空京

校長室

【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆

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【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆
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リアクション


この希望ある世界で 6


 創造主を倒すには、力だけではダメだ。
 そう悟った契約者達は、彼女の心そのものを受け止めなければならないと感じていた。
 玖純 飛都(くすみ・ひさと)もそうである。飛都は、創造主の語る『滅びと創世のサイクル』には、負の連鎖、苦しみと悲しみの繰り返ししかないのではないかと思っていた。
 滅びを迎え、また同じように再生を繰り返す。
 その先に果たして何があろうか――?
 繰り返す事を、飛都は望んではいなかった。
(それで、『そちら側』のオレは幸せだったのか?)
 飛都は考える。そんな彼に、パートナーの矢代 月視(やしろ・つくみ)が言った。
「考えすぎは身体に毒ですよ、飛都」
 飛都が月視のほうを向いた。彼に、月視は言って聞かせた。
「私は初めは、ただ生かされるだけで全てを諦めていたんですけどね」
「……今は違うのか?」
「ええ、もちろん。あなたもそうでしょう? 飛都」
「…………」
 月視に言われて、飛都は昔の自分を思い出した。
 かつて、全てを諦めていた自分。世界の事など、どうでも良かった自分。
 だが、今は違う。諦めていた分も、取りもどすつもりでいる。絶望に負けるつもりはさらさらなかった。
「一歩間違えれば、私達も『あちら側』にいたかもしれません」
 月視が創造主を見ながら言った。
「しかし、今は違います。戦いの先に希望を見出してる。違いませんか?」
「……確かにな」
 そう言って、飛都は笑った。
 かつての自分を笑い飛ばすような笑みだった。
 微笑み。穏やかなそれが、飛都の心を軽くする。
「オレ達は生きる。月視……お前も一緒だ。ついてきてくれるな?」
「ええ、もちろんですよ」
 二人は笑う。希望は、絶望には負けはしない。

◆   ◆   ◆


 創造主が再び姿を取りもどした時、叶 白竜(よう・ぱいろん)はあるものを見た。
「これは…………!」
 白竜が見たのは、無数の記憶の奔流だった。
 それは、白竜が見たことのない記憶と、覚えのある記憶。思い出、郷愁が入り混じっていた。
 一瞬、彼らは、それが自分の記憶が蘇ってきたものかと錯覚した。だが、違う。
 こんなものは、裏椿 理王(うらつばき・りおう)が教えてくれたデータにはなかった。
 彼は創造主に関する情報を伝えてくれたが、そこに記憶や思い出の類はなかった。
 しかし、だとすれば、これは絡み合った因果か?
 確かに自分であって、自分でない者。そんな二重の記憶が、白竜には映ったのであった。
「これは、創造主の……いや、違う……。契約者の記憶なのか?」
 白竜は思う。それは、創造主の中にある、自分という可能性の光だった。
「きっと、創造主の負のエネルギーが溢れ出してるんだ。こいつぁ、流れを変えないとやばいぞ……!」
 世 羅儀(せい・らぎ)が言う。
 創造主に向け、呼びかけなければならないと彼は思った。
 ここからは力だけではダメだ。負の感情は、創造主のエネルギーは、力とぶつかり合い、さらに密度を増してしまう。
 それを止めるには、祈りでなくては……。希望を見出さなくては……。
(やれるか……?)
 いや、やらなければならない。白竜はそう思った。
 でなければ、彼がクローディス・ルレンシア(くろーでぃす・るれんしあ)にした約束ですらも、無駄になってしまう。
 彼は戦いに赴く前、彼女に誓ったのだった。
 必ず、生きて戻ってくる、と。そしてその時には、自分と人生を共に歩んでくれという事も伝えていた。
 羅儀には「それ、死亡フラグじゃね?」とか言われたが、白竜はそうは思わない。
 それは希望だ。生きる希望。必ず、帰ると彼女に誓った。
「生きて……みんなで帰る」
 白竜は呟いた。それを羅儀は聞いていた。
 もちろん、それは白竜が無意識に口にしたことで、その事をわざわざ本人に言おうとは思わなかった。
 しかし、羅儀はそこに希望を見出す。
 必ず帰る――その気持ちが、きっと未来を見つけてくれると。
 契約者へ届く道に、繋がるはずだった。

◆   ◆   ◆


「これが、私の最後のビラです!!」
 日吉 のどか(ひよし・のどか)は創造主に力だけで立ち向かうのは危険と判断し、ビラを撒いていた。
 その傍では御手洗 健(みたらい・けん)がバタバタと狼狽えていた。
「たったすけてください。終わりたくありません。なんでもします。嫌だ、うわぁあああっ。のどかぁ! なんでもいいから助けてくださいよぉ」
「だから、ビラで創造主を精神的に追い込む! 行くよ。ヴィラーク! 最大限にカミをばら撒くんだ!」
 その一方で。
「おーい、創造主ーっ!」
 渋井 誠治(しぶい・せいじ)は光の中心にある者を見て、呼びかけた。
「お前、ラーメン食べたことあるのかよーっ!?」
 それは言ってみればとんでもない事だった。
 この戦場にあって、なぜ急にそんな事を言い出すのか。
 しかし、あまりにも突拍子もないそれは、逆に敵の動きをぴたりと止め、創造主に届くようになった。
「ラーメンってのはな、麺だけでも、具だけでも、汁だけでも成り立たない。
 具も麺も汁もどんぶりも、箸も、みんなが協力し合って、美味いラーメンを作ってるんだよ。
 ここにいる皆で協力すれば、何だって出来るってことなんだよ!」
 それは誠治がずっと思ってきた事だった。
 どうして自分がラーメンにこだわってきたのか。こだわる理由は何なのか。
 もちろん、美味いっつーことが大前提なのだが――今ようやく、それが自分でも分かってきた気がした。
 そんな彼を、ヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)は呆れた目で見守る。
(まったく、また誠治がおかしなこと言ってますね……)
 といったような目だった。
 が、もちろん、彼女も誠治の言うことが理解出来ないわけではない。
 ラーメンどうこうはさておき、皆が協力すれば、きっと成し遂げられない事はないということは確かだった。
「リフルだってそうだろっ!? ラーメン、大好きだよなっ!?」
「…………もちのロン」
 ラーメンの湯切りを手にする佐野 実里(さの・みのり)が、そう言ってブイサインを作った。
 さて、この状況においても誠治はラーメンを作ることにこだわっているが、それで創造主の動きを止めるには十分だった。
「聞いてくれ、創造主!」
 神崎 優(かんざき・ゆう)が叫ぶ。その声は創造主の耳に届いていた。
「確かにこのままだと、世界は終焉を迎えるだろう。けど、一人一人が、小さくても強い願いが、想いが一つになって大きくなれば、未来を変える力にだってなるかもしれないんだ! それは、明日を切り開くってことでもあるんだ!」
 優は、創造主が心を委ねてくれればと思っていた。
 それは、かつてその者が、自分達と同じ契約者だったことから導き出された事だ。
 願いを、想いを、全てぶつけてくれれば、それが世界を産む祈りとなるかもしれない。
 優はそう考えていた。
「私は優と共に過ごしたこの世界を守りたい! 優と出会えたこの奇跡を無駄になんかしたくないんです!」
 神崎 零(かんざき・れい)も言った。その瞬間、優と出会った日の事を思い出しながら。
 そして同時に、零は魔神 ロノウェ(まじん・ろのうぇ)へと送った手紙の事を思いだしていた。
 そこには、「優が望んだ未来の為に、ロノウェさんと共に歩んでいく未来の為に、創造主のもとへ行ってきます」と書き記していた。
 いつかその希望は届くだろうか。届けば、零は優に力を与えてやって欲しいと願う。
 ロノウェの祈りが、二人へ届くように――。
「お願いです。私達の想いを聞いて下さい!!」