校長室
リアクション
◆ ◆ ◆ (創造主とは言ってるけど……それってとどのつまりは、何なのかしらね) 河埜 空華(こうの・そらか)は創造主を眺めやりながら、呆然とそんな事を考えた。 (世界なんて大きなシステムは誰かがつくって壊せるようなものじゃあない……。ってことは結局、それもこれもペテンってことじゃない) そんな風に思うと、空華はむかむかと怒りが湧いてくる。 創造主を名乗る、ペテン師の大演説。彼女は目の前の光の主がそう見えて仕方なかった。 「空華。なんとなーく考えてることは分かるけど、あまり無茶だけはしないようにね」 クレメン・ルーティア(くれめん・るーてぃあ)はそんな空華に苦言を呈す。 空華はふんっと顔を逸らした。 「意思表示は大事なのよ。このまま世界を『創世と滅びのサイクル』ってやつに飲み込ませてたまるもんですか」 空華は言って、創造主のもとに飛びこんでいった。 だがしかし、その光の膜では無数の人型達が創造主を守ろうとしている。 戦いに引きずりこもうとしているそれに、クレメンが空華を守るため立ちはだかった。 人型とぶつかり合い、刃で切り裂かれ、炎に巻かれ、服がぼろぼろになるクレメン。 その身体から血が流れ、空華が彼を振り返った。 「クレメンっ!?」 「心配してないで、ほら、さっさと先に行くんだよ!」 クレメンは空華を叱咤した。 伝えるべきことがあるなら、伝えるべきだ。そう信じ、彼は空華を行かせる。 一瞬、逡巡した彼女は、しかしクレメンの意思を継ぎ、 「……分かった……。必ず……無事でいてよ!」 創造主のもとに向かった。 残されたクレメンは人型から最後の一撃を食らって、光条世界に浮く力も失う。 (まったく……これで剣の花嫁なんて……笑わせるよ……) 自嘲気味に微笑みを浮かべながら、彼は宙をさまようがごとく落下した。 ◆ ◆ ◆ (あれは……私なんですね……) 創造主を見下ろしながら、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)はそんな事を思った。 それは、絶望、不安、虚無、恐れ、全ての負の感情がそこにあったからだった。 世界を終わらすから世界の全ての敵。剥せない悪のレッテルを張りつけられ、全てから苛まれるいじめられっこ。 アルコリアには、まるで創造主がそんな庇う価値のないもののように見えてならなかった。 (庇う事に何の得もないから、いじめられっ子を誰も助けない……) アルコリアの中に、悲しみが広がってきた。 そして、笑う。自嘲するように、憂いを帯びるように。 (私ぐらいの酔狂でしょうね。自分もいじめられるかもしれないのに、手を指し延ばすなんて) それでも、アルコリアは創造主の味方でいたかった。 「怖いですよ、世界の意思も、世界中も、全ての契約者の敵になるんではないかって……。 でも、操り人形じゃない、自分の意思で戦う道連れが、一人くらいいてもいいじゃないですか」 そんな事を呟きながら、アルコリアは契約者達の前に立ちはだかる。 その彼女の傍で守りに徹するのはシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)だ。 シーマは不可視の刃を持つアルコリアの武器『薙姫』が猛然と振るわれるのを見ながら、彼女の為に回復と支援に努めた。 (ボクはアルコリアに従う……。今までも、そしてこれからもずっと……) シーマの心には彼女に逆らうという意思がない。 アルコリアは戦いながら、少しでも敵の数を減らそうと、刃を振るい続けた。 それは彼女の身体をぼろぼろにしてゆく。死にゆく者がそうであるように、彼女も徐々に力を失い始めた。 やがて、『復活』の力も使い果たし、アルコリアは笑う。 「狂ってませんよ。全部が平等に滅びるなら、それで良いじゃないですか」 『薙姫』は100m級の巨大な刃に変質し、彼女はそれを思い切り振り抜いた。 その斬撃は400mはあろうかというほどの威力を叩き出す。 光の世界が一瞬であるが割れ、鮮烈な切れ目を作りだした。 ◆ ◆ ◆ 契約者達は創造主のもとにたどり着いていた。 すでに、その高根沢理子を思わせる姿に戦いを挑む者達がいる。 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)、緋柱 透乃(ひばしら・とうの)がそうであった。 「こちとら生きてる人間だ! ルーチンワーク野郎なんかに、負けてたまるかぁッ!」 エヴァルトは叫び、拳と蹴りの連打を撃ち放つ。 「くっくっく、ルーチンワーク野郎とは面白い」 ソウルアベレイターのリーダーイマもまた、契約者たちと共に創造主へと拳を打ち込んでいた。 「しかし、参ったな。正直、ここに来て勝てる気が全くしない」 イマの口調は軽かったが、状況は非常に深刻だった。おそらく、イマはナラカで最強の部類になる力を持っている。それが弱音を吐いているのだ。 「今更そんな事いわれたって困るよ!」 エヴァルトをサポートするロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が叫ぶ。 「世界が続きさえすれば、エヴァルトがボクに振り向いてくれる可能性だって微レ存なんだもん! それを邪魔するなんていけないよ!」 彼女はそう言いながら、創造主に囮の攻撃を仕掛ける。 その間に、エヴァルトが渾身の一撃を放った。 「平凡な俺の意地しか込められていない一撃! 脅威でないと思ったら大間違いだ!」 創造主へ向けて、拳がめり込んでゆく。 それは確かな感触を伴って、エヴァルトのパワーを突き抜けさせた。 「歪もうが何だろうが、人の持つ勇気はそんなものを克服する! 貴様の言い分など聞く耳持たん! 創造主気取りなどやめて、とっとと退場するがいい!」 「いいぞ〜! エヴァルト〜! もっとやっちゃえ〜!」 猛然と自分を奮い立たせるエヴァルトに、腕をもがれたロートラウトが応援する。 囮役というのも楽なものではない。いつの間にかロートラウトの手足は破壊され、彼女は悲惨な姿になっていた。 一方、透乃は逆側から、パートナーの緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)と共に攻撃を仕掛けていた。 「創造主だか何だか知らないけど……、あなた、それって強いって事でしょ!? だったら、私と勝負してみてよ! 戦える相手がいるのなら、私はどこにだって行くよっ!」 それはまさしく、本心から現れる言葉だった。 透乃にとって、世界の平和や滅亡などはどうでもよい事だった。 彼女にとって大事なのは、戦える相手がいること。強い者と戦える事。それだけである。 それこそが彼女の生きてきた理由であるし、生きてきた証だ。そして、それを共に歩む者こそが、伴侶でありパートナーの緋柱陽子だった。 「陽子ちゃんっ、いくよー!」 「はい、透乃ちゃん!」 陽子は、透乃が接近戦へと持ち込めるように、中盤の距離から鎖がまを放つ。 三日月型の刃がついたそれは創造主の身体をがんじがらめにし、刃はその肉体にがっしと食いこんだ。 そこで、ペットのレイスと共に、透乃が前へ出る。陽子が合図すると、レイスは白いレーザーを発射して創造主を攻撃。透乃はその懐に潜りこんだ。 「だああぁぁぁ!!」 透乃の気合いと共に、必殺の『透破裏逝拳』が炸裂する。 それは透乃が編み出した裏拳の必殺技で、全ての打撃衝撃を一点に集中させたものだった。 さらにそれは、陽子の放つ『緋災』と呼ばれる大魔法によって威力を増す。 災いのごとき緋色の衝撃の嵐は、透乃の裏拳が叩きこまれた創造主を飲み込んでしまった。 闇黒、氷結、衝撃――様々な自然現象と物理現象を巻き起こす嵐は、近くにいた契約者達までも巻き添えを受けてしまう。 「な、なんだ、あの嵐はっ……!」 「くっ……! 無茶苦茶だなっ……! 逃げろ! 全員、一時距離を取れ!」 創造主に近づこうとしていたリブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)が指示を出した。 部下の教導団員達や、仲間の契約者達がそれに従って距離を取る。 一方では、透乃と陽子がこれで創造主も終わりだろうと当たりをつけていた。 だが―― 「なっ……!」 「…………やはり……か……」 嵐が過ぎ去ったとき、そこにいたのはほぼ無傷の創造主だった。 いや、傷がないわけではない。それは、再生というべきか。 光の集合体である高根沢理子の姿をした創造主は、一度無残にも散った後、再び理子の姿を取りもどしたのだった。 「だが、無駄ってわけじゃない」 イマは創造主の攻撃で半身を吹き飛ばされながら笑った。 |
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