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リアクション
ストーンゴーレムとの戦い
生徒たちの一行は、やがて通路の行き止まりまでやってきた。
壁には、守護天使の少女を象ったレリーフが刻まれている。
像からは、仄明るい淡光が青白く浮かんでいた。
「これが、マリエルの友達なのね?」
小谷 愛美(こたに・まなみ)は、前を見ながら、傍らにいるマリエルに確認した。
マリエルは、無言でファラールのレリーフを見ている。
前回のように取り乱すことはなかったが、愛美の質問に答えることもせず、ただ、悲しそうな目をして、じっと古い友達を見つめていた。
「仁科、ここで何か感じるか?」
佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、パートナーの仁科 響(にしな・ひびき)に尋ねた。
5000年前の遺跡を前にして、なにか現在の地球とは違った感覚があるかもしれないと思ったのだ。
「地下2階自体が、ボクと同じ守護天使のような感じがします。それも、強制的に何かを守護させられているような・・・・・・」
「なるほど、さすがは仁科。ワタシもそう感じたよ。これだけ厳重に罠を張り巡らせているからね・・・・・・鏖殺寺院にとって都合の悪いものを封印するために、生きている守護天使を贄にしているのではないかな? 守護といっても、パートナーを守るのではなく、封印を守護するための安全装置のような感じ・・・・・・」
「いってみれば、【禁猟区】のような感じに近いね」
「なるほど、そういった感覚なのか・・・・・・いくら図書館に行っても見つからないはずだ」
傍らで話を聞いていた芦原 郁乃(あはら・いくの)と秋月 桃花(あきづき・とうか)は、百聞は一見にしかずという状況を目の当たりにしていた。
「図書館?」
「うん、イルミンスール大図書館に行けば、なにか鏖殺寺院のことがわかると思ったのよ。だから、桃花をつれていろいろ探し回ったんだけど・・・・・・」
「ホント、郁乃様にはさんざん引っ張りまわされましたよ。やれ『わたしの背が届かないところの本、飛んで取ってきて』とか『天文鑑賞会で鍛えた目で、メモにある資料探してきて』とか・・・・・・まぁ、別に嫌なことではないのでいいんですけどね」
「ごめんね桃花、無理なことばかりいって。イルミンスールの図書館なら『サルでもわかる鏖殺寺院の遺跡』や『鏖殺寺院の遺跡の歩き方』みたいな本があるかと思ったのよ。それで、遺跡には隠された階層があるとか、レリーフの裏に怪しげなお札が張ってあるとか、そんなことが書いてあるんじゃないかなーと期待したんだけど・・・・・・そういった本はなかったわね。でも、嫌な顔をせずに『いいですよ』と二つ返事で探してくれた桃花には、感謝してるわ」
「郁乃様、ありがとう。ここは、みんなが考えた封印の解き方候補を一つずつやってみればいいですね?」
「うん!そうよ がんばろうね、桃花!」
神崎 優(かんざき・ゆう)は、励ましあう郁乃たちを見て、どうやったら遺跡の秘密を突き止められるか思案をめぐらせていた。
「どうしたらマリエルの友人を助けられるかな? 考古学の視点からいえば、まずはこの遺跡を調べてみないと始まらない・・・・・・零と聖夜の力も頼りにしているよ。なんてったって、パラミタの住人だからね」
「私も優の力になりたいよ。だって、優は私の呼び掛けに答えてくれた人だから」
パートナーの水無月 零(みなずき・れい)は健気にそう言った。
「よーし、じゃあみんなでこのレリーフを調べてみよう」
神崎 優(かんざき・ゆう)の呼びかけで、めいめいが遺跡の壁やレリーフの周囲を調べ始めた。
ヤード・スコットランド(やーど・すこっとらんど)は、ぶつぶつ言いながらレリーフに近づく。
「うーん、凱に気づかれないうちに逃げるべきか、凱がヴァンガード隊員でない事を白日の下に晒すべきか・・・・・・悩む。と、うわっ!」
なんと、ヤードが遺跡の壁に手を触れた瞬間、彼女の身体は壁に吸い込まれてしまったのだ。
神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)は、壁と一体化してしまったヤードを見て、思わず叫んだ。
「おい、大丈夫か? こ、これは! 封印されたということ? マリエルの友人と同じだ」
しかし、周囲に注意を喚起する間もなく、至るところで同じような惨劇を招いていた。
トゥプシマティ・オムニシエンス(とぅぷしまてぃ・おむにしえんす)にロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)、水無月 零(みなずき・れい)と、遺跡の壁に触れたシャンバラ人女性が、次々と壁に取り込まれてしまったのだ。
彼女たちの姿は、ルネサンスの彫刻家が彫り上げた石像のごとく、壁を飾るレリーフと化していた。
「零!」「ロートラウト!」
パートナーたちを呼ぶ絶叫が遺跡をつんざく。
しかし、壁に封印されてしまった生徒たちは、冷たく押し黙っている。
「ううう、どうして・・・こんなことに。マリエルの友達を助けるはずが、逆に私のトゥプシマティが封印されてしまうなんて」
天枷 るしあ(あまかせ・るしあ)は天を仰いだ。
騒ぎを聞きつけた桜田門 凱(さくらだもん・がい)もやってきて、驚く。
「お! こりゃヤードじゃねえか。おまえ、ここに来てたのか。つーか、こんな姿になっちまって・・・・・・うおおおおお」
相田 なぶら(あいだ・なぶら)は、パートナーのフィアナ・コルト(ふぃあな・こると)に言った。
「これはひどいことになったな。なんとか、彼女たちの封印を解除する方法を探して。フィアナ、キミは飛べるだろう。このレリーフの上部を調べてくれないか?」
「了解。私の飛行能力を活かして、天井や、高いところを重点的に調べてくるね。この封印、おそらく魔術的な要素が強いと思うの。だから、イルミンスールに通う私たちなら、何かのお役に立てるんじゃないかな? 封印されている人たちは、きっと助け出して見せますね」
そういって、フィアナ・コルト(ふぃあな・こると)は、フワリと飛び立った。
みんなが固唾を呑んで見守る中、フィアナはレリーフの上部にある窪みに触れてみた。
すると・・・・・・
生徒たちの横で、『ゴゴゴゴゴ・・・・・・』という轟音が聞こえてきた。
「あ、あそこを見て!」
ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)が大声で警告を発する。
生徒たちが振り向くと、遺跡に置かれていた石造りの彫像が、長い眠りから醒めたように、動き始めたのだ。
幾星霜を経た石像からは、もうもうと埃が舞い上がる。
テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)が叫ぶ。
「これは・・・・・・ストーンゴーレムだわ! この遺跡のガーディアンで、封印された人を助けようとすると、それを阻止するために動き出すの」
レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)は、うんざりと顔をしかめた。
「封印された人の救出と魔の起動がセットというのは、勘弁してくれよ・・・・・・」
しかし、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、待ってましたとばかり、前に躍り出た。
「敵さんが出たら、あたしの出番だね! 百合園ではあんまり暴れれないから、ここでストレス発散よ! ひさびさに全力で暴れたいわ! ようし、あ〜ば〜れ〜さ〜せ〜ろ〜〜!!」
荒っぽくそう言うと、ストーンゴーレムの群れに飛び込んでいった。
メアリー・ブラッドソーン(めありー・ぶらっどそーん)も、ミルディアに負けず威勢がいい。
「鏖殺寺院のガラクタどもを、叩き潰してやりますわよ!!」
中原 一徒(なかはら・かずと)、一ツ橋 森次(ひとつばし・もりつぐ)もこれに続く。
「よし、俺たちの出番だ。機関銃をセットするぞ! ローザ、ユリウス、その間、敵をひきつけておいてくれ」
天城 一輝(あまぎ・いっき)は、通路の後方に退くと、男子寮から持ってきた古い毛布を取り出し、その上に機関銃をセットした。
「よし、これで少しは固定できるぞ。石の床に直接機関銃を設置しても、反動で跳ね上がっちまうからな。フフフ、久しぶりに機関銃本来の戦い方ができそうだ。この廊下なら、十分射線に入る。」
パートナーのローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)とユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)は、設置作業で無防備な一輝を守りながら、受け答える。
「機関銃だったら、敵をおびき寄せて戦うのがベストですね。大丈夫、私とユリウスが敵をひきつけるから・・・・・・後は一輝に任せるよ」
「我も、今回は、一輝に肩を借りるつもりで腕試しするよ。後ろに一輝がいてくれれば安心なのだよ」
「よし、設置できた。これなら、よほど強い敵でも何とかなると思う。ローザ、ユリウス、よろしく頼むよ」
「了解!」
こういうと、ローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)とユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)は、ストーンゴーレムのところに駆け出していった。
主戦場では、激しい戦いが繰り広げられていた。
大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は、調査隊メンバーの矢面に立って、小銃射撃や銃剣格闘の妙技を見せている。
また、剛太郎の駆使する光条兵器の軍刀術は、並み居る戦士たちのなかでも、ひときわ冴え渡っていた。
もちろん、パートナーのソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)も、調査隊を守るために奮戦している。
岬 蓮(みさき・れん)も、パートナーのサン・フォーティーン(さん・ふぉーてぃーん)と連携をとる。
「サン、光条兵器の細剣を出してくれ!」
「はいよ。それっ・・・・・・ほな、サンは、皆様をヒールと光条兵器で援助しますえ〜!」
蓮は、サンに取り出してもらった「細剣」をつかむと、襲い掛かってきたストーンゴーレム1体に激しく斬りつけた。
同時に、アイン・ディアフレッド(あいん・でぃあふれっど)が蓮を護衛せんとばかり、火術・雷術をみだれ撃つ。
2人の攻撃を受けたストーンゴーレムは、どうっと倒れる。
「やったぁ!」
岬 蓮(みさき・れん)たちは喜び合った。
一瞬、敵の攻撃がひるんだところで、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)が調査隊メンバーに叫んだ。
「戦いは私たちに任せてよね。調査の人たちは、私たちが戦っている間に先へ進んで! 戦う気がない人がいても邪魔になるだけだからっ」
「わかった、ありがとう。戦闘は任せた! 僕達は先を進ませてもらう。こうしている間にも、マリエルさんは先へ行ってしまいそうだからね」
清泉 北都(いずみ・ほくと)は、こういうと、奥へと進んでいった。
八雲 緑(やくも・るえ)も、そそくさと戦場を後にする。
「僕は戦闘には参加しませんよ。戦うなんて、めんどいですからね」
緑はこの遺跡探索中、ずっとこんな感じだ。
メンバーに話しかけられても、関わるのが面倒だといわんばかり、邪険に扱っている。
ただ、なぜか口調だけは丁寧なのだ。
相田 なぶら(あいだ・なぶら)も、逃げの一手とばかり、バーストダッシュで戦場を立ち去った。
「モンスターを倒すことは本来の目的ではないからね。戦いは避けるよ。それに、遺跡の中っていう限定された空間なら、そんなに威力の高い攻撃を打ってくることもできないだろうしね」
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)も、彼らに続く。
機工士である今は、仕掛けの解除やらに向かないのだから、護衛に徹しようという考えだ。
しかし、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は、逃げるそぶりも見せず、同じ場所にとどまって調査を続けている。
「おい、危ないぞ」
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)からこう言われても、聞こえていないのか、忠告を無視して探索を続けていた。
と、ストーンゴーレムがウィングに石の拳を振り下ろす。
ウィングは、殺気看破とスウェーで俊敏に回避する。
いや、スウェーではなく、もはやスルーの領域だった。
やがて、ウィングがその場所を調べ終えると、自分を攻撃してきたストーンゴーレムに向かい、すれ違いざまに強化光条兵器の一撃を放った。
ボロリとゴーレムの腕がもげる。
腕をなくしてじたばたしているゴーレムの腹に、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)がドリルを押し込んで、息の根を止めた。
調査隊のメンバーが無事に先へと進んだことを見届けると、ピクシコラ・ドロセラ(ぴくしこら・どろせら)は、何の気兼ねもなく戦えると意気込んだ。
「こんなザコ、ワタシが千切りにして、一山いくらで売ってやるわ☆」
霧雨 透乃(きりさめ・とうの)も、自ら敵に近づくと、自慢の拳で則天去私や爆炎波を思う存分打ち込んでいた。
超 娘子(うるとら・にゃんこ)も、負けてはいない。
「鏖殺寺院のガーディアンなんか、私に任せてね。決して、春美やみんなの邪魔をさせないわ・・・・・・ニャンコの得意な空手で敵をやっつけてやるニャ。カラテデビル、牛殺しのニャンコと言われた私だけれど、今日は鏖殺寺院の奴らを倒して、鏖殺寺院殺しのニャンコの名をこの世界にひろめてやるのニャ。はっはっはっはぁ!」
「いいぞニャンコ、ここで決めゼリフだ!」
みんなの注目を集めたニャンコは、レリーフの光をスポットライトに、十八番を決めた。
「正義のヒロイン、ウルトラニャンコ、ここに参上! うなれ、ニャンコの拳と肉球! 轟け、怒濤の超魂ニャンコ稲妻キック! 砕くぞ悪の心と野望! 世界を乱す悪物はウルトラニャンコが許さない! チェストー!!」
ビシッとセリフを決めたニャンコの戦いぶりは、まさに八面六臂という表現がぴったりといえるくらい、獅子奮迅の働きを見せた。
後方支援のメンバーも、傷ついた者の回復に余念がない。
晴宮 由紀(はるみや・ゆき)は、最初に飛び出していったミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)の傷を癒す。
「いたたた。でも、存分に暴れて気持ちがいいよ!」
「それはよかったですね、ミルディアさん。みなさんが、後顧の憂いなく戦闘が行えるよう、私は回復役に徹します」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、マリエルを守りながらブライトマシンガンで戦い、かつ、マリエルからヒールの治療を受けている。
レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)も、神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)とともに後方支援にまわった。
レイスは、超 娘子(うるとら・にゃんこ)を治療しながら、ぶつぶつと文句を言う。
「無茶しすぎだろう、ニャンコ。今回は、俺がいるから治療できるが、もっと注意した方がいいぞ」
「ううう、あいたたた。ちょっと張り切りすぎたかニャ・・・・・・」
「ほれ、治療終わりだ。もういっぺん行って来い!」
「え?・・・・・・うん。よーし、がんばるニャ」
伏見 明子(ふしみ・めいこ)は、回復役ながらも、前線に出て行動していた。
「はいはい、ヴァンガードから前線型回復役のお届けでーす。あ、大洞さん、怪我したね。それっ、ヒール!」
「おお、助かった。ありがとう明子さん。しかし、そんなに前に出て大丈夫なのか?」
「ええ、私は怪我人が複数いた場合のリカバリ要員ですからね。それに一応鍛えてるから、多少流れ弾があっても大丈夫だと思うのよ」
生徒たちの奮戦により、ストーンゴーレム側が劣勢となった。
激しい攻撃に押され、ガーディアンたちは、ずるずると後退していく。
「よし、みんな。ガーディアンたちの後ろにまわって。ストーンゴーレムをそっちの廊下に追い込むのよ! 向こうには、機関銃をもった天城 一輝(あまぎ・いっき)がスタンばってるからさ」
「よしきた」
生徒たちに追われたストーンゴーレムたちが、廊下へと移動してくると・・・・・・
「ダダダダーン!!!」
待ち構えていた天城 一輝(あまぎ・いっき)が、機関銃を雨あられと放つ。
「よっしゃあ、撃ちまくるぜ!」
激しい銃弾の攻撃を受けて、さしものガーディアンも1体、また1体と弱り、倒れていった。
「これぞ機関銃戦の妙味。追われてきた敵を迎え撃つのに、これほど適した方法はないからね、なあローザ」
「すごい。私もここまで見事に作戦が的中するとは思わなかったわ。さすが、一輝の読みは違うわね」
機関銃で弱った敵は、ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)が槍を投げて止めを刺す。
「ガリア戦記に登場した、この槍を受けてみろ!」
槍は放物線を描いて、グサリとガーディアンの身体を貫く。
どうっと敵が倒れ、味方からは歓声が沸き起こる。
全力で暴れることができたミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、ご満悦の様子。
「はぁ〜スッキリしたぁ〜♪ え? 何そのドン引き・・・・・・なんかこわい」
ミルディアは、暴れすぎたことによる服の乱れにも頓着しない。
だが、これを見て軽く引いたレイス・アデレイド(れいす・あでれいど)の目つきを見ると、勝利の快感がそがれたような気がしたのだ。
「あんたなによ。なんか文句でもあるの? あたしはなにされても問題ないけど、笑顔で倍返しさせてもらうわよ! ぎゃっ」
いきなりミルディアの後頭部に、メイスの一撃が走った。
「やめなさい、ミルディア。後で、みっちりと百合園女子の在り様について説教させていただきますからね」
「げっ、真奈。いつの間に! しかもそんな格好をして」
そこに立っていたのは、メイド服姿の和泉 真奈(いずみ・まな)だった。
「あなたのフラストレーションがたまっていたので心配してきたのよ。でも、なんだかスッキリしたみたいね。あ、それとお説教とは別ですからね」
「はぁ〜・・・・・・」
ともあれ、生徒たちは、封印を解くべく、先へと進むことにした。
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