空京

校長室

創世の絆 第四回

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創世の絆 第四回

リアクション


探索

「正直、我々にはどちらのクイーンもどうこうできるだけの力がない。
 ならば火事場泥棒――もとい、貴重な技術の回収にのみ専念するべきだろう。
 それは後に続く仲間への援護となり銃後の憂いを絶つ事に繋がるのだ」
ベスティア・ヴィルトコーゲル(べすてぃあ・びるとこーげる)レオパルド・クマ(れおぱるど・くま)に向かって目を吊り上げて一席ぶっていた。
(……ああ、また悪い病気が始まった……高度な技術なんて言われたらもう……この人は……。
 うっかり目を離すと、護衛し切れない場所まで遠出するし、……何度、置いて帰ろうかと思ったことか)
クマはそっと嘆息する。
「いいか? 私には科学者――ドクター――としての意地と自信があるっ!
 イコンは玩具だよ、遊び心は擽るが実用的ではない! 
 兇器として考えれば、パワードスーツこそが最高なのだよ! その価値を考えてみたことがあるか!? 
 戦線を埋め尽くすパワードスーツを想像してみろ、ぞくぞくしてくるだろぉ!!」
最後のほうは恍惚とした表情になってしまっている。熱っぽい表情に赤い髪。絵に描いたような女マッドサイエンティストの雰囲気満点である。
(……でも、あの子供のようなはしゃぎっぷりが時々愛おしくなるのは――コイですかね。
 コイ……魚……あー、鮭食べたいのう……ナマで)
クマの思いは遥か彼方へとさまよい出て行った。そばで演説を聞いていたアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は、ぼんやりと辺りを見回した。
「確かになんか重要な手がかりもあるかもしれないし、もしかしたらまだ生き残りのニルヴァーナ人がいるかも?
 牢獄塔ってことは牢屋みたいなものがあって、手がかりが床に隠してあったり壁に刻んであったりとかあるかも」
ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)はアキラの言葉にうんうん、と頷いた。
「ニルヴァーナ人がどんな姿をしているか解らないので固定概念に捕らわれずに探るのがよいのう。
 残された記憶がないかサイコメトリで調べてみようぞ」
「おお、それは素晴らしい! ぜひともに探そうではないか!」
ベスティアが叫んでルシェイメアの肩をがっしりと掴む。
「……う、うむ……」
「……すまんのう」
気の毒そうにクマはルシェイメアを見た。
「……おぬしも苦労しておるようだの」
「……そっちもか」
ルシェイメアとクマの間を、何かが行き交った。
かくして、4人は一緒に塔内を探索することになった。なるべく身を隠しつつ進み、アキラはルシェイメアが探り出した防衛システムを容赦なく叩き潰した。どうやら牢として使われていたエリアは根幹部とは無関係に独立しているエリアらしい。防御は薄く、スポーンも見当たらない。延々と続く回廊の両側に、格子のはまった扉がある。一箇所ずつしらみつぶしに見てみたが、書き残された遺言等の手がかりらしきものは見当たらない。ぼろぼろに風化した衣類の切れ端や、ひどく古びたアクセサリーの類、壊れた食器のようなものがいくつかあっただけだ。だが、収監施設の奥まった場所に、ほかと少し違う部屋があった。
「ここ、ちょっと雰囲気が違わねえか?」
アキラがドアの施錠を警備システムもろとも吹き飛ばしながら言った。
「もう少し気をつけてふっ飛ばせ。中に何かあってももろともに破壊してしまうぞ」
ルシェイメアが渋い顔をする。案の定、扉に近い位置の家具類は粉々に吹っ飛んでしまっていた。壁際に設置されていたと思しい機械類や棚は無事だったが、空っぽだった。雰囲気から察するに、ここはどうやら牢の管理施設の残渣のようだ。
「お! これは!!」
ベスティアが駆け寄った。隅の方に何か光るものがあった。小さなデータチップのようだ。手持ちの機器でざっと調べてみると、どうやら牢の管理に関係するものらしい。
「これは!! 貴重な技術資料は我が教導団が管理しよう!」
「ちょっと待て。この塔のシステムももしかしたらここと同じかも知れん。
 拠点に持っていって分析してもらうのが筋だろう。何かの役に立つかもしれない」
アキラがベスティアの手からチップを取り上げた。
「……む。そうだな」
彼らが発見した資料は、拠点で分析され、自動防衛システムに関係していることがわかった。システムの干渉に苦戦していたエヴァンズ、一輝らは、このデータにより塔内の隔壁の開閉と、防御システムの停止、始動を行うことができるようになった。華音が笑みを浮かべる。
「これで少しは役に立てたな……」
かくして、1Fのシステムパネルのある部屋は、にわかごしらえの管理センターと化したのだった。

「ファーストクイーンを開放しに行く人達が少しでも力を温存して進めるように足止め役も必要だと思うんだなぁ。
 と、いうわけでぇ、オレらでイレイザー・スポーンの相手を引き受けよう。気を抜かずにねぇ」
曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)が居並ぶ20名の兵士たちと、最上階を目指すものたちにに今回の行動指標について伝えていた。マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)もかわいらしい白いネコの着ぐるみに厳しい雰囲気を纏っていた。
「ラクシュミさんや新学校、ニルヴァーナやパラミタの為にも……頑張ります!
 あ、あと皆さん、怪我したり、状態異常になったりしたらすぐ言ってくださいね。回復しますから!」
「主戦力になる人達をより万全の状態で上階へ向かわせる必要があるというプラン、俺も賛成だよ。
 システム干渉によりトラップの心配は要らないようだし」
五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)が心配げに付き添うリキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)とともに名乗りを上げた。
「ボクと東雲は隠形の術をつかえるし敵のかく乱、囮役をしようと思う」
「周辺のスポーンを引き付けてもらって、オレらが待ち伏せ……なかなか良い手だと思うなぁ」
ルノの言葉に瑠樹が賛意を示す。
「私たちも支援します」
オデット・オディール(おでっと・おでぃーる)が澄んだ声で言った。フランソワ・ショパン(ふらんそわ・しょぱん)ももちろん一緒だ。
「……さてとそれじゃ、この辺の奴等は、オレらで相手してみようかねぇ。一緒に戦おうなぁ」
瑠樹の部隊がさっと散開し、階段付近に潜んだ。オデットとフランソワの支援を受けながら、東雲とルノが迷宮を進む。
「トラップが解除されたおかげでだいぶ動きやすいわね」
ショパンが東雲とオデットに囁く。ルノは気遣わしげに東雲を見やった。しっかりしているように見えるが、このところ東雲の体調はよくない。おそらく気を張って元気に見せているのだろうが、実際は体が鉛のように重いのではないだろうか。
(なのに……本人はこんな前線まで出たがって。……こういうのを生き急いでる、っていうのかな……。
 ファーストクイーンってパラミタを救えるくらいなんだから、東雲も救ってくれないかなぁ……)
ルノの物思いを破って少し広くなった廊下で、オデットが制止の身振りをした。イナンナの加護で研ぎ澄まされた神経に、脇の通路からの異質な気配が伝わってくる。
「来たわ! 皆、気をつけて!」」
オデットが低く叫び、パワーブレス、さらにオートガードを作動させた。
姿を現したのは20体あまりのスポーンだった。ぎりぎりまで近づいたルノが、隠形を解いてスポーンにけん制攻撃を食らわせた。フランソワが氷術を炸裂させる。と、蠢くスポーンの頭越しに、フランソワが叫んだ。
「……っ!! オデット! あれ!!」
「香菜さん!?」
「いや、違う……あれは、インテグラル・クイーンだ」
驚くオデットに、かぶせるように東雲が叫ぶ。スポーンたちの後ろに今はインテグラル・クイーンに乗っ取られた香菜がいた。香菜そのものの姿だが、纏う気配は人間のそれではなかった。特殊な能力がなくとも、目に見えない一種異様な気配が、彼女のにまとわりついているのがはっきりと感じられる。
「……ユけ」
だが、香菜/クイーンは煩わしそうに片手を周囲のスポーンたちに向かって振ると、そのまま通路の奥に姿を消してしまった。
「あ、待ってっ!」
「今は瑠樹さんたちのところに戻らなきゃ!」
追おうとしたフランソワの腕を掴み、ルノが低く言叫ぶ。もう一度スポーンたちのほうへけん制攻撃を食らわすと、触手が飛んでくる寸前にそびらを返し、瑠樹らの待つほうへと走り出した。よろめく東雲の腕を、そっとオデットが掴み、自分の空飛ぶ箒に彼を乗せた。
「……体調がよくないのでしょう? 見ててわかります。これに乗って」
「……すまない。ありがとう」
4人はスポーンの群れを引き連れて、瑠樹らの元へと駆けつける。
「よーし、来たわねっ! ここから先は通しませんよっ!」
マティエの声とともに、待ち構えていた部隊が襲い掛かった。薄暗がりの中、瑠樹のホエールアヴァターラ・バズーカが部下の攻撃の合間を縫って炸裂している。オデットは襲い掛かってくるスポーンの触手を華麗に避け、そこにフランソワが轟雷閃や氷術を駆使して攻撃を行う。東雲のレゾナント・アームズを作動させるための歌声が、この魔窟のような塔の中にあって天使の歌声のように響き渡る。
「片付いたかな?」
ルノが周囲を見回した。
「怪我はない? みんな大丈夫?」
マティエが確認する。ぐったりと座り込む東雲の横に、ルノが心配そうにかがみこんだ。
「大丈夫……メルヴィア大尉……どうしたかな。香菜さんを……殺す、とか……駄目だよ……」
目撃したインテグラル・クイーンの情報を拠点に伝えるマティエの声を聞きながら、東雲がつぶやいた。
「大丈夫……きっとなんとかなるわ。今は体を休めなさい……。」
フランソワがそっと東雲の肩に手をやった。