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リアクション
シールド
ニルヴァーナ校、運動場予定地。
ここに設置されたシールド発生装置は、
ニルヴァーナ校そのものを覆う巨大なシールドを発生させる事が出来る。
装置は巨大イレイザーが背負っていた遺跡の奥で発見された物である。
それを設置して展開された光のシールドは、
イレイザーやイレイザー・スポーンたちの攻撃を
退けるだけの強度を持っていた。
しかしシールドは無条件で発生いしている訳ではない。
精神力によって、シールドを強化する者たちが必要だったのだ。
■□■
シールドの強化のために集まった契約者たちの中に、
透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)と
璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)の姿があった。
「……以前、イルミンスールなどで
魔力を込める方法をとっていた部分があったと思う。
この装置の場合、それは可能なのか?」
透玻は装置を整備していた技術者に疑問を投げかけた。
「可能どころの話ではありません。
というのは、この装置は魔力でも魔法の素養のない者の精神力であっても、
いずれであれシールドのエネルギーとすることが出来るからです。
非常に柔軟に出来ていて。
以前、ゾディアック停止の為にポータラカ人が用意した装置にも
似ているし……
まあ、ポータラカ人はニルヴァーナ人のなれの果てなのだから、
当たり前といえば当たり前ですが」
シャンバラ国軍所属の技術者は感嘆したような、呆れたような顔をしていた。
シールド装置がシャンバラの技術水準からすれば
デタラメなぐらい高度な物だからだろう。
いずれにせよ、
魔術に長けた者の方が効率よく装置にエネルギーを送り込めるはずだと言う。
その言葉に透波は納得し、
「了解した。皆が尽力し、築き上げた場所……絶対に守りきってやる……!」
と魔力を込め始めた。
「私も手伝いますよ。
皆様が、新しい学校とニルヴァーナの為、頑張っているのです。
私も、ここを守り抜きたい……!」
璃央もパートナーと共に精神を集中した。
その場にいた他の契約者たちも同様である。
ヴヴヴオオォッ!!
シールド発生装置は唸り声のような音を出す。
刹那、ニルヴァーナ校は薄い膜のようなシールドに包まれた。
その直後、戦いは始まった。
■□■
「皆で造り上げた学校だし、ここは拠点だから。
絶対に破壊なんかさせないんだよ!」
「うむ。じっとしているのは性に合わんのじゃが……。
ここを潰されたら皆の努力が無に帰すからの」
レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)とパートナーの魔女、ミア・マハ(みあ・まは) はシールド装置に精神を集中していた。
二人の想いに反応するようにシールドは、より厚みを増していく。
前線では他の契約者とイレイザーたちの戦闘が続いていたが、学校にも流れ弾(?)として岩や光線が飛んでくる。
更に。
「敵が前線を突破してきた! イレイザー?」
「小型じゃから、イレイザー・スポーンじゃろうな」
数匹のイレイザー・スポーンは高速でシールドに体当たりを仕掛けてきた。
シールドは大きく揺れる。
「ううっ!? でも、ここで負けられないんだ!」
シールドは破れることこそないが、
強化している契約者たちにはショックが伝わってくるのだった。
常人であれば耐えられない精神的なダメージであったが、レキは気合いを入れて耐え忍んだ。
(悔いはない。もし倒れる事があっても、レキと一緒じゃからな)
ニアはレキと共に更にシールドに集中する。
「オレが敵なら一点に集中して突破するところだ」
「でも、そんな様子は見えませんね。むしろ考えていないような」
レキたちと同様、
玖純 飛都(くすみ・ひさと)と矢代 月視(やしろ・つくみ)もシールドに集中していた。
玖純はイレイザーの生態に対する知的好奇心があった。
他にもニルヴァーナについては分からないことだらけである。
それを解明するための拠点。それがこのニルヴァーナ校なのだ。
そこを壊されてはならない。
(敵もまた、何かを守っているのかもしれませんが、その守りはただの固執と排除。
そんなものに未来への礎を、潰されるわけには行きません!)
矢代もまた、ニルヴァーナ校とパートナーの未来のため意識を集中を続ける。
その最中、玖純は直感した。
(だけどこのシールド、オレたちがいなければすぐに破られる。
なんで、こんな物が?
……。
“オレたちが”、使うために?)
“ギフト”同様シールドも
古代ニルヴァーナの民が遺したのだろう。
自分たちより、強靭な精神を持った者が使う前提で。
そしてニルヴァーナ人にはこの装置を使いこなす事は出来なかっただろう。
でなければ、装置を遺して絶滅はしていないはずだ。
つまり、ニルヴァーナの民は
契約者がこの大地を訪れる事を知っていた可能性が高い。
それは一体何を意味するのか。
玖純は結論を出すためにもニルヴァーナ校の存続を心から望み、
シールドへと意識を集中した。
■□■
戦いが長引くにつれ、
シールドを攻撃に現れるイレイザーやイレイザースポーンの数は増してきた。
そして龍のようなイレイザーが口から光線を放ち、シールドに激突した!
光と熱の奔流に、シールドは破れようとしていた。
(くううっ!!
シールドが設置できたなら学校はもう安全かと思っていたけど、
絶対安全神話なんかないんだな……。
守りたいものは自分達で守らないと!)
セルマ・アリス(せるま・ありす)はスキルも駆使し、全身全霊を込めて、装置に精神力を注ぎ込む。
結果、シールドはイレイザーの光線を弾き返す。
「よし、しのいだ!」
だが、セルマは気を失いかける。
イレイザーの光線はそれだけの威力だったのだ。
「ほら、【ももいろわたげうさぎ】だよ。
癒されて、ルーマ!」
パートナーのゆる族ミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)がペットのつぶらな目をセルマに見せる。
「クソ、癒される……。
そんなかわいいの見たらまだ倒れられないな!」
セルマはどうにか立ち上がるが、まだふらついている。
そこに、
チュッ
という音と共に意識がクリアになる。
「さぁ! もうひとふんばり頑張ろっか!」
ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が、
“アリス投げキッス”でセルマを支援したのだ。
「ありがとう。
既婚者には刺激的な技だったぜ」
「どういたしまして。
でも、せっかくみんなで学校造ったんだし、
壊されるなんて癪じゃない?」
ミルディアも装置に意識を込める。
敵の攻撃がシールドに当たる度、精神は確実に消耗する。
だが、ミルディアは倒れなかった。なぜなら、
「負けるなんてのは絶対にイヤ!」
ミルディアの言葉はその場の全ての者の想いであった。
「これから皆の心の拠り所になる、思い出の場所になる学び舎を
そう簡単に壊されたくはありませんわっ!」
ミルディアのパートナー和泉 真奈(いずみ・まな)も装置に手を添え、強く念じる。
しかし、イレイザーやイレイザースポーンの攻撃は更に激しさを増す。
シールドの外。
「さあ、この双子のモンチッチーズの力を見せてやろうじゃねぇか!」
ヤジロ アイリ(やじろ・あいり)と共に駆けていたモンキーアヴァターラ・ナックルとモンキーアヴァターラ・レガースが、それぞれ姿を変えてアイリの拳と足へと装着される。
同時に、アイリは拳を思い切り引き絞りながら跳んだ。
「援護はお任せください〜」
セス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)がアイリへと死角から飛びかかるスポーンへMB・アヴァターラ・ダーツを放つ。
「せぇぁぁあああッッ!!」
アイリは荒らぶる力を乗せた即天去私を叩き込んだ。
学校のシールドに取り付いていたスポーンたちが散り散りい吹っ飛んで、消滅していく。
ザンッ、とスポーンを踏みつけて着地。
足応えでスポーンの消滅を感じながら、残党のスポーンを蹴散らすように、アイリは再び駆けた。
アディティラーヤの方角から、更に押し寄せるスポーンの群れを、
「やぁ、すごい数ですね〜」
セスが、装着していたバードマンアヴァターラ・ウィングをザゥっと広げる。
翼から放たれた無数の羽がスポーンの群れを駆逐していく。
その一方で。
杠 桐悟(ゆずりは・とうご)は、直刀型の光条兵器でスポーンを斬り捨てていた。
返す刀で、自身へと襲いかかってきたスポーンを斬り弾き、踏み込み、刀を腰へ巡らせた後の突きで追撃する。
「祈るだけ、と言うのは“らしくない”のでな」
スポーンが霧散するのを待たずに、更に刃を巡らせていく。
「行動は意思を伴う事で、その人の想いを示します」
朝霞 奏(あさか・かなで)は、桐悟の戦いを背に、負傷者の傷を癒しながら小さく笑んだ。
「だから、座して待つというのは、私も貴方にも“らしくない”こと……」
「自分の意思は行動と共に示させてもらう――ここで守り、決して諦めないこと。それが俺たちの祈りだ」
「同感だ」
瑞江 響(みずえ・ひびき)は桐悟と共に栄光の刀を振るっていた。
桐悟の切っ先の行方に呼吸を合わせるように、群がるスポーンを斬り弾いていく。
「ここまで皆が力を合わせて作った学校だ。俺に出来る精一杯で守る! この気持ちは折れない、折れるものか!」
――ゴォオウッとファイストームが周囲を焼き払う。
アイザック・スコット(あいざっく・すこっと)の放ったものだ。
「響は俺様が絶対に傷付けさせねぇ。だから、安心して存分に暴れな!!」
イレイザーやスポーンによる苛烈な攻撃にも関わらずシールドが破られなかったのは――
シールドを強化した者たちだけでなく、シールド周辺で戦った者たちの功績でもあった。