける。
 イレイザーの光線はそれだけの威力だったのだ。
 
「ほら、【ももいろわたげうさぎ】だよ。
 癒されて、ルーマ!」

 パートナーのゆる族ミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)がペットのつぶらな目をセルマに見せる。

「クソ、癒される……。
 そんなかわいいの見たらまだ倒れられないな!」

 セルマはどうにか立ち上がるが、まだふらついている。
 そこに、
 
 チュッ
 
 という音と共に意識がクリアになる。

「さぁ! もうひとふんばり頑張ろっか!」

 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が、
“アリス投げキッス”でセルマを支援したのだ。

「ありがとう。
 既婚者には刺激的な技だったぜ」

「どういたしまして。
 でも、せっかくみんなで学校造ったんだし、
 壊されるなんて癪じゃない?」

 ミルディアも装置に意識を込める。
 
 敵の攻撃がシールドに当たる度、精神は確実に消耗する。
 だが、ミルディアは倒れなかった。なぜなら、

「負けるなんてのは絶対にイヤ!」

 ミルディアの言葉はその場の全ての者の想いであった。

「これから皆の心の拠り所になる、思い出の場所になる学び舎を
 そう簡単に壊されたくはありませんわっ!」

 ミルディアのパートナー和泉 真奈(いずみ・まな)も装置に手を添え、強く念じる。

 しかし、イレイザーやイレイザースポーンの攻撃は更に激しさを増す。


 シールドの外。
「さあ、この双子のモンチッチーズの力を見せてやろうじゃねぇか!」
 ヤジロ アイリ(やじろ・あいり)と共に駆けていたモンキーアヴァターラ・ナックルとモンキーアヴァターラ・レガースが、それぞれ姿を変えてアイリの拳と足へと装着される。
 同時に、アイリは拳を思い切り引き絞りながら跳んだ。
「援護はお任せください〜」
 セス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)がアイリへと死角から飛びかかるスポーンへMB・アヴァターラ・ダーツを放つ。
「せぇぁぁあああッッ!!」
 アイリは荒らぶる力を乗せた即天去私を叩き込んだ。
 学校のシールドに取り付いていたスポーンたちが散り散りい吹っ飛んで、消滅していく。
 ザンッ、とスポーンを踏みつけて着地。
 足応えでスポーンの消滅を感じながら、残党のスポーンを蹴散らすように、アイリは再び駆けた。
 アディティラーヤの方角から、更に押し寄せるスポーンの群れを、
「やぁ、すごい数ですね〜」
 セスが、装着していたバードマンアヴァターラ・ウィングをザゥっと広げる。
 翼から放たれた無数の羽がスポーンの群れを駆逐していく。
 その一方で。
 杠 桐悟(ゆずりは・とうご)は、直刀型の光条兵器でスポーンを斬り捨てていた。
 返す刀で、自身へと襲いかかってきたスポーンを斬り弾き、踏み込み、刀を腰へ巡らせた後の突きで追撃する。
「祈るだけ、と言うのは“らしくない”のでな」
 スポーンが霧散するのを待たずに、更に刃を巡らせていく。
「行動は意思を伴う事で、その人の想いを示します」
 朝霞 奏(あさか・かなで)は、桐悟の戦いを背に、負傷者の傷を癒しながら小さく笑んだ。
「だから、座して待つというのは、私も貴方にも“らしくない”こと……」
「自分の意思は行動と共に示させてもらう――ここで守り、決して諦めないこと。それが俺たちの祈りだ」
「同感だ」
 瑞江 響(みずえ・ひびき)は桐悟と共に栄光の刀を振るっていた。
 桐悟の切っ先の行方に呼吸を合わせるように、群がるスポーンを斬り弾いていく。
「ここまで皆が力を合わせて作った学校だ。俺に出来る精一杯で守る! この気持ちは折れない、折れるものか!」
 ――ゴォオウッとファイストームが周囲を焼き払う。
 アイザック・スコット(あいざっく・すこっと)の放ったものだ。
「響は俺様が絶対に傷付けさせねぇ。だから、安心して存分に暴れな!!」


 イレイザーやスポーンによる苛烈な攻撃にも関わらずシールドが破られなかったのは――
 シールドを強化した者たちだけでなく、シールド周辺で戦った者たちの功績でもあった。