空京

校長室

【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆

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【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆
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リアクション


この希望ある世界で 7


「創造主、聞いてくれ!」
 光の渦の中、創造主と向かい合ったハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)はそう叫んだ。
「あんたも俺達と同じだったんだろ? だったら、俺達とまた契約することは出来ないのかっ!?」
 まったくとんでもないことを提案する。
 と、彼のパートナーである藍華 信(あいか・しん)は思った。
 事実、ハイコドのしていることはとんでもないことに近かった。
 アレと契約を交わす? そんな事を、本気で考える奴などいるのだろうか。
 信はそう思うが、ハイコドは違う。彼は本気で信じていた。たとえ契約者であろうと、共に歩むことが出来るはずだと。それが生まれたのは、自分達にすら微かにある、多くの恐れと、多くの不安からだ。ならば、契約者と自分達は本質的に同じなはず。何が違うことがあろうか。ハイコドはそう信じ、命を潰し合うのではない、繋げることが大事なんだと思っていた。
「あんたは一人でなく、二人になり、三人になり、そして、創造主という存在そのものになった。滅んだ世界を見たために……。でもそれなら、俺達と同じく、生きてゆくことだって出来るはずだ! 新しい世界を見てみろ! 手を取り合って、生きて、繋げてみろ! 俺達は、友達になれるはずだろっ!」

『ウ……ウゥ……オ……オアァぁアぁアァァァ――――ッ!!』

 創造主は唸り、吼えた。
 まるで世界で生きることを否定するかのように。
 だが、ハイコドは諦めない。彼はその攻撃的な光の波動に、自分の拳をぶつけた。
「創造主! 俺は諦めねえぞ! あんただって俺達の仲間だ! 一緒に、この世界を歩んでゆくんだ!」
 ぶつかり合う波動が衝撃を生み出し、周りに爆発の風を起こす。
 それに目を細めながらも、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が迫った。
「ミューレリアさん! 唯斗さん! このまま、俺ごと創造主を!」
 彼はそう叫び、創造主に組み敷くよう抱きついた。
 光はもはや高熱の炎とまったく同じ熱量を持っている。
 その輝ける炎に焼け付きながらも、彼は歯を食いしばってそれに耐えていた。
「ぐ……うぐぐぐっ……!!」
「たかやん! で、でもでも、それじゃたかやんが!」
「そうだぞ! それに、お前も創造主を救うんじゃなかったのか!? ただ攻撃するだけじゃ、何にも――」
 ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が声を飛ばす。
 だが、それに、
「違います!」
 貴仁は遮るように叫んだ。
「俺は何も、創造主を力でねじ伏せようっていうわけじゃないです! もしハイコドさんの言う通り、この人が新たな契約を交わすことが可能だって言うのなら……それには、誰かの身体が必要なはずです!」
「誰かの身体が必要って……た、たかやん、もしかして……」
 ミューレリアは貴仁のやろうとしていることを悟って、言葉を失った。
「主様……! そなた、犠牲になるつもりじゃなっ……!?」
 貴仁のパートナーの医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)が叫んだ。
 彼女は気づいたのだ。貴仁がしようとしていることを。それは、創造主の依り代として自らを差し出す行為だった。
 しかも、それは創造主の自由を奪うことにも繋がる。このまま、あとはエネルギーのぶつかり合い、力の連鎖があれば、それを利用して創造主の心にまで手を伸ばすことが出来るのではないか。そう考えていたのだった。
「む、無茶苦茶じゃぞ、主殿! 死ぬ気かっ!?」
「はは……。べ、別に……死ぬつもりはありませんよ……」
 光の熱量で胸が焼けただれ、じわじわと体力を奪われながらも、貴浩はどうにかこうにか口を開いていた。
「ただ、俺一人の身体で……この世界が、一時でも平和になるなら……“世界産み”が成功するなら……安い物だと……思っただけですよ……。ま、まあ、それでも……俺も……どうにか生きられるように……努力はしますが……」
「阿保んだらぁっ! そういう問題かぁ! 絶対に死ぬぞ! 死んではならんのじゃ!!」
 房内は叫ぶ。彼女にしては珍しく、泣きじゃくり、声を張り上げていた。
「は、はは……房内が泣くなんて……これは……雪が降りそうですね……」
「馬鹿なことを言うでない! 戻ってこい、主殿!」
 しかし、貴仁が戻る気配はない。
 彼は仲間達に呼びかけ、さらに強い力で創造主を抱きすくめた。
「さ、さあ、早く……っ! 俺も、体力に限界が……!」
 貴仁がそう叫んだのを見て、唯斗は覚悟を決めた。
「……仕方ない。やるか」
「ゆいちんっ!? 本気かよっ!?」
「どうせこのままでも、創造主を止められないままだ!
 それなら、一か八か、この力が創造主の心に届くのを、貴仁に任せるしかない!」
 唯斗はそう言う。ミューレリアもしばらく逡巡していたが、やがて覚悟を決めた。
「う、うう〜ん……よし、わかった! 私もやるぜ!」
 そう言って彼女は、刀と銃を手にする。
 契約者達は協力し合い、その力を全て創造主にぶつけることにした。
 殺しはしない。その力が、エネルギーとなり、創造主の心に届く光となることを願って。
「よし、いくぞ!」
「おお!」
 ミューレリアと唯斗は、創造主へ向けて突き進んだ。


 唯斗は、意識を失い動けないでいるエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)に代わって、その彼女の光条兵器を手にしていた。
 戦いを前にしたとき、唯斗はブリュンヒルデ・アイブリンガー(ぶりゅんひるで・あいぶりんがー)に絆のケータイで声を交わしていた。
 その内容は、動けないエクスを頼むという旨だった。
 いまエクスは、ただ一人、夢の世界で唯斗を待っている。
 その彼女の思いに応える為にも、唯斗は負けられない。
 覚醒光条兵器の双剣を手に、彼は真っ直ぐ創造主に突き進むだけだ。
(エクス、待っていろ……! 俺は必ず、お前のもとに帰る!)
 光を切り裂き、唯斗は光条兵器を振り上げた。


 その頃、エクスは――。
「うぅ……ゆ、唯斗……」
「う、うそですわっ!? エクスってば夢の中でも唯斗を呼んでますのっ!?」
 ペロ子ことモモンガの姿をしたブリュンヒルデが、ベッドの中で呻きを漏らすエクスに驚いていた。
 エクスに唯斗の想いが届いたかどうかは、ブリュンヒルデにも分からない。
 しかし確かにエクスは、その声で彼に呼びかけていたのだった。
 まるで、自分の魂を彼のもとへ委ねるかのように。
「行け…………行け、唯斗…………!」
 エクスの声は、小さな祈りとなって唯斗に届けられた。


 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)は創造主と相対するべく、輝く人型の相手をクコ・赤嶺(くこ・あかみね)に任せた。
「クコ、お願いします!」
「ええ、わかったわ。ここは私達が抑えるから、あなたは遠慮なく行きなさい」
 クコをその場に残し、霜月は創造主のもとに急ぐ。
 その後を人型は追おうとするが、それをクコが防いだ。
「おっと、この先には行かせないわよ」
 不敵に笑った彼女が見たのは、複数の人型の見慣れた姿だった。
 どうせこれも、誰かのパートナーか何かの模倣なのだろう。
(ううん……もしかしたら、“本物”なのかもね。けど、どっちにしても、変わりはないわ)
 クコのやる事は決まっている。やるべき事も、やらなければならない事も。
「私には、あなた達を食い止めるって役割があるのよ」
 そう言ってクコは、両手両足に狐火の炎を宿した。
 彼女の怒りの意思に反応するように、青白い灼熱の炎が両腕と両足、そして眼帯にて燃ゆる。
 その炎の勢いに気圧されたか、人型達が怖じ気づいたようにも見えた。
「所詮は、人型っ!! 私の炎に勝るはずもないわ!! ビビらないって奴だけ出ていらっしゃい! 相手になってあげるわよ!」
 炎の尾を引いて、クコは敵陣へと突っ込む。
 青の業火が踊り、人型達は炎の海に飲み込まれていった。


 その間に、霜月は創造主へと迫る。
 二本の剣は光の主の中心へ目がけて、全力で振り下ろされた。
「創造主……! 自分は貴方を含め、全てを救ってみせる! この剣で!」
 交差した二本の剣の軌道は創造主にエックスの文字を描き、そのまま剣線の形の衝撃波が飛んでいく。
「これが、自分が目指している剣です!」
 霜月は創造主を守りたかった。
 世界を含め、そこに生ける者を。
 護り抜く剣こそが、霜月の求めたものだった。


「いくぜぇ、カカオ! この私、ミューレリア・ラングウェイの一世一代の大舞台だぜ!」
「みゃぁ〜、いくにゃ」
 ミューレリアとカカオ・カフェイン(かかお・かふぇいん)の二人は、創造主へ向けて突き進んだ。
 その時、ミューレリアの頭の中にあったのは、初めてパラミタへ来たときの思い出だった。
 それは、楽しみであると同時に、怖いと思っていた自分だった。
 いつだって、誰だってそうだ。初めての場所は怖い。初めての出来事は、その人にとって不安と恐れを抱かせる。
 けど、ミューレリアはいま振り返り、パラミタへ来て良かったと思えていた。
(私はパラミタへ来て良かった。楽しい学園生活に、ドキドキする冒険。素敵な友達……。
 最初の一歩を踏み出せなきゃ、きっと、どれも手に入らなかった……!)
 それはいまの創造主と同じであるように彼女は思った。
 勇気を出さなけりゃ、欲しいものは手に入らない。足を止めて諦めるなんて、つまらないことだ。
「未来があるなら全力であがく! それがこの私、ミューレリアだぜ!」
「そうにゃーっ! ミューと一緒に、カカオもあがくにゃーっ!」
 ミューレリアの肩に乗っているカカオは、そう言って首を振り上げた。
 楽しい事、嬉しい事、面白い事、びっくりする事。色んな事があって、その全てが輝いていた。
 それはカカオにとっても同じだ。カカオは小さい猫又のゆる族だけれど、そのカカオにも世界は眩しいものに映る。
「ミュー、アイツに希望を思い出させてやるにゃ! 世界は素晴らしいものだって教えてやるにゃー!」
 カカオの声に、ミューレリアは力強く頷いた。
「言われなくても分かってるってっ! この希望で、お前の絶望を切り拓く!」
 ミューレリアは銃を構えた。向けられた先はもちろん、創造主の中心。
「いくにゃーっ!」
「パラダイス・ロストォォッ――――ッ!!」
 封じられていた魔力を帯びた弾丸が、いま、創造主の中へ向けて放たれた。


 そして、同時に――。
 早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が決定的となる弓矢の一撃を放とうとしていた。
(これで終わりにする……。彼女が救われるよう……この世界が救われるように……)
 『祈りの弓』に願いを込め、呼雪は矢を引き絞る。
 そして――

「いけええぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 祈りの矢は一直線に創造主の胸へ飛び、それを貫いた。
 その瞬間、ミューレリアや唯斗、霜月、契約者達の技が一気に炸裂する。
 それは爆発となり、力の渦となり、創造主の中心で天を目がけた。

『アァァァァァぁ――ァアァぁぁ――――――――!!』

 創造主を貫く光の柱が噴き上がる中、ついに真打ちが登場した。
 その人は、帝王の相を備えていた。
 実年齢をはるかに上回る沈着。
 見る者をひれ伏させる眼光。
 悠然たる歩み。
 その名は金鋭峰、シャンバラ国軍総司令である。
 鋭峰から半歩遅れて彼の影のように、あるいはその背を守る盾のように、董蓮華が従っている。
 そんな鋭峰と蓮華を見守りながら、スティンガー・ホークは呟いた。
「さて、ここまでなんとか来ることができたが……」
 さしものスティンガーの顔にも緊張の色があった。
 ここですべては終わるか、
 あるいは、始まるか。
 蓮華がまず、鋭峰の先払いをするようにして口を開いた。
「聞いて下さい」
 彼女の口調は、どこか歌うようである。それも、戦の叙事詩ではなく、普遍的な愛の詩を歌うようである。
「新しい世界を産みましょう。
 一緒に、“世界産み”をしましょう。
 あなたが産んだ子らは、あなたの想像を超え自立したのだと思うのです。
 あなたを受け入れるだけではなく、共に新しい世界を産み出したいと、ほら……」
 蓮華はためらいなく、光の柱へ飛びこみ、創造主の手を取った。
 この瞬間に蓮華の手が炎につつまれる可能性はあった。
 そればかりか、蓮華の体はたちまち塵と化す可能性すらあった。
 しかし……そうはならなかった。
 代わりに起こったのは、眩いばかりの閃光と、重なり合う記憶と、思い出と、感情の波。
 それらは蓮華だけでなく、契約者達を飲み込み、光条世界を白い世界に包みこんだ。
 その瞬間、世界は滅びを迎えようとした。
 だが――それを止めたのは、我が身を犠牲にしてまで創造主を受け止めようとした鬼龍の力だ。
 鬼龍貴仁は、『エンド・オブ・ウォーズ』の力で、その一瞬に、誰かと重なった。
 それは誰なのか……? 知る者はいない。知れる者もいない。
 ただ唯一、その心を貫いた祈りの弓の願いだけが、白い世界に彷徨っただけであった。


 そして―――――