空京

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創世の絆 第四回

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創世の絆 第四回

リアクション


女王の守護者2

 体長に等しいほど大きな竜の翼は、軽々とその巨体を空中に持ち上げた。そしておもむろに首を伸ばし、空気を吸い込むと、次の瞬間炎を吹いた。全員が素早い身のこなしで炎の直撃を避ける。
「固まるなっ! 散れっ!」
垂が叫んだ。
「鳥ギフトに酒が効くなら眠り針も利くかもしれない」
サズウェルがエンデュア、勇士の薬を飲み魔祓の腕輪の支援を行いながら言った。そして傍にいた翔、アリアにも眠り針を配る。翔がそれを受け取るとすぐ全員に号令をかけた。
「多方向から一気に攻めるぞ!」
シルスールが空中のドラゴンを天のいかづちで狙い撃つ。飛行解除されたドラゴンが、凄まじい振動とともに床に落下した。フクシアンがブラックコートで気配を消し、空中にロープを軽く張り巡らせる。いくぶんたりとも飛行の邪魔になればとの思いからである。
落下したドラゴンを狙ってサズウェルがパチンコで大量の眠り針をドラゴンに打ち込むと、アリア、翔も同様に遠距離から針を飛ばした。いくばくかは関節の隙間にヒットしたものの、堅固な鱗板に当たった針は、刺さることなく床に振りまかれただけだった。ドラゴンが再び咆哮し、後足を広げ、ぐるりと首を回してサズウェルの方を向く。
フクシアンがサズウェルに向かって叫ぶ。
「金属なら加熱から急速に冷やせば多少なりともダメージがあるはずっ!」
サズウェルがすかさず連続して火術、氷術を放った。ドラゴンはうるさそうに首を振って額に付着した大量の氷を払い落とした。わずかに氷がついていた箇所の鱗板が曇っている。そこにソニックブレードでフクシアンが切りつけ、素早く退く。
「これでも食らえっ」
サズウェルが光術で目くらましを狙う。ドラゴンがうるさそうに長い尾でサズウェルを振り払った。吹き飛ばされたサズウェルの元に、フクシアンが慌てて駆け寄る。
「もう少し待ってろよ……」
翔がチャージブレイクの体制に入ると、アリアがすぐに翔の前に立ってディフェンスシフトで防御体制を整えた。ウイングが素早く飛び出し、ドラゴンスレイヤーで竜の顔面を強打した。ガチンという鈍い手ごたえとともに、剣がはじき返される。炎を吹きかけようと口をあけたドラゴンの口中に、シルスールのアシッドミストが直撃し、アリアのシーリングランスがヒットする。むせるような声をたて、ドラゴンが息をしゅうっとはきだす。
「こいつを喰らいやがれ!」
翔が叫んで、チャージブレイクで貯めた力を解き放ち、ドラゴンの頭部を狙って渾身の力をこめて疾風突きを見舞った。しかし頭部の浮いて見える巨大な鱗板には傷ひとつつかない。
「化け物か……」
よろよろと立ち上がりながらサズウェルが呻く。
 和深が神速を使って、先ほど氷術で曇りを帯びたドラゴンの横腹に、ヒットアンドアウェイでモンキーアヴァターラ・ナックルの重い打撃をくわえる。
「次は頭かな……?」
託も魔鎧ナナシを身にまとい、足関節を主に狙ってやはりヒットアンドアウェイで和深が飛び退ったときにちくちくと攻撃する。2方向からの攻撃に、ドラゴンはうるさそうに尾を振り回し、首を回して食いつこうとするが、2人の動きは非常に軽く素早く、ドラゴンのほうはむしろ巨体がジャマになって思うに任せない。不意に流が真っ向からドラゴンのほうへ突っ込んで行った。ヴァンダリズムとアナイアレーションを作動させ、凄まじい力をその華奢な肉体に宿らせている。
「なんとしてでも和深さんを守り、貴方を味方につけさせてもらいますっ!」
渾身の一撃は、ドラゴンの力とほぼ同等なのだろう。一撃を胴部に受けたドラゴンは、後方に吹き飛ばされ、踏ん張った後肢のツメが、ギャリギャリというような凄まじい音を立てて未知の金属の床に深々と溝を刻む。だが、目に見えたダメージはない。なおも突っ込んでゆこうとする流を、和深が慌てて引き止めた。
「待てっ! あのな、お前を犠牲にしてまでギフトを手に入れたいわけじゃない、危険なまねはするな」
流がその紅い瞳で和深を見、少し俯いて微笑んだ。
「……はい」
司がポチにまたがり、竜の体の上を高速で走り回りながらその巨体のあちこちをトネリコの槍で突きまくる。ウロコを逆なでするように突くやり方は、ドラゴンのカンにさわったようだった。馬がハエを追うように、平たい長い尾で自分の背中を叩く。しかし司のスピードの方が速く、まったく当たることはない。
 ティー・ティーがブロボーグでドラゴンの注意を一点に引き受けたすきに、サクラコが進み出た。司とともにドラゴンの傍で百戦錬磨を使い、飛んでくる尾の攻撃を後ろに飛んで威力を逸らしながら『金剛力』で扱う白の剣で受け止めつつ、ドラゴンの力量を測っていた刀真が、素早く死角へ回り込んだ。月夜がギフト以外の全てを透過するように設定した光条兵器、ラスターハンドガンで、刀真の身体越しドラゴンのの頭や尾をを攻撃して隙を作る。刀真がその体に神降ろしの力を宿し、神代三剣をまさに見舞わんとする。その刹那、月夜も併せて輝く光の弓、描天我弓を構え、神威の矢を構えた。
「大切な物を守るために……俺は強くならねばならないっ!」
強い意思の力をこめ、眉間に向かって凄まじい一撃を加える。月夜の矢もまた、同じ箇所を狙って放たれる。サクラコもまた、気を練り上げて作り上げた巨大な闘気の槍を渾身の力をこめ、ドラゴンの眉間に連続して叩き込んだ。
鐘を叩くような澄んだ音とともに、ドラゴンの額の鱗板がきらきらと輝く火花となって砕け散った。
「やったか?!」
ドラゴンが羽ばたくのをやめ、翼を背にたたんだ。その額に傷はない。先ほど打ち砕いたものは人間でいう兜のようなものだったらしい。衝撃を隠せない契約者たちを見渡し、ドラゴンは言った。
「汝らの力と絆、しかと見た。階下に避難させたものたちを呼ぶがいい」
ひそかにこの部屋全体のメンバー――ドラゴンも含め――をサクロサンクトで守護していた垂がホッと息をついた。ドラゴンは部屋の真ん中に戻った。
瀬蓮たちが身構えながら、広い部屋へと戻ってくる。彼らに伴って、アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)シルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)もやってくると、すたすたとドラゴン型ギフトの前に進み出た。アルクラントは自信満々の様子だが、シルフィアは不安そうだ。
(アル君今まではなんだかんだでうまく行ってることの方が多かったけど……。
 さすがに今回は不安しかないわ。とはいっても、なぜか自信満々だし試すだけ試させてあげたいし……)
ここに来る前にアルクラントは自信満々でシルフィアに語ったのだ。
「囚われの竜といえば、某冒険童話の竜!
 都合のいい事にかばんには大量のピーナッツバターサンドそしてみかんが入っている。
 あのお話のりゅうはみかんの皮が好物だったはずだ。
 鳥人間だって満足させたら協力してくれたんだ。
 これでこちらに付く可能性だって、あるんじゃないかな?」
「そ……うですか……まあ……やるだけは……やってみるのもいいかと」
自信なさげなシルフィアだったが、しぶしぶアルクラントに同意したのであった。警戒心の欠片もなく、アルクラントはつかつかとドラゴンのまん前まで進んでいった。
「いかにもボス手前といった場所に鎮座するドラゴン型のギフトが君か。
 さあ、この大量のみかんの皮を、文字通り喰らうといい。
 我々に協力してくれるのならば、虹色のリボンもプレゼントするぞ?」
そう言って、ポケットから薄い絹製の美しいリボンを取り出す。
「アル君に攻撃するつもりなら、私が相手になるわ!
 あ、ちなみにみかんの身は私が食べました。……必要なのは皮だけだから問題ないよね?」
「みかんの皮とな……?」
ドラゴン型ギフトは興味を示したようだった。アルクラントがひとつ口に放り込んでやると、パクリと食いつき小首をかしげる。
「ふむ……香りの良いものだな」
どうやら攻撃してくるつもりはないらしい。シルフィアはほっとして、ピーナツバターサンドを取り出し、皆に配った。
「それもひとつ、いただけないかな?」
一気にドラゴンとの友好関係が深まり、和やかな雰囲気となった。アルクラントはドラゴンの尾の先に、リボンを飾ってやった。
「おお、これは美しいものだな。
 汝らがファーストクイーンに害意がないのも、私利私欲ゆえにやってきたのでもないことは解かった。
 されば、古代よりのメッセージを聞くが良い」
ドラゴンが軽く目を細めると、巨大な扉の方から、澄んだ音声が流れ出してきた。

『ナーガのセキュリティを乗り越えし者よ。
 ナーガは、ファーストクイーン様ごと消滅させる選択をせず、このメッセージを再生した。
 と、いうことは君……あるいは、君たちはシャクティではないということだ。
 ナーガのセキュリティモードが発動したということは、残念ながらニルヴァーナ人でも無いということだが……。
 
 この奥にファースト・クイーン様が居る。
 どうか、あの方を守り、このニルヴァーナを正常な大地へと再生して欲しい。
 
 我々は大きな、とても大きな過ちを犯してしまった。
 ファースト・クイーン様をあのような姿にしてまで、我々が得たのは、我々自身の滅びだった。
 シャクティは我々、ニルヴァーナ人によって産み出されたものだ。
 パラミタという世界との戦いに勝利するために。
 だが、“何か”の手によってアレらは狂った……シャクティは我々ニルヴァーナ文明に牙を剥き、殲滅を行った。
 シャクティは自我を持たない。ただ一つの結果を実行するためだけに、進化し続ける。
 奴らはもう我々の手には負えない存在となり、我々の文明を滅ぼし、大地は呪われたのだ』

そして静かに巨大な扉が開き、瀬蓮、メルヴィアの一行は、ゆっくりと奥の部屋に向かった。