空京

校長室

創世の絆 第四回

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創世の絆 第四回

リアクション


女王の守護者1

 瀬蓮らは最上階まであと一階というところまでやってきていた。ただしこの先には調査メンバーからの連絡で、巨大なドラゴン型ギフトがいることが確認されてる。ドラゴン型ギフトの対策を考えている契約者たちが到着するまで待機していて欲しいという連絡を受け、彼らとの合流を待っていた。
「ドラゴン型ギフト……やっぱりファーストクイーンさんを守っているのかな……」
瀬蓮が誰にともなく言った。
 その階は一切の隔壁も警備システムもない、一辺が数百メートルはあろうという巨大な部屋だった。素っ気ないほど飾りも何もなく、見るからに厚そうな金属の壁には、それまでの塔の通路や壁に流れていた青白い光も見られない。部屋の天井も高さ数十メートルはあるだろう。それほど広大な部屋だが、光源のはっきりしない明かりに満たされており満遍なく明るい。あるいは壁や天井自体が未知の光を放っているのかもしれない。
 その部屋の中心に、全長10メートルはあろうという、巨大なものが鎮座していた。堅固な鱗板に覆われた全身、頭部は羽毛が金属の鱗に変化したワシに、いくつかの角をつけたようなイメージだ。前足の代わりに逆棘のある巨大なコウモリに似た翼が折りたたまれて背中を覆っている。長い首と頭部は床につけられ、体で輪を描くようにして蹲っている。ちょうど眠っているような格好だった。角の生えた後頭部から縦に平たい尾の先端まで、背骨に沿って薄い三角形の板状の突起がずらりと並んでいる。眉間部分にはひし形の、浮いて見える大きな鱗板がひとつあるのが目を引く。それはまさに金属製の巨大なドラゴンだった。その背後に、大型の装飾を施した扉がきっちりと閉まっているのが見える。
「まさに守護者といった感じだな……」
朝霧 垂(あさぎり・しづり)がポツリと言った。源 鉄心(みなもと・てっしん)がフーッと息をついた。
「ドラゴン……いや、ギフトか? 水晶に変えられた『彼女』は今はクジラ型ギフトと繋がっているのだったか」
「ファーストクイーンのお姉さん、なんですよね。
 何となく胸が切ないような、暖かくなるような……不思議な気持ちです。
 この奥に妹さんがいるんでしょう? もう一度、会わせてあげたいな……会えると良いな」
ティー・ティー(てぃー・てぃー)がドラゴンの背後に見える荘厳な装飾のある扉を見て祈るように言った。
 と、鉄心がつかつかとドラゴンに向かって歩き出した。垂、ティー・ティーも一緒だ。ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)は急いで『殺気看破』と『イナンナの加護』を作動させると、瀬蓮らをその場にいるよう制して、他の契約者たちともどもその後に続いた。
「ギフトよ、ファーストクイーンの姉君がもはや自我のほとんどを失ってさえ、俺達をここまで導いてくれたのだ。
 どうかその力を貸してくれ」
鉄心がドラゴンに向かって語りかけると、翼を背に折りたたみ、長い尾と首を胴に巻きつけるようにしてとぐろを巻いていた竜がゆっくりとその重々しい頭部を床から持ち上げ、後足で座りなおした。金属製のまぶたが上がり、金色の瞳が彼を見据える。
「俺は……敵を倒したいから力を欲しているんじゃない! 仲間を護りたいからだ!」
「ドラゴンギフト! パラミタを……ファーストクイーンを……人々を護る為にその力を貸してくれ!!」
垂もまた呼びかける。金属製のあごがゆっくりと開き、ドラゴンは重々しい声で言った。
「我はファーストクイーンの守護者なり。汝らが真にふさわしきものかは我が判断する。
 私欲のために訪れしものは我が滅ぼす。我にその力を示せ」
「……頼りない相手にはご主人を会わせられませんよね。
 胸を張って『大丈夫!』って言えるように、潔く戦い抜いて見せます」
ティー・ティーが言って、オートガードを使用した。
「パラミタを守るためにも、僕は戦う! 目指せ勝利!」
サズウェル・フェズタ(さずうぇる・ふぇずた)が叫んだ。
「角……棘……いやそこを見なきゃいいんだな……うん」
先端恐怖症のフクシアン・マイラニックス(ふくしあん・まいらにっくす)がドラゴンの角を凝視して、怯んだ様子でつぶやく。
「正々堂々、か。それでは俺も左手の『白の剣』と右手の『光条兵器』だけで戦おう」
樹月 刀真(きづき・とうま)がドラゴンを見据えた。右手に光条兵器、左手に持つ白の剣と対をなす黒い刀身の片刃剣『黒の剣』が現れる。漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が長い黒髪をさらりと払った。
「私は刀真のパートナー……今日は刀真の剣となる」
「やはりそう来たか……竜の試練といえば、力を示すことがお約束だしな」
瀬乃 和深(せの・かずみ)がモンキーアヴァターラをナックルに変え、油断なく構えた。上守 流(かみもり・ながれ)がその後ろで静かに言った。
「あなたの背は、必ず私が守ります」
「おう」
緊迫感が漂う中、永井 託(ながい・たく)がうーんと伸びをした。
「……どちらにしても戦いは避けられなさそうだ。久しぶりにまともに戦うかなぁ……。
 この広さなら速さを使う戦いができそうだしねぇ」
無銘 ナナシ(むめい・ななし)が鎮座するドラゴンを仔細に検分しながら託に問いかける。
「ふむ、なかなか強力そうではあるが……何か策はあるのか?」
「いや、ない」
託があっさりと言った。驚いたようにナナシが友の顔を見る。
「下手な策は使っても逆効果そうだから、全力で行こうと思ってねぇ」
「主が策を使わないのは珍しいな」
「最悪、まともに食らってもどうにかしてくれる仲間がいるし、ね、ナナシ」
「……ふん、目的のためなら手段を選ばず策を弄するのが主の戦い方だろうに……真っ向から行くとはな。
 まあよい、もしものときは我が何とかする。全力でやるがいい」
「頼んだよ」
ナナシは改めて託を見た。
(久しく忘れていたな、信頼というやつを……悪くない。
 さて、信頼されているからには我も魔鎧としての役割を存分に果たさなければな)
ナナシは胸元に6つのボタンのある漆黒のフードつきのコートに姿を変え、託の守護をすべくその体を覆った。
「あんたが戦いを望むのならば、それには応えるのが道理だな。一対一とはいかないが、小細工なしで槍を振るおう。
 クイーンと会う役目は俺にはなくとも、そのために身を削るくらいはしようじゃないか」
白砂 司(しらすな・つかさ)はトネリコの槍を構えた。そして片手で猛き霊獣、大型騎狼のポチの頭に触れながらサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)に、指示を出した。
「ギフト、しかもドラゴンともなればその攻撃は一々受けてはいられまい。
 俺がポチの機動力を生かして槍でドラゴンの注意を引き付ける。かならず隙はできるはず。その一瞬を狙おう」
「私も格闘家として色んな動物と戦ってきました。虎や熊、猪、などなど……そしてついに今日、ドラゴン。
 来るとこまで来ましたって感じですね! ……でも私……爬虫類はちょっと」
「ドラゴンには羽がある……構えたポーズもワシだ。大型の鳥と思え」
「……そう言われれば、そんな気もしてきました」
「鳥、いやこのドラゴンを相手取って、その間に他の皆をファーストクイーンのもとへと思ってきたのだが……。
 どうやら倒さないと先に進ませてくれそうにないな……」
ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が言った。『旅人の書』 シルスール(たびびとのしょ・しるすーる)がドラゴンの翼を見る。
「この空間ならあのドラゴン、多少飛ぶこともできそうですね……」
葛葉 翔(くずのは・しょう)がニヤリと笑い、逸るように巨大な緑竜殺しを抜き放って軽々と振り回す。
「飛行型巨大ドラゴンか。この緑竜殺しは緑竜を殺すために作られたグレートソード。
 ギフトとはいえドラゴン退治にはうってつけだ!」
「サポートは任せて!」
アリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)が忘却の槍を片手に、翔に声をかける。垂が叫んだ。
「どうしても戦わなきゃいけないのか?」
「汝らは力を我に示さねばならぬ」
「それでは仕方がない……」
垂が混沌の楯を構えると、ライゼが瀬蓮たちに向かって叫んだ。
「瀬蓮さん、貴女方ファーストクイーンに合わなくてはならない方たちは落ち着くまでこの部屋から出ていて!」
「う……うん。みんな、気をつけてねっ」
瀬蓮たちはいったんひとつ下の階の階段ホールに移動した。ミネルバが念のためにサクロサンクトでホールを守護する。階段越しに見える広い空間からドラゴンが重々しく訊ねる声が届いた。
「準備は良いのか?」
「いつでも!」
契約者たちの口から、異口同音に同意の声が沸き立った。
「では、来るがよい。汝らの思いを、我に示せ」
ドラゴンはその巨体を揺らして翼を広げ、凄まじい咆哮をあげた。広いホール中がびりびりと振動するような雄たけびが響いた。